その後の日常7
【無職は今日も今日とて迷宮に潜る4巻】
8月20日に出版されます!
既刊1巻〜3巻下巻もよろしくお願いします!
活動報告に表紙を載せております。
風属性魔法で空を飛んでいると、改めて空が狭いと感じてしまう。
奈落の空にも終わりはあるが、地球よりも遥かに高い位置にある。何より、世界が圧倒的に広い。
あれを経験したら、この星を窮屈に感じてしまうのも仕方ないのだろう。
そんなことを考えつつ、フウマの所に向かっていると、懐かしい魔力を感じた気がした。
……ト太郎?
そんなはずないのだが、ト太郎、聖龍の魔力に似た何かを感じた。
どこからだろう? そう空中で止まって辺りを見回す。
少なくとも、見える範囲には何も無く、あっても鳥が飛んでいるくらいだった。
気のせいか?
そう思い、再び飛び直そうとして、収納空間から不屈の大剣を取り出した。
遥か彼方が光る。
次の瞬間には、目の前に巨大な光の槍。
物騒な魔法だ。
不屈の大剣で迎え討ち、消し去ろうと一振り。
しかし、手応えが無い。
は?
不屈の大剣をすり抜ける魔法。
目の前が光に染まり、強烈な衝撃が俺の身体を襲う。
がはっ⁉︎
久しぶりに感じる焼けるような身体の痛み。
おかげで、意識が戦闘モードに切り替わる。
治癒魔法を使い、肉体を即座に回復させると、収納空間から守護獣の鎧を取り出し身に纏う。
「リミットブレイク」
魔法を放ったクソ野郎を滅ぼすべく、力を増大させ飛翔する。
場所は太平洋上空。
そこに、大きな魔力を持った奴がいる。
再び光の魔法が放たれる。
今度は一発だけでなく、弾幕のような恐ろしい数だ。
この魔法は、俺のというより、ヒナタが使っていた魔法と同じ性質を持っている。
物質をすり抜け、標的に着弾する性質を。
誰が使っていやがる⁉︎
魔力の波を発生させて、全ての魔法を無効化する。
更に速度を上げて接近すると、魔法を放った奴の姿を捉えた。
天使?
そいつは、身体から光を放っており、姿がはっきりとしない。だが、その形はまるで、天使のそれだった。
誰かは知らんが、攻撃して来た以上容赦しない。
無数の風の刃を放ち、天使を全方位から襲う。
守護者でも、これを喰らえば死ぬレベルの魔法だ。これで、無事なはずはない。そう思っていた。
煙が晴れると、そこには光る大剣を持つ天使の姿。
あれは……ヤバい⁉︎
不屈の大剣に、神をも殺す根源を消滅させる力を込める。
天使も俺と同じように動き、大剣を上段に構えた。
「アマダチ!」
互いの武器から、白銀の光が放たれる。
それは中央で衝突すると、僅かな抵抗も許さず、俺のアマダチが全てを飲み込み遥か上空へと消えて行った。
目の前には、発光する天使の姿は無く、完全に消え去った。はずだ。
そのはずなのに、手応えが無かった。
直撃したはずなのに、天使の存在感が消えていない。
まだ終わっていない。
そう思い、俺はその場に止まり警戒する。
だが、いつまで経っても次の攻撃は来ず、日が暮れてようやく逃げられたのだと気付いた。
俺と、正体不明の天使との最初の戦いはこうして幕を閉じた。
_____
おいおい放置すんじゃねーよ!
終わりなら終わりって言えよ!
どんだけ空中にいたと思ってんだよ!
久しぶりの戦闘で、ちょっぴりテンション上がっちゃって、こちとら状況判断鈍ってんだよ!
もうマジで、日向のお迎え行けなくて帰ったら激おこだったよ⁉︎
俺の一張羅も台無しになるし、もう散々だよこれ!
それもこれも、あの天使のせいだ。
イルミンスール通じて、ユグドラシルに文句言ったろ。
そう思いクレーマーよろしく文句を言うのだけれど、反応は一言だった。
『天使は地上に出ていない』
いやいや、ちゃんと目撃したしアマダチと同種の攻撃してたよ。
冗談抜きで、ヒナタクラスの天使だったよ……。
そう考えて、ようやく矛盾に気付いた。
ヒナタは、英雄と呼ばれるほどの守護者だった。
今も収納空間にいる、海亀の怪獣の攻撃を防げるほどの力を持った天使だ。
そんな奴を、ユグドラシルが地上に送るはずがない。そもそも、ヒナタクラスが二人もいるのなら、俺なんかに頼ろうとは思わないだろう。
だったら、あの天使はなんなんだ?
ユグドラシルの所以外にも、天使という存在がいるのだろうか?
……分からん。
とりあえず、ユグドラシルが天使を派遣してくれるらしいので、対応はそれ待ちになる。
う〜んと唸っていると、どうしたんや? とフウマがやって来る。
そこで、昼間にあったことを説明すると、どうやらフウマも見かけたことがあるらしい。
その時は、襲われるということはなくて、暫くすると消えてしまったという。
天使の目撃情報は各地であり、各地に現れては何かを破壊したり、反対に人を救ったりしているのだとか。
何がやりたいのか分からず、フウマは放置しているという。
なんか事情通になっているフウマに、俺襲われたんだけど、と言うと、「ブルヒャッヒャッ⁉︎」とブサイクに爆笑していた。
天使より先に、こいつを消してやろうかと思った。
まあそれよりも、今は先に日向のご機嫌取りだ。
今日、迎えに行かなかったのを怒っていて、口を聞いてくれない。オモチャを出しても、スマホを渡しても通じず、母ちゃんに抱きついてこっちを見ようともしない。
こりゃ時間がかかるかなぁと思っていると、千里から電話が掛かって来た。
その声はかなり焦っており、何かあったのだと察する。
えっ、お父さんが事故に遭った?
電話の内容は、実家まで送って欲しいという物だった。
ここから千里の家までは、新幹線で数時間掛かる距離だ。もし、千里の親が危険な状態なら、間に合わないかもしれない。
だが、俺やフウマなら数秒で着く。
俺は二つ返事で了承して、母ちゃんに事情を説明した。
ごめんな日向、ちょっと千里先生の為に行って来るよ。そう頭を撫でながら告げると、顔を上げて頷いていた。
帰りに、コンビニでお菓子でも買って来よう。
そんなことを考えながら、外に飛び出した。
______
千里が暮らしているアパートに向かうと、俺の到着を待っていたのか玄関に出ていた。
んじゃ行こうか。そう声を掛けると、千里は申し訳なさそうにしていた。
気にすんなって、別に迷惑だなんて思ってないから。
それに、親が危ないって聞いたら、誰だって心配になるだろう。
ほら、早く行くぞ。
そう言いながら、千里をお姫様抱っこする。
風属性魔法を使って空を飛び、本日二度目となるダンジョンがある街に向かう。
こんな時に不謹慎だけど、少しだけラッキーだなって思ってしまっている。
日本の夜の景色というのはかなり綺麗で、この景色をいつか千里と見たいと思っていた。その願いが、こんな形で叶ってしまう。
美しい景色の威力は凄まじく、親の知らせに心配な千里でも、界下に広がる文明の景色を見て、心を奪われているようだった。
この景色、いつでも見せてあげるから。
そんな臭いセリフを言おうとしたけれど、喉元で止めておく。
いくらなんでも、こんな時に言うべきじゃないなと思い自重した。
もし次があるのなら、その時に言ってみよう。
俺らしくないかもしれないが、一度だけ言ってみたい。
たぶん笑われるだろうけど、もしかしたら違う反応があるかもと期待してしまう。
まあそれも、千里のお父さんの無事を確認してからだな。




