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図書室と先輩~ネオ!~  作者: にま
彼の疾走、彼女の追走
85/102

その5 彼は浮きます。

 あの写真……。

 そういう意味だよな。もうそういう関係ってことだよな。 

 ……。

 何だよ、一人エッチで我慢しろとか言っておいて、自分はさっさとかよ。

 はぁ、何だろ、この裏切られた感。勝手な言い草だってことは分かっているんだけど、先輩はそういうのとは無縁だと思っていたからなぁ。

 それが突然のカレシ登場で、プラスあの写真ときたもんだ。もう何だかなぁ、だよ、まったく。

 だいたいオレも、何こんなに落ち込んでいるんだ? 先輩のこと、別に好きとかそんなんじゃないのに。

 考えれば考えるほどに喪失感は増すばかり。なんだこれ? あーよく分かんね!

 と、前を歩いていた二人が、階段に差し掛かったところで急に立ち止まった。


「あれ、今日はもうおしまいかな」


 聞き覚えのある声だった。二人に追いつくと、そこには階段を上ってくる桜田先輩がいた。

 あれ、このままだと事案発生じゃね?

 泉美も同じ予想をしたのか、真っ先に口を開いた。


「卒業生の方がいらっしゃったので、お邪魔虫は退散することにしたんです」


「へぇ、卒業生が……、ってもしかして小森先輩かい?」


 泉美が肯定の意味で大きく頷く。

 何でオッサンが来たって分かるんだ? この人も大概だよな。


「チッ。ペテン師登場かぁ……」


 いきなり舌打ち? しかもペテン師呼ばわりって?


「あー、つくづく間が悪いな、僕は。ったく!」


 おいおい、どしたん? キャラが変わっていませんか? そんな言葉遣いする人じゃないと思っていたんだけど。


「あの、桜田先輩?」


 泉美がその様子に臆することなく立ち向かう。うーん、泉美って強い。 


「何で小森先輩って分かったんですか? 卒業生って言っただけですよね」


 階段を上る姿勢のまま髪をかきあげた桜田先輩は、目を細めて愉快そうに泉美を見上げた。

 泉美もその反応には困ったようで、少しキョドっている。お、これはなかなか見られない表情だな。

 

「自分で言っただろ、お邪魔虫って。多分アレだ、あまりのバカップルぶりに辟易したんじゃないの?」


 バカップルか。いや、あのオッサンはまだまともだったよな。問題はバカノジョのほうで……。

 その答えに泉美も納得したのか、口元を緩めながら大きく頷いた。


「はい、その通りです」


 おいおい、あなたも認定しちゃうの? あのオッサンもかわいそうに。それにしてもペテン師ってどういうことだ?


「君達、これから急ぎの用でもあるかい? 良かったらどこか……、そうだね、ファミレスとか行かない? コーヒーくらいなら奢るよ」


 オレって、こういうのがすぐに分からないタイプ。つまり桜田先輩は「ちょっと話をしようか」と誘ってきた訳なんだが、思わず「はぁ?」みたいな顔になったと思う。

 だが泉美はその意図を即座に理解したようだ。


「私はコーヒーは苦手なので紅茶セットで」


 オレと映子は、二人の会話に顔を見合わせ互いに「?」な顔。桜田先輩はというと破顔一笑。


「ああ、構わないよ。好きなもの頼むといい。今日は懐も豊かだから」


 おぉ、お大尽様。




 テーブル席につくや否や、泉美は本当に紅茶セットを頼みやがった。それどう見てもケーキがメインだよな。

 映子はそのセレクトに「ちょっとちょっと泉美ってば。それはさすがに……」と咎めたのだが


「ああ、新開さんも遠慮しないで好きなもの頼んでいいよ」


との温かいお言葉に、少し顔を赤らめて「じゃあ同じものでいいですか」だと。結構なお値段なんだが? まぁ二人のことだ、自分の分は出すつもりだろうけどな。

 オレはケーキは嫌いではないが、甘いもの気分ではなかったのでドリンクバー。

 驚いたのが桜田先輩だ。バナナパフェ頼むとか、アリなのか?


「好きなんだよ、甘いもの。一人だと頼みづらくてね。君達を誘ったのはこの為でもあるんだ」


 うーむ、これが世に聞くスイーツ男子というやつか。 



 ケーキを前にした女の子の反応というのは、まぁ一言で言うとキラキラ? ランラン? 実に幸せそうで、背景にお花が飛び交っているような気がするほどだ。

 で、オレの横では目の前の二人以上に幸せーラ全開で、生クリームをすくっている桜田先輩。

 三人とも、一口食べるたびに片手を頬にあててご満悦の表情。当たり前だが、桜田先輩は男子の制服。だがその姿は女子高生に見えてしまうくらいに違和感がない。

 何なんだ、この空間は? オレだけ浮いているぞ。あかん、ちょっと恥ずかしくなってきた。

 あ、そう言えば……。


「あ、桜田先輩。ちょっといいすか。小森って人のことペテン師って言ってたじゃないすか。それってどういうことすか」


 しかし桜田先輩は恍惚の表情でパフェを堪能しているところだった。


「うん? ああ、ごめんごめん。つい夢中になっちゃった」


 くそ、何でこの人、こんなにかわいいんだよ。こっちこそごめんだよ。


「あーそれ、私も聞きたかったんです。舌打ちしてたし、もしかして仲悪かったんですか?」


 うーん、泉美が真面目モードだ。いきなりそれ聞いちゃうとか、ちょっと怖い。


「そんなことないさ。仲良くさせてもらっていたほうだと思うよ。あの人面倒見が良くてね、僕もよくお世話になったよ。そりゃ高橋先輩のことでは思うところもあるけど、基本的には嫌いじゃないし、二人のことは認めているよ」


 ふーん、潔いんだな。でも舌打ちはするぞと。


「それでペテン師のことだけどね、小森先輩って、一時そういうあだ名が付いていたんだよ。何故だか分かるかい?」

 

 何でそこでオレに振る? でもここはのるしかないんだろうな。


「もしかして高橋先輩を騙してモノにしたとか、そんな理由じゃないっすよね」


 もはや邪推としか言えない憶測を口にしてみる。と同時に思いっきり吹き出した桜田先輩。


「騙しただって? そりゃいい。あの魔女が騙されるところは一度見てみたいものだよ」


 そこまで笑わなくても……。

 目の前で映子と泉美も冷たい視線を送ってくるし。そう思っちゃったんだからしょうがないだろ。くぅ、言うんじゃなかった。

 

「これは聞いただけなんで真偽のほどは定かじゃないんだけど……」


 お、何か真面目っぽい語り出し。


「一年くらい前のことなんだけどね、昼休みに、ある二年生の女子が三年生の教室に乗り込んだんだそうだ。そして教室の真ん中で上級生相手に堂々と告白したんだって。寝ていた上級生の胸ぐら掴んで引き摺り起こしたとか、いきなり平手打ちしたとか、まぁ色々な尾ひれがついているけど」


「えっと、それってもしかして?」


「さぁ? そこは君達の想像に任せるよ。そういうことがあったんだよって話。でも、その上級生って、けっしてモテるタイプじゃなかったんだよ、いい人ではあるんだけどね。二年生の女子のほうも、何かの罰ゲームでやらされているわけでもなさそうでね。でさ、その場で上級生もOKの返事して目出度くカップル成立。普通あり得ないでしょ、そんなこと。だから何か弱みを握ったのかとか催眠術でもかけたのかとか、散々いじられてその挙句、ペテン師と呼ばれるようになったんだってさ」


 えっと、今の内容を整理すると、先輩が二年生の時にあのオッサンに告ったと。しかも教室のど真ん中で?

 ……やるかそんなこと! 変だ変だと思っていたら、そこまでだったのか。想定外というか規格外過ぎるだろ。 


「その二年生女子もね「教室の中心で愛を叫んだけもの」とか言われたみたいだよ」


「ハーラン・エリスンですか?」


「さすが文芸部だね、先ずそっちが出るとは」


 アニメじゃないのか?

 聞くと、どうやら「世界の中心で愛を叫んだけもの」という小説があって、そのタイトルをパクった映画やアニメが流行ったらしい。


「だから本は読んだことなくても、タイトルだけは知っているって人が多いの」


 うーん、泉美って博識。面白いのかって聞いたら、苦笑いしていたけどどうしてだろう。


「あーでも、ピッタリかも知れないですね、あの世界観」


「君もなかなかひどい」


 二人は笑い合っているんだが、こっちはちょっと話についていけないぞ。とか思っていたら映子もポカン。同士よ。

 うーむ、ピッタリという言葉から推測するに、狂気が凶器になって驚喜しちゃうような話なんだろう、うん。

 さて、謎に包まれた過去を一つ知ったわけなんだが、先輩がとんでもない人だという認識が深まっただけのような気がするな。まぁ元々オレの手に負える人ではないのは承知しているが。


「それで今日はどうして私たちを誘ってくれたんですか」


 泉美の質問に映子もうんうんと頷いている。いや、スプーンは口から出しなさいって。かわいいからいいんだけど。


「ああ、再度告白しようと思ってね。でもそうしたら小森先輩が来てるっていうじゃないか。自分の間に悪さに嫌気がさしてね、ヤケパフェに付き合ってもらったわけだよ」


「えっ、そうだったんですか」

 

 映子さん、何でそこで身を乗り出すの? 


「冗談だけどね」


 で、そこでコケるとか、お約束過ぎるっしょ。


「で、本当のところはどうなんです?」


 食い付かなかった泉美は真面目な顔で詰問調。


「やだなぁ、そんな怖い顔をしないでくれないか。あわよくばという気持ちは本当だったんだよ。でもまぁ、一番の理由は今までのお返しというかお礼でね」


「お返し?」


「前に何度か奢ってもらったことがあるんだ。なんだかんだで結構な金額でさ、出す出すって言っても聞き入れてもらえなくて、いつも気になっていたんだ。で、今日はその分もまとめてお返ししようかと思ってさ、帰りにケーキでもと誘いに来たわけ。でもそうなると怖いのは、あの尋常じゃない胃袋でね。消化能力がブラックホール並みだから」

 

「そんなになんですか?」


「僕の倍は平気で平らげるからね。今君達の食べたケーキなら三つや四つはあっという間じゃないかな。だからどんなに頼もうが平気なように万札用意してあるよ」


 うーん、簡単に想像できるのが怖い。ケーキは飲み物と言いそうだ。


「とまぁ、これも冗談だけどね」


 カクッ。今度はオレまでコケてしまった。どこからどこまでが冗談なんだ? この人も結構性質(たち)が悪いな。


「桜田せんぱーい」


 泉美が残り一口分のケーキにフォークを突き立てた。笑顔が怖い。映子なんてプイッと横を向いてしまっているし。


「あーごめんごめん。どうも対先輩モードに入っちゃてて切り替えが出来ていないんだ」


 対先輩モードってのが笑える。確かにそのくらいの気構えしなくちゃ渡り合えないやね。 


「で、ここからは真面目な話。実はね、今日は先輩に会いに行ったんじゃないんだ。本当に話がしたかったのは……」


とそこで、揶揄われてふくれっ面をしている映子に顔を向ける桜田先輩。

 何、まさか!


「新開さん、君に話があって来たんだよ」


 なぁにぃっ!


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