その後の日常8
【無職は今日も今日とて迷宮に潜る4巻】
8月20日に出版されます!
既刊1巻〜3巻下巻もよろしくお願いします!
活動報告に表紙を載せております。
結論から言うと、千里のお父さんはピンピンしていた。
歩いていた所、歩道に乗り上げた車に轢かれたらしい。轢かれたとはいえ、低速だったので転んだ程度の傷ですんだという。
ただ問題は他にある。
今回の事故がここだけで起こったわけではないということだ。
何でも昼過ぎ頃に、まるでソニックブームのような衝撃が駆け抜けて、建物の窓ガラスを割ったり、今回のように車両の操作が困難になるケースが多発したらしい。
ニュースにもなっていて、警戒を緩めないようにと報道されているそうだ。
あっ、ああ、そっ、そうなんですね〜大変でしたね〜。知らなかったな〜、そんなことがあったなんて〜……。
知らない。
俺は知らない。
アマダチを放ったタイミングに近い気がしないでもないけど、結構離れていたし、そんな、まさかそんな、衝撃が走るなんてねぇ……。
……とりあえず、治癒魔法掛けて回るか。
千里のお父さんに治癒魔法を使って、怪我だけでなく腰痛も癒しておく。
因みに、千里のご両親にご挨拶した時、俺が誰なのか分からなかったようで、あの時のデブですと改めて自己紹介すると、酷く驚かれた。
千里は今日は実家に泊まるらしく、両親と一緒に帰って行った。
明日は幼稚園を休むそうで、連絡もしているらしい。
仕事をしている人達は、とても大変そうだ。
俺も負けていられないな。
さっ、やるかな。
_____
どうやら、ソニックブームのような衝撃波は、かなり高域に広がっていたらしい。
小さいけれど津波も発生していて、かなりの大事になっていたようだ。
ったく、誰がこんなことしたんだ。
おかげで、治癒魔法掛けて回るのに、まる二日掛かっただろうが!
発光する天使めぇ、なんて酷いことをするんだ‼︎
この責任は、絶対取ってもらうからな!
「ブルル」(ええから働け)
あっ、はい。
治癒魔法で治療し終わると、割れたガラスなどの撤去作業に従事した。何故かそこにフウマもいて、力を包み隠さず使い、落ちたガラスや瓦礫の撤去作業に奔走していた。
それに、多くの探索者が駆り出されており、この辺りの撤去作業は、もう終わろうとしていた。
フウマはみんなから当然のように受け入れられていて、それどころか尊敬されているようにも見える。ギルドの職員もいたのだけれど、丁寧な対応を受けていた。
おいおい、何だこの働く馬は?
いつからこいつは、こんな真面目な馬になったんだ?
それに、みんなから慕われているのはどうしてだ?
こいつ、ただのサブカル好きの馬だぞ。
もしかして、偽物なのか?
実は、まったく別の召喚獣と入れ替わっているオチじゃないよな?
一回引っ張って、本物かどうか確かめた方がよさそうだ。
そう思いフウマを呼ぼうとすると、近くで作業していた探索者が話し掛けて来た。
どうやらフウマのことを知っているようで、俺が驚いているのを見て、知らないと思ったらしい。
はい、はいはい。
ああ、あのバカ馬ですか?
バカ馬とか言うなって?
あっはい、すんません。
あの、あの馬って何なんですか? 何かやっちゃって、みんな脅してる感じですか?
もしそうなら、容赦なく消せる。
そう期待したのだけれど、探索者からの返答は違っていた。
それは母ちゃんから聞いていた内容と同じで、フウマが人々の為に働いているという物だった。
世界中にあったダンジョンが無くなって、多くの探索者が日本に流入して来たのは前にも聞いた。この混乱の中、警察、探索者協会と探索者監察署が協力して、犯罪を犯した探索者の逮捕、粛清を行っていたという。
だが、それだけで手が回るほど、海外の探索者の数は少なくなかった。
一人を捕まえれば、二人の探索者が犯罪を犯し、復讐の為に雇われた探索者が海外の探索者を殺す。その報復に、海外からの探索者の集団が、殺した犯人を始末する。その探索者を捕まえれば、また二人の……。という無限ループになっていたという。
これを打開する為に、フウマは動いた。
化け物じみた力を使い、大量の犯罪者を捕らえて行ったのだ。
それには、探索者以外も含まれていたが、捕まった奴らは全員犯罪者だった。
次々と犯罪者を捕まえてしまい、一時は牢屋の数が足りなくなるくらいだったという。
フウマの活躍があり、短期間で治安を回復させたそうな。
もしフウマがいなければ、この探索者の家族も海外から来た探索者に殺されていたらしい。
だからなのか、この探索者のフウマを見る目は、心の底から感謝と尊敬の念を抱いている色をしていた。
俺は、純粋な気持ちで、やるやんと思ってしまった。
あらかた撤去作業を終えると、フウマにどうしてここまでしたのか聞いてみる。
すると、お前が言ったことやろうと返された。
フウマはあくまでも、日向が無事に平和に暮らせる世界を目指したという。それは、俺の願いであり、ダンジョンだけでなく日向の成長を妨げる者を排除することが目的だった。
この意思を継いだフウマは、力を惜しみなく発揮して事を成したという。
俺が願っただけで、フウマはそれを達成してみせた。
まさか、ここまでしてくれるとは……。
「ヒヒン」(気にすんなって、力見せびらかして良い気分になれたし、Win-Winや)
と、何でもないようにしていた。
まあ、フウマが言うのなら、それでいいのだろう。
というか、元々気にしていないから、勘違いされても困る。
「ブルル⁉︎」(いや気にせーよ⁉︎)
やかましい。
俺の指示云々抜きにして、フウマなら日向の為に動いてただろうが。
そもそも、お前は俺の言うことなんて聞かないじゃん。
「…………ブル」
図星かい⁉︎ 否定しろよ⁉︎
今回は俺の言うこと聞いたって、嘘でも言っとけよ⁉︎
ちょっと期待しちゃっただろうが⁉︎
なんてことを言ってみたりするけど、まあ……。
お前がいてくれて助かったよ。
そう本心から思う。
フウマがいなかったら、この平和は無いのだろうから。
頭を撫でながら言うと、後ろ脚で俺を蹴って来る。
「ブルル」(ちゃんと働けよ)
フウマはそれだけ言うと、次の仕事に向かって飛んで行った。
立場逆転しちまったなぁ……。
頼り甲斐のある後ろ姿を見ながら、寂しい気持ちになってしまった。




