その後の日常5
【無職は今日も今日とて迷宮に潜る4巻】
8月20日に出版されます!
既刊1巻〜3巻下巻もよろしくお願いします!
活動報告に表紙を載せております。
地上に戻ってから二ヶ月が過ぎた。
毎日を日向達の送り迎えをしたり、家のことをやったりして大忙しだ。週末は千里と遊びに行ったり、日向も同行したりして休まる日が無い。
一日中、スマホをいじっているマリンを羨ましく思えてしまう。
おい、スマホばっかいじってないで掃除手伝えよ。
やってるって? おまっ、それは水操って汚れを落としているだけだろうが!
もっと、体動かして仕事しろよ。乾燥わかめ代くらい、自分で稼げよ。
えっ、稼いでるって?
この口座を見ろって?
スマホの画面に表示された金額は、億を超えていた。
それこそ、サラリーマンの生涯年収を超える金額だ。
おっ、おま、どんな犯罪しやがった……。
してない?
フウマの伝手で仕事しただけ?
いやいや待って⁉︎ フウマの伝手ってなに⁉︎
あいつ、そんな人脈持ってんの⁉︎
つーか、どうやったらお前が口座作れるんだよ⁉︎
もしかして、誰かから買ったとかか⁉︎
それ犯罪だかんな⁉︎ 分かってんのかこの野郎⁉︎
えっ、口座もフウマの伝手? 戸籍もちゃんとある?
……フウマって、もしかして凄い奴なの?
いやいや、そんなまさかね。あの漫画やアニメにしか興味ない馬鹿馬が、凄いはずないって。そう否定すると、マリンは真顔で、
「フウマパイセン、マジで凄いよ。マジリスペクトしてる。その気になれば、日本牛耳れますよ。マジで」
なにその陰の実力者みたいな言い方。
日本牛耳れるって、力で支配するならフウマなら楽勝だろう。
そうじゃない? いろんな所と繋がりがあるって?
……マジか。
まさか、俺がいない間に、日本がフウマに支配されているとは思わなかった。
ただのサブカル好きの馬だと思ってたのに、その実態は権力を欲する強欲な馬だったらしい。
ここは、召喚主として責任を持って始末した方がいいだろうか?
という冗談はさておき、本題に戻ろう。
おいマリン、そんな口座の画面作ったって意味ねーんだよ!
そもそも、あのフウマがそんな面倒なことするか⁉︎
嘘をつくなら、もっとマシな嘘をつけ!
信じてくれ? うるさい! 働かない奴の言葉なんて、信じるに値しないんだよ!
そう言うと、マリンは俺を指差す。
「だったら、主様も働いてないじゃん」
………………。
………………確かに。
核心を突かれて、俺は何も言えなくなってしまう。
忙しくしているような気がしていたけれど、実際は遊んでばかりだった。まさか、言われて気付くとは思ってもみなかった。
俺は考える。
そもそも、俺は働く必要があるのだろうか?
収納空間に入っているダンジョンの素材を売れば、それこそ数世代が一生遊んで暮らせるだけの金は手に入るだろう。
それに、金を稼ぐのならダンジョンに潜れば解決だ。
なら、働く必要は無いのではないだろうか?
そう考えるのだけれど、残念ながらそれが通用するのは独り身の場合だ。
家庭なんて持っちゃったら、職無しは辛い。つーか肩身が狭い思いをする。
仮に千里の親に挨拶に行くとして、無職です、働いてません、なんて言ったら、間違いなく蹴り出される。
俺が親だったら血祭りだ。
これはもう……就活するしかないな。
俺は決意して、将来の為にも仕事を探すことにした。
_____
求人を調べてみると、昨今の人手不足の影響もあり、大量に人を募集していた。
可能なら、前職を活かした仕事に就きたい。
どんな業務内容だったのか、今も薄っすらとギリギリ覚えているので、何とかやって行けるだろう。
というわけで、早速応募すると来週面接をすることになった。
えらく早いな、それだけ人手不足なのだろう。
昨今、新入社員も直ぐに辞めて行くようだし、人手はあって困ることはないのだろう。
そして、面接当日である。
立派なビルのワンフロアに、これから受ける会社は入っているらしい。
よし! そう気合を入れてビルに入り、エレベーターで目的の階に向かう。目的の階に到着すると、エレベーターの前に品の良さそうな人が立っており、丁寧に応対してくれて会議室に通された。
テーブルと椅子以外何も無い会議室。
その一脚に腰掛けて、呼ばれるのを待つ。
何を聞かれてもいいように、答えはしっかりと用意して来た。
それでも、これから面接があると思うと緊張してしまう。
戦いとは違った緊張感。
単純な力でなく、社会人としての魅力が試される場所だ。
収納空間から、飲み物を取って喉を潤す。
いつでも来い!
そう気合を入れ直すと、なんか魔力を持った覆面した奴らが部屋に押し入って来た。
え? これって何かのドッキリですか?
そう尋ねると、何かのスキルかワイヤーが伸びて来て、俺を椅子に拘束した。
ええー……何これ? 意味分かんないんだけど……。
困惑していると、一人の男が前に出て来る。
なかなかの魔力量で、プロの探索者並みの実力を持っていそうだ。
はいはい何でしょう?
ああはい、その住所には住んでますけど。
ええ、田中ハルトで間違いないです。はい本人です。
それって、太ってた頃の写真ですね。
そうです、間違いなく本人です。
嘘じゃないです。いやマジで本人ですって。
やっと信じてくれた正面の男は、魔剣っぽい剣を取り出す。
そして、俺を殺そうと構えた。
鋭い刺突。
それを体を傾けて、拘束しているワイヤーを切断させて脇を通す。
脇を固めると、ふん! と力を込めて剣を破壊する。
剣を破壊されて、驚いている男の前に立つ。
んで、何の用?
これから面接があったはずなんだけど。
こいつが、さっき応対してくれた男なのは分かっている。
他の奴らも、予めフロアに居たのも把握している。
俺が会議室に到着してから、装備を身に付けたのだって感知している。
これは普通じゃないって、途中から分かってた。
でもさ、ワンチャンドッキリか、襲われた時にどう対応するか試験してんじゃないかって希望を抱いてしまった。
そのわずかな希望は、残念ながら叶わないらしい。
目の前の男を睨み付けていると、横から魔法が飛んで来た。
それを、適当に手で払って無効化すると、風属性魔法をぶつけて壁に叩き付ける。
他の奴らも動こうとしているので、地属性魔法を操って石の杭で足を貫いた。
もう一回聞くけど、何の用?
お前らとは初対面のはずだよな?
真っ直ぐに見て告げると、男の口から血が溢れ出した。
毒による自殺。
昔のドラマでありそうな展開で、少しだけ感動してしまった。
だからといって、逃さないけどな。
治癒魔法を使い、解毒して傷を癒す。
男は失敗したと悟るやいなや、ナイフを取り出して自分の喉を貫いた。
おおっ。ここまで勢いが良いと、驚きよりも感動が勝る。
でも、治癒魔法で回復させる。
目の前の男が、絶望した表情を浮かべる。
言っておくが、死んでも蘇生して無理矢理聞き出すからな。
嘘だと思うなら、やってみろよ。その前に死なせないけどな。
他の奴らも同様だ。
決して死なせない。死ぬのは、全部話して探索者監察署に引き渡した後だ。
魔力を少しだけ発して、誰を襲ったのかを教える。
奴らは驚愕と恐怖で体が震え始めた。
じゃあ、話をしようか。
目の前の男に、友好的な笑顔で言った。




