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図書室と先輩~ネオ!~  作者: にま
彼の疾走、彼女の追走
94/102

その14 彼女はほどきます。

 おかしくないよねっ!!




 今、教室は時間がまだ早いながら、かくあるべしの静寂を取り戻している。ただ、授業中であれば教科書やノートをめくる音、ノートにシャーペンを走らせる音は付き物なのだけれど、それも一切無い。

 クラス担任で現文教師である浦和先生の威圧感が、生徒に身動き一つも許さないからだ。

 先生がこんなに早く来るなんて想定外だった。いつもならチャイムが鳴り終わっても、なかなか来なかったりするのに、今日に限ってこれだもの、まったくなぁ。

  

「静かに自習をしろとは言わないが、隣のクラスにまで響く様な大騒ぎをされては、担任として注意せざるを得ん。分かるな?」


「うぃーっす」

「はーい」


 あーやっぱり外にまで聞こえていたんだ。何しろクラスのみんながハイテンションだったものね。

 そうこうしていると、学食組、アウトドア組が戻ってきた。一様に何事? みたいな顔で落ち着きなく席に戻る様子にちょっと罪悪感。

 チャイムが鳴り終わるギリギリで最後の生徒が着席した時、浦和先生が口を開いた。

 

「全員そろったな。いなかった者には関係ないが、クラスの出来事だ、まあ我慢してくれ。で、とりあえずだ……、常盤さん、この騒ぎはいったいどういうことか説明してもらえるかな?」


 この先生は生徒のことを決して呼び捨てにはしない。不必要な高圧さも、無用な馴れ馴れしさもないところが、生徒からの人気が高い理由の一つ。かく言うワタシも、この先生のことが苦手ながら嫌いではない。

 そして、その先生がまず何か詰問するのであれば、さっき目が合ってしまったワタシであろうと踏んでいたのだけれど、予想は見事に外れクラス委員の常盤さんに白羽の矢が立った。

 あれ、どうして常盤さん?

 常盤さんは、その真面目さからか同じ中学の子からクラス委員に推薦され、それを嫌がることもなく引き受けたという強者だ。 


「先生、なぜ私に聞くのですか? クラス委員として騒ぎの責任を取れと?」


 うわぁ、不機嫌そう。


「これは聞き方が悪かったな、申し訳ない。常盤さんならこの騒ぎを客観的に見ていただろうと思っただけだ」


 苦笑いをしながら、それでも常盤さんの性格を知っていると見え、生徒の生意気さを窘めるようなことはしない。それはいいんだけれど……。


「そうだな、責任という言葉が出たが、どうだろう、この騒ぎの責任は誰が負うべきだと考えるかな?」


 ダ、ダメ、ツボっちゃった。苦しい。

 あんぐりと口を開いたさっきのあの顔と、今の真面目くさったしかめっ面のギャップが……。顔を上げて先生の顔を見たら絶対に吹き出すわ。ここは波がおさまるまで下を向いていよう。耐えるのよ、ワタシ!


「客観視していたつもりはありません。それに……、その質問に答えることは私にとってデメリットが大き過ぎます。先生は私がクラスのみんなから嫌われても構わないと仰るのですか?」


 おおー、と主に男子達から声が上がる。先生に対してここまではっきりとものが言えるのは、このクラスでは他にいないだろう。

 ヤバイわ、常盤さんカッコいい。ワタシが男だったら惚れているかも。 

 でもどうしたんだろう? あまり好かれていないっぽいし、すぐワタシの名前を挙げるかと思ったのだけれど……。告げ口みたいになるのが嫌なのかな。正義感強そうだしなぁ。


「ああ、そんな深刻に考えなくていい。その生徒を叱るつもりではないんだ。罰を与えるつもりもない。もちろん他のみんなもだ。だから安心してほしい。()()の経緯を知りたいと思っただけだ」

 

 ことの経緯って……。

 あれ、視線? チラリと常盤さんを見ると……、あっちゃぁ睨まれている。 

 どうしよう? ワタシが首謀者なのは本当だし、これ以上常盤さんに迷惑かけるのも何だし、この際名乗り出ちゃおうかしら。


「騒ぎを引き起こした張本人ということであれば、その名前を挙げることが出来ます。それでいいですか?」

 

 あ、常盤さん、ちょっと待って。スーハースーハー。よし、落ち着いた。先生の顔を見てももう大丈夫。


「ほう、張本人か。で、それが誰だと言うのかな?」


 ここは下手に口を挟まないほうがいいかな。うん、ズバッと言って。


「それは……」


 こんなことに巻き込んでごめんね。ワタシ達は真剣だったけれど、常盤さんにはおふざけにしか見えなかったわよね。後で謝らせて。

 叱らないし罰もないとは言っているけれど、それはそれ。張本人としては責任をとらないとね。よし、覚悟は出来た。

 でも、あれ? ワタシを睨んでいるかと思ったのだけれど、なんだか視線が素通りしている? 

 そして常盤さんが「その名」を口にした。


「寺山君です。彼が元凶と言っていいと思います」


 えっ?

 ……。

 ……。

 ……。

 えぇぇっ!


「青春こじらせ残念野郎の寺山君を立ち直らせるべく、大原さん、新開さんが手を尽くした結果がこの騒ぎです。クラスのみんなはその手助けをしただけですが、ちょっと想像以上に盛り上が……、騒がしくなってしまいました。それについては反省しています」


 ちょ、ちょっと常盤さん。一体どうして……。 

 あ、そうか、ワタシが睨まれているかと思っていたけれど、見てたのは芳樹君だったんだ。えっ、でも何で?


「なるほどなるほど。よし分かった。ありがとう、常盤さん」


 完全に想定外。でも先生はいきなり納得しているし。

 常盤さんが今度ははっきり芳樹君に向かって……、うわっアッカンベー?

 何これ? しかもワタシの芳樹君を言うに事欠いて、こじらせとか残念とか……、うん、的確過ぎて何も言えない。


「さて寺山君の名前が挙がったが、これに異議のある者はいるかな?」


 いえ先生、首謀者はワタシですってば。それには異議が……、あーでもなんだかんだでこうなったのって、いつまでも先輩のことを引きずっている芳樹君を見かねたからで……。張本人と言えば言えるのかな? って、ワタシってば何考えているの!


「「異議なーし!」」


 田島君に中尾さん、何でそんなに息が合っているのかな?

 さすがに黙っていないだろうと思ったら案の定、芳樹君が不満顔を二人に向けた時、周囲から上がる「異議なし!」の声。何そのチームワーク?


「寺山が原因なのは事実だ。なぁ、みんな」


 今度は別所君。何だかノリノリな感じ。

 そこでみんなはうんうんと同意を示すし、芳樹君の有罪が確定しそう。 

 

「寺山君、前に出てきてくれるかな」

 

 ええー!

 さすがにそれはまずいわ、芳樹君は何も知らないのに。冤罪事案発生にワタシはちょっとパニック。


「安心しろ。さっきも言ったが騒いだことを責めるつもりはない。ただ、みんなの言う通り、君がこの騒ぎの原因であれば、君にはまだ役目が残っているように思うんだ」


 えっ? 役目? どういうことだろう?


「先生、授業はいいんですか?」


 いつも寝ているくせに、どの口が言うかな? とは言うものの、教壇に立たされた芳樹君をどうにか救う手立てはないものか? 先生がどうするかを見てみたいというのもあるし、あー悩むぅ。


「心配するな、これも授業のうちだ。さて「起承転結」という言葉は知っているな」


「はぁまぁ」


 起承転結? 先生ってば何が言いたいの? 授業のうちって?

 顔を盗み見ても、表情からは読み取れない。まぁワタシはそういうの得意じゃないし。でも心なしか楽しそうに見えるのは気のせいかしら?


「さっき私が見たのは、おそらく「転」に相当するシーンだろう。つまり物語としてはまだ終わっていない。そして「結」の部分を担っているのは、寺山君、君のはずだ」


 あっ。先生、もしかして……。

 

「先生、ちょっと待ってください。訳分からないっす。役目とか担うとか、何言ってるんすか?」


 けれど、先生は聞く耳持たず、私達を見回している。


「今時こういう発言は宜しくはないのだろうが、私は男は男らしくあれと思っている古臭い人間でな」


 先生、それって全然古臭くないです。男子には男子らしくしてほしいです。ワタシだって、もっと女らしくなりたいって思いますもん。意味なく「らしさ」を排斥するほうがおかしいんですよ。

 そうだ、先輩も似たようなこと言っていたっけ。「らしさ」を尊重することは男女平等に反することではないって。


「大原さん、新開さん、立ちなさい」


 ワタシと泉美は素直に立ち上がる。うん、これはなんとなくそんな気がしていた。

 よくよく考えれば、まずはワタシが呼ばれるはずだったんだし……。本当だったら「説明責任」があるのは、やっぱりワタシ達なのよね。


「君達の思惑から外れてしまったかと思う。それについては申し訳ない。ただ私としては、どうもこのままでは座りが悪くてな。勝手な言い草だが、どうだ、このまま続けさせてもらっても構わないだろうか? もちろん君達の意思を尊重する。嫌なら嫌と言ってくれて構わない。その場合はこの話はここで終わりにする。……どうかな?」


 思いもしていなかった申し出に、ちょっと戸惑う。

 でも何だろう、ここは先生に任せたほうがいいような気がしてきた。顔も怒っているような感じじゃなくて、優しい感じ。

 

「先生が担任で、ホント良かったーってつくづく思いますー。感謝しまーす」


 泉美も同じようなものを感じたのか、変わらぬ口調で意に従うことを示した。


「ワタシも同じです。先生に一任します。ありがとうございます。よろしくお願いします」


 たしかに、このままではグダグダだし、これで終わりにしてしまってはモヤモヤが残ってしまう。

 先生には何か考えがあるのかも知れない。そして、それはワタシ達の思惑とは違うかもしれないけれど、きっと良い方向に持って行ってくれる。そんな気がする、根拠はないけれど。


「という訳だ、寺山君。二人の同意は得た。後は君の番だ」


「えっと、オレの番とか言われても困るっす」


「大原さんと新開さんは勇気を出して寺山君に告白した。だが、すぐに返事を貰おうとは思っていない。二人とも、これに間違いはないかな?」


「「ありません」」


 うーん、告白云々を先生から言われると、やっぱりちょっと恥ずかしい。


「男女交際に口を挟むつもりはない。どちらと付き合おうとそれは君の自由だ。ただ、女の子から告白されたというのに、ダンマリでは男らしくないと私は思う。告白に対する返事は猶予を貰っているとは言え、君にだって思うところはあるだろう。二人の勇気に相応する気持ち、それを伝えるのは義務のようなものだ。これは私だけではなく、ここにいるみんなも同じ思いのはずだ。どうだ、田島君、中尾さん?」

 

 「「異議なーし!」」


 二人ともフォローありがとう。

 そう、それなのよ! ぜひ知りたい。芳樹君がどう思っているか、どう感じているのか。ワタシ達もバカだから、いつもそれをスルーしていた。ちょっと怖かったっていうのもあったから。

 

「先生、これのどこが授業に関係あるんすか? オレにはサッパリなんすが」


「登場人物の心情を百字以内にまとめなさい、みたいな記述問題があるだろう? それと同じだ。ほら、立派な国語の授業だろう」


 これ、たぶん芳樹君にとっては苦手問題……だよね。 

 

「このまま有耶無耶にするつもりか? それはそれで構わないが、二学期は赤点になるぞ。テストだけが評価基準じゃないからな」


 うわっ、そこまでする? それはさすがにかわいそうな気がします。

 

「そうだな、常盤さんの言葉を借りて「青春こじらせ残念野郎が、同級生二人に告白された件」とか近年のラノベ風タイトルはどうだ?」


 ちょっと意外。先生の口からラノベなんて単語が出るとは思ってもみなかった。


「不満そうだな。言い得て妙だと感心したのだがな」


「どこのどいつがそれで喜ぶんすか?」


「さて、冗談はこれくらいにして」


 先生って意外に軽い? あまり冗談も言わない堅物教師って印象で近づきがたかったんだけれど、何だろう、これが本当の先生?

 とその時だ。先生がそっと目配せをする。

(君達の出番だよ)

 うわぁ、何々、以心伝心? 自分でも驚くほどにその意味が伝わってきた。

 先生ってば何者? そのことがつい頭を掠めたけれど、今は追求している場合じゃないわね。

 うん、たしかにこのままじゃ話は進まない。なんだかんだで芳樹君、意固地で恥ずかしがり屋さんだし。

 となると、ここはもう一押し必要かな。

 そしてワタシは手を上げ、出来得る限りの優しい声で話し掛ける。


「いいかな? さっきも言った通り、付き合う付き合わないの返事はまだいいの。でも、今の気持ちを教えてくれたら嬉しい」


 迷惑とか言われたら落ち込んじゃうけれど。


「私を選んでくれるのは疑っていないけどー、芳樹君は今どういう気持ちなのかなー。それを教えてー」


 こらこら、選ばれるのはワタシよ。

 まぁ、でも今は……。そう、まずは芳樹君の素直な気持ちが知りたい。

 正直、今までの関係でもいいと思っていた。恋の駆け引きと称した誤魔化し合い。中途半端ではあるけれど、妙な心地良さに安心していた。浮かれ気味になりながら過ごす毎日も楽しいと言えば言えた。

 ただ、その中で一つ、ワタシは目を逸らしていたものがあった。

 そう、芳樹君の本当の気持ち。

 間に合った、近づけた、追い付いたと思っても、こっちを見てはくれなかった。見ているのはいつも……。

 と、その時、芳樹君が困り顔でワタシと泉美にを代わる代わる視線を寄越した。

 嫌われているとは思っていない。泉美にしたって同じだろう。ただ、友達の域を出ていない。 

 理由は簡単。先輩がいるから。芳樹君が見ているのは、いつも先輩だった。

 カレシがいるって分かった後もそれは変わっていない。たぶん自分でもはっきりとは気付いていないのだろう。気付いていたとしても、それを素直に認めたくないのだろう。

 本当、世話の焼ける……。でもそれがかわいいのだから始末に悪い。 

 と、芳樹君の雰囲気が変わった。一瞬力が抜けたようになったけれど、すぐに表情が引き締まった。


「先生、いいっすか? 百字では収まらないかも知れないっす」


 あっ……。

 決して能弁とは言えない芳樹君が意を決したようにクラス全員に向き直った。


「えーと、なんつーか脳が爆発しそうな展開でうまく言えるか分からないけど。オレ、二人のことが嫌いとかじゃ全然なくて、むしろ大好きで。告白してくれたことは素直に嬉しく思っているんだ。でも今はそういうことを考える余裕がないと言うか、正直困っているっていうのが本音というか……。だってオレだよ? あり得なくね? おかしいだろ?」


 何をどう話せばいいか、おそらく芳樹君自身まとまっていないのだろう。もどかしく思っているのが伝わってくる。

 ただ、その時ワタシは分かった。たぶん泉美も気付いただろう。

 先輩のことを切り出そうとしている。でもワタシ達を気遣ってか、うまい言葉が見つからず、こんがらがっている、そんな感じ。 

 なら……、それを解いてあげるのがワタシ達の役目。

 芳樹君、あなたの気持ちはもう分かっているの、だから大丈夫。

 泉美に目をやると、思いは同じようだった。どちらからともなく頷き合って、ワタシ達は芳樹君の言葉を否定する。


「「全然おかしくない!」」


 先輩を好きなこと、そんなことは百も承知。そのうえで好きになっているのだから、もうあれこれ考えないで。


「自分を卑下しないで。それはワタシ達を貶めることにもなるのよ」

「芳樹君はモテるんだからー。もっと自信を持っていいよー」


 ワタシ達がそう言うと、顔をクシャッとさせて今にも泣き出しそうなる。酷なことを強いた罪悪感とともに、いとおしさが沸き上がってくる。駆け寄って抱きしめてしまいたい。

 ああ、何だろう、この気持ち。


「先生、思っていた以上の言葉が聞けました。もう十分です。ここまでということでよろしいでしょうか? 後は三人で話し合います」

「センセー。これ以上は芳樹君が泣いちゃいますんで、勘弁してあげてくださーい。お願いしまーす」


 ここでいきなり先輩のことを言い出したら……。

 ワタシ達はいいけれど、納得しない子が絶対出るよね。残念野郎が最低野郎になってしまいそう。 みんな、ある意味血の気が多いし、誤解が誤解を生んで最悪な展開になりそう。これはちょっと避けたいかな。

 先輩のことばかりを考えている芳樹君。それでも、ワタシ達のことを大好きと言ってくれた。嬉しいとも。

 本当、それだけでもう十分。

 

「いいのか二人とも。寺山君はまだ何か言おうとしていたみたいだが?」


「先生。芳……、寺山君は繊細で傷付き易いんです。あまり追い詰めるようなことしないでください。泉美の言う通り泣いちゃいますよ。いいんですか、男子生徒を泣かせた意地悪教師って噂流されても?」


 ワタシも性格が悪い。逃げ口上に先生を使うなんてね。

 でも、先生はそれすらも分かっているようで、愉快そうな顔でワタシの強引な幕引きを認めてくれた。


「おやおや、そう来るか。うーん、飛び入りの身としては出番を与えられたことに感謝すべきというところか。よし分かった。ここまでとしよう」


「ありがとうございまーす。やっぱり先生は最高ですー」


 そう持ち上げることで、泉美も最大級の感謝を示す。


「こらこら。大原さん、あまり調子に乗らないように。君達のことは先生達の間でも少し問題になっているんだ。これ以上は私もかばいきれないからな」


 この言葉にはビックリ。泉美ともかくワタシは何もしていませんよ。


「先生、問題ってどういうことですか?」

「えー、私達何も悪いことしてないですよー」


「球技大会のことを忘れたのか? それでなくても、廊下で抱き合っていたとか、あまり芳しくない話が耳に届いているんだ。今度何かあったら確実に指導室送りなんだぞ」


 あっ……。

 そっかぁ、球技大会の時は、テンション上がり過ぎていたからなぁ。あっ、でもワタシが言ったのはキスだよね。おっぱいの泉美より罪は軽いと思うけどなぁ。

 この間の廊下の件は……、うん、今思い出すと恥ずかしい。 

 ちょっとみんな、そこでクスクス笑わないでよ。

 思い返せば、たしかにちょっとヤバイ。ここは素直を非を認めましょ。


「「はーい、以後気を付けまーす」」

 

 7:3か6:4で泉美のほうが重罪な気もするけれどね。


「うーん、時間が思った以上に過ぎてしまったな。この際だ、他に何か言いたいことがある者はいるか。今日は君達に時間をやろう。好きにしていいぞ」


 あ、いきなり授業放棄? こんな人だったんだ先生って。

 でも好きにしていいとか言われても、ねぇ……。


「新開さん、君の気持ちは分かったよ。でも別に俺達がアプローチしちゃいけないって訳じゃないだろ」


 な、田島君! えっ、えっ、どういうこと?


「あら、ダメよ。新開さんを狙っているのは私もなんだから。田島君は引っ込んでいて」


 中尾さんてば! いきなりどうしたの? ワタシ、そっちの気はないからね。

 

「大原さんと似合うのは俺の方だと思う。だから諦めないぞ」


 今度は別所君が泉美にアプローチ。あれ、別所君ってカノジョいたよね。

 みんな、いったいどうしたの?


「ふむ、なかなか収まりそうにないな。寺山君、どうやらみんなはあまり納得していないみたいだぞ。どうする?」


 先生、ここで芳樹君にふっても……。

 ある程度打ち合わせ済だったワタシ達でさえこの展開には戸惑っているのに、パニック状態的な芳樹君にこの場を収めるなんてできるとは思えない。

 それにしても、田島君たち、何を狙っているのかしら? 

 と、少し俯き加減だった芳樹君がプルプル震えだした。

 あ、これ、キレる前兆? 怒っちゃった? うわっ、まずいわ、ヤバイわ。

 お願い芳樹君、耐えてぇ。

 だがしかし、ワタシの祈りは届くことなく、ついに芳樹君が爆発してしまった。予想外の方向に。


「あーもう! 二人には誰も手を出すな! 田島に別所、それに中尾ぉ。分かったな。他のみんなもだ。泉美、映子ぉ、お前たちはオレの嫁! いいな!」


 えっ? オレの嫁? 嫁……、嫁……、嫁……。

 その言葉だけにエコーがかかる。

 あ、芳樹君、自分で言ってビックリしている。

 でも頭の中ではエコーが続いていて、ワタシはフワッと体が浮きそうな感覚になる。シチュエーションがどうあれ、初めてワタシ達を受け入れてくれた。あ、泣きそう。

 となれば、ここで返す言葉はたった一つでしょ。


「「はい!」」


 泉美も本当に嬉しそう。何よ、その笑顔は。あんた、ただでさえかわいいのに、そんな顔するなんて反則もいいところでしょ。

 ふっ、何だろうね、結局こじらせていたのはワタシ達だったのかもね。

 芳樹君はと言うと……。あーやっぱりキョドってるキョドってる。かわいいったら、もう。

 と、そこで先程から煽りを入れてきた田島君が愉快そうに声を上げた。


「とうとう言ったか。あまりに煮え切らないものだから、次はどうしてやろうかと思っていたんだ。別所、これでいいよな?」


 田島君が煽ったのはこれが目的だったの? 


「ここまで言い切るとは思っていなかったけど、これで二人が納得してんだからいいんじゃないか」


 なにやらニヤついた顔で別所君がまとめにかかる。

「一件落着」「面白かった」「何がどう変わるって訳でもないしね」

 次々とそうあがる声。

 これには泉美も驚いているようで、キョトンとした表情で周りを見渡している。

 えっ、何。もしかして、仕組まれた? ふと中尾さんに顔を向ければ……、うわぁ、何そのしてやったりって顔。

 くぅ、やられた……。みんなズルい! でも悔しくない、それどころか何だかとっても愉快な気分。

 と、今度は常盤さんが手を挙げた。さっきよりも機嫌良さそう。


「先生、お時間をいただきありがとうございました。ただ「青春こじらせ残念野郎」が「何かむかつく二股野郎」になってしまっただけのような気がしますけど、大原さんも新開さんも嬉しそうなんで良しとします」

  

 ……でもなかった。

 うわぁ、常盤さん、芳樹君に厳しすぎだよ。

 みんなはみんなで拍手しだすし、なんだかなぁもう。

「よろしくな二股野郎」「こじらせた結果二股になるとか……」「たしかにむかつくな」「サイテー」「いいんじゃない?」「寺山君らしい」「これからが楽しみ」

 次々と上がる声は、言葉とは裏腹に芳樹君に優しい。うん、みんなありがとうね。


「二股は決して褒められるものではないんだがな。まぁしかし「結」としては十分か。よし、今度こそここまでだ。いいか、みんな」


「「「ういーっす」」」

「「「はーい!」」」

 

 先生が幕間劇の終幕を宣言。ありがとうございました。

 こうしてワタシと泉美はクラス公認で芳樹君のお嫁さん。あーダメ、顔がニヤけちゃう。 

 あ、でも先生、それに常盤さんも。

 二股って言ったって、本人達がそれを良しとしていれば問題ないですよね。ワタシはむかつかないし、それどころかもうルンルンです。 

 ……。

 ……。

 ……。

 そう、最終的にはどちらかを選んでもらう前提の二股だし……。


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