救済6
【無職は今日も今日とて迷宮に潜る4巻】
8月20日に出版されます!
既刊1巻〜3巻下巻もよろしくお願いします!
活動報告に表紙を載せております。
口絵も載せております!是非見てください!
言っておくが、俺はオリエルタを呼んでいない。
でも、やって来た理由は大体想像が付く。
オリエルタは、愛した女であるキューレに会いに来たのだろう。
あいつの奥さんの魂が、聖龍の骨に宿っているというのは、報告も行っているだろう。
それでも、俺はオリエルタが来るとは思っていなかった。
地球への影響を考慮して、オリエルタのような強力な天使は、地上に出て来ることを制限されているはずなのだから。
自宅の扉を開けて、ただいまとリビングに向かう。
そこには、人の姿をした青髪のカス野郎が椅子に座っていた。
青髪の天使であるオリエルタは立ち上がると、俺に向かって頭を下げる。
『誠に勝手ながら、貴殿の家にお邪魔させていただきました。どのような罰でも受ける覚悟は出来ております。その上で、どうか、私の願いを聞き入れてはもらえないでしょうか?』
俺は頭を下げたオリエルタを見下ろして、お前何考えてんだと聞く。
『私が愛したキューレに会わせていただきたいのです。無理を承知で言っているのは分かっております。ですが、田中様ならばっ⁉︎』
オリエルタの顔面を掴んで黙らせる。
ちげーよ、そうじゃない。
お前の目的なんか分かってんだよ。
俺が言いたいのは、どうしてここに来てんだってこと‼︎
ここ俺の実家だよ⁉︎ 父ちゃんと母ちゃんは前に見てるからいいけど、兄ちゃんと姉ちゃんの家族もいんだよ⁉︎
こちとら、お前らとの繋がりは隠しておきたいんだよこの野郎⁉︎
リビングからこっちを見ている、兄ちゃんと姉ちゃんの家族。
はっきり言って気まずい。
母ちゃんからいろいろと聞いているみたいだけど、二人とも触れないでくれている。
だからこれからも、ただの不甲斐ない弟として見ていて欲しかった。
というか、今回の件は話していないので、なんというかもう、やってくれたなこの野郎‼︎ って気分だ。
ギチギチと手に力を込めていると、姉ちゃんが俺を呼ぶ。
なに、そのイケメン誰って?
不審者だよ不審者! それ以上でも以下でもねーよ!
母ちゃんが喜んで迎え入れてたって?
何やってんの母ちゃん⁉︎ こいつじゃないけど、あんな目に遭わされたんだよ⁉︎ もうちょっと警戒心持とうよ⁉︎
大丈夫よって? 日向も気にしてないみたいだからって?
んなの関係ないの⁉︎ 塩撒いて追い出してよ⁉︎
どうしてオリエルタがこうも受け入れられているんだ?
顔か?
顔なのか?
顔が良ければ全て許されるのか?
世の中の理不尽を前に、俺はオリエルタを掴んでいた手を緩めてしまった。
解放されたオリエルタは、『相変わらずですね』と俺がいつも暴力に訴えているかのような言い方をする。
ふん、事実だから否定はせんがな。
まあ、冗談はこれくらいにして、ちょっと出掛けて来ると言って、オリエルタを引き連れて夜の公園に向かう。
山まで行こうかと思ったけれど、何やらフウマ達が集まっているみたいだったので、やめておいた。
誰もいない公園に到着すると、ブランコに並んで乗って話を聞く。
とはいっても、ただキューレに会いたくて来たのは分かっている。別に意地悪するつもりはないし、会わせてあげられるのなら会わせてやりたい。
それに今回は、オリエルタが居てくれた方が良いかもしれない。
キューレが見ていた夢。
あれには、オリエルタがいた。
その時のキューレの感情も伝わって来たし、悪い方向には行かないと思う。
ただ、いくつか確認をしておきたい。
お前は、ユグドラシルの許可をもらってここに来ているのか?
返答はイエスだった。
魔力を抑えた人の姿であれば、そこまで地上に影響は無いという。
ただ、地上に向かう前に問題が発生したらしい。
ミューレにも、姉であるキューレの魂の行方は知らされていたらしく、誰よりも先に地上に向かおうとしていたそうだ。
でも、それは許されない。
ミューレが強力な天使であるというのもあるけれど、俺を襲った前科があるので、他の天使の手によって拘束されたらしい。
自業自得という言葉がピッタリだなと思った。
というわけで、アミニクと入れ替わる形でオリエルタはやって来た。
事情は分かったので、こちらも今の状況を説明する。
といっても、大抵のことはアミニクに聞いているらしく、新たに分かっていることだけを教える。
聖龍の骨にはキューレの魂の欠片が眠っており、何かを切っ掛けに、光の天使の姿で顕現している。
その方法の一つとして、蘇生魔法で呼び起こすことが可能だと教える。
そこまで言うと、オリエルタは質問して来た。
『田中殿は、どう対処するおつもりなんですか?』
その質問に答える前に、一つ聞きたいことがある。
それは、キューレって天使は、世界の破滅を望むような奴か? という物。
オリエルタの答えはNOだった。
元々大人しい性格の天使で、戦いを忘れて平穏を望んでいたという。
英雄として戦うのを決断したのも、大切な誰かを守る為であって、破滅を願うような天使ではない。
それを聞いて、俺は安心した。
これならきっと上手くいくと確信が持てた。
俺が考えたのは、キューレの魂を一つに戻して、骨から発せられる魔力に働きかけてもらい、地球のダンジョン化を止めるという物だ。
キューレの夢は穏やかで幸せそうだった。
ただ、ユグドラシルが守る世界を夢見て、それに呼応した聖龍の骨が動いているだけに過ぎない。
そう、偶然なんだ。
偶然こうなっただけだ。
だから、止められるはずだ。
オリエルタに説明すると、もしかしたら会えるのかもしれないと期待して喜んでいた。
正直、こいつを喜ばせるのは癪だけど、キューレの魂を安定させる為に力を貸してもらいたいというのが本音だ。
これなら、上手く行くだろう……。
……そのはずだ。
なのに、どうして何か見落としている気がするんだ……。
『田中殿、どうかなさいましたか?』
黙った俺を見て、オリエルタが聞いて来る。
いや何でもないと首を振って、不安な気持ちも一緒に振り払う。
何かあるのなら、後で考えたらいい。
ダンジョン化するまで、まだ時間はあるんだ。
焦る必要は無い。
そう自分に言い聞かせながら、収納空間から聖龍の骨を取り出す。
これにお前の奥さんの欠片が宿っているとオリエルタに差し出した。
この時、もっと考えるべきだった。
この魂を刺激するというのがどういうことなのか、オリエルタが何をやった奴なのか、キューレという魂の強さをもっと理解するべきだった。
オリエルタに聖龍の骨を渡すと、世界が胎動した。
これが、地球のダンジョン化が加速した合図だった。




