その後の日常11
【無職は今日も今日とて迷宮に潜る4巻】
8月20日に出版されます!
既刊1巻〜3巻下巻もよろしくお願いします!
活動報告に表紙を載せております。
口絵も載せております!是非見てください!
大道が放心したので、おばちゃんから「こっちから連絡するから、今日は帰っておくれ」と帰宅を促された。
連絡されても困るんだけど、デスクワークならやってやらないわけでもない。
一階に降りて、さあ帰るかと歩き出すと、見知った顔を見つけた。
よう、と挨拶すると、またしても誰? という反応をされてしまう。
俺だよ俺、お前の命の恩人、田中ハルトだって。
そう自己紹介すると、これまでで一番驚いていた。
そんなこいつに、久しぶりだなトウヤ、と改めて声を掛ける。
本物だって、偽物じゃないって。
痩せてるって? 言っとくけど俺の人生、太ってた時期の方が短いからな。デブがデフォルトだと思うなよ。
写真撮っていいかって?
おう、一緒に撮ろうぜ。
あっすんません。おい、こんな所で撮るから、人の邪魔になっただろうが。
あっ俺のせいですか、すんません。
トウヤに言うと、周りにいる女子達から注意された。
邪魔なんだけどオジサンと、睨み付けるような目で見られてしまう。
よく見ると、女子はトウヤの側に立っており、一人は腕に絡み付いていた。
おいおいトウヤ、もしかしてパーティメンバー変えたのか? そう尋ねると、違いますよと否定してくれた。
良かった。
修羅場って解散したのか、最悪殺し合いになって全滅エンドしたのかと心配してしまった。
んじゃ、そいつらは何なんだよと尋ねると、トウヤが教えている生徒達だという。
生徒?
ギルドが運営している専門学校?
へー、勉強を教えながらダンジョン探索もしてんだ。
トウヤはそこで教えてんのか。へー、新しいハーレムメンバーなんだ、へー。違う? へー、否定する所がもっと怪しいな、へー。
桃山達もその学校や、ギルドで働いている?
へー、見せつけて焦らせてるんだ。
へー、お前やべー奴だな。
「田中さん、絶対信じる気ないでしょう」
ちょっとキレ気味のトウヤ。
これは揶揄い過ぎたなと謝っておく。
それにしても、探索者の専門学校か。
ギルドが人の育成に力を入れているって愛さんが言っていたけど、こんなことまでしてたんだな。
どんなことを教えているのか聞いてみると、普通の勉強半分と、もう半分はダンジョン探索だという。
目標は、卒業するまでにプロ探索者になれる30階まで到達すること。
結構無謀じゃねと思うが、プロの探索者パーティが指導するので不可能ではないという。
パーティという言葉を聞いて、辺りを見回してみる。
でも、桃山や他三人の姿が見えない。
やっぱり浮気か?
そう疑いの目をトウヤに向けると、慌てて誤魔化して来る。
どうやらトウヤ達は40階を突破しているので、30階までは一人で指導してもいいのだそうだ。
へー、40階突破したんだな。
凄いじゃん。
嫌味じゃないって、本気で褒めてんだよ。
パーティの誰も欠けなかったんだろ?
それって凄いことじゃん。
あっ、二年前に40階越えたのって、トウヤ達なのか?
違う? えっ、カズヤ達?
「カズヤ君が率いているパーティは、最近50階に到達したようです。凄いですよ彼ら。僕達も負けていられません」
そう言って、トウヤは闘志を漲らせていた。
カズヤか。
ミンスール教会でもトップに立ち、実力も大道に並ぼうとしている。異世界の勇者の生まれ変わりってステータスまで持ってんのに、欲張り過ぎだろあいつ。
なんて嫉妬心が芽生えてしまったりする。
顔を顰めていると、今度はトウヤの番と俺に質問して来た。
これまで何をやってたのかって?
ダンジョンでダイエットだよ。
本当ならもっと早く帰って来られたのに、高カロリーな物しか出さんあんちくしょうのせいで、年単位掛かっちまったよ。
今何の仕事してんのかって?
その仕事を探しに、ここに来たんだ。でも、俺に合いそうな仕事が無さそうで困ってんだよ。
探索者をやらないのかって?
今更やっても意味無いだろう。俺にとっては、終わった場所だしな。
そう言うと、トウヤは驚いた顔をして、話を聞いていた女子達は同情するような表情をしていた。
なんか、もの凄く勘違いされているような気がする。
まあいいかとトウヤとの会話を終わらせると、じゃあまたなと別れを告げる。
トウヤからも別れを告げられるだろう。そう思っていたら、意外な言葉が出て来た。
「田中さん、今度飲みに行きましょう」
つい足を止めてしまう。
振り返ってトウヤを見ると、昔に見たあの景色を思い出してしまった。
俺は少しだけ言葉に詰まって、
「……おう、その時は俺が奢るよ」
と大人ぶってしまった。
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こっちに来たからか、はたまたトウヤにあいつらの面影を見てしまったからか、みんなの墓参りがしたくなった。
もう転生して、ここに居ないのは分かっているんだけど、報告くらいしておきたかった。
武と騎士の墓から始まり、瑠璃の所に行って、元に報告する。
東風はどうするか迷ったけど、一応行っておく。
それから最後に、ナナシの墓に向かう。
出来たら二号の所にも行きたかったけれど、どこにあるのか俺は知らない。
ミンスール教会にはあるかもしれないので、今度行った時にでも聞いてみよう。
六人に報告するというのもあり、時間もかなり過ぎてしまった。
もう、地球は大丈夫だと告げるだけだったけれど、いろいろ話したいことが出て来てしまって困る。
ナナシの大きな墓の前に、ビールを置く。
俺もビールを開けて、一口飲む。
はあ……。
どうしてだろうな、何だか燃え尽きた感じがするよ。
何かあってもイルミンスールが何とかするだろうし、もう俺が居なくても問題無いような気がするんだ。
まあ、死のうにも、もう死ねないんだけどね。でもなぁ、それはそれで辛いんだよなぁ……。
あの世で酒でも飲もうぜって誰かに言おうにも、もうそれも無理になっちまったよ。
まっ、だからこうして飲んでるんだけどな。
ははっと笑って、墓の前に座る。
とにかく喋っていた。
何を話したのか覚えてないくらい、話し続けた。
こいつもどっかに転生してんだろうけど、そいつはもうナナシじゃない。平穏に暮らしているのなら、変なことは言わない方がいいだろう。
……そういや、伝言を頼まれていたな。
それは、天津勘兵衛から頼まれた伝言。
二号に謝っておいてくれと言われたけれど、伝える為には探さないといけない。
正直、それは無理。
魂の判別は、ある程度近付かないと出来ないから、物理的に難しいのだ。
……探せばいいか。
どうせ、時間はいくらでもあるんだ。
暇な時に、世界中を探し回ってみよう。
そう決めて、俺は立ち上がる。
陽が傾き、夕焼けに染まる世界が、どうしようもなく愛おしいと思ってしまった。




