その後の日常10
【無職は今日も今日とて迷宮に潜る4巻】
8月20日に出版されます!
既刊1巻〜3巻下巻もよろしくお願いします!
活動報告に表紙を載せております。
口絵も載せております!是非見てください!
愛さんに探索者の育成を頼まれたけど、それって俺がやらないといけないのかという話だ。
その為にギルドがあるんだし、実際死者が減っているのなら問題ないだろう。今後、天才的な誰かが現れたら、周囲も引っ張られて一気に40階を突破する奴らが増えるかもしれないんだし、焦る必要は無いと思うのだ。
あっ、ホント株式会社としては、主力商品が高騰するのは流石に焦るか。
因みに、俺が地上に戻って来たのは知っていたらしい。
どうやら千里経由で美桜が知っていて、愛さん達に伝えていたそうだ。
えっなに、実は生きてましたよって驚かせようと思ってたのに、あの驚きは純粋に痩せたことに対する物なの?
やだーもう、マジで恥ずかしいんだけど……。
なんて羞恥心に悶えながら、やって来たのはギルド。
相変わらずの盛況っぷりで、ビルの中も外にも多くの人が集まっていた。
以前には見かけなかった海外の方の姿もあり、ギルドの対応が間に合っていない。外に仮設の受付もあるけれど、それでも足りていないのが現状のようだ。
これだけ人がいれば、ホント株式会社も潰れんわなぁといった感じだ。
人混みを掻き分けてギルドに入る。
建物の中も人で溢れかえっており、受付の前には長蛇の列が出来ていた。外だけでなく、中でも窓口を増やしているのに、この状況のようだ。
一応、愛さんから紹介状を貰ったのだけれど、割り込んだら迷惑掛けるなと思い外に向かう。だが、途中で呼び止められた。
振り返ると、そこにはババアがいた。
「誰がババアだい、喧嘩なら買ってやるよ」
あっ嘘です。
おばちゃんがいたの間違いです。
そう誤魔化すと、何の用だい? と尋ねられたので、愛さんの紹介状を渡す。
おばちゃんは一読すると、こっちに来なと首クイするので後に付いて行く。
促されてエレベーターに乗り、中間で下ろされる。
この階にはギルドの会長室があり、俺も以前一度だけ行ったことがある。どうして連れて来られたのか覚えていないけれど、あの時は一人でビビッてたような気がする。
まあそれはいいのだけど、会長室に入ると、そこには意外な人物がいた。
大道?
前はおばちゃんが座っていた席に、天津大道が座っていた。
俺が入ると、大道は訝しげにしており、おばちゃんに「こいつは誰だ?」と聞いていた。
すると、「あんた、この男を見て誰か分からないのかい?」と、さも俺が誰なのか最初から分かっていたかのような口振りをしていた。
一番最初に魔人と間違えて斬り掛かって来たお前が言うんか?
そう思わずツッコミを入れてしまった。
「器の小さい男だね、昔のことを愚痴愚痴と」
昔って二ヶ月前だからな、割と最近だからな。
分かっていて誤魔化そうとするおばちゃんは、俺が咳払いをすると、田中ハルトだと大道に改めて紹介する。
よう久しぶりと声を掛けると、大道は普通に驚いていた。
もうそのリアクションいいから、普通に話をしようぜ。と告げると、おばちゃんが愛さんからの紹介状を渡す。それを一読した大道は、じゃあよろしくと手を差し出して来た。
何のことか分からず、とりあえず握手を交わす。
んで、なんて書いてあったの?
探索者の育成方法? そんなの知らないが。
仕事が欲しいんじゃないのかって?
そりゃ欲しいよ、俺の能力を存分に発揮出来る仕事が。
じゃあよろしくって?
いや、俺頭脳労働系だから。頭使った仕事の方が向いてるから。
……おい、そこ笑うところじゃないぞ。
爆笑する親子はとてもそっくりで、その心もとても汚いんだろうなと思った。
俺は笑う二人を置いて、その場を後にしようとする。
しかし、大道が笑いながら「悪かったって、ちゃんと頭使った仕事だからよ」と呼び止められた。
ソファに座るよう促されて、仕方ないから座ってやる。
すると、飾ってあった龍をモチーフにした鎧が動き出して、お茶を運んでくれる。
おおっ何だ⁉︎ とよく見てみると、俺が作った自動人形だった。
魔力の繋がりがあるのに、気付くのが遅れてしまった。
大道は、鎧の自動人形をドレイクと呼ぶ。
どうやら、ドレイクもマリンと同じく自我が芽生えているようだ。だが、魂は宿っていない。いずれ宿るのかもしれないが、それがいつになるのかは分からない。
もし宿らなかったら、マリンとドレイクを入れ替えさせてもらおう。
こっちにいたら、マリンだって少しは働くだろうから。
なんて計画を立てていると、目の前に大道が座り、おばちゃんは少し離れた席に座った。
この時点で、ん? となり、どういうことか聞いてみる。
なあ、もしかしてだけど、おばちゃんって引退したのか?
ああ、やっぱりそうか。んで、次が大道なのか?
そうなんだ……。
じゃあさ、ミンスール教会はどうなったんだ?
そっちは大道より相応しい奴がいるって?
「ああ、まだ若いが世界樹とも繋がりがある。資格は十分だろう?」
大道の言葉に、まだ高校生だった厨二野郎の顔が思い浮かんだ。
あれから四年、いや五年近く経っているから、もう社会人になっていてもおかしくない。それでも、一つの組織。信仰心が強い信者達を導くのは生半可な労力ではないだろう。
ちゃんと、周りがサポートしてやらないと、下手したら潰れるんじゃないか?
念の為、大道に時々様子見に行ってやれよと注意しておく。
すると、二号を信奉していた奴らが面倒見てるから大丈夫なのだと説明された。
……すげー不安になって来た。
まあ、それは後でいいや。それより今は、仕事の内容だ。
んで、俺は何をしたらいいんだ?
そう尋ねると、アドバイスが欲しいと言われた。
どうやったらダンジョンで生き残れるのか、その方法を言語化して欲しいという。
……確かに頭を使うな。
生き残る方法か…………。
少しだけ、どうやって来たのか振り返ってみる。
すると、
……どうして俺生きてんだ?
ってなった。
ダンジョンで死にかけた回数は数知れず、地上でもト太郎の残骸との戦闘で死にかけた。てか死んでた。
一歩間違えたら俺はここにいなかった。
力が足りなければ、俺はとっくの昔に死んでいた。
そうか、これを出していけばいいのか。
大道に紙とペンを貰って、必要な物を書く。
それを大道に渡すと、納得したように力強く頷いていた。
「やっぱ頭脳労働は向いてないぞ」
うるせー!
何が駄目なのか言ってみろやこの野郎‼︎
大道は俺が書いた紙を見せながら説明する。
必要な物の一つに書いたのはスキル。特に治癒魔法と収納空間は大事。空間把握も脅威の察知に使うし、力を上昇させてくれる限界突破も必須だろう。
これがそもそも間違いだという。
「あのな、こんなスキル手に入れられるなら、みんな強くなんだよ! 考える必要がないんだよ‼︎」
次に書いたのは、強力な装備。
特に、特殊な能力を持った武器は持っていた方がいい。あれらが無かったら、戦えすらしなかっただろう。
「そんな装備がポンポン出て来たら、俺らなんて必要ないんだよ⁉︎」
この次に書いたのは、諦めない心。
生きることを諦めなければ、まあ、気合いでなんとかなるだろう。
「気合いじゃないんだよ、その具体的な手段を書けって言ってんの⁉︎」
その次に書いたのは、運。
俺は日常的に善行を積んでいたから、徳が高く恵まれていた。そうじゃなかったら、生き残れているはずがない。
「運が良けりゃ、そもそもそんな目に遭わないだろうが!」
更に次に書いたのは、独り身でいること。
彼女や彼氏を作ったら、きっと死亡フラグで死んでしまうはずだ。だから、探索者はみんな独り身の方がいい。
「アホか」
その後に書いた内容も全て、大道に否定されてしまった。
じゃあ何を書いたらいいんだよ⁉︎ そう抗議すると、大道は考えてあることを言って来る。
「スキルに頼らず、強くなる方法はあるか?」
俺はあると即答する。
一つは地獄の訓練。
俺が徹底的に鍛え上げれば、奈落で生きていけるくらいにはなるはずだ。
ナナシや二号という実績もある。
精神崩壊を起こさないギリギリのラインを見極める必要があるので大変だが、仮に崩壊しても俺の治癒魔法なら復活可能だ。死んだって、蘇生魔法がある。殺して下さいと懇願されても、大丈夫ちゃんと育ててやるからと、更なる地獄に引き摺り込むことも出来る。
「……お前は鬼か?」
不評だったので、もう一つ提案する。
収納空間から焼きたてのとある肉を取り出し、ドンッとテーブルの上に置く。
俺はこの肉に魅力を感じないが、大道とおばちゃんは強く惹かれたようだ。
どうぞ。
そう促すと、二人は遠慮などせずに肉を食べてしまった。
すると、二人の体内で魔力が増える。それもかなりの量だ。それだけでなく、肉体も強くなっている。
この肉は一体……。
そう驚愕する二人に、何の肉なのか説明する。
これは、大道の祖父も食べていた肉だと紹介すると、とても喜んでいた。
そして、奈落に生息していた怪獣のような海亀の肉だと教えると、驚いていた。
更に、この肉食った奴は、ネオユートピアに現れた黒龍以上の化け物から狙われるようになると説明すると、
「テメー‼︎ なんて物食わせるんだ⁉︎⁉︎」
とブチギレていた。
いやいや、スキル無しで強くなる方法を聞いて来たのお前やん。
そもそも、海亀は俺の収納空間にいるので、俺が心変わりしない限りは狙われる心配は無い。
だから大丈夫!
そう教えてやると、もの凄く不安そうにしていた。
まっ、こういう方法もあるってことを覚えておけ。
一応、蟻蜜もあるけど、こっちは飲み過ぎると死ぬらしいからほどほどにしとけ。
言っておくが、これを提供するのは今回だけだからな。
そう言いながら、口直しの蜜をコップに注いでやる。
まあ、再会の祝いと思えば悪くはないだろう。
それに、大道には力があった方がいい。
権力だけでなく、一人でも困難に立ち向かえるだけの力が。
おばちゃんは懐かしそうにコップを手に取り、大道は恐る恐るコップを手に取る。
そして一気に煽ると、大道は「クィーーー⁉︎」という奇声を上げていた。
とても醜いなと思ってしまった。




