その13 彼は結びます。
おかしいだろぉー!!
映子と泉美の即興ライブに沸き返った教室は、その熱気が嘘だったかのように静まり返っていた。
それもそのはず、今教壇に両手をついて教室に睨みをきかせているのは、クラス担任で次の現文の教師でもある浦和先生だからだ。
「静かに自習をしろとは言わないが、隣のクラスにまで響く様な大騒ぎをされては、担任として注意せざるを得ん。分かるな?」
「うぃーっす」
「はーい」
いつもはチャイムが鳴り終わってから入ってくるのに、何で今日に限って早いんだろ? あれか、余所のクラスから苦情でもあったのか? いやいや、さすがにそれはないだろ。たまたまか?
やがて、外に出ていた生徒も全員戻ってきた。教室に入る時のギョッとした表情と、席に戻るまでにキョロキョロと周りを見回す不安気な様子は、ちょっと笑える光景だった。
浦和先生はそのまま動かず窓の外を見ていたが、チャイムが鳴り終わった途端口を開いた。
「全員そろったな。いなかった者には関係ないが、クラスの出来事だ、まあ我慢してくれ。で、とりあえずだ……、常盤さん、この騒ぎはいったいどういうことか説明してもらえるかな?」
浦和先生は生徒を呼ぶ時、必ず君付けさん付けをする。
「生徒を呼び捨てにしても良いという理由で教師になった訳ではない」という、こちらとしてはどう返事していいのか分からない主張は、それでも多くの生徒に好意的に受け入れられている。
それにしても、何で常盤に? クラス委員だけどここは関係ないじゃん。てっきり映子と泉美に声を掛けると思っていた。
常盤成美。真面目オブ真面目な女子。あまり話したことがないけど、オレみたいなチャランポランな奴とは別次元の優等生。映子とはまた違ったハッキリクッキリ系。
その常盤が不機嫌そうに起立する。
「先生、なぜ私に聞くのですか? クラス委員として騒ぎの責任を取れと?」
うーん、口調がきつい。そりゃそうか、常盤にとってはとばっちり以外の何物でもないんだからな。
「これは聞き方が悪かったな、申し訳ない。常盤さんならこの騒ぎを客観的に見ていただろうと思っただけだ」
生徒の反抗的とも取れる態度に苦笑しながら、浦和先生がさらに続けた。
「そうだな、責任という言葉が出たが、どうだろう、この騒ぎの責任は誰が負うべきだと考えるかな?」
先生、それはないっしょ! 見ていたくせに、何で常盤にそれを聞くんすか?
ふと見ると、泉美は平然としているが、映子は明らかに身を縮こまらせて俯き加減。だが、今はフォロー出来ない。
「客観視していたつもりはありません。それに……、その質問に答えることは私にとってデメリットが大き過ぎます。先生は私がクラスのみんなから嫌われても構わないと仰るのですか?」
おおーと感嘆の声が所々で上がる。教師に対してはっきりと己が主張で対峙する行為は同年代の者には称賛の対象だ。
さすが常盤、男らしい。いや誉め言葉としてだな……。ボキャブラリーが貧困ですまん。
そうだよなぁ、ここで名前を挙げようものなら、その後が大変だよな。映子と泉美はともかく、快く思わない連中もいるだろう。下手すりゃツマハジキ。常盤だってこんなことで恨まれたくないよな。
「ああ、そんな深刻に考えなくていい。その生徒を叱るつもりではないんだ。罰を与えるつもりもない。もちろん他のみんなもだ。だから安心してほしい。ことの経緯を知りたいと思っただけだ」
そうは言ってもな。
常盤も困惑しつつ、映子をチラリ。うーん、ヤバい展開だ。
オレが思うに、今回のことは泉美の企みだろう。映子もノリノリだったけど、こんなことを考えるとは思えない。だが常盤は映子が今回の主犯だと思っているようだ。
「騒ぎを引き起こした張本人ということであれば、その名前を挙げることが出来ます。それでいいですか?」
おいおい、さっきと言っていることが違うじゃん。
「ほう、張本人か。で、それが誰だと言うのかな?」
おい、常盤ぁ、映子の名前を出したら許さないからな。いや、出さないでください。お願いします。
「それは……」
また映子を見やがった。絶体絶命だ。
だが思えば、常盤だってクラス委員としての立場もあるし仕方ないか。まぁ二人が叱られるようだったら、オレも名乗りを上げよう。また出しゃばるなとか怒られるかな? まぁその時はその時だ。
と、覚悟を決めた時、常盤が口にしたその名は……。
「寺山君です。彼が元凶と言っていいと思います」
はぃ?
……。
……。
……。
はいぃぃっ!
「青春こじらせ残念野郎の寺山君を立ち直らせるべく、大原さん、新開さんが手を尽くした結果がこの騒ぎです。クラスのみんなはその手助けをしただけですが、ちょっと想像以上に盛り上が……、騒がしくなってしまいました。それについては反省しています」
と、と、常盤ぁ。いや常盤さん、常盤様。一体何を仰られているんです?
あれ、さっきからチラチラ見てたのってもしかしてオレ? えっ何で?
「なるほどなるほど。よし分かった。ありがとう、常盤さん」
先生、何がなるほどなんでしょうか?
常盤が今度こそはっきりオレを見て、こともあろうか思いっきりアッカンベー。
何よそれ? オレ、あなたに恨まれるようなことしたっけか? しかも青春こじらせ残念野郎とか酷くない?
「さて寺山君の名前が挙がったが、これに異議のある者はいるかな?」
いやいや、そこは異議しかないでしょ。だが、その言葉に即座に反応したヤツらがいた。
「「異議なーし!」」
田島っ! 中尾ぉっ! お前ら、どこまでオレを!
今度こそ文句を言おうと振り向くと、周囲からも「異議なし!」と次々に声が上がった。
「寺山が原因なのは事実だ。なぁ、みんな」
とどめとばかりに今度は別所がクラスメイトを扇動する。
そこでみんながうんうんと頷き、口々に「そうだな」「寺山が悪い」「それは確かね」などとほざき始め、オレは異議を申し立てるタイミングを逸してしまった。
まずい、ヤバい! このままでは濡れ衣を着せられてしまう。だがここでオレが二人の名を挙げようものなら……。
そこでオレははたと気づく。あ、詰んでね、これ?
黙っていたら張本人認定。異議を唱えれば、告白してくれた二人を売るサイテー野郎。どっちに転んでも……。
「寺山君、前に出てきてくれるかな」
ええー!
「安心しろ。さっきも言ったが騒いだことを責めるつもりはない。ただ、みんなの言う通り、君がこの騒ぎの原因であれば、君にはまだ役目が残っているように思うんだ」
はっ? 役目?
「先生、授業はいいんですか?」
促されるままに教壇に立たされたオレは、心にもない言葉を口にする。いやいや、勉強こそが学生の本分だ。これを疎かにしてはいけないよな、うん。
「心配するな、これも授業のうちだ。さて「起承転結」という言葉は知っているな」
「はぁまぁ」
物語の構成の基本だったか。うん、確かに国語の授業っぽい。だがその質問の意図が分からない。いや、そもそもオレがなんでこんな目に……。
「さっき私が見たのは、おそらく「転」に相当するシーンだろう。つまり物語としてはまだ終わっていない。そして「結」の部分を担っているのは、寺山君、君のはずだ」
はぁ? ますます混乱。
「先生、ちょっと待ってください。訳分からないっす。役目とか担うとか、何言ってるんすか?」
だが、先生は完全スルー。腕組みをしたまま視線を着席している生徒たちに移していた。
「今時こういう発言は宜しくはないのだろうが、私は男は男らしくあれと思っている古臭い人間でな」
先生が昭和チックなのは前から知ってるっすよ。それにしても、この頃「男らしくない」って言われること多いな。さっきも中尾に言われたし。
あれ、確か先輩にも同じようなこと言われたことがあったな。その時はもう無茶苦茶言われたっけなぁ。
「大原さん、新開さん、立ちなさい」
げっ! ここで二人を指名とか、ちょっと意地が悪くないっすか?
「君達の思惑から外れてしまったかと思う。それについては申し訳ない。ただ私としては、どうもこのままでは座りが悪くてな。勝手な言い草だが、どうだ、このまま続けさせてもらっても構わないだろうか? もちろん君達の意思を尊重する。嫌なら嫌と言ってくれて構わない。その場合はこの話はここで終わりにする。……どうかな?」
はぁ?
こっちの理解が追い付かない会話を続ける浦和先生。本当に現文の先生っすか? 会話として成り立っていないような気がするんすけど。
そういうのは先輩一人で間に合っているんだけどなぁ。勘弁してください。
これは絶対に、映子も泉美も戸惑っているはず。と思ったら……。
「先生が担任で、ホント良かったーってつくづく思いますー。感謝しまーす」
泉美さん、何故に感謝?
「ワタシも同じです。先生に一任します。ありがとうございます。よろしくお願いします」
映子さんまでどうしたの? 何をよろしく?
「という訳だ、寺山君。二人の同意は得た。後は君の番だ」
「えっと、オレの番とか言われても困るっす」
「大原さんと新開さんは勇気を出して寺山君に告白した。だが、すぐに返事を貰おうとは思っていない。二人とも、これに間違いはないかな?」
「「ありません」」
二人とも、何でそんなに堂々としているの? オレなんかもう気恥ずかしくて仕方ないんだが。
「男女交際に口を挟むつもりはない。どちらと付き合おうとそれは君の自由だ。ただ、女の子から告白されたというのに、ダンマリでは男らしくないと私は思う。告白に対する返事は猶予を貰っているとは言え、君にだって思うところはあるだろう。二人の勇気に相応する気持ち、それを伝えるのは義務のようなものだ。これは私だけではなく、ここにいるみんなも同じ思いのはずだ。どうだ、田島君、中尾さん?」
「「異議なーし!」」
くっ、こいつらー!
「先生、これのどこが授業に関係あるんすか? オレにはサッパリなんすが」
「登場人物の心情を百字以内にまとめなさい、みたいな記述問題があるだろう? それと同じだ。ほら、立派な国語の授業だろう」
何それ? まぁ、二人には何の返答もしていないけど、それをここで? いやいやいや、勘弁してください。
「このまま有耶無耶にするつもりか? それはそれで構わないが、二学期は赤点になるぞ。テストだけが評価基準じゃないからな」
職権乱用キター!
しかし、ウチの担任がこういう人だったんだ。今まで知らなかった。
「そうだな、常盤さんの言葉を借りて「青春こじらせ残念野郎が、同級生二人に告白された件」とか近年のラノベ風タイトルはどうだ?」
いや、それは勘弁してください。それにしてもラノベ読むんすか先生は?
「不満そうだな。言い得て妙だと感心したのだがな」
「どこのどいつがそれで喜ぶんすか?」
「さて、冗談はこれくらいにして」
冗談は顔だけに……。
おっと、この手のツッコミはやめておこう。さらに心証を悪くしてしまう。
その時映子がスッと手を上げた。
「いいかな? さっきも言った通り、付き合う付き合わないの返事はまだいいの。でも、今の気持ちを教えてくれたら嬉しい」
「私を選んでくれるのは疑っていないけどー、芳樹君は今どういう気持ちなのかなー。それを教えてー」
ぐはっ! あなた達に言われたらオレどうしようもないじゃん。
はぁ……。
正直、今の関係がぬくぬくでちょうどいい湯加減だったんだよなぁ。それを壊したくないって思うのはズルいことなのか? ズルいんだろうなぁ。
オレは代わる代わるに二人の顔を見る。
映子。中学ん時からいいなって思っていて、リア充計画の第一候補。時折ドキッとする表情を見せてオレを困らせる、なんだかんだ言いながら一番近い女の子。
泉美。もう可愛さが凶器すぎて、しかも頭も良いとなればオレの手に負える相手じゃないような気がするけど、こんな子がカノジョだったらって正直思う。
そんな二人に挟まれて、ちょっと有頂天になっていたのは事実。ウハウハしていた。でも、何でだろうな、二人に対して好きとか嫌いとか真剣に考えることがなかったんだ。嫌いじゃない。それどころかハッキリ言って好きだと思う。おっぱい揉みたいって、そっち系でもよく考える。でも今オレが思い浮かべているのはこともあろうかツルペタの……。
あ……。
……。
……。
……。
ハッ! そうか、そうだったんだ。
「先生、いいっすか? 百字では収まらないかも知れないっす」
考えがまとまった訳じゃない。でも、黙っていたところで、先生もみんなも、何より二人が納得しないだろう。オレだってそうだ。
あーあー、確かにこじらせているなオレ。残念野郎は的を射ていると今更ながらに思うよ、常盤。
「えーと、なんつーか脳が爆発しそうな展開でうまく言えるか分からないけど。オレ、二人のことが嫌いとかじゃ全然なくて、むしろ大好きで。告白してくれたことは素直に嬉しく思っているんだ。でも今はそういうことを考える余裕がないと言うか、正直困っているっていうのが本音というか……。だってオレだよ? あり得なくね? おかしいだろ?」
違う、そうじゃない。はっきりと言わなくちゃ。他に気になっている人がいるって。好きな人がいるんだって。自分のキャラを盾に何を誤魔化そうとしているんだ、オレは。
でも、それを言ったら二人を傷付けるよな。しかもクラスのみんなから完全に総スカンをくらうだろう。ただ嫌われるとかじゃなくて嫌悪のレベルで。あー、こんな保身めいたこと考えている時点でサイテー野郎確定だ。
でも、言わなくちゃいけない。
オレが好きなのは先輩なんだって。カレシがいるって分かっても、捨てきれない思いがあるんだって。
揶揄われることが自然に思えたあの人。そのことを喜んでいた自分。
全てを見抜いていたあの人。そのことに安堵していた自分。
突然いなくなったあの人。迷子になった自分。
……何だコレ? それなのに、二人にはいい顔ばかりしてきた。オレって思っていた以上にクズだったんだな。
そうして考えが袋小路に行き詰まり、オレは続ける言葉すらも失ってしまう。何か言わなくちゃ、その気持ちだけが先走って、オレはさらに口ごもる。だが、そんな情けないオレを救ってくれたのは、やはり映子と泉美の二人だった。
「「全然おかしくない!」」
傍らの先生すらもビクッと体を震わせてしまう程の声だった。伏せた眼を上げると、二人が真剣な眼差しをオレに向けていた。
「自分を卑下しないで。それはワタシ達を貶めることにもなるのよ」
「芳樹君はモテるんだからー。もっと自信を持っていいよー」
そう言った後、ふっと微笑んだ二人の表情があることを告げていた。
あ……。
この時オレは、二人が全てを分かった上で告白してくれたのだと悟った。
「先生、思っていた以上の言葉が聞けました。もう十分です。ここまでということでよろしいでしょうか? 後は三人で話し合います」
「センセー。これ以上は芳樹君が泣いちゃいますんで、勘弁してあげてくださーい。お願いしまーす」
泣かないよ、泉美。泣きそうだけどな。映子もありがとう。
先輩のことは好きだ。でも、この二人のことも大事だ。虫のいい考えだ。分かっている。でも……。
そしてオレは先輩との会話を思い出す。あの無茶ぶりは忘れようたって忘れられない。そうだ、先輩は言ってたっけ、気概を見せろって。
「いいのか二人とも。寺山君はまだ何か言おうとしていたみたいだが?」
「先生。芳……、寺山君は繊細で傷付き易いんです。あまり追い詰めるようなことしないでください。泉美の言う通り泣いちゃいますよ。いいんですか、男子生徒を泣かせた意地悪教師って噂流されても?」
「おやおや、そう来るか。うーん、飛び入りの身としては出番を与えられたことに感謝すべきというところか。よし分かった。ここまでとしよう」
「ありがとうございまーす。やっぱり先生は最高ですー」
「こらこら。大原さん、あまり調子に乗らないように。君達のことは先生達の間でも少し問題になっているんだ。これ以上は私もかばいきれないからな」
この言葉にはオレだけでなく二人も相当驚いたようだった。
「先生、問題ってどういうことですか?」
「えー、私達何も悪いことしてないですよー」
「球技大会のことを忘れたのか? それでなくても、廊下で抱き合っていたとか、あまり芳しくない話が耳に届いているんだ。今度何かあったら確実に指導室送りなんだぞ」
なるほど。球技大会の時はハッチャケていたからなぁ。でもそんなに問題になっているとは思っていなかった。先生も苦労していたんだな。
女子達はクスクスと笑いを漏らして、さもありなんと言った表情だ。
「「はーい、以後気を付けまーす」」
思い当たることが多すぎたのか、二人も即座に返答する。
全然本心じゃないだろとツッコミたくなったが、それは先生も同じだったようだ。大きく肩を落としてやれやれと首を振った。
「うーん、時間が思った以上に過ぎてしまったな。この際だ、他に何か言いたいことがある者はいるか。今日は君達に時間をやろう。好きにしていいぞ」
授業を始める気力が萎えたのか、いきなり丸投げ宣言。こっちとしては有難い。先輩のことはさすがにみんなには言い辛かったからな。もっとも二人にはきちんと話すつもりだが。
「新開さん、君の気持ちは分かったよ。でも別に俺達がアプローチしちゃいけないって訳じゃないだろ」
田島、お前まだ言うかぁ!
「あら、ダメよ。新開さんを狙っているのは私もなんだから。田島君は引っ込んでいて」
な、中尾ぉ、お前いきなり何ぬかしてんだ? 映子を百合の世界に引きずり込もうとすんな。
「大原さんと似合うのは俺の方だと思う。だから諦めないぞ」
別所もやめてくれぇ。お前、十分にモテるだろ。他のクラスの女子と良く一緒にいるじゃねえか。その子に言い付けるぞ。
「ふむ、なかなか収まりそうにないな。寺山君、どうやらみんなはあまり納得していないみたいだぞ。どうする?」
どうするもこうするも、そこで何でオレにふるんすか?
怒涛の展開に上限値ギリギリに達していたオレの精神がついに決壊。と同時にいつぞやの魔女の言葉が蘇る。
『ねぇ、というかホントに二人と付き合っちゃえばいいんじゃない?』
あの時は無茶言うなと思ったけど、もうどうにでもなれだ。気概ってやつを見せてやろうじゃないか!
「あーもう! 二人には誰も手を出すな! 田島に別所、それに中尾ぉ。分かったな。他のみんなもだ。泉美、映子ぉ、お前たちはオレの嫁! いいな!」
突然の宣言にクラスが静まり返った。
開き直ったと言うか、我を忘れたと言うか、自分でもビックリだ。先輩に言われた言葉が心のどこかに残っていたんだろうなぁ。そのまま口に出ちゃったよ。
一瞬ポカンとした二人だったが、一度頷いてまさに天使の笑顔をオレに向けてきた。
「「はい!」」
いつも思うんだけど、あなた達のその笑顔、反則過ぎるよ。
しかし、非難轟々、下手すりゃシャーペンやら何やら投げつけられてもおかしくないと思ったが、意外にもみんなの反応が生温い。
と、さっきからの意地悪顔を元に戻した田島が快闊に言った。
「とうとう言ったか。あまりに煮え切らないものだから、次はどうしてやろうかと思っていたんだ。別所、これでいいよな?」
「ここまで言い切るとは思っていなかったけど、これで二人が納得してんだからいいんじゃないか」
田島ぁ、別所ぉ、何言ってんのお前ら。だが、二人の言葉に次々と同意の声が上がる。
「一件落着」「面白かった」「何がどう変わるって訳でもないしね」
何だこの予定調和感? これには映子と泉美も訳が分からないと言った表情で周りを見渡している。
と、先程の不機嫌も治ったと見える常盤が手を挙げて起立した。
「先生、お時間をいただきありがとうございました。ただ「青春こじらせ残念野郎」が「何かむかつく二股野郎」になってしまっただけのような気がしますけど、大原さんも新開さんも嬉しそうなんで良しとします」
これまた酷い呼称をオレに投げ付けて常盤が着席する。
何か言い返したかったが、それと同時に拍手が巻き起こり、オレの不満は封殺されてしまった。
「よろしくな二股野郎」「こじらせた結果二股になるとか……」「たしかにむかつくな」「サイテー」「いいんじゃない?」「寺山君らしい」「これからが楽しみ」
生温い言葉が次々とオレに向かって飛んでくる。これはこれでダメージでかい。
「二股は決して褒められるものではないんだがな。まぁしかし「結」としては十分か。よし、今度こそここまでだ。いいか、みんな」
「「「ういーっす」」」
「「「はーい!」」」
先生、何その強引な締め? みんなもだよ。二人は二人で本当に嬉しそうにしているし。
こうしてオレは晴れて「青春こじらせ残念野郎」からクラス公認の「何かむかつく二股野郎」にレベルアップしたのだった。
……。
……。
……。
どうしてこうなったぁ!




