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図書室と先輩~ネオ!~  作者: にま
彼の疾走、彼女の追走
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その2 彼女はがっつきます。

 なんだかなぁ。

 いつものように芳樹君にひっついて図書室に行くと、先輩に「おいでおいで」と手招きをされてそのまま司書室で女子会をすることになってしまった。当然芳樹君はメンバーから外れ、一人で当番。

 今日は泉美を先輩に押し付けて、もしくは先輩を泉美に押し付けて、芳樹君と二人でカウンター……と目論んでいたのだけれど、早速挫折。ワタシの青春を返せ。

 先輩と話すのは楽しいしから、まぁいいんだけど。

 ……。

 とは言うものの、やっぱりもっと芳樹君と一緒にいたい。二人きりになりたい。これってがっつぎ過っぎ? 

 でもこの頃二人きりになる機会がないんだもの。教室では泉美がいるし、ここに来れば先輩がいるし……。

 ってあれ? そもそも二人きりってシチュエーション、今までにあったっけ?

 えーと……、うそ、高校に入ってから……全然ない?

 初めてここに来た時に一緒だったけど、そんなのカウント出来ないよ。

 あ、ダメ。なんだかガーン。

 しかも来週からはバスケ部に出るっていうし、こうやって一緒に図書室に来ることもなくなっちゃうんだよね。

 あ、今度はズーン。はぁ……。


「そんな顔しないで、新開さん。気持ちは分かるけど、いつも教室でべったりくっついているんでしょ」


 顔に出ていたのか先輩がありもしない「いつも」でワタシを諌めてくる。


「あ、せんぱーい。映子ちゃん、この頃大人しいんですよー。あまり表立ったマネはしてないですー」


「えっ、そうなの? てっきり休み時間は、寺山君の膝に乗って、ウフンってやっていると思ってた」


 ちょっ、先輩ってばウフンって何!


「でも、ヤバさが際立ってきたので、友人としては心配しているんですー」


 ちょっと泉美もやめてよね、もぉ。


「映子ちゃん、この頃席着く度に、芳樹君に顔近づけて匂い嗅いでいるんですよー」


 げっ!


「それでトリップしちゃっているんですよー、ヤバいと思いません?」


「なるほど、新開さんはそっち系の変態さんだったか」


 やめてぇー! 


「ワタシはトリップなんかしていないし、変態じゃありません。ベタベタひっつくのも迷惑かなだし、それに芳樹君って何だかいい匂いして、落ち着くっていうか幸せな気分になれるんです!」


 あ……。


「それトリップって言うわよね、普通」

「ほぼ変態ですよねー」


 あー、変態トリップ娘の称号が確定。

 芳樹君の匂いが気に入ってしまったワタシ。でも教室で抱き付くわけにもいかないから、さんざん考えた末に、席に着くときは必ず芳樹君側からにして、わざとらしくないように顔を近づけて、その匂いを堪能するようになったのだ。それほど無理な体勢にはならないし、そんなことをしているとは誰も思っていないだろう。ワタシのひそかな楽しみだったのに、まさか気付かれていたとは……。 

 

「あ、このこと秘密だからね、泉美。絶対黙っててよ。こんなこと知られたらドン引きされちゃう。先輩もお願いします。この通り」


 ワタシは今までの人生で最も力のこもったお辞儀を披露。しかし先輩は、そんなワタシの肩を軽く叩きながら、こともなげにこう言い放った。


「あら、いいんじゃない、ドン引きされたって。引く余地がないところまで追い詰めればいいだけのことでしょ」


 あ、なるほど!

 その言葉に、目から鱗とはこのことか! と危うく真に受けそうになったワタシ。

 けれど、泉美はそんなワタシを見て口元をヒクヒクさせていて、ついには目を背けて体を震わせる始末。先輩なんて、腹を抱えてうずくまってしまうし……。


 フンだ!


 フンだ、フンだ!


 フーンだ! 


「大丈夫だよー、言ったりしないからー。それに男の匂いフェチに比べれば、女の子の場合はそんなに変態扱いされないからー」


 いじけて顔を真っ赤にしながら机に突っ伏しているワタシに向かって、泉美の微妙なフォローが入る。


「肉食女子だもの。それくらいは当然よね」


 先輩のはすでにフォローではない。せめて「系」くらい入れて欲しい。ワタシは野菜だって好きなんです! 何が野菜かって聞かれたら困るけど。  

 とその時だった。図書室から聞き慣れない大きな声が響いた。


「おお、我が懐かしの図書室よ。相も変らぬ閑古鳥のお迎え痛み入る。……ってあれ?」


 この時の先輩の顔は印象的だった。

 ワタシのことを生ぬるい目で見てくれていたかと思うと、その声に即座に反応して、こちらがびっくりするほどのスピードで図書室を振り返ったのだ。そして弾かれたように司書室を飛び出し、ドアのところで立ち尽くしたかと思うと、その姿を一瞬にしてかき消した。

 えっ、何? どうしたの?

 呆気に取られて後を追うとそこでは、両手を広げた先輩が……なんと宙を飛んでいた。


「せんぱーい!」


 そのシーンに合わせるように、先輩の声にドップラー効果がかかる。錯覚だとは思うけれど、そう感じたのだから仕方がない。

 先輩の体が、まるでスローモーションのように着地点へと吸い込まれていく。


「せんぱーい、せんぱーい」


 その着地点というのは、会ったことのない大きな男の人。誰?

 ……。

 うわぁ、先輩ったら!

 手はその男の人の頭と顔をがっしりホールド。足は胸当たりを挟んでいる。そして、これでもかと頭に頬ずり。

 しかも、なんて嬉しそうな顔。こんな先輩は初めて。


「こらこら。場所をわきまえなさいて」


「いやですー。ひと月も放っておかれたんですからわきまえませーん」


 あーそういうこと。会話から察するに、この人は先輩のカレシということね。ひと月ぶりに会ったから、はっちゃけたと……。

 でも先輩、ずるくないですか、それ。この前、ワタシに不埒なマネするなって言っていたじゃないですか。


「はいはい、ごめんよ。この頃ちょっと忙しくてな」


 優しそうな声。そして大きな手が先輩の背を撫でている。なんだかちょっと羨まし。いいなぁあれ。

 って……、うわぁ!

 ふと見ると、世界が終わったみたいな顔になっている芳樹君。

 あーあー、目出度く失恋確定。ちょっとかわいそうかな。

 うーん、なんか複雑。


「先輩、その方は?」


 声も出せなくなっている芳樹君の代わりに聞いてみる。分かってはいるけれど、一応念の為。だいたい、このままだとキスとかしかねないしね。

 ワタシの声でようやく降りてくれた先輩が、緩み切っているその顔を隠そうとしないのがまぁなんとも……。


「あ、ごめんなさい。紹介するわね。私のご主人様よ」


 ご主人様って何、ご主人様って? いつからここはメイド喫茶になったんですか。

 すると男性が少し苦笑気味に先輩を注意する。

 

「こらこら、そういうのはやめれっていつも言ってるだろ。あー、小森と言います。この学校ここの卒業生で元図書委員です。関先生に挨拶しようと寄らせてもらいました。で、こいつの……」


 そう言いながら、とても自然な仕草で先輩の頭に手を置いて優しく撫でた。先輩は先輩で、それを嬉しそうに受け止めている。ゴロニャンとか言いそうだ。「こいつ」という言葉が少し…、ううん、とっても羨ましい。なんだかキュンときた。


「まぁ、そんなところかな。いわゆるカレシです」


 ドキューン! ヤダ、カッコいい。

 はにかみながらも胡麻化さずにそう言った言葉にときめいてしまった。

 ワタシもいつかこんなふうに言われてみたい。もちろん芳樹君に。

 そして、むふふーんと鼻を鳴らしがら、ワタシに言ったセリフを忘れたかのように抱きつく先輩。ちょっと文句の一つでもと一瞬考えたのだけれど、そのデレ顔を見ていたらそれもどうでもよくなってしまった。

 ま、先輩も女の子ってことで、大目に見てあげますか。

 それに、この男の人、イケメンってわけじゃないけれど、今の様子を見ていただけでも優しい人って感じがして、ワタシ的には好印象。雰囲気が柔らかいとでも言うのかな。

 背は芳樹君より高くて、なによりがっしりとしている。柔道とかラグビーやっているって言われたら信じちゃいそうなくらい。

 年は……、最初社会人かと思ったけれど、良く見たらそんなにいってなさそう。もしかしたら大学生かな?


「こら、寺山君。今失礼なこと考えているでしょ。言っておくけど、先輩は私の一つ上よ」


 芳樹君てばもう……。どうせ、なんだこのオッサン、みたいなこと考えていたんだろうな。

 先輩の一つ上、ということは十九歳? うーん、二十歳は過ぎているだろうと思っていたワタシも失礼になっちゃうかな?


「関先生はちょっと席を外していますけど、すぐ戻りますから」


 頤をそらして相手を見上げる先輩が、とてもかわいくらしく見えてしまって……。うん、やっぱりずるいわ、この人。

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