その後の日常1
【無職は今日も今日とて迷宮に潜る4巻】
8月20日に出版されます!
既刊1巻〜3巻下巻もよろしくお願いします!
活動報告に表紙を載せております。
ダイエットに成功した俺は、ダンジョンから地上に帰還する。
地上に出て感じるのは、やはりというかとても窮屈に感じてしまう。
建築物で視界が埋め尽くされおり、空が狭く感じてしまう。何より、何もかもが小さく見えてしまうのだ。
それもこれも、長いこと奈落にいたせいだろう。
あそこは余りにも広すぎた。
イルミンスールでも、全域を把握するのに手間取っているくらいの広さだから、それも仕方ないのだろう。
とはいえ、俺はこの窮屈さは嫌いじゃない。
懐かしいと安心感を俺に与えてくれる世界は、ここしかないのだから。
さて、実家に帰るか。
一歩踏み出すと、ある人物が目の前に現れた。
よう久しぶり。
そう軽く挨拶をすると、現れた高齢の女性は眉を顰めた。
「……あんた、誰だい?」
目の前に現れた人物、ギルドの会長は俺を不審人物のような目で見た。
いや、いやいやいやいや⁉︎
俺じゃん⁉︎ ババア俺の顔忘れたの⁉︎
もう何年も経ってるから忘れられても仕方ないのか?
いやでも、ボケ始めてるだけか?
「誰がボケてるって? こちとらまだまだ現役だよ」
試してみるかい? そう呟きながら、おばちゃんは何も無い空間から日本刀を取り出した。
恐ろしい。
平和な日本だと思っていたのに、目の前には高齢の女性が凶器を手にしている。
俺が奈落にいた間に、この世界はここまで物騒になったのか。
なんてボケていると、目の前のおばちゃんが消える。
空間魔法を使った奇襲攻撃。
お辞儀をして背後からの横薙ぎを避けると、真横からの鋭い突きをピッと指で止める。
ちょっとは驚いているかなと、おばちゃん顔を見るけれど、こうなるのを予想していたのか、特に変わった様子は無かった。
「……あんた、本当にあの太っちょかい?」
太ってねーよ! 俺の心は今も昔もスマートなままだよ‼︎
なんて言いたかったけれど、昔太っていたのは否定出来ないので、そうだよとぶっきらぼうに答える。
んで、何の用だよ?
えっ何もない? ダンジョンからやべー奴が出て来たから、魔人かと思ったって?
おいおいよく見ろよ、こんなイケメンがあんなゲテモノ野郎共と一緒なわけないだろう。
ったく、しっかりしてくれよ、頼むぜ……え? 鏡見ろって?
あっ、ああ何でも無いのね、ただの聞き間違いか。
ブサイクなんて言われた日にゃ、暴れ回ってギルド破壊してたぜ。
俺がそう言うと、おばちゃんは日本刀を収納空間に入れながら、「物騒なこと言うんじゃないよ」と呆れた。
とりあえず、おばちゃんとの再会も終えたので、じゃあなと去ろうとすると、またしても呼び止められる。
なに?
天使の目撃情報があるんだが、何か知らないかだって?
悪いけど、ユグドラシルとは連絡取ってないんだよ。
天使関係ならミンスール教会だっけ? あそこに聞いてみろよ、大道も所属してたろ。
聞いたけど何も知らないって?
今から行って聞いて来てくれないかって?
おまっ⁉︎ ここに戻って来るまでに、どんだけ時間かかると思ってんの⁉︎
往復一ヶ月は掛かるからね!
絶対行かないからね! どうしてもって言うなら、そん時はまた言って! イルミンスール経由で聞いてやっから!
そう寛大な心で告げると、
「聞けるんなら、今すぐ聞いてくれないかい」
ごもっともなことを言われた。
俺の肉体は、イルミンスールの一部を使い再生された物だ。人である前に、あっち寄りの物になっている。おかげで肉体は頑丈で、大気圏からの自由落下による衝撃くらいなら耐えられるようになっている。
っとまあ、それはいいのだけれど、一部というのもあり念じればイルミンスールと繋がることが出来る。
早速聞いてみると、直ぐに返答が来た。
地上に天使は送ってないんだってさ。
そう、おばちゃんに伝えた。
「そうかい。何かあったら頼むと思うから、その時はよろしくね」
それだけ言って、おばちゃんは姿を消した。
どうやらギルドのビルに戻ったようだ。
何だったんだよ一体……。
そう思いながら、俺も風属性魔法を使い空を飛ぶ。
_____
四年ぶりに実家に帰ると、家は相変わらず場違いな外観をしていた。
普通の住宅街の中に、都ユグドラシルにあるような近未来的なデザインの建物。
実家に近付くと、尾が複数ある子狐が飛び出して来た。
何かして来そうな気配があったが、俺を見ると全速力で逃げて行った。
ちょっと傷付いた。
気を取り直して実家のチャイムを鳴らす。
すると、直ぐに母ちゃんが応対してくれた。
俺だよ母ちゃんと呼び掛けると、感極まったのか「どなた?」とすっとんきょうな返答が来た。
俺だよ俺! あんたの息子のハルトだよ! そう強く訴えるが、「ハルトはもっと太ってたはず、嘘ならもっとまともな嘘をつきなさいよ」と取り合ってくれない。
いやいや何言ってんの⁉︎
俺が太ってたのって、せいぜい一二年だろうが!
なんで太ってんのがデフォルトみたいになってんだよ⁉︎
信じられん。まさか、短期間の体型を当たり前のように受け入れられて、痩せたら他人に見られるなんて、こいつは本当に俺の親か⁉︎
そう慄いていると、ガチャリと玄関の扉が開かれた。
扉の先に立っていたのは、小さな芦毛の馬。
俺の召喚獣であるフウマだった。
「ブル……」
何やってんねんと呆れているが、元はというと母ちゃんが悪いので、俺に責任はない。
よう、久しぶり。
「ブル」
召喚獣なだけあり、フウマは俺の存在を感じ取れる。
それは俺も同じで、会えなくても懐かしいという気持ちにはならない。それでも、こうして挨拶をすると、やっと戻って来れたのだと安心する。
家に上がると、母ちゃんが驚いた顔をして、「フウマちゃん不審者⁉︎」と訴えて警察に連絡しようとしている。
誰が不審者だこの野郎‼︎
この顔をよく見てみろ‼︎
あんたの息子だろうがい‼︎
そう訴えると、母ちゃんは俺の顔をジッと見て、ようやく理解してくれた。
「ちゃんと帰って来たのね。心配はしてなかったけど、長かったわね」
心配してなかったんかいと、身内ながら冷たい反応にびっくりする。
ハルトが強いの知ってるから、心配しろって方が無理?
いや、そうかもしれないけどさ。
こう、無事で良かった〜、みたいな親としての感想はないの?
無い、子育てで忙しくてそれどころじゃなかった?
……うん、まあそれもそうだな。
んで、日向はどこにいんの?
そう尋ねると、幼稚園に行っているという返答をいただいた。
そうか、もう五歳になるんだもんな。幼稚園に通っていてもおかしくはないか……。
時間の流れの残酷さを痛感する。
俺は、日向の成長を見守れなかった。
まあ、それは覚悟してたからいいのだけれど、どんな子に育ったのか気になる。
それに、どういう風に育てられたのかも気になる。
育児初心者だった俺じゃ、ヤンチャな奴にしか育てられなかったけれど、三人を育て上げたベテランな母ちゃんと父ちゃんなら、きっと優しい子に育っているだろう。
え? もう直ぐお迎えのお時間?
俺が行ってもいいのか?
母ちゃんに促されて、日向の迎えに行くことになった。
18時にも投稿します。




