その後の日常3
【無職は今日も今日とて迷宮に潜る4巻】
8月20日に出版されます!
既刊1巻〜3巻下巻もよろしくお願いします!
活動報告に表紙を載せております。
昨日の夜は、兄ちゃんと姉ちゃんの家族もやって来て、宴会を開いた。
俺が帰って来たのを喜んでくれているようで、何というかくすぐったい気持ちになった。
寿司やピザを注文して、ビールを片手に楽しんだ。
これまでどこにいたのとか、誰も聞いて来なかったのも楽しめた理由だろう。もし聞かれていたら、海外で事業を始めていたとか言って、滑り散らかしていただろうから。
何も聞かずに、ただ一言。
「まっ、元気で良かったよ」
そう兄ちゃんに言われた時は、不覚にも泣きそうになった。
守れて良かったと、心の底から思った。
______
日向は大きくなった。
「オヤジー‼︎」
と呼んでは、高い所からダイブしようとする。
ハラハラして仕方ない。
奈落にいたあの頃は、この年齢から剣を振っていたけれど、この世界では必要無いから平和に生きて欲しい。でも、危険なことをするのなら、ある程度教えておいた方がいいだろうか?
どうしよう、先に魔力の扱い方教えて、空くらい飛べるようにしといた方がいいかな?
父ちゃんどう思う?
「絶対教えるなよ」
……だよな。
ユグドラシルの加護で魔力の暴走は無くなったけれど、その分肉体に止めているので、魔力の器自体が大きくなっている。
直ぐにという訳ではないけれど、日向の魔力量は天使並にまで膨れ上がるだろう。そうなると、マジで人外の領域に入ってしまう。
人として生きて、人生を全うして欲しい。
それが難しいなら、せめて人に留まっていて欲しい。
その為にも、魔力を定期的に排出させたい所だ。
まあ、その方法はおいおい考えよう。
それより問題なのは、自動人形の方である。
水と一緒に空中に浮かんでいる、人魚の自動人形。
こいつが、乾燥ワカメをボリボリと食べつつスマホをいじっている。
どうやら、母ちゃんからマリンと名付けられており、絶賛ニート状態だ。
おい、ちゃんと働けよ。
そんな寝転んでたら、お前作った意味無くなんだろうが!
え、働いてる? あたいの役割は家を守ることだから、立派な自宅警備員になってるって?
いやいや、俺はフウマがこっちに居ない間の警備を頼んだだけで、自宅警備なんて指示してないぞ。
ん? フウマが帰って来たから、やることが自宅警備しかないって?
……確かに。
母ちゃんからフウマの活躍は聞いている。
それだけの働きをするのなら、やることが無くなるのも仕方ない。
そうか、じゃあもう用済みなんだな。
俺はマリンに手を掲げて、収納空間に入れようとする。
自我が芽生えているとはいえ、無生物には違いはない。だから、問題なく収納空間に収めることが出来る。
「待ち待ち⁉︎ 主様待ち⁉︎」
焦ったように訴えて来るニート。
何だよと尋ねると、自分自身をプレゼンして来た。
「あたい美人だよ! いるだけで華になるよ! 自宅警備なんて完璧だよ! これまで侵入しようとした奴ら血祭りに上げてるから! 人外の相手だってお手のものだよ! 今度ファッション雑誌の表紙だって飾るから! フウマパイセンが居ない時なんて活躍するから! マジ任せて欲しいんだけど‼︎」
もう途中から何を言っているのか訳分からん。
人外ってのはモンスターか? ファッション雑誌って何だよ? 意味わかんねーよ。
そう困惑していると、母ちゃんが説明してくれる。
どうやらマリンは、人の姿でモデルとしても活動しているそうだ。雑誌にも取り上げられていて、偶にテレビにも出演しているらしい。
何だろう。
俺が居ない間に、俺以外の奴らが大いに活躍してんだけど。
疎外感が凄くて辛い。
ついでに言うと、日向からも待ったが掛かった。
「マリンちゃんいじめちゃダメ!」
らしかった。
どうやらマリンは、子供の心も掴んでいるらしい。
何をやって日向の心を掴んだのか、参考程度に聞いてみる。
すると、水の階段を作り出し、天井付近から「とうっ!」と水の中にダイブしていた。
日向が空を飛ぼうとする原因を発見した。
どうやら、こいつが犯人のようだ。
待ち待ち⁉︎ と焦るマリンを、容赦なく収納空間に入れようとする。だが、手応えがおかしい。
……あれ? 入らないんだけど。
何度も入れようとするのだけど、一向に入らない。
生物じゃないんだからさっさと入らんかい! と力を込めるが、残念ながら無反応だった。
どういうことだとマリンをトレースすると、あることが判明する。
……こいつやりやがった。
自動人形の中に魂が宿っていた。
自我が芽生えた時は、まだ魂は無かったはずだ。
てっきり、無い物だと思っていたのだけれど、後からでも魂は宿るようだ。
付喪神。
そんな言葉が浮かんでしまった。
収納空間に入れられないと悟ったのか、マリンはニィと勝ち誇ったように笑う。
そして、「え? 無理な感じ? 何だ主様でもこんなもんなんだ〜」と笑いながら煽って来た。
破壊してやろうかと思った。
とはいえ、日向の前でやるわけにもいかないので、後で対処しよう。
父ちゃんが仕事に出掛けると、俺も準備をする。
何の準備かというと、日向を幼稚園に送り届ける準備だ。
いつもは、母ちゃんかフウマが連れて行っているそうだが、今日から俺の仕事になる。
んじゃ行くか。
そう声を掛けると、日向は返事をして靴を履く。
それから手を握って、俺を見上げて満面の笑みを浮かべていた。
一緒に歩いて幼稚園に向かう。
フウマは用事があるらしく、俺達が出ると同時にどこかに飛んで行ってしまった。
二人で歩いていると、同じように幼稚園に向かっている保護者を見かける。
お母さんだけじゃなく、お父さんの姿も多くあり、年齢は俺に近そうだった。
俺ももう、三十手前か……。
自分の年齢に気付いて、ちょっと怖くなる。
この前、二十歳になったばかりだと思ったら、もう三十路だ。
時間の流れが早い。
二十歳をピークに、時間の流れが急激に早く感じるようになると聞いたことあるけど、ここまであっという間とは思わなかった。
日向も直ぐに成人して、恋人とか連れて来るのだろうか?
……まるでその姿が想像出来んな、どうしてだろう?
日向は贔屓目抜きにして、かなり可愛い。
この先、美少女になって多くの男を侍らせることも可能だろう。
それでも、天使だったヒナタの姿を思い出してしまって、そりゃ無いわぁ〜っと否定してしまう。
将来、好きな人が出来て、幸せな家庭を築いて欲しいな。
そう願っていると、幼い声で「ひなたちゃん!」と呼ぶ声が聞こえた。
どうやら日向のお友達のようで、名前を呼んで友達に向かって駆け出した。
あちらの親御さんに頭を下げて挨拶すると、首を傾げながらも挨拶してくれた。
恐らく、俺の顔を初めて見るから戸惑っているのだろう。
と思ったら違った。
「あれ? 田中君だよね?」
そう呼ばれて気付いた。
このお母さん、中学の同級生だ。
あまり話したことはなかったけれど、クラスが三年間同じだったから覚えている。
自己紹介して来る同級生に、覚えてるよと返事をしつつ、本当に同級生がいるのかと遠い目をしてしまう。
同級生に日向のことを聞かれて、妹だと答えると驚かれた。
日向が俺を「オヤジ!」と呼ぶので、今度は混乱していた。
そんな会話をしつつ、幼稚園に到着した。
千里は幼稚園の門に立っていて、園児達をお出迎えている。大勢の子供達は、元気に挨拶をして園に入って行く。
とても可愛らしい光景だ。
その中に、日向とそのお友達も加わって、幼稚園の建物に向かって駆け出した。
転ばないか心配して見ていると、日向は足を止めて振り返る。
「いってきます!」
そんな元気な日向に、手を振って応えた。
日向の姿が見えなくなると、千里に向き直る。
昨日の夜は、電話をして話をした。
今は、恋人もおらずフリーな状態らしい。
俺はきっと焦っていた。
だから、変なことを口走ってしまった。
千里、結婚しないか?
すると千里は、思いっきり顔を顰めて、
「いきなり、何言ってんの?」
そう、呆れた言葉をいただいた。




