救済9
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『先に言っておくけど、元通りには出来ないよ』
キューレは告げる。
聖龍の魔力は地球の龍脈に流れており、分離することは不可能だという。
地球が抵抗していれば、まだ可能性はあったかもしれないが、すでに馴染んでしまっていて元通りにはならないそうだ。
『私が出来るのは、これ以上混ざらないようにすることくらい。それ以上を望むのなら、あなたがやって』
そう言うと、キューレは地上に手を翳して思念を送る。
すると間もなくして、聖龍の骨から魔力が萎んで行く。
まったく無くなったのではなく、感じ取れる最小限まで少なくなってしまった。
それから、世界にも変化がある。
地上を覆っていた大量の魔力が空へと上がり、俺に向かって来た。
何で?
そう思うよりも早く、大量の魔力は俺の中に飛び込んで来る。
悲しいことに、この魔力は俺によく馴染む。
イルミンスールは聖龍から生み出された存在。その肉体の一部を使って造られた俺の体も、聖龍の魔力がよく馴染んでしまう。
うぅー……。
力が増大するのを感じる。
これで、一気に強くなることはないけれど、いろいろと変化があった。
鎧を取って腕を見ると、肌に鱗が浮かんでいる。
魔力を込めてみると、白色に変わって聖龍の色に近付いてしまった。
……マジ?
これなら、前の方がマシじゃん。
銀髪になってあれはあれでカッコよかったし、あれで良かった。というか、姿だけならあれが良かった。
なのに今度は爬虫類?
ちょっとそれはないっすわー。
魔力を引っ込めると、鱗は消えて元通りの腕に変わる。
見てないけれど、もしかしたら顔も変化している可能性もある。
これは流石に勘弁して欲しい。
デブの次は爬虫類? もう人生に絶望してしまいそうだ。
半目になって嫌だなーと思っていると、キューレにも変化があった。
偽りの肉体が崩壊を始めたのだ。
これは、聖龍の骨との繋がりを絶ったからだろう。
そこまでする必要はないだろうと訴えたくなるが、俺の思いを察したキューレが先に発言してしまう。
『消えるのは怖くないの、元々居なくなっているはずだったから。でも、あの子が不幸にならないかだけが心配。あの子を幸せにしてあげて、お願い……』
寂しそうに微笑むキューレ。
その笑みは、母性に溢れていて、我が子のことだけを思っているかのようだった。
もしかしたら、これを言うためだけに、ここにこうして顕現したのかもしれない。
何故か、そう思ってしまった。
会話が途切れたタイミングで、オリエルタがやって来る。
『キューレ……』
『うん』
呼び掛けると、キューレは普通に反応した。
殺そうとはしていなかったけれど、何度も殴打した奴とは思えない態度だ。
『すまない。私は、ヒナタを……』
『うん。オリエルタなら、あの子を幸せにしてくれると思ってた。私を恐れなかったように、あの子も受け入れてくれると思ってた』
『……すまない』
キューレに責められて、オリエルタは目を伏せる。
『悔しいけど、私達はあの子を幸せに出来なかった。あの子を守れなかった。私達って親失格だよね』
『そんなことはない‼︎ あれは私がっ‼︎ 君はヒナタを守ったじゃないか‼︎』
強く訴えてもキューレは納得しない。
それどころか、首を振って否定する。
『一緒にいてあげられなかったら同じだよ。私はあの子を幸せにしてあげられなかったから』
悔しそうにするオリエルタを見て、キューレは言葉を続ける。
『でも、あの子は幸せを感じてた。捨てられたのも含めて、感謝していた。あそこで育つより、あの子はのびのびと生きていた。私達より相応しい親を見つけたんだよ』
視線が俺を向く。
なんかいい感じに話が終わろうとしているけれど、それどころじゃないからね。
俺の身体、大変なことになってるからね。
そりゃ、今生の別れになって大変だろうけど、俺も大変だからね。
そんな風に頭の中で思っていると、キューレが頭を下げた。
『あの子を幸せにしてくれて、ありがとう』
……おう。
短く返すと、キューレの崩壊は本格的に進んでしまう。
キューレは最後にオリエルタを見る。
『オリエルタ、私は幸せだったよ。一緒にいてくれてありがとう』
『キューレ‼︎』
オリエルタは崩れ落ちていくキューレを抱き締める。
治癒魔法を使って繋ぎ止めようとするけれど、崩壊は止まらない。
聖龍の骨との接続が切れてしまっていて、もう保てなくなっていた。
これは、俺でも救えない。
肉体を維持するのも不可能。
自動人形を作り出したとしても、キューレの依代には出来ない。
出来るとすればイルミンスールだが、今ここにはいない。
俺は、どこまでいっても無力だな……。
消える寸前、キューレは優しく微笑む。
『オリエルタ、またね』
そう愛しい者に告げて、キューレは消えてしまった。
_____
キューレが消えて、地球の完全なダンジョン化は止められた。
止められただけで、状況は変わってはいない。
世界各地でモンスターが出現するようになっており、森羅万象を解けば人は襲われ、少なくない被害が出るだろう。
それは俺の望むところではない。
なら、何とかするしかない。
“どうするつもり?”
一連の出来事を見ていたイルミンスールから問われる。
どうもこうもない、モンスターの出現を限定させる。
そう答えると、無茶苦茶ねと呆れられた。
力技でしか解決出来ないのだから、こうするしかないだろう。
不完全なダンジョン化。
これは、はっきり言って最悪の状況だ。
強いモンスターの出現は抑えられたけれど、モンスターを倒して強化されるレベルアップという現象は起こらない。
それに、スキルなんて特別な能力も手に入らない。あれは、メシアが人を強化する為に作り出したシステムだ。残念ながら、地球には適用されない。
そんな環境で生きていけるのは、ごく一部の奴らだけだろう。
それは許さない!
「リミットブレイク・バースト‼︎ 森羅万象だおらー‼︎」
モンスターが出現するのは、魔力が溜まった箇所から。
魔力の流れを操り、溜まる場所を一箇所にする。
溜まる場所は……うんまあ、今度謝っておこう。
その場所に穴を掘る。
深く深く複雑に、壁を強化して作り上げる。
擬似的なダンジョン。
強力なモンスターは出現せず、強い固体でもオークが精々の強さ。
あそこにいる奴なら、朝飯前に片付けてしまえる。
“酷い“
酷くない。
せっかく力を付けているんだから、利用しない手はない。
前々から大変なことになるって話はしていたし、いざとなれば大道が手を貸してくれるだろう。
何より、世界樹の枝があるんだ。
ユグドラシルも気に掛けているだろうし、見捨てないはずだ。
うん、まあ、でも、やっぱり謝っておこうかな。
こうして、世界のダンジョン化は避けられた。
だけど後日、ミンスール教会の本部の引っ越しが決定したらしい。
なんか、ごめんってなった。




