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図書室と先輩~ネオ!~  作者: にま
彼の疾走、彼女の追走
86/102

その6 彼女は吹きます。

 あの写真……。 

 綺麗だったな。構図とか光の加減とか専門的なことは分からないけれど、ワタシにはどストライクだった。モデルが少々問題ありな人だったってだけで。

 ……っていうか、何であんなに細いんだろ。そのくせ腰からお尻にかけてなんかふっくらしていて、胸だってふくらみが分かったし、もしかしたら結構あるのかな。

 何よりあの肌の白さ、反則だよね。外国人の血が入っているせいかなぁ。やっぱりずるいな。

 ……。

 そう、ずるいのよあの人!

 カレシがいるのに芳樹君を誑かしたりして。もっともこれは勝手に誑かされた芳樹君が悪いんだけどさ。ホント男の子って年上に弱いよね。高校入ってからワタシに目もくれなくなったのは先輩のせい。いつのまにか図書室で鼻の下伸ばすようになっていてさ。

 だいたい先輩もさ、付き合い長いワタシより芳樹君のこと知っていたりとか、魔女過ぎるでしょ。

 あー、ダメだぁ。また頭がブランコだぁ。あっちこっちしてるよぉ。

 気分を変えるためチラリと後ろを見れば、仏頂面した失恋男子が一人。本人が認めようが認めまいが一目瞭然。

 どうやって声を掛けよう? 慰めるのはちょっとおかしいかなだし、知らん顔するのもなんだかだし。写真部のこともどう切り出せばいい? はぁ……、もう、よく分かんない!


「あれ、今日はもうおしまいかな」


 自問の難解さに自答できないまま階段に差し掛かると、階下から聞こえた涼しげな声でハッと我に返った。

 あ、桜田先輩。このアングルだと余計に小さく見えて、かわいさアップ。ちょっと失礼だけど。

 って、まずいんじゃない? カレシさんと鉢合わせしちゃうじゃない。えー、どうしよう?

 イケメン二年生の登場でさらにパニくるワタシ。

 

「卒業生の方がいらっしゃったので、お邪魔虫は退散することにしたんです」


 うーん、泉美様様。対応力がパないなぁ。


「へぇ、卒業生が……、ってもしかして小森先輩かい?」


 えっ、何でカレシさんって分かったの? 


「チッ。ペテン師登場かぁ……」


 うわっ、思いっきり嫌そうな顔した。しかもペテン師って何?


「あー、つくづく間が悪いな、僕は。ったく!」


 顔に似合わない乱暴な言葉遣いにビックリ。こんな人じゃなかったような……。


「あの、桜田先輩?」


 その豹変ぶり驚いているワタシと違って、動じていない泉美。って、ちょっとちょっと、眉間眉間! 何で皺寄せているのよ。


「何で小森先輩って分かったんですか? 卒業生って言っただけですよね」


 そうそれ! 前にも思ったんだけど、察しが良すぎるよね。エスパー?

 その問いに髪をかきあげた桜田先輩は、目を細めて泉美に微笑みかけた。髪サラサラ。羨ましいなぁ、じゃなくて。

 あれ、泉美ってばちょっとたじろいだ? 珍しいな、こんな泉美。


「自分で言っただろ、お邪魔虫って。多分アレだ、あまりのバカップルぶりに辟易したんじゃないの?」


 バカップルって……。カレシさんはまともな人でしたよ。カノジョさんが変な人なだけです。

 

「はい、その通りです」


 泉美ぃ、あなたまでそんな……。先輩はともかく、カレシさんはいい人だったよ。ワタシが保証する。


「君達、これから急ぎの用でもあるかい? 良かったらどこか……、そうだね、ファミレスとか行かない? コーヒーくらいなら奢るよ」


 えっと、何? 話の流れが読めなくて、ワタシはキョトン。芳樹君も似たような感じで戸惑っていた。

 先輩もそうなんだけど、桜田先輩もついていけない会話をする人だよね。

 

「私はコーヒーは苦手なので紅茶セットで」

 

 堂々と注文まで付ける泉美が凄いのか、ワタシ達がどんくさいのか? 多分後者なのだろうけれど、こういう時いつも思うんだよね。泉美って「先輩側」の人間だよなぁ。

 でも泉美、なんでそんなに怖い顔してるの? もしかして桜田先輩のこと嫌いなの?

 

「ああ、構わないよ。好きなもの頼むといい。今日は懐も豊かだから」


 けれど桜田先輩は、そんな泉美の失礼とも思える態度を意に介さずといった感じで、さらに顔をほころばせるのだった。

 くっ、この笑顔は凶器だわ。芳樹君がいなかったら、ワタシもイチコロでまいっていたわね。



 テーブル席につくと、メニューを広げることもせず泉美はケーキセットを注文した。しかもアールグレイにモンブランとか、どこのセレブな奥様よ? 表情は硬いままだし。


「ちょっとちょっと泉美ってば。それはさすがに……」


 値段を見たら千円超え。遠慮したほうがいいんじゃない?


「ああ、新開さんも遠慮しないで好きなもの頼んでいいよ」


 えっ、そんなこと言われたら……。よし、半分は出そう。じゃあ、同じセットで、普通にダージリンかな。あとレアチーズで。

 芳樹君はが何か呆れたような顔をしていたけど気のせいよね。で、しかも一人だけドリンクバーにしちゃうとか、何よそれ。それじゃこっちが遠慮知らずみたいになっちゃうじゃない。実際そうなんだけど。

 桜田先輩が迷うこともせずに頼んだのはバナナパフェ。うん、こういうところではやっぱりそうですよね。……パフェ?


「好きなんだよ、甘いもの。一人だと頼みづらくてね。君達を誘ったのはこの為でもあるんだ」


 スイーツ男子キター! 少し照れくさそうな顔がまたキュート。



 ダ、ダメ。ケーキを目の前にするとどうしても顔がにやけてしまう。この時の為に生きているって思えるわ。泉美もケーキが運ばれてくると、硬かった表情が途端に緩んじゃうし。

 で、泉美の前では、ワタシ達以上に目を輝かせている桜田先輩。かわいすぎるわ。

 と、ここで至福の時を邪魔する空気読めない男子が約一名。 


「あ、桜田先輩。ちょっといいすか。小森って人のことペテン師って言ってたじゃないすか。それってどういうことすか」


 ちょっと芳樹君てば、そういうのはもう少し待ちなさいよ。今はケーキを味わう時間よ。


「うん? ああ、ごめんごめん。つい夢中になっちゃった」


 ほら、桜田先輩だってこんなに蕩けそうな顔しているのに、声を掛けたら悪いでしょ。それにしても男の人だって気がしなくなってきたわ。


「あーそれ、私も聞きたかったんです。舌打ちしてたし、もしかして仲悪かったんですか?」


 あれ、泉美ってばそう来る? しかも眉間に皺が戻っているし。せっかくのケーキタイムなんだからもうちょっと楽しそうな顔してよ。言い方もトゲっぽいよ。


「そんなことないさ。仲良くさせてもらっていたほうだと思うよ。あの人面倒見が良くてね、僕もよくお世話になったよ。そりゃ高橋先輩のことでは思うところもあるけど、基本的には嫌いじゃないし、二人のことは認めているよ」


 あれ、鉢合わせしたらヤバイ展開がとか思ったけど、そんなことはないんだ。心配して損したかな。でもあの舌打ちは本当に驚いた。


「それでペテン師のことだけどね、小森先輩って、一時そういうあだ名が付いていたんだよ。何故だか分かるかい?」


 あ、そうだ。そのことも聞きたかったんだっけ。でも話を振られたのは芳樹君だから、ワタシはもう一口ケーキをと。


「もしかして高橋先輩を騙してモノにしたとか、そんな理由じゃないっすよね」


 うわっ、さむ! 何てこと言い出すの? 見なさいよ、桜田先輩が吹き出しちゃったじゃない。

 

「騙しただって? そりゃいい。あの魔女が騙されるところは一度見てみたいものだよ」


 それは激しく同意。はぁ、まったく芳樹君て、時たまオバカになっちゃうよね。


「これは聞いただけなんで真偽のほどは定かじゃないんだけど……」


 あ、何かあるのかな?


「一年くらい前のことなんだけどね、昼休みに、ある二年生の女子が三年生の教室に乗り込んだんだそうだ。そして教室の真ん中で上級生相手に堂々と告白したんだって。寝ていた上級生の胸ぐら掴んで引き摺り起こしたとか、いきなり平手打ちしたとか、まぁ色々な尾ひれがついているけど」


「えっと、それってもしかして?」


「さぁ? そこは君達の想像に任せるよ。そういうことがあったんだよって話。でも、その上級生って、けっしてモテるタイプじゃなかったんだよ。いい人ではあるんだけどね。二年生の女子のほうも、何かの罰ゲームでやらされているわけでもなさそうでね。でさ、その場で上級生もOKの返事して目出度くカップル成立。普通あり得ないでしょ、そんなこと。だから何か弱みを握ったのかとか催眠術でもかけたのかとか、散々いじられてその挙句、ペテン師と呼ばれるようになったんだってさ。まぁペテン師のカノジョになったんだから、その女子も騙されたと言えば言えるかもね」


 えっ、教室に乗り込んで告白? 嘘! ちょっと想像できない。

 凄いと言えばいいのか……、ううん、凄いわ。ワタシには絶対出来ない。

 ……そうか、先輩から告白したんだ。あのベタ惚れテンション、かっ飛んでいたものね。


「その二年生女子もね「教室の中心で愛を叫んだけもの」とか言われたみたいだよ」


 あ、聞いたことある、たしか一時人気が出たアニメの……、とか思ったら、泉美が口を出してきた。


「ハーラン・エリスンですか?」


「さすが文芸部だね、先ずそっちが出るとは」


 何それ? まずアニメを思い浮かべたのがちょっと恥ずかしい。ここは知っているふりしてスルーしよう。

 知らないことを素直に認めて芳樹君が泉美に訊ねる。

「世界の中心で愛を叫んだけもの」というSF小説? 人気アニメや映画はそのタイトルをただパクっただけ? へぇそうだったんだ。


「だから本は読んだことなくても、タイトルだけは知っているって人が多いの」


 さすが読書家泉美、物知りだなぁ。面白い? という芳樹君の質問に微妙な笑顔を返していたけれど、多分芳樹君には向かない内容なのね、きっと。


「あーでも、ピッタリかも知れないですね、あの世界観」


「君もなかなかひどい」


 本の話となると、先程の険のある顔はどこへやらで泉美は嬉しそう。ワタシ相手に小説の話とかしないものね。ってかワタシじゃ相手にならないものね、ちょっとゴメン。

 二人の楽しそうなテンションについていけないワタシと芳樹君。妙な連帯感があるけど、レベルが低いような……。 

 さてさて、先輩の恋バナを教えてもらったわけだけど、参考にならないというか無理!


「それで今日はどうして私たちを誘ってくれたんですか」


 残り少なくなってきたケーキをどうやって食べようかなどと、スプーンを口にくわえたまま思案しているところで泉美が質問した。

 うんうん、それそれ。理由がちょっと分からない。


「ああ、再度告白しようと思ってね。でもそうしたら小森先輩が来てるっていうじゃないか。自分の間に悪さに嫌気がさしてね、ヤケパフェに付き合ってもらったわけだよ」


「えっ、そうだったんですか」


 告白というキーワードにワタシは思わず身を乗り出してしまう。

 そうなのね、だから舌打ちしていたんだ。ヤケパフェとかちょっと笑えるけれど、何だかぐっと親近感。


「冗談だけどね」


 あぅっ。ちょっとコケちゃったじゃないですか!


「で、本当のところはどうなんです?」


 隣の泉美は眉間の皺こそなくなったものの真剣な顔つき。うぅ、ワタシってばおバカキャラ?


「やだなぁ、そんな怖い顔をしないでくれないか。あわよくばという気持ちは本当だったんだよ。でもまぁ、一番の理由は今までのお返しというかお礼でね」


「お返し?」


「前に何度か奢ってもらったことがあるんだ。なんだかんだで結構な金額でさ、出す出すって言っても聞き入れてもらえなくて、いつも気になっていたんだ。で、今日はその分もまとめてお返ししようかと思ってさ、帰りにケーキでもと誘いに来たわけ。でもそうなると怖いのは、あの尋常じゃない胃袋でね。消化能力がブラックホール並みだから」

  

 ブラックホールって……。


「そんなになんですか?」


「僕の倍は平気で平らげるからね。今君達の食べたケーキなら三つや四つはあっという間じゃないかな。だからどんなに頼もうが平気なように万札用意してあるよ」


 あー、先輩って痩せの大食いタイプだったんだ。あの細い体で? ちょっと想像……出来るわね。


「とまぁ、これも冗談だけどね」


 カクッ。今度は芳樹君がズッコケ。くぅ、この人もやっぱり「先輩側」の人間だ。性格がさりげなく歪んでいる。


「桜田せんぱーい」


 カツッ! 泉美が最後に残しておいたと思われる栗にフォークを突き立てた。そうよ、泉美、言ってやってちょうだい。

 ワタシは二度の冗談に、ちょっとイラッとしてしまい顔をそむけた。


「あーごめんごめん。どうも対先輩モードに入っちゃてて切り替えが出来ていないんだ」


 だからってそれでワタシ達を揶揄うとかナシでしょ、もう!


「で、ここからは真面目な話。実はね、今日は先輩に会いに行ったんじゃないんだ。本当に話がしたかったのは……」


 フンだ。今度はいったい何? と無視を決め込もうと思ったら何やら視線。 


「新開さん、君に話があって来たんだよ」


 ブフッ! やだ、紅茶吹いちゃった。あー外見てて良かったぁ。正面向いていたら芳樹君にかけちゃうところだったわ。あっぶなー。

 ……って、ええ、何ですってぇー!

 


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