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図書室と先輩~ネオ!~  作者: にま
彼の疾走、彼女の追走
95/102

その15 彼は使い魔です。

「三人とも、ちょっと来なさい」


 五時限目終了後、いつもの苦虫かみつぶしたような顔に戻り教室を出ようとした浦和先生が、ふいに足を止めオレ達を呼び寄せた。

 げっ、やっぱい怒られるのか? 


「そんな顔をするな。別に説教するとかそんなつもりではない。ただな、さっき言った……、ほら、ラノベ風タイトル。あれを改題させてもらおうと思ってな」


「はぁ?」


真面目くさった顔で言い出したのがこれでは、こちらも反応に困ってしまう。


「いや、国語教師たる者、生徒の発言に便乗してタイトルを付けるなどあるまじき行為だと反省してな」


「それ気にするところっすか?」


「私にとっては大事なことだ」


 うわぁ、面倒くせぇ。こんな人だったとは思わなかったぞ。


「先生? あれはあれで面白かったですよ」

「ワタシもそう思いますー。だって笑っちゃいましたもん」


 映子と泉美はあのタイトルが気に入っているようだ。いやいや、あれを面白いとか勘弁して。


「そうか、ありがとう。しかしな……。そうだ、君達、夏目漱石の「吾輩は猫である」は知っているだろう?」


「なんすか、いきなり?」


 なぜに漱石? この脈絡の無さ、誰かさんを思い出す。それに、なんだか雰囲気が似てなくもない。


「漱石は、最初「猫伝」にするか「吾輩は猫である」にするか迷っていたらしい。で、交流のあった高浜虚子の進言もあって後者にした。大ヒットしたのはそのタイトルの面白さにも大きな要因があるといっていいだろう。つまり、タイトルがいかに重要かということだ」

 

「いや、別にオレ、そんな大ヒット狙ってないっす」

 

 平々凡々な高校生活でいいすよ。


「そこでだ、思い切ってタイトルを変えてみた」


 あ、これはダメだ。こっちの話なんか聞いちゃいない。


「はぁ、じゃあとりあえず聞かせてください」


「ワタシも聞きたいです」

「私も私もー」


 映子も泉美も興味津々。この先生とこういう絡みなど初めてだから、二人も興奮しているようだ。

 ちょっと近づきがたい雰囲気をまとっているから、多くの生徒が話しかけるのを躊躇しているが、今日はどうしたことか随分と表情が柔らかい。いつもこうなら生徒の人気もあがるのにな。 

 と、そこで先生が……、何だっけ、こういうの? 含みのある笑顔って言うのか? もうニヤリという表現では追いつかないほどの顔で、そのタイトルを披露した。


「魔女の使い魔だったボクが、天使二人に告白されて付き合うことになりました」


 は?

 ……。

 ……。

 はぁぁっ? 魔女って……。


「なっ、先生、高橋先輩のこと知ってるんすか?」

 

 だが先生は質問に答えることなく、


「おっと、次の授業が準備があるからここまでだ。また後でな」


と満足そうに再度ニヤリ。

 ぐはっ! この顔、オレを揶揄う時の先輩の顔にそっくりじゃねえか。

 そしてそのまま、オレ達に背を向けて行ってしまった。

 ……。

 唖然、呆然。

 どこが堅物教師だ。ありゃ絶対先輩と同じ人種だ。年季が入っている分、先輩より性質が悪いかも。

 どう考えても高橋先輩のことを知っているっぽいな。現文の教師だし、司書の関口先生と繋がりがあるのか? 何者だ、あの先生、まさか上位悪魔か? 

 あーダメだ。考えがまとまんねえ!

 ……。

 それにしても。 


「使い魔は酷いよな。そう思わね?」


 気を取り直すべくそう言いながら振り向くと、二人は同意してくれるどころか


「えっ、どこが? どう考えてもそのものじゃない」

「さすが先生だねー。よく分かっていると思うよー」


と完全に先生の味方。えっ、オレって先輩の使い魔だったの?

 うーん、納得し難いものがあるんだが? しかし二人は知らん顔。


「今のって、たぶんワタシ達のこと認めてくれたってことだよね」

「担任のお墨付きだねー。やったねー」


 そうやって嬉々とした表情でアレコレと話している。が、ふっと会話が途切れた瞬間、向き合いながら俯いてしまった。


「ん、どしたん?」


 そうオレが声を掛けると、ゆっくりと顔を上げる二人。驚いたのは、その目から一筋二筋と涙がこぼれ始めたこと。

 はっ? 

 えっ?

 何だ、いきなりどうした? 


「ううん、ごめんね。何だか今頃込み上げて来ちゃってね」

「私もー。感極まったって言うのかなー」


 あ……。

 この二人、ちょっと変わったところがあるけど、あんなことをするタイプじゃない。それなのにクラスを巻き込んで告白劇まで演じて、ようやくその緊張の糸が切れたというところか。

 いや演じさせてしまったというのが正解か? オレの中途半端さがあのような行動に二人を走らせたのだろう。

 そんなことを考えると、申し訳なさがこみあげてくると同時に、目の前の二人のことがどうしようもなく愛おしくなってきて、オレはどう返せばいいのかわからなくなる。

 だが二人はすぐに涙を拭って、オレに向かって深々と頭をさげたのだった。


「不束者ですがよろしくお願いします」

「愛し、敬い、慈しむことを誓います」


 あーもう! だから二人ともそれ反則だって! オレはさぞかしマヌケな顔をしているだろう。


「あ、うん。これからもよろしく」


 ようやく出てきた言葉に自己嫌悪。もっと気の利いたこと言えんのかオレ! 

 だがそこで二人は……あれ? これはニッコリと言うよりニヤリ。

 ゾクッ!

 ちょっとちょっと、なんであなた達まで先輩そっくりになってんのぉ!


「「じゃあ……」」


 お、おい、そのセリフはやめて。何となく次が想像出来るぞ。先生にも言われたろ。指導室送りになるって。お願いだからやめてくれー!

 うわぁ、抱きついてくるなあ! 顔を近づけてくるなー! 唇突き出すなー!


「「誓いのキスを!」」


 

 

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