その後の日常4
【無職は今日も今日とて迷宮に潜る4巻】
8月20日に出版されます!
既刊1巻〜3巻下巻もよろしくお願いします!
活動報告に表紙を載せております。
いかん、幸せそうな同級生を見て焦ってしまい、変なことを口走ってしまった。
おかげで、せっかく再会したのに、千里から冷たい視線を送られてしまう。
これは嫌われたかと心配したが、週末は会ってくれるというので、とりあえず拒絶されるという心配は無さそうだった。
というわけで週末である。
痩せたというのもあり、着れる服が増えた。
おしゃれしようと、収納空間にある服を引っ張り出すと、どれも大きいサイズか戦闘向けの防具服、オクタン君に貰った世紀末ファッションしかなかった。
やばいな、服を買いに行こうにも、もう時間も無い。
こりゃもうやるしかないと、大きいサイズの服を手に取り、スキル【裁縫】を使ってサイズを整える。
久しぶりに裁縫を使ったけれど、かなり上手く行った。
これで準備は万端。
あとは出発するだけなのだが、日向が遊ぼうと誘って来る。
……どうしよう。
遊んであげたいけれど、千里とも遊びに行きたい。
視線をマリンに向けると、任せて! と返事が来たので任せてみる。
「いや! オヤジとあそぶの!」
だが、残念なことにマリンは拒絶されてしまった。
空を飛ぶ練習しようよと誘っても、日向は首を縦には振らない。
次にフウマに視線を向けると、漫画に夢中でこっちを見ようともしない。
どうやら、我関せずを貫くようだ。
こいつとは、後で話し合いが必要だろう。
最終手段と、母ちゃんと父ちゃんに視線を向けると、微笑ましそうに見ており助ける気は無いようだ。
いやいや、あんた達の娘だよね?
俺、オヤジとか呼ばれてるけど、日向は妹だからね‼︎
父ちゃんなんて、どうせ母ちゃんと二人きりになれるからとか考えたんだろう⁉︎
そう訴えると、冗談だと言いながら日向を抱っこしていた。
本当に冗談なのか怪しいところだが、面倒を見てくれるのなら文句は無い。
と思ったのだけれど、日向が泣き始めた。
普段泣かないから、父ちゃんは驚いており、母ちゃんに任せていた。
情け無いなおい。
だけど、それでも泣き止まなくて、日向の魔力が膨れ上がる。
おいおい、ユグドラシルの加護で制御出来てるんじゃないのか⁉︎
このままじゃ、爆発してしまう⁉︎
即座に母ちゃんの手から奪い取り、日向の魔力を散らせる。
すると、魔力は空中へと溶けて日向の癇癪も治った。
焦った。
まさか、ユグドラシルの加護を越えて来るとは思わなかった。
早めに、魔力を消耗させる方法を考えた方がいいかもしれない。
まあ、それはともかくだ。
日向、一緒にお出掛けするか?
「……うん!」
花が咲いたような笑顔で日向は頷いた。
もう仕方ないよね。
とりあえず、千里には連絡入れておこう。
日を変えたいって言われたら、今日は諦めるしかない。
千里に電話して事情を説明すると、仕方ないねと言いながら、日向の同行も許された。
これから回る予定を変更して、子供も楽しめる所にしておこう。
スマホで良さげな場所を探して、日向の準備を待った。
____
待ち合わせ場所は、地元の駅にしていた。
この駅の前の大通りは、フウマが外国人を市中引き回しの刑に処した道路でもある。
フウマの渾身の魔法でもあり、あれは流石に引いてしまった。
そんなどうでもいいことを思い出しながら千里を待つ。
日向はキョロキョロと辺りを見回して、あれ何? とか、知っている物を俺に教えてくれたりする。
俺は説明したり、日向は物知りだなぁとか言って感心する。
実際、最近の流行や物なんて知らないから、日向の話は驚いたりする。
「あっ、ちさとせんせいだ!」
なにっ⁉︎
日向が指差す方向を見ると、そこには千里がいた。
だが遠い。軽く三百メートル以上は離れているだろうか。
日向はよく見つけたもんだと頭を撫でてしまう。
空間把握の範囲には入っているけれど、人が多過ぎて判別するのを拒否していた。駅に併設されている商業施設も範囲内なので、常時発動しているスキルを意識すると頭が疲れてしまう。
と、そんなのはどうでもよくて、やって来た千里に手を上げて挨拶をする。
おはよう。……えっと、その服似合ってるな。
そう言うと、千里は「ありがとう」と微笑んでくれる。それから、日向と目線を合わせて、朝の挨拶をしていた。
日向は挨拶をするのだけれどキョトンとしており、どうして千里がいるのか分かっていない様子だった。
なので、これから一緒に遊ぶんだよと教えてあげると、口を開けて驚いていた。
「オヤジ、ちさとせんせいとデートするの⁉︎」
おう、ちゃんとデートって言葉知ってたんだな。
そう困惑する俺をよそに、千里が説明してくれる。
これから俺と日向と千里の三人で遊ぶんだよと優しく告げて、「今日は一緒に楽しもうね!」と楽しそうにアピールしていた。
それを聞いて、日向も嬉しそうにしているので、このまま三人で行っても問題無さそうだ。
俺達が最初に向かったのは動物園。
近場で、子供も楽しめそうな所がここしかなかった。
移動手段に魔法を加えたらどこにでも行けるのだけれど、それは嫌だなと思ってしまい辞めておいた。
この意見には千里も同意してくれて、あくまでも交通機関で行ける範囲にしようとなった。
動物園に到着すると、周りには家族連れが大勢おり、思い思いに園内を回っていた。
俺達も回ろうと足を進めると、変化は起こった。
動物が動きを止めて、俺達をジッと見返して来るのだ。
「なんか見られてない?」
そう千里が困ったように告げる。
うん、これは俺か日向だろうな。
試しに日向を千里に預けて離れてみる。
すると、動物の視線は俺を追って来た。
どうやら、本能で俺を異常だと感じ取ったようだ。
魔力は抑えているし、力も感じ取れないようにしていても、イルミンスールから生まれた肉体までは隠せない。
そこにあるだけで、生命を生み出す世界樹。
その力を感じ取ったのだろう。
日向は「オヤジすごい⁉︎」と興奮しているが、これだと動物園を楽しめなくなってしまう。
動物園は、普段見ない動物が動き回っているのを見て楽しむ場所だ。それなのに、動きを止めてジッと見られていたら、何も楽しめなくなる。
こりゃ、失敗だったかもしれん。
この分だと、水族館とか行っても同じだろう。
動物系の施設は、今後やめておいた方がよさそうだ。
千里にごめんと謝ると、「気にしなくていいよ、次行こう」と言ってくれた。
動物達に注目されながら園内を回る。
触れ合いコーナーや、鳥が飛び回っているドームの中に入ると、俺に集まって来て他のお客さんの迷惑になってしまった。
日向は大興奮だったけれど、服に付いた毛や羽根が凄いことになっていた。
午前中を終えて、昼食を食べに向かう。
そこにはお弁当を広げた家族や、フードコートで購入した物を食べている人達がいた。
ここのフードコートのお店は大きくないので、持ち込みが認められている。それに、動物園から出て食事をしに行くのも可能なようだ。
俺達はフードコートで軽食を注文して、出来上がるのを待つ。
すると、声を掛けられた。
それは先日会った中学の同級生、とその家族。
旦那さんは見たことない人だったので、社会人になってから知り合ったのだろう。
旦那さんが丁寧に挨拶してくれる。
あっ、どうもどうも。
日向がお世話になっております。
えっ、日向のお父さんですかって?
いえ、兄です。父ちゃんは今頃、母ちゃんといちゃついていると思います。
年齢ですか? 俺は29になりますね。
父ちゃん? もう還暦迎えるくらいだったと思います。あれ、もう過ぎてたか?
何故か困惑する旦那さん。
同級生も頭を捻っており、よく分かっていない様子だ。でも、それよりも気になるのか、千里に話し掛けていた。
俺と千里がどういう関係なのかと、いろいろと尋ねている。
恋人です! と言ってくれたら嬉しかったのだけれど、一緒に日向の面倒を見ていると誤魔化していた。
間違ってはいないけれど、うんまあ、同級生は信じていなさそうだった。
千里との久しぶりのお出掛けは、少しだけ賑やかで騒がしい時間になってしまった。




