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図書室と先輩~ネオ!~  作者: にま
彼の疾走、彼女の追走
92/102

その12 彼女の一策です。

 なんと言うか、小学生?

 三回目にしてついに癇癪玉が破裂。


「まったく何なんだ、あの人はっ!」


 今日こそはと意気込んでいた芳樹君が、地団太を踏みながらって感じで一歩前を歩いている。でも、さすがにね………。


「そんな言い方は失礼でしょ。先輩にだって事情があるんだろうし」

「そうだよー。勝手に会いに来ているのはこっちなんだからー」

 

 言わずにはいられないという気持ちは、まぁ理解するとしても同調は出来ないよ。

 だって、気付いていないでしょうけれど、その乱暴な物言いはある不安を誤魔化すためなんでしょう?


 

 二日前、つまりプレゼントを貰った翌日、昼休みにでも礼を言いに行きたいと切り出してきた時、ワタシと泉美は即座に同意した。不在時にプレゼントと伝言だけを残された身としては至極当然の反応だし、ワタシ達も礼を言いそびれていたからだ。ただその日先輩は既に早退した後だった。

 昨日も昼前には早退していたようで会えずじまいとなった。業を煮やした芳樹君は、朝一番に突撃してやると言い出し、ここまできたからには付き合うと同意はしたのだけれど、思えばこれがワタシの心の振り子を大きく傾けることになったのだった。



 そして今日、いずれは自分たちが通うかもしれない教室の前で待ち続けること十数分、三度目の正直は、二度あることは三度あるという法則の前にもろくも敗れ去った。

 

「ほら、先輩だって受験生なんだし、きっといろいろあるのよ」

「ちょっと忙しいだけだよー。そのうちふらっとウチのクラスに顔出すかもよー」


 言いつつも、おそらく受験とは関係のないことで時間を割かれているのだろうと思っていた。この考えを共有しているであろう泉美は、その線にのった言葉で不安を与えないように慮っていた。

 

「ねえ、そう言えば先輩ってどこの大学行くのかな?」

「先輩だったらどこでも大丈夫そうだけどねー」


 わざとらしい話題転換なのだけれど、これ以上蒸し返すようであればワタシ達も容認出来なくなる。そんな気持ちが伝わったのか、気分を切り替るかのようにあるエピソードを披露してくれた。

 

 どうやら先輩の進路について聞いたことがあったらしい。

 その時の会話をかいつまんで説明してくれたのだけれど、聞けば要は煙に巻かれて相手にされなかったという、まあいつものパターン。

 その時の様子が容易に想像が出来てしまい、ワタシ達は思わず腹を腹を抱えて笑ってしまう。ある心理状態に陥りたくないがゆえの回避行動でもあったと思う。

 結局、こちらから会いに行くことはしばらく控えることで意見が一致したのだけれど、表情からするに大人しくするとは思えない。おそらく今日の放課後、ワタシ達に黙って図書室に行き関先生に訊ねることだろう。

 確かに関先生であれば、先輩から事情を聞いているかも知れない。ただ、それをワタシ達に教えてくれるとは思えない。さて、どうなることやら……。

  

 

  


「家庭の事情だったら、先生としてはおいそれと話す訳にもいかないし、しょうがないんじゃない?」

「私もそう思うー。先輩だって知られたくないだろうしー」


 やれやれ。

 次の日、一緒に昼食をとりながら予想通りの行動と結果を不満気に打ち明けてきたことには、正直呆れるしかない。


「というか、何で一人で行くのかしら。言ってくれればワタシ達も一緒に行ったのに。そうしたら少しは優しく怒られたんじゃない?」

「そうだねー、一緒に怒られてあげたかったよー」


 関先生の反応については、やはりそうなのかとの印象が強かった。仮にワタシが行ったところで対応は変わらなかっただろう。

 初対面の時、ワタシ達の不埒な意図を見向いて厳しい言葉を浴びせてきたことを思い出す。あの時は本当に怖かった。 

 つまり余計な詮索をするなということだ。ただどうやら芳樹君にはそれが納得いかないらしい。

 まったくお子様なんだから。


「先輩にはねー、私も映子ちゃんも聞きたいことと、話したいことがいっぱいあるんだー。でもここは待つしかないと思ってるー。芳樹君が何を心配しているのかは知らないけどー」


 機を見て敏なる泉美、ここは畳み掛ける場面と踏んだのか射撃開始。


「心配? いやオレは別に心配なんて……」


 否定しようとするも、驚いた顔が本心を物語っている。ここでワタシが援護。


「あのね、誤魔化しても無駄。見ていれば分かるんだから、変に強がらなくてもいいわ」 


「いや、だから……」

 

 だからじゃないのっ、諦めなさい! 


「もう会えないかもって思ったんでしょ」


 確信を持って核心を突く。情緒不安定になっている原因はそれ以外にない。 

 まるで迷子になった子供のよう。取り残された心細さで今にも泣き出しそうな、それを必死に耐えているような……。

 一瞬こわばった顔が弱々しい。それに対しワタシと泉美は、責めるでなくあげつらうでもなく、ただただ真っ直ぐに視線をぶつけた。

 張り詰め出す空気。しかし、目を伏せ肩を落とした芳樹君によってそれは解かれた。

 

「まいりました、その通りです」


 意外にも早く降参してくれたことには正直安堵する。でも、その先輩に対する気持ちの十分の一でもいいから、ワタシ達に振り向けて欲しい。

 

「「ふむ、素直でよろしい」」


 これでワタシ達も素直になれる。もっとも、随分ひねくれたことを画策し実行しようとしているのだけれど。

 

「ねえ、先輩のことは考えるなって言っても無理でしょうけれど、出来ればね、今あなたの目の前にいるワタシ達のことも考えて欲しいの」

「私達のことをちゃんと見てー」


 これは偽らざる本心。今芳樹君は先輩しか見ていない、考えていない。


「そんなこと言われてもだな、いつも考えているし、いつも見ているつもりなんだが?」

 

 その言葉は嘘ではないと思う。つまりは「つもり」でしかない。断言するほどではないと言っているに等しいのだけれど、そのことを言い募る気はない。

 その「つもり」状態に安穏としていたのは他ならぬワタシ達だったのだから。けれどそれも今日で終わり。

 そしてワタシは、恐る恐るスイッチをオンにする。


「ねえ、聞いて」


 幾度となく決意し幾度となく挫折してきたこと。二度三度なんてとっくに超えている。

 ワタシは深呼吸をする。さすがに心臓がバクバクだ。でもだからこそだろうか、飾ることのない気持ちがそのまま言葉となった。

 

「ワタシ、芳樹君のことが好き。これからも一緒にいたい。だから付き合ってほしいの」


 ……。

 あぁ、やっと……。

 そう、これは幾度目かわからないくらいの正直。これを言うために今までかなりの遠回りをしたような気がする。ううん、もしかしたらこれが最短コースだったのかも知れない。 

 ……。

 あ、目が点になってる。お願い、その顔はやめて、笑っちゃうから。


「じゃあ今度は私だねー」


 ウズウズワクワクといった表情を隠さない泉美。


「寺山芳樹君、私もあなたのことがずっと好きでした。今もこれからも。だから私を芳樹君の彼女にしてください」


 あ、泉美ズルい。ちょっとかわいい言い方した。

 とそこでクラスメイトがドッと沸きあがる。

 事前に話を通しておいたとは言え、本当に実行するか疑問視していたのだろう、そのことも相まってか周囲の反応が想像以上に激しくて、ちょっとビックリ。

 先輩の顰に倣った「教室の隅で愛を叫んだけもの」作戦。

 ドキドキものだったけれど、いざ実行してみると逆に落ち着いてきた。とは言えいつもより一段階、ううん二段階くらい上のハイ状態ではあるけれど、ここまで来たらもう開き直るしかないしね。


「寺山、返事はどうした!」

 

「そうよ、寺山君。女の子が勇気を出して告白しているのに、黙りこくったままっていうのは男らしくないわよ」


 根回しというほどではないにしろ、密かにサポートをお願いしておいた二人がタイミング良く煽りを入れてくれる。ありがとう、田島君、中尾さん。

 予想通り、困惑、狼狽で表情が固まる芳樹君。 

「返事!」「返事!」「返事!」

 教室に返事コールがこだまする。ノリがいいなあ、みんな。ありがたやありがたや。

 それにつられてか、ワタシの気分もさらにアップ。一気に最上段まで到達。

 よーし、メインスイッチオン!


「はーい、アテンショーン!」 


 こういう時の泉美は頼もしい。両手を鳴らしながら教壇に進み出て注目を集める。


「みんなー、お騒がせしている身で恐縮なんだけどー、ちょっと静かにしてくれるー」


 そして打ち合わせ通り、ワタシがこの作戦における自分たちの立場と今後の予定について説明を始める。


「せっかくの昼休みにごめんね。えーと、今見た通りワタシ達は芳樹君に告白しました。でもすぐ返事を貰おうとは思っていないの。しばらくは泉美と争奪戦を繰り広げていくことになると思う。それでいつか決めてもらえればってね。そこで特に女子にお願い。もし、参戦する意思があるのなら今すぐ申し出て欲しいの。へんなしこりを残したくないしね。どうかな、誰かいる?」


 実は隠れモテキャラなのよね、芳樹君てば。女子受けが悪くなかったところに、球技大会での活躍したものだから、好感度が上がっているのも事実。狙いを付けた子がいても不思議じゃない。とはいえ……。

 と、そこで中尾さんがニヤニヤしながら手を上げてきた。この意地悪な目の輝き、女の子特有だね。


「私もさぁ、ちょっといいかなって思い始めていたんだけど、二人を相手にするのはしんどそうだから降りるわ」


 中尾さんのリタイア宣言を皮切りに、他の女子も追随してくれる。 


「そうね。新開さんと大原さん相手じゃ分が悪そう」

「残念。私もちょっと狙ってたんだけどなぁ」

「争いごと苦手だし、観戦に回るかな」

「勝負の行方、見届けないとね」


 もっともこれは仕込み。普段からあれだけアピールしてきたのが大きいね。みんなも応援に回ってくれるということで話はついていた。

 

「ありがとう。じゃあ芳樹君争奪戦は、今からワタシ新開映子と大原泉美の一騎打ちとさせてもらうわね。みんな、これからも生ぬるく見守って下さい。よろしくお願いします」


 自分のことが話題となっているのに、ついてこれないのか間の抜けた顔をするばかりの芳樹君。うん、でもいいわ、しばらくはそのままでいてちょうだい。


「と言うことは、今まで通り教室でもどこでもイチャつくってことだな。その宣言と受けとればいいのか?」


 田島君、言うに事欠いてイチャつくはないでしょ。もっと言葉を選んで欲しいな。否定はしないけれどね。ううん、それどころか……。

 

「いいえ、今までは大人し過ぎたかなって。だからこれからはもっといろいろやるつもり」

「ガンガン行くよー。もう頑張っちゃうよー」


 お弁当作戦もその一つ。他にも考えてあるんだから。泉美の頑張る発言には危険なものを感じるけれど。

 

「正直言うと、新開さんのこといいなって思っていたんだよ。それなのに寺山を選ぶとか、ちょっとショックでかいな」


 田島君、そういうのは出来れば真顔で言って。芳樹君に睨まれてニヤつくのもダメだってば。


「あー、それ言ったら俺は大原さん狙いだったんだけどなぁ」


 別所君が泉美を指名。これは本気っぽいところがあるからグッド。泉美ってば男子に人気があるからなぁ。


「何言ってんだよ。俺だって」

「俺のイズミンラブは永遠だ」

「あ、僕は新開さん派です」

「新開さんに罵られたい」


 あ、ワタシにも票が入った。ちょっと嬉しい。でも罵らないから!


「みんな、ありがとう。気持ちは嬉しいけれど、ワタシは今芳樹君以外の人は考えられないの」


 かなり凄いことを言っているなと、興奮気味でありながらどこか冷静な部分でそう思う。でもこのくらいは言わないとね。 

「ええー!」男子が数人残念そうに声を上げてくれて、ワタシはまたまた浮かれ気味。

「キャー!」女子は甲高い歓声を教室に響かせる。ノってくれてありがとう。

 で今度は泉美の番。何を言うかは聞いていなかったし、いきなり右手を上げて振り出したのには驚いた。


「みんなー、ごめんねー。ありがとぉー。イズミンはー、みんなのイズミンだけどー、それよりも芳樹君の泉美でいたいって思うのー。応援してくれるかなー」


 あ、そう来るかぁ! この手のことに関しては上手いというかズルいというか。


「ゴーゴー、イズミーン!」 


 それにノっちゃうイズミンファンって……。

 ……。

 ふぅ、まず田島君と中尾さんを味方につけることが出来たのが大きいな。ワタシと泉美だけだったら、ここまでクラス全体を巻き込むことなんて出来なかっただろうし。

 ってあれ、 芳樹君が気付いちゃった? 振り返って二人を見てる。でも、もう隠すこともないしね。二人がビシッとさわやかサムズアップを決めている。


 ~♪~♪~♪


 あ、来た!

 ミウラちゃん、ありがとう。決めるよぉ。

 この話を聞いた軽音楽部のミウラちゃんが、ノリノリな顔でワタシ達に言ってきたのはフィナーレのこと。

「どうせだったらさ、最後に踊ったりしない? 私が適当に音当てるから」

 これで完全にお祭りモードに突入。軽音部に行って一度音合わせみたいなことをさせてもらった。あまり話をしたことがなかったけれど、これを機会に仲良くさせてもらおうっと。

 テンポ良いリズムを刻むミウラちゃんのギターに、自然と腰をフリフリ。やってみると恥ずかしさより楽しさが何倍も強い。何だかアイドル気分? 肝心の芳樹君が唖然としているのが可笑しくて笑い出してしまいそう。でも我慢我慢。

 はい、泉美、あなたから!

 泉美が一回ターン。


「I NEED YOU」


 指でピストル作ってバーン。ウインクまでするとか、もう泉美ったらアゲアゲ状態。

 今度はワタシ。クルッと回って狙いを定めて。


「I WANT YOU」

 

 負けてはいられない。投げキッスでどうだ!

 曲がちょっとアップテンポになって、よしラスト!

 二人で一回転。両手で狙いを定めて


「「I LOVE YOU」」


 そしてBANG! ミウラちゃんのギターで締め。ジャカジャン!

 ……。

 その音とともに、一瞬教室内のすべてがその場に張り付くように静止した。

 時計の秒針が刻む音がはっきりと聞こえる。

 三秒後、今までの充満していた熱気が一気に収束して、また爆発を起こしたような感じで周囲に歓声の嵐を引き起こした。

 ふぅ……、やっちゃった。ついにやっちゃった。後悔しないための公開告白。自分でもここまで悪ノリしてしまうとは思っていなかった。でも……、どうしてだろう、すっごく楽しい! テンションが最上段をさらに突き抜けてまだまだ上昇中。フワフワする。

 泉美なんて目をウルウルさせて、感極まっているって感じだし。こんな顔初めて見る。恋する乙女だね、やっぱり。

 クラスのみんなもそれぞれに興奮を顕わにしている。

 あまり話をしない子もいるし、正直ソリの合わない子もいる。煙たがられているって思うことも多々あった。この話にいい顔をしない子だっていたはず。

 でも何だろう、この一体感。ありがとうね、みんな。

そしてごめんね、芳樹君。こんなバカみたいなマネをして。でもね、これがワタシの、そして泉美の本当の気持ちなの。だから受け止めて!

 ……。

 あ、目が合った。やだ、そんな熱い視線を……、あれっ、全然熱くない?

 どうしてそんなに強張った顔しているのかな? あまりのバカバカしさに呆れてしまったとか? ……というわけではなさそうね。

 顎をかすかにクイックイッ。目はチラチラ。あ、そうか、先生が来るんじゃないって心配しているんだ。

大丈夫だよ、まだ時間じゃないし、次は現文でしょ。浦和先生が時間より早く来ることなんてないんだか()

 「ら」のタイミングで入り口ドアに顔を向ける。

 あっ……。

 ピシッ! その時ワタシの視界に見えない亀裂が走った。心臓も思考も一瞬停止。

 ドアの向こう、四角い小窓越しには困ったような顔をしている人物が……。

 キャー、浦和先生、何でそんなところに突っ立っているんですかー!



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