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図書室と先輩~ネオ!~  作者: にま
彼の欠点、彼女の短所
80/102

その36 彼女は喚きます。

「あら、昨日はちゃんとお持ち帰りした?」


 言葉は芳樹君に向けているけど、視線はワタシ達。

 これ絶対分かってて聞いているわよね。だって、口元がヒクヒクしていて今にも「イーヒッヒッ」て笑い出しそう。

 これはこれで嵌められた感がハンパないけれど、その思惑通りの結果を出してしまう自分も情けない。腹立たしいやら恥ずかしいやら。


「んなこと出来るわけないでしょ!」


 それに対し芳樹君の反論は少しきつめの口調。そこでワタシはちょっとムカッ! 

 ちょっと待って! 出来ないわけを教えてほしいんだけど。こっちはその気になっていたんだから、問題ないでしょ。

 もう、こうなったら……。

 

「先輩、聞いてください! 昨日あれからどうなっと思います? 芳樹君たらお持ち帰りしてくれるどころかワタシ達を置いてけぼりにしてさっさと帰っちゃったんですよ。女の子に恥をかかせるなんて酷くありません? 先輩からも何か言ってやってください!」

 

 先輩にも言いたいことはあるのだけれど、その矛先を向けるわけにはいかない。お膳立てを整えてくれたと言えば言えるし、それを活かし切れなかったのは自分の詰めが甘かったせい。

 となると糾弾すべきは、やっぱり乙女の純情を踏みにじってくれた芳樹君になるわけで。 

 まあ実際はそんなに怒っているわけではない。何しろ、昨日はそれすらかすんでしまうような衝撃的なこともあったし、さっきはさっきで……。

 言葉にしたらまたムカムカしてきたけれど。

 

「そうだそうだー」


 泉美も続いて「イーッだ!」とやっている。

 あ、逆効果だったみたい。何よその顔? ちょっと嬉しそうにしたでしょ。まったくもう!

 男の子の家に行くなんて初めてのことだったから、勝手に期待してソワソワドキドキしていた。

 もしお母さんがいたら、どう挨拶しようとか?

 お約束のベッドの下とか中身が違うDVDを探してみたりとか?

 ワタシは芳樹君の私生活というものを全くと言っていいほどに知らない。だから、もう一歩踏み込むためのきっかけが欲しかったワタシにとっては、昨日の「お持ち帰り案」は実に魅力的だったのだ。

 それなのに……。

 

 昨日「じゃあお持ち帰りよろしく」と靴を履き替えていた背中に声を掛けると、こともあろうかビクッと体を震わせて引きつったような顔で振り向いた。

 冗談だと思っていたみたいで、それからは「いやいやそれは……」「何でよ!」と煮え切らない芳樹君と押し問答。

 少しばかりイライラしてしまったワタシは、これまた悪い癖で居丈高。


「何よ、見られたら困るような部屋なの?」

「こんな美少女二人を連れ込めるなんてラッキーだと思わない?」

「大丈夫よ、別に何もしないから!」


 などと、今考えれば自分でも引いてしまうようなセリフを連発してしまい、その強引さが裏目に出たのか、結局はまるで逃げるようにして帰られてしまった。

 自転車で走り去る背中に向かって、ワタシはまさに言葉にならない心の叫び。

「くぁwせdrftgyふじこlp」

 結構目にするネットスラングが、意外と心情を的確に表現しているものだと痛感した。ここまでくると叫びというより喚きに近いなと、どこか冷静に思ったりしたものだけれど。

 そして、追っていこうかと一瞬迷ったところで、泉美から手痛い一言。


「映子ちゃーん、がっつき過ぎー」 

  

「がっつくって何よ。思い立ったが吉日って言うじゃない。勢いも大事でしょ。だいたい、何一人で余裕ぶっているのよ、行きたくなかったの?」


 八つ当たりまがいに睨みつけると、泉美は残念そうな素振りなど一切見せずに、それどころか含み笑いを返してきた。

 

「押しかけも悪くないんだけど、出来ればお呼ばれが理想かなー。それに別に今日じゃなくても、家にはいつでも行けるしねー」


「それはワタシだって……」


 お呼ばれされたいわよと続けようとしたのだけれど、後半のセリフに引っ掛かった。


「いつでも行ける?」


 同じ中学校出身のワタシですら、住所は知っているもののだいたいあそこらへんという程度の認識しかない。遠方の他学区だった泉美が芳樹君の家を知っているとは考えにくい。

 しかし、それを言うと泉美はこともなげにも「えっ、知ってるよ」と返してきた。 


「ちょっとぉ、何であんたが芳樹君()を知っているのよ」


「うーんとねー、中3の時ちょっと尾行したから?」


「はぁ?」

 

 それからは頭がクラクラしっぱなし。

 泉美が話し出したのは、球技大会の時に聞きそびれた壁ドンのこと。それを聞くために図書室で女子会をしようとしたはいいけれど、いろいろあってそのままうやむやになっていたんだっけ。

 それを聞いているうちに、ワタシは泉美に対する人物評価がまだまだ甘かったことを知る。ここまで斜め上をかっ飛んでいたとは思いもしなかった。

 

「ほら、練習試合とかするでしょ。で、ウチにも来たの芳樹君。その時友達に誘われて見に行ってたんだー」


 練習試合で芳樹君が泉美の中学に行ったまでは理解できる。でも……。


「で、どこをどうしたら壁ドンに発展するわけ?」


「いやだー、映子ちゃん、顔が怖いよー。もうちょっと落ち着いてー」


 眉間に力が入っているのが自分でもわかる。一度ほぐすようになでてから軽く深呼吸。落ち着けワタシ。すぐいきり立っちゃうのが悪いところ。泉美や先輩相手にはこれは弱点にしかならない。


「コート横で見ていたらねー、ボールがワタシのほうに転がってきて、それを取ろうとした選手がいてねー。ギリギリでボールを中に戻したんだけど、勢い余ってワタシにぶつかりそうになったのー。ほら、中学の体育館って狭いじゃない。コートから壁までちょっとしかないからー」


「へぇ、それが芳樹君だったってわけだ」


「もう少しでキスしちゃうところだったよー。ごめんねって言ってくれた時の顔がねー、とっても素敵でキュンとしちゃったー」


 その時のことを思い出しているのか、泉美は少し上を向いて頬を赤らめている。なんてうらやま悔しい。


「初壁ドン、それが芳樹君との出会いだよー。それでずっと試合を見ていたんだけど、芳樹君だけレベルが違ってて凄かったんだよー。何本もシュート決めてね、とてもカッコ良かったんだー。後で顧問の先生に聞いたら、違う学校の生徒のことなのに全国クラスだって絶賛してたー」


 そこまで? じゃあなおさらケガしてバスケできなくなったのってショックだったんだろうな。


「ケガのこと知っていたのは?」


 ワタシが知らないでいたケガのこと。少し考え込むように話し出した顔はやはり曇っていた。


「大会でケガした時、ウチの中学が隣のコートで試合してたの。同じクラスにね、バスケ部の男子がいて、大会の結果とか聞いていたらその話も出てね。かなり酷かったらしいんだ、歩けなかったっていうくらいだから」


 さすがにこの内容では語尾を延ばさない。この使い分けの器用さは見習うところがあるのかもしれない。ワタシには無理そうだけど。


「でもケガの具合まで良く知っていたものね。実際はたいしたことがなかったかもしれないじゃない?」


 そこがわからない。なぜあそこまで詳しく知っていたのか。


「だって電話してお父さんから直接聞いたもの」


「はっ? 何で家の番号知っているのよ」


「学区で探したら寺山って家、二軒しかなかったから。古い電話帳だったけど載っていたよ」


 こともなげに言う泉美。普通そんなことしないでしょ、と言いそうになったが、そうだった、泉美も先輩と同じく普通という枠には入らない子だった。


「どうやって切り出したの? そんな事細かに教えてくれるとは思えないんだけど」


「バスケ部のマネージャーのフリした。部活の顧問の先生なのかな? 何度か連絡入れていたみたいで結構すんなり聞き出せたよ。そしたらやっぱり靭帯損傷だった。それ以上のことは聞かなかったけど」


「中学の部活でマネージャーなんてないでしょ。それにしても……」


 一目惚れしたとはいえそこまでやるか? というのが第一感。

 でも迷いもなくそれをやってしまう子もいる。それが泉美ということだ。ワタシだったらまず考えもつかないし、仮に思い付いたとしても実行する勇気もない。

 呆れると同時に負けたという気持ちが強くなる。そしてわき上がってくるのはおそらく嫉妬。


「あの時の私って舞い上がっていたというか、ちょっと危なかったって自分でも思うんだよねー」


「で、ストーカーになっちゃったと?」


「学校から出てくるの待って家までつけただけだよー」


 口調が元に戻る。おそらくは泉美は泉美なりに場の空気に合わせているのだろう。


「だけって何よ。まったく、あんたが犯罪者予備軍だとは知らなかったわ」 


「でも一回だけだしー。その後は何もしてないしー」


 されたら困る! 眩暈どころか頭痛までしてきたわ。

 でも嫉妬もあるけど素直に感心もできる。尊敬に近いくらい。


「その後はねー、結局何もなかったー、しなかったー。三年生だったしねー、受験のこととか色々あって自然にねー」


「この高校に入ったのって芳樹君を追ってきたとか?」


「まさかー。これはホント偶然だよー。でも同じクラスになれて運命感じちゃったー」


 何で芳樹君を好きになったのかが分からなかったけど、なるほど。

 あっ! 嫌なことに思い至った。


「ワタシに声掛けてきたのってもしかして?」


「正直に言えばそれもあるかなー。でも友達になりたかったのは本当。映子ちゃんとは気が合いそうって思ったしー」


 本当に正直だ。芳樹君近づくためにまずワタシに目を付けたということ。将を射んと欲すればってやつよね。

 ……ワタシは馬か!

 でも不思議と腹も立たない。何だろうね、これは。

 まったくワタシはとんでもない子と友達になってしまったものだ。



 で、今日。お持ち帰りしてくれなかった芳樹君には、そのお礼として休み時間のたびにネチネチチクチク攻撃。「今日の下着おニューなの。セクシー系だよ。見せたげるね」などと煽ってみたり。

 泉美は泉美で「一緒にシャワー浴びよ」などと言ってるし。

 今までのこともあるからクラスの皆もわかっているはずだけど、これでダメ押し。芳樹君の困り顔も見られたことだしちょっとスカッとした。


 

「あらあら、据え膳食わぬはって言葉もあるのにねぇ」


 そう、その通り! もっと言ってやってください。

  

「で、先生のところには行った?」


 もっと畳み掛けてくれるかと思ったけれど、そこで先輩はワタシ達の不満顔を口元の笑みでスルーし、いきなり核心ともいえる話題に方向転換。

 こうなると、いつまでも昨日の一件をしつこく言い募るのも上手い作戦とは言えない。

 もっともそんなつもりはない。なぜならバスケ部顧問の先生と話をして職員室から出てきた芳樹君の顔を見た時に、そんなことはどうでもいいとさえ思ってしまったのだから。

 職員室に一礼してドアを閉めた芳樹君が振り向いた時、正直驚いてしまった。

 何かが違った。いつもけだるそうな、つまらなそうな、そんな雰囲気を醸し出していたのが一変していた。ぼやけていた輪郭が、引き締まってはっきりとしたような……。無理矢理言葉で形容するならそんな感じ。

 ああ、決めたのね……。

 かつて好きになった、そしていつの頃からか見ることが出来なくなっていたあの顔。

 どんな言葉を掛けていいのか掛けるべきなのか、咄嗟には分からかった。

 他人にも聞こえてしまいそうに高鳴る鼓動。おそらく紅潮しているであろう頬。それを悟られたくなくて

泉美と一緒に先を歩き始めたのだけれど、全神経は背後からついてくる芳樹君にばかり向けていた。

 ちょっとズル過ぎだよ、あんな顔見せるなんて。これ以上好きにさせてどうするつもりよ。

「好き」に上限はないんだなって、ふとそんなことを思ったりしたけど、ちょっと恥ずかしいかられは内緒。


 

「じゃあ手術するかどうかはまだわからないと言うことね」


「そうっすね。一度ちゃんと診てもらってからっす。ただ前に診てもらった医者には手術しないと治らないって言われているんで、多分……」 

 

「バスケはどうするの? それからじゃレギュラーは難しいでしょ」


「経過次第ですけどね、でもたとえ試合に出れなくてもバスケは好きっすから」


 そう、芳樹君はバスケが好き。この言葉を聞けただけでも、ワタシはもう十分。

 ワタシ達では聞き出せないであろうことを、先輩が上手に誘導してくれている。本当にありがたい。


「そう、自分で納得しているのならそれでいいわ。余計なお世話だったわね、ごめんなさい」


 先輩が自身の行為を出過ぎたものだと謝罪した。先輩には先輩の思うところがあるのだろうけれど、ことこの一件に関しては、第一功労者が先輩であったことは泉美も認識を同じくすると思う。

 ワタシ達は、結局芳樹君が前を向くために何の尽力もせず、傍観者の位置に留まっていたのだ。芳樹君の心境の変化にワタシ達、いいえワタシは何も影響を与えていない。悔しいけれど、寂しいけれど。

 

「いえ、そんなことないです。先輩には本当に感謝しています。ありがとうございました」


 あ、これ本音だ、とそう感じたのは決して勘違いなどではないだろう。

 

「ま、何にしろ良かったわ。これで寺山君は引きこもりにならずに済むというわけね」


 ……あれ、寺山君? どうしたんだろう、苗字呼びに戻っている。


「だから引きこもってないすよ。って呼び捨てはやめにしてくれたんすか?」


 違和感という程でもないけれど、それはワタシも気になった。


「お姉さんの役目はもう終わったからね。元々気分的なものでもあったし。なーに、そのまま芳樹って呼んでほしかった? 私は別に構わないのよ」


 ここで先輩が目配せ一つ。ワタシにも泉美にも。

 ふんわりと柔らかくなった雰囲気に、ワタシは今の言葉が決して揶揄うためのものではないことを感じ取った。

 

「いえ、先輩にお任せしますよ。オレはどっちでも」


 顔に残念て書いてあるけど、それは言っても否定するだろうな。


「じゃあ、よっくん? うーん、よっちゃんのほうがかわいいかな?」


 あ、それはいいかも。そう呼ばれて照れる芳樹君を見てみたい。


「さて二人とも、そういうことで寺山君は自分の殻から一歩踏み出したわ。これに免じて昨日の件は水に流してあげたら?」


 ああやっぱり。

 真の思惑がどうであったのかは分からない。けれど先輩は本当に姉的な役割を演じてくれていたのだ。芳樹君を前に向かせるために。

 それに気付いた気付いた時、ワタシはまた先輩に対する尊敬の念を新たにした。


「だいたいね、セックスなんて今すぐしなくちゃいけないってものじゃないでしょ。まだ高校生なんだし、しばらくは三人とも一人エッチで済ませておくことね」


 前言撤回。ワタシの尊敬を返せ!

 先輩はやっぱりワタシ達を揶揄うことを主目的としているみたい。

 そういう単語を何の恥じらいもなく口に出すとかやめてください。嫌悪の念を割り増しにしますよ?

 でも言っていることは至極まっとうなことなので、ここは素直に従うべきか。


 「先輩がそう言うなら……」

 「ちょっとざんねーん」

 

 とは言え、一人エッチより二人エッチに興味津々年頃乙女としては、早々諦められるわけもなく。

 

「あ、でもその気になったら声掛けてね。ワタシはいつでも持ち帰りOKだから」


 出来ればなるべく早くね。


「おっぱいだったらいつでもいいよー。今日もノーブラだしー」


 泉美ってば、そのおっぱい攻撃はやめなさいって。卑怯よ、それ。

 ……。

 ふふ、おかしい。またあたふたしてる。

 この表情もかわいいけれど、でも今日の一番はやっぱりさっきの顔かな。男の子って何か決意するとあんな顔になるんだね。

 今もドキドキは続いている。

 芳樹君は決意した。ならワタシは?

 結局今回ワタシ達は何もしていない。逆に傷付けるようなマネばかりしていた。

 でもこんなワタシだって出来ることはある。だから……。

 ふと見ると、先輩がワタシ達を順に指差してきた。あなた達の番よ、と優しそうな表情でワタシ達を促している。

 ふう、やっぱり敵わないな。でもありがとうございます。 


「あのね……」


 こういうのって勇気がいるよね。でも本心だからこそ、自分の言葉で伝えなければ意味がない。がんばれワタシ!


「ほら、また上から目線って言われちゃうかもしれないけど、ワタシなりに心配していたんだ、ケガのこと。だからまたバスケやる気になってくれてとても嬉しい。結局ワタシは何の役にも立てなかったけど」


 あれだけエロネタ振っていたというのに、でもそれだからこそか余計に恥ずかしくなってしまって最後のほうは尻つぼみ。顔も熱くなっている。うぅ、ワタシってここ一番って時にヘタレ。

 ワタシが俯くと同時に今度は泉美。


「芳樹君、今とってもいい顔してる。私も心配してたんだ。でももう大丈夫だね。本当に嬉しい」


 ずるいなあ泉美ったら。別人じゃん、何よそのカッコ良さ。

 そして逡巡することなくワタシの手を引いてきた。

 ワタシはその手に勇気付けられるように一歩進み出て、泉美と声を合わせた。


 「「だから」」


 職員室前で待っていた時、二人で決めた今後のこと。


「「応援するね!」」


  


 

 ワタシ達は今、司書室で女子会をしている。泉美の壁ドン告白をベースに、ワタシ&先輩VS泉美、先輩&泉美VSワタシと、敵味方を入れ替えしながら恋バナを咲かせている。それぞれに自分が知っている芳樹君を肴にしてジュース&お菓子で盛り上がっているところ。 


 肝心の芳樹君はと言うと……。

 ワタシ達のエールに、顔を一瞬クシャッとさせ俯いたかと思うと、少し体を震わせて涙を零し始めた。

 それを見てワタシの胸キュンは最高潮。そのまま抱き付きたくなっちゃったけれど、なんとかこらえた。隣の泉美もウズウズしていたけれど、互いにつないだ手で強く握り合うことで意思疎通。

 落ち着いた芳樹君が顔を上げたのは一分後くらい。

 鼻をすすり深呼吸をした後、ワタシ達に向かって言ってくれた言葉は、聞きづらかったけれどそれは確かに「ありがとう」と聞こえた。

 最高潮がさらにヒートアップして、ワタシはまた泉美と声を合わせたのだった。


「「うん!」」




 そして……。


「じゃあ、カウンターは泣き虫よっちゃんに任せて、私たちは女子会しましょ」


と先輩に新しい名前を授けられた芳樹君をカウンターに残し、念願の女子会を執り行う運びになったのだった。

 

「先輩、さすがにそれは……」


 強引な改名に弱々しく抗議する芳樹君。でもかわいそうかな、それが通じる相手ではなく。


「べそかきよっくんとどっちがいい?」


 そう返されて屈服。先輩に向ける恨みがましい視線もなんだかおかしくて。




「あれ、なんだかウーウー唸っている子がいるわね」


 カウンターを覗きながら先輩。


「あー、泣き虫よっちゃんはいつもあんなです」


とワタシ。


「べそかきよっくんですからー」


と泉美。

 そして三人顔を見合わせ、プッと噴き出して「イーヒッヒッ!」

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