しったげきれい
兄ちゃんは憧れで目指すべき人間。
誰に何を言われようが笑顔で応えられ、器が大きく、懐が広い人間。
ガラスハートな僕とは違い、兄ちゃんは鋼の心の持ち主だった。
兄ちゃんこそ、勇者に相応しかったのに。
俺は勇者にはならない。
兄ちゃんは言った。
俺はさ、おまえが村のみんなに莫迦にされながらも挫けずに歯を食いしばって、勇者として頑張っている様をこうやって近くで見ているのが、芽衣と箕柳と一緒に活躍する未来を想像するのが、兄ちゃんはすんごく楽しくて、楽しみなんだ。
すんごく眩しい笑顔で、兄ちゃんは言った。
『俺はさ、村で待ってるからな。おまえが芽衣と箕柳と一緒に帰ってきて、星ほどの話を聞かせてくれるのを楽しみに待っている』
修業期間八年の内の四年間は、村でやっていた。
僕だけじゃない。芽衣も箕柳も兄ちゃんに師事しながら、心身魂を鍛えに鍛えまくっていた。
芽衣も箕柳も兄ちゃんに憧れていた。いいや、兄ちゃんに憧れないなんて生物はどこにも居ない。
兄ちゃんはすごい。この世に完璧な人間なんて兄ちゃんしか居ない。
剣も魔法も武闘も治癒も全部できた。
兄ちゃん一人居れば、魔王を倒せるって誰も疑わないくらいにとても強かった。
心身魂、全部が全部、強くて、しなやかで、綺麗だった。
たったの三歳しか違わないのに。
『行って来いよ。魔王を倒すまで帰ってくんじゃねえぞ』
村の外で修行してこいって。
兄ちゃんに見送られて、僕と芽衣と箕柳は村を出た。
それから、十四年間。村に帰っていない。
魔王を倒すまで帰らないっていう、兄ちゃんとの約束を守る為だ。
(………魔王が復活しちゃったし。まだ、帰れない。よなあ。兄ちゃんにしったげきれいしてもらいたかったけど。情けない姿ばっかり見せるのもなあ。帰る時は威風堂々って目標も立ててたし。会いたいけど。しょうがない。踏ん張りますかあ)
どうにかこうにか両の鼻の穴から流れ落ちていた鼻血を止めた奏斗は、ようやっと、乱斗に秘湯を吸われては干上がってしまった窪地から出て、芽衣、聖月、箕柳が向かったであろう宿へと歩き出したのであった。
「あ。うそ。また、はなぢ、でてきちゃった」
(2024.1.5)




