救済8
【無職は今日も今日とて迷宮に潜る4巻】
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オリエルタが斬られた。
真っ二つではないが、かなり深く傷つけられている。
それでも、死ぬほどではない。
キューレは大剣を手放すと、拳を握りオリエルタを殴り付けた。
『どうしてあの子を捨てたぁ‼︎‼︎』
『キューレ……』
怒りの咆哮。
血に濡れ、落下しそうになるオリエルタを掴み更に殴る。
殴打の衝撃が凄まじく、辺りの雲が全て吹き飛ぶ。
オリエルタはキューレを見て何か言おうとしているが、追加の拳で意識を失いそうになっていた。
それ以上は危険だ。
だから止めようと思ったのだけど、どうしてだろう、体が動かない。
なんか、スッキリする光景だなって、ずっと見ていられるような気がした。
俺としては、このまま止めを刺してもらっても構わないのだけれど、事態はそれを許してくれない。
世界に魔力が充満したせいで、動物に魔力が宿るだけでなく、何故かダンジョンのモンスターまで出現し始めているのだ。
アミニクの話になかった事態が発生している。
この状況を止めないと、俺はまたやらかしてしまうかもしれない。
俺はキューレの拳を止めて、オリエルタを回収する。
死にかけているオリエルタを治癒魔法で治すと、怒りに震えているキューレを見る。
大人しい性格だと思っていたけれど、中身は妹のミューレと変わらないのかもしれない。
そう思っていたのだけれど、キューレが震える声で俺に聞いて来る。
『……どうして、どうしてあの子を守ってくれなかったんですか?』
……守りたかったよ。
でも、俺が弱かったから守れなかった。
ヒナタを守るどころか、俺はヒナタに守られてしまった。
俺がこうして生きているのは、ヒナタが命をくれたからだ。
情けない、本当に情けない親だよ。
そんな俺の思いを告げても、キューレは納得しない。
そりゃそうだろう。
命を懸けて守った大切な子供が、どこの誰とも知れない男の為に死んだのだから。
『ああああーーーーっ‼︎‼︎』
感情の爆発。
魔力が大気を揺らし、呼応するように地上の魔力にも変化が起こる。キューレの感情に反応して、強力なモンスターが出現していた。
これはまずいと、森羅万象で世界中のモンスターを潰す。
ツノウサギのような弱いモンスターでも、一般人からしたら脅威だというのに、それ以上が現れるとその被害は計り知れない。
何とかする為に、俺は不屈の大剣を手に取り、守護獣の鎧を身に付ける。
オリエルタを安全な方向に放り投げると、迫る大剣を受け止める。
『あなたなら守れたでしょう‼︎ 私見てたんだよ‼︎ 見てたんだからー‼︎』
そうだな。
本当にそうだよ。
俺が油断さえしなければ、ヒナタは救えたんだ。
感情をむき出しにした攻撃でも、恐ろしいほど鋭い。
剣戟の中で魔法を放ち、それを魔力の波で打ち消しても、更なる魔法と剣技で攻めて来る。
しかもそれだけではない。
俺が魔法で仕掛けると、キューレは魔力の波を発生させて魔法を打ち消した。
このわずかな間に、俺の技を真似た。
流石は、英雄に選ばれるだけはある。
戦闘センスは、これまで見て来た誰よりも優れている。
ヒナタよりも、俺よりも上だろう。
その強さが、聖龍や海亀に並ぶと言われていたのも納得だ。
もし、黒龍との戦いに俺でなくキューレがいたのなら、あっという間に倒していただろう。
何でこいつじゃなくて、俺だったんだよ。
剣を合わせる度に、そう思わずにはいられない。
おかげで腹が立ってしかたない。
空を埋め尽くすほどの魔法が飛び、衝突する度に世界が震える。
もし地上でやれば、天変地異を巻き起こして、黒龍の時以上の被害を出していただろう。
一応、森羅万象を使って世界を守っているけれど、地上に向かって攻撃されたら防ぎ切れない。
キューレが急上昇して、魔法を放つと同時に突っ込んで来る。
魔法と並列して迫る様は、まるで自爆覚悟の特攻のよう。
俺はチッと舌打ちをして、光属性魔法の出力を最大限に上げて放つ。
単純な魔法だが、大抵の物なら消滅させる魔法だ。
それに、これなら魔力の波も間に合わない。
少なくとも、俺ならダメージは受ける。
キューレだって例外ではないと思っていた。
違った。
キューレは、俺の予想を軽く上回る戦いの天才だった。
光を切り裂いて、無傷のキューレが現れたのだ。
どうやって⁉︎ そう驚いている間に接近されて、大剣を振り下ろされる。
大剣を受け止めると、俺の魔力が弾かれる感触があった。
それで、キューレが何をやったのか理解した。
こいつは、魔力の波をその身に纏ったのだ。
どういう理屈だ⁉︎
意味の分からない技術に、頭を抱える。
戦いは続く。
戦えば戦うほど、俺が積み上げて来た全ての技術が吸収され、キューレ独自の物へと昇華されてしまう。
最初こそ優勢だったのに、もう追い付かれようとしていた。
俺の力は、メシアと戦った時よりも大幅に減退している。
とはいえ、ウロボロスと戦えるくらいまでは戻っている。そんな俺の上を行こうとしているキューレは、文字通り化け物のような存在なのだろう。
アミニクが怯えるのも納得の存在だ。
『返してよ! あの子を返してよ‼︎」
そりゃ無理ってもんだ。
お前も見ただろう?
ヒナタはもう、転生して人として生きているんだよ。
『っ⁉︎ 何で⁉︎ 何で⁉︎ 幸せに生きていて欲しかったのに⁉︎ オリエルタなら、あの子を幸せにしてくれるって思ってたのに⁉︎⁉︎ どうして! どうしてあの子だけ酷い目に遭わないといけないの‼︎‼︎』
すまんが、そりゃオリエルタに聞いてくれ。
そもそも、ヒナタは酷い目に遭っていたなんて思ってない。もしそう思ってたのなら、そりゃ俺の責任になるな……。
迫る魔法を全て避けて、キューレに接近する。
ここで攻められると思っていなかったのか、キューレの反応が遅れる。
不屈の大剣に、強烈な殺意と魔力を込めた一撃。
キューレは大剣で受け止めるが、残念ながらそんな鈍らでは防げない。
不屈の大剣は武器を砕き、魔力の波も切り裂き、キューレを斬る。
才能も技量も間違いなくキューレが上だが、武器と防具の性能は段違いでこっちの方が上だ。
キューレを斬ったが、血が出ることはない。
今のキューレの肉体は、聖龍の骨と魔力で一時的に造られた物でしかない。その魔力も、俺が蘇生魔法で与えた分が大半。それも、もう使い果たそうとしている。
このままだと、キューレは消えてしまう。
もう死んでいるのだから、楽にさせてやるのが一番いいのだろう。
でも、それじゃあ困る。
崩れ落ちそうなキューレを掴んで、わずかだが魔力を与える。
回復した瞬間、腕を振り切ろうとするが離す気はない。
『離して、私はあなた達を許さない』
ああ、それでいいよ。いくらでも恨んでくれて構わない。
でも、このお願いだけは聞いてくれ!
頼む、世界を元に戻してくれ!
ト太郎の骨と一体化しているお前じゃなきゃ無理なんだ。
お願いだ! 日向が平和に暮らせる世界であって欲しいんだ!
魔法とかモンスターとか、ダンジョンとか無縁な世界で生きて欲しいんだ!
どうか、どうかお願いします!
キューレに向かって頭を下げる。
俺に出来るのは、お願いすることだけだ。
残念ながら、俺は破壊することは出来ても、世界を守ったり元に戻したりなんてことは出来ない。
それどころか、大切な人達の平穏の為に他人を頼らないといけない。
情けない限りだよ、まったく。
『……』
無言のキューレは、俺を見るだけで襲って来ようとしない。
ただ、俺を見て目を瞑り、少ししてオリエルタを見ていた。
そこに、どのような感情があったのか俺は知らない。
でも、天使キューレは大剣を消して頷いてくれた。




