その後の日常2
【無職は今日も今日とて迷宮に潜る4巻】
8月20日に出版されます!
既刊1巻〜3巻下巻もよろしくお願いします!
活動報告に表紙を載せております。
日向を迎えに幼稚園に向かう。
母ちゃんが幼稚園に代わりの人を向かわせると連絡しているので、不審者として通報される心配は無い。
これまで何度も通報されて、警察のお世話になっているので、そこら辺は流石に学習している。
日向が通う幼稚園は、俺達も通っていた昔からある所だ。
そこには、兄ちゃんと姉ちゃんの子供も通っていて、ついでにお迎えよろしくと言われてしまった。
帰って早々、人使い荒くないか?
いや、別に嫌じゃないんだけど、三人とも俺の顔なんて覚えてないだろうし、泣かれないだろうかと心配になる。
せめて、誰か一緒に来てくれないだろうかとお願いすると、
「ヒヒン!」
とフウマが主張して来た。
母ちゃんからも、「フウマちゃんがいたら安心ね」と厚い信頼を寄せられており、頼りにされているようだった。
何だかフウマに負けた気がしてしまう。
気を取り直して歩いていると、スキル空間把握の範囲に幼稚園が入る。
そこに居る人達を感じ取ると、つい足を止めてしまった。
……どうして千里がいるんだ?
千里と会うのは、日向の顔を見てからにしようと思っていた。
ダンジョンから戻って直ぐだし、シャワーも浴びてないから準備不足だ。つーか、気持ちの準備が出来ていない。
どうしよう、大人しく帰って母ちゃん連れて来ようかな……。
そんなこと考えていると、風の塊が俺の背中を押す。
後ろを見ると、フウマがさっさと行けと顎で合図する。
おい、いきなり何すんだよ。
ひよんなって?
ひよってねーし‼︎ ちょっとトイレ行きたくなっただけだし‼︎
少し待ってろ! トイレ行って来るから!
何だったら、先に行っててもいいからな!
公園のトイレに入ると、小さい方をしながらどうするか考える。
まさか、ここで千里と再会するのか。
なんて話そうか? そもそも、俺が誰か分かるのか?
千里と会ったのは太っている時だけだし、痩せた時の姿なんて知らないだろう。
というか、どうしてこっちにいるんだろう?
千里の実家から離れているし、こっちで一人暮らしをしているんだろうか?
もしかして、こっちにいい人がいて、一緒に暮らしているんだろうか?
やばい、考えたら不安になって来た。
スマホを取り出して母ちゃんに電話しようとすると、出口の方から蹄の音がする。
何やってんだ。
はよ来いやヘタレ。
そうフウマの目が語っていた。
ちくしょう、こいつ容赦ないな。
俺は諦めて幼稚園に向かう。
ゆっくりと歩いていると、幼稚園から帰っている園児とその保護者とすれ違う。
その時に、決まってフウマに手を振っている。
中には抱き付く子もいて、かなりの人気者になっている様子だ。
フウマは一体何をやったんだろう?
俺がいない間の日向の守護は任せたけれど、どうやったらここまで受け入れられるのだろう。
単純に、見た目だけの可能性はあるけれど、こいつに限ってそれだけじゃない気がする。
間違いなく、何かやらかしている。
何をやったのか追求したいのだけれど、どうにもそれは後にした方が良さそうだ。
フウマは足を止めて、俺を先に行かせる。
可愛らしい声で「オヤジー‼︎」と叫ぶお子様がおり、俺に向かって駆け寄って来る。
もうね、一目見て分かったよ。
だって、あの頃のヒナタにそっくりなんだもん。
頭を撫でると、嬉しそうな顔をする。
抱っこしてみると、思っていたよりも軽くて、ちゃんと食べてるのかと心配になる。
トレースを使って調べてみると、すこぶる健康だったので、単に俺の力が強くなっているだけだった。
よく俺を覚えてたなという疑問は、ヒナタの魂が強くて、記憶を保持している期間が長いだけだった。その記憶も、そのうち薄れて忘れてしまうだろうけれど、覚えてくれたことがとても嬉しかった。
あの日々を忘れてしまうのは少し寂しいけれど、日向が普通に生きるのなら、その方が良いのだろう。
日向から幼稚園の門の方に視線を向ける。
そこには、前よりもお姉さんになった千里が立っていて、何とも言えない表情をしていた。
これは、どういう心境なのだろうか?
やっぱり、痩せたせいで俺だと気付かないのだろうか?
戻る時は痩せるって約束してたが、四年も経てば忘れていてもおかしくはない。
俺は恐る恐る尋ねる。
えっと、久しぶり。……俺のこと分かる?
千里は困った表情を浮かべて頷く。
「うん、それにしても遅かったね」
覚えていてくれた。
それが無性に嬉しくて、誤魔化すように頬を掻いてしまう。
まあ、痩せるのに時間が掛かったからな。
これは本当だ。
もしイルミンスールのあんちくしょうが、高栄養な物を出さなければ、もっと早くに痩せて帰れていたはずだ。
俺も、もっと早くに気付いていればと、後悔せずにはいられなかった。
「私との約束守ってくれたんだ。じゃあ、仕方ないね」
おう、俺は約束を守る男だからな。
そう得意気に言うと、会話が途切れる。
何て言うべきだろうかと考えていると、千里は俺の名前を呼ぶ。
「ハルト君」
千里は微笑みを浮かべて言う。
「おかえり」
その言葉だけで、俺の心は満たされる。
もう、フウマが何をしてたのかなんて、どうでもよくなってしまった。
俺は千里を真っ直ぐに見て、その嬉しい言葉に答える。
おう、今帰った。
そう返すと、千里は吹き出して、「何それ?」と笑っていた。
俺達の再会は、どこか締まらない物になってしまった。
でもそれが、俺達らしいのかもしれない。
_____
再会した時、千里は仕事中というのもあり、あまり会話は出来なかった。連絡先は変わっていないと言っていたので、後でメッセージを送っておこう。
「二人もお願い」
日向に加えて、兄ちゃんと姉ちゃんの子供である、武光と瑠衣を千里から任される。
お子様二人は初めて見る俺を見て怯えていたが、日向が懐いているのとフウマが側にいるのを見て大丈夫だと判断したらしく、警戒を解いていた。
帰っている最中も、フウマは頻繁に声を掛けられる。
それは幼稚園関係無く、いろんな人達にだ。
老若男女関係無く、等しく慕われているようだった。
本当にフウマは何をやったんだろう?
家に帰ったら聞いてみるか。
「オヤジ、あのね、うんとね、ひなたそら飛んだよ」
おおそうか、危ないことすんなよ。
もう翼は無いんだし、ちゃんと魔法使えるようになるまでは我慢しような。
日向には魔力はあるけれど、魔法を使う技術は無い。
もし空を飛ぶのなら、フウマ辺りが何かしたんだろう。
チラッとお子様二人を背中に乗せたフウマを見ると、プイッと顔を背けた。
思った通り、犯人はこいつのようだ。
まあ、日向が無事なところを見るに、ちゃんと守っているんだろう。それなら、俺から言うことはない。
実家に帰ると、早速フウマについて尋ねてみた。
「フウマちゃん? この地域の守り神みたいになってるのよ。知らなかったの?」
知るか、今日帰って来たばっかりっちゅうとろうもん。
そう抗議すると、俺がいない間、フウマが何をしていたのか教えてくれた。
ある日突然ダンジョンが消えて、世界は混乱したらしい。
唯一残ったのは日本にある二カ所のみで、探索者をやっていた奴らが世界中から集まって来たそうな。
良識ある奴らなら大歓迎なのだけど、残念ながらそうではない。ダンジョンに潜っているだけあり、倫理観ぶっ飛んでいる奴らが大勢入って来た。
警察や探索者監察署が対策に乗り出すが、数が多くて対処しきれなかった。
そこで、フウマが出て来る。
あくまでもこの地域中心でだが、日本中を飛び回り、悪事を働いている奴等を捕まえまくったらしい。
そんなことすれば、当然目立って有名になる。
フウマはチヤホヤされて気持ち良くなり、更に仕事をこなしたという。
おかげで、日本でのフウマの認知度は跳ね上がり、誰もが知る存在になったそうな。一昨年前なんて、フウマに関連したグッズまで販売されたという。
「ヒヒン!」
どや、凄いやろう!
そう得意げに言うフウマが、何だか憎たらしくなった。
まあ、悪人はある程度捕まえて粛清したらしく、ここ最近はフウマの出番は無くなっている。
それに、ギルドが意図的にフウマの存在を扱わないように操作しているそうで、段々と人々の記憶から忘れ去られているという。
「一時期凄かったのよ。フウマちゃんを売ってくれって、いろんな所から連絡来るんだから……」
そこまで行くと、逆に怖くなるな。
治安が悪くなった世界で、フウマっていう戦力はそりゃ魅力的に映るだろう。
一頭で国どころか、世界を滅ぼせる力があるんだ。
存在するだけで、抑止力として機能する。
まったく、恐ろしい馬になったもんだ。
だからこそ、ギルドもフウマの存在を忘れるように動いているんだろうな。




