その後の日常9
【無職は今日も今日とて迷宮に潜る4巻】
8月20日に出版されます!
既刊1巻〜3巻下巻もよろしくお願いします!
活動報告に表紙を載せております。
あれから、発光する天使は俺の前に現れていない。
でも、世界各地で目撃情報が上がっているらしく、やはりあのアマダチでは仕留め切れなかったようだ。
天使による被害も発生しているようで、攻撃を加えようとした人が反撃に遭っているそうな。反対に、困っている人や動物がいると助けてくれるらしい。
何がしたいのかよく分からんが、どうして俺には攻撃して来たんだと抗議したい。
そんなに俺が気に入らんのか?
会ったこともない俺が嫌いなんか?
顔か? 体型はスマートになってるから、やっぱ顔なのか⁉︎
そこら辺をとことん問い詰めたいところだ。
なあ、お前はどう思う?
『あの、よく分からないです』
今問い掛けたのは、アミニクと呼ばれる赤髪の天使に向かってだ。
アミニクはユグドラシルから派遣されて来た天使で、自宅にやって来たところを愚痴っている。
それにしても、こっちに来るのならミューレかオリエルタだと思っていた。
『調査をするなら、私の方が適していますから』
別にガッカリしているわけじゃない。
寧ろ、あいつらじゃなくてよかったとホッとしている。
あいつら、日向を見たら何するか分からないからな。
翼を隠して、人と変わらない格好をしているアミニクは、『それでは、早速取り掛かります』と言って、去って行った。
よほど、俺の愚痴を聞くのがキツかったと見える。
まあ、それはいいとして、俺も本格的に取り掛かろうと思う。
言っておくが、天使の追跡ではない。
当初の目的通り、就職先を見つけにだ。
前回の襲撃で俺は理解した。
もう、求人サイト経由では、仕事先を探すのは不可能なのだと。
ならば可能な方法は、誰かの伝手に頼るしかない。
身内だと、姉ちゃんの旦那さんのマサフミさんが会社の重役らしいので、お願いすればもしかしたら入社させてもらえるかもしれない。
でもこの場合、仕事が合わなくて辞めたいと思った時が辞めにくい。
俺のせいで、マサフミさんに迷惑は掛けたくないのだ。
ならば、まったく別の所に頼むしかないだろう。
出来ることなら実家の近くが良かったのだけど、もう距離なんて気にしていられない。
気軽に辞められる仕事をするには、もうあの人を頼るしかないだろう。
_____
という訳でやって来たのは、ホント株式会社。
ダンジョン需要で急拡大して、現在は停滞している企業でもある。
決して業績が悪い訳ではないのだが、世界中にあったダンジョンが消えたことで、ピーク時よりも減少してしまったのだ。
とはいえ、潰れることはない。
何故ならダンジョンがある限り、便利アイテムを生み出すホント株式会社は必須の企業だからだ。
最近では、防犯グッズでも注目されており、日向も一つ持っていたりする。
そんな企業の玄関を通り、受付けに向かう。
椅子に座った受付は、席を立ち迎えてくれる。
愛さんに挨拶したいんだけど、呼んでくれない? そうしたり顔で言ってみるのだけど、受付さんの反応はよろしくない。
愛さんとは?
愛さんは愛さんだよ、ホント株式会社の社長。
アポ? いや、取っていませんけど……。
予定に無い人は、取り次ぎ出来ない?
そうですか……。
受付さんに、やんわり拒否されて出直そうとすると、外に懐かしい気配を感じ取った。
出入り口付近で足を止めた俺に、受付さんは訝しみ声を掛けようとするが、それよりも早くに自動ドアが開いた。
受付さんは、慌てて頭を下げる。
自動ドアを通るのはホント株式会社の社長、本田愛さんだ。
もう四十路を越えているというのに、その見た目に変化は無い。
愛さんの近くには、秘書をしている八丁奏さん。そして、治癒魔法の使い手でもある葉月美桜の姿があった。
愛さんの若々しさは、間違いなく美桜による治癒魔法の賜物だろう。
俺は愛さんに向かって、親しげに手を挙げる。
だが、横目で見るだけで愛さんは素通りしてしまった。
待って愛さん⁉︎
俺です⁉︎ 分かりますか⁉︎ 俺ですって愛さん⁉︎
そう呼び掛けると、受付さんと同じように、訝しげに俺を見る。
八丁さんと美桜も同じで、元プロ探索者である八丁さんにいたっては、魔力を高めて警戒している。
おいおいマジかよ、俺が誰か分かってないじゃん。
これまで、俺が俺だと分かったのは千里だけ。
フウマとマリンもそうだが、あいつらとは魔力の繋がりがあるから分からない方がどうかしている。
それにしても、四年も間が空いていたとはいえ、俺が分からなくなるとは……
……別に責められんな。
俺も、奈落に落ちた後は、地上で出会った人のほとんどを忘れてしまっていた。
自分のことを棚上げして、他人を責めるなんて出来ない。
俺は改めて自己紹介する。
俺は、以前お世話になった田中ハルトです。
戻って来たので、ご挨拶に伺いました。
よほど、俺がダンジョンから生きて戻ったことが意外だったのだろう、愛さんは口を半開きにして、八丁さんと美桜は持っている物を落とすほど驚いていた。
本当にハルト君? そう愛さんが聞いて来るので、そうですよと答える。
「……ハルト君、あなた痩せると意外と普通なのね」
やかましい、普通が一番だろうが。
そう不満に思っていると、八丁さんと美桜からも「どこにでもいそう」という、辛辣な感想をいただいた。
いや、確かに特徴無いかもしれないよ。でもさ、それ面と向かって言う必要なくない? こう、もうちょっとオブラートに包んでよ。っていうか、これでも必死になって痩せてんだよこっちはよぉ!
なんて不満を言いたいのだけれど、笑って誤魔化す。
何故なら仕事を紹介して欲しいから。
社長の肩書を持つ人の紹介なら、いきなり襲われる心配がないから。
ここまで言って来る人なら、顔に泥を塗っても心痛まないから。
だから、ぜひ愛さんに紹介して欲しい。
ニコニコと笑顔を浮かべていると、段々と愛さん達が警戒して行く。
一体何の用? 何かあったの? もしかして、よくないこと考えてる? そう距離を取りながら聞かれてしまう。別に取って食おうなんて考えてないのに、酷い言われようだ。
とはいえ、聞かれたのなら素直に言うしかない。
愛さん、仕事紹介して下さい。
そうお願いすると、時が止まった気がした。
……あの、愛さん?
再び声を掛けると、愛さんはハッとして「場所を変えましょう」と言い、会議室に通された。
会議室に到着すると、コーヒーを出される。
一口付けて、俺が事情を説明しようとすると、先に愛さんから現状のホント株式会社の状況を説明された。
ホント株式会社の業績は、ピーク時より半減しているが、十分な黒字を出しているという。
黒字の要因は、国内の探索者の数は変わらず増えているから。
ギルドによる新人へのサポートも手厚くなっており、これまでのデータから、現在の実力で到達可能な階層を割り出しているという。
おかげで、ダンジョンで死ぬ人の数は急激に減って来ているそうだ。
だが、問題はそこから先。
四十階を越えられる者がいなくなったらしい。
最後に越えたのが、二年前の大学生パーティが最後。
これまでは、自分の限界を越える無謀な奴らが一定数いたのだが、最近ではまったくいなくなったらしい。
二年前に出ているのなら、別にいいんじゃないんですか?
そう聞いてみると、これがそういう訳にはいかないらしい。
41階以降の素材が高騰しており、とても手が出せない値段になって来ているという。その中には、ホント株式会社の主力商品であるポッタクルーの素材になる物もあり、今後の見通しが立たなくなっているそうな。
そうか、ホント株式会社も潰れるのか。
この感想が俺の顔に出ていたのか、愛さんから「潰れないから安心してね」と念押しされた。
とはいえ、この話を俺にする意味が分からない。
だから、単刀直入に聞いてみる。
あの、それで俺に何をして欲しいんでしょう?
すると、「探索者を育てて欲しい」と滅茶苦茶なお願いをされた。




