その34 彼女は蕩けます。
「ダメよ、二人とも、そんなことしちゃ」
仲良くなったのはおそらくその時のことがきっかけだったんだろう。
こう言っては何だけど、高校生になってからの芳樹君はいつもぐーたらしてるし、ちょっとおちゃらけキャラっぽくなっているしで、品行方正、質実剛健的な田島君とどうして? と思っていた。まぁ男の子同士で何か通じるものがあるんだろうと、あまり深くは考えなかったのだけれど、この状況ではもっと知りたいと好奇心が疼くのは当然よね。泉美もウズウズを隠しきれていない。
けれどそんなワタシ達を咎めるように先輩が横槍を入れて来た。
「「えー、どうしてですかー?」」
知りたいと思うのが人情というものじゃありません?
「男の子同士の秘密に女の子が無神経に踏み込んではいけないわ。あなた達だって芳樹には知られたくない内緒ごとがあるでしょ。それと同じ。だから根掘り葉掘り聞くようなマネはダーメ」
うっ、それは確かに。逆の立場で考えれば、聞かせられない内容のことばかり。首を突っ込んできたら、即ギロチン刑に処するしかない。
ガールズトークのえげつなさを知られて愛想をつかされるのも困りもの。ここは先輩の言う通りにしたほうが得策かしら。
「例えば田島君にそれを聞くでしょ。すると壁に耳ありで誰かが聞きつける。で、その誰かさんがそれをネタに芳樹をイジル。そうしたらどうなると思う? 芳樹は打たれ弱いからさっきみたいにキレちゃうかも知れない。それはあなた達だって嫌でしょ」
さっきの芳樹君は本当に怖かった。もしクラスであんな風になられたら……、うん、やだ。ワタシじゃ止められないし。
それに多分、田島君も胸にしまっているのだろう。そこへワタシ達が興味本位で聞いてしまえば、その気遣いを無碍にすることになる。気が緩んでポロッと誰かに漏らしてしまうことも考えられる。
「それは……嫌ですね、イジられるのもキレられるのも」
「芳樹君がキレたら怖ーい」
何より、そういう話題で芳樹君がイジられるのにワタシは耐えられない。イジった人を許せなくなるだろう。
それにそのことが原因で田島君と仲違いしてしまったら……。
「そういうことでね、その件についてはもう追求しないこと。いーい?」
「「はーい」」
これは素直に納得出来た。こんな感じで諭されるのは意外だったけれど。
大所高所からの意見とでも言えばいいのかな。結局なんだかんだ言いながら、先輩も芳樹君のことが心配なのね。
と、先輩がここでぼそっと呟いた。
「だいたい、そんなことになったら私の楽しみが減るじゃない」
ぷっ。聞こえましたよ先輩。でもそれ本音じゃないでしょ。
あら、珍しく芳樹くんが睨んでいる。けれど……、テヘペロで軽く受け流す先輩。ズルかわいいとはこういうことね。
うーん、役者が違い過ぎる。毒気を抜かれているのがアリアリ。
「さて、詳細はどうあれ、今日私達はある事実を知ったわ。それは?」
あいかわらずゴーイングマイレールな人だ。暴走機関車よろしく、芳樹君のささやかな抵抗を弾き飛ばしている。
「えっと、芳樹君が夜中に泣きながらバスケをしていた?」
「その時会った田島君と仲良くなった?」
先輩に問われ、先程の話を思い出す。泣きながらの夜中のバスケ。
あーダメだ。涙出ちゃいそう。ギャップ萌えっていうのかな、キュン死しちゃう。
「で、本人とその田島君を除けば、これを知っているのは?」
「ワタシ……」
「達、ですか?」
芳樹君のことを知っているつもりになっていた。けれど実際は何も知らなかったと同じ。今日このことを知ることができたのは大きい。
「そ、私達だけ。この意味は分かるわね」
「だけ」を強調した真意、おそらくワタシはそれを正確に読み取れたと思う。泉美もかすかに頷いていた。
「そうか、私達だけの秘密……」
「あー、何か特別な存在って感じするー」
他の子が知らない芳樹君のこと……。あ、ダメ、キューッて来た。
「私はともかく、あなたたちにとっては大事なことでしょ。そういうのは大切にしまっておくものよ」
そう、これは宝物。心の奥底が満たされていくような感覚。錯覚だとは思うけれど、温かさも体中に広がっていく。
「そうですね」
「異議なーし」
このことに関しては同意しない理由がない。
あれ、さっきもこんな返事してなかったっけ。ふふ、ちょっとおかしい。泉美も口元が緩んでいる。そればかりか少しソワソワしている。
と、ここで芳樹君が微妙な表情を浮かべているのに気付く。
あ、もしかしたらこのことでからかわれると思っているのかな。
「何、そんな顔して。大丈夫よ、この件であなたを脅したりからかったりはしないから。お姉さん的には凄く感動しているのよ。一人で練習を続けていたなんて、ホント泣けちゃったわ」
あ、先輩、それワタシが言いたかったです。
一字一句とまでは言わないけれど、それはほぼワタシの気持ちと一緒。
「早速からかってるじゃないすか。ホント勘弁してください」
あーダメ。何なの、このかわいらしさ。今すぐ抱きしめたい、ギューってしたい、とか思ったら……。
「そんなことないよー。私も涙出ちゃったもーん」
そう言いながら躊躇うこともなく芳樹君に抱きついたのは泉美。
「芳樹君、かわいい!」
あー泉美ぃ、ちょっとちょっと!
やられた。抜け駆けされた。目を閉じて芳樹君の頭に頬擦りをしている。胸もこれでもかと押し付けているし。
しかも、何ウットリしてるのよ。そんな顔初めて見るんだけどー?
あーあー、こんなところクラスの男子が見たら、芳樹君確実に殺されちゃう。
「んもう、ちょっと泉美ってば」
さっきは助けられたことだし、ここは仕方ないわね、許すことにしてあげる。でもこれでチャラにするからね。次はワタシが先なんだから。
「ごめーん。だって抑えられなくなっちゃってー」
うん、それは分かるよ。ワタシだってもう我慢できない。
「そうね。じゃあワタシも」
泉美は自分の心に素直に従っただけ。それならワタシもブレーキをかける必要はなかったのよね。
「ワタシもどうしようもないくらいキちゃってるの。だからちょっとお願い」
左側は泉美に取られちゃっているけど、なんの、まだ右半分が空いている。本当は正面から独り占め、というのがベストなんだけれど、ここは協定に従って仲良く半分ずつ。
お願いと言いつつ承諾を得ないまま、ワタシは芳樹君の右肩に顎を乗せるようにして体を寄せる。
ちょっとビクッとするところもかわいいな。
でもやっぱり男の子だね。思っていた以上にがっしりしている。少しごつごつした感じ、それがまた何とも言えずワタシのツボを刺激する。
いいわぁ、男の子の、いいえ芳樹君の体って。
自分がエッチであることは認めていたけど、ここまで来るとエロと言ったほうが正解かも。でも年頃なんだもの、これが普通よね。
しかも芳樹君の体臭が……。汗の匂いはするんだけど臭いってわけじゃなくて……、逆にいい匂い?
そう言えばテレビでやってたっけ。年頃の女の子が父親の匂いを毛嫌いするのは遺伝子に組み込まれた本能的なプログラムで、自分の血脈と遠いタイプには性的刺激を受けていい匂いに感じる云々って。うん、芳樹君は多分それ。エロスイッチ入っても当然なのよ。
あーいい匂い。脊髄あたりから蕩けてしまいそう。
「あら、じゃあ私も」
遺伝子レベルでの相性の良さ、これってお似合いってことよね。
そう悦に浸っていたところで年中無休でエロ全開な魔女がしゃしゃり出て来た。
忘れていませんよ、100点ハグのこと。先輩にはもう指一本触れさせたりするものですか!
「「先輩はダメです!」」
そう、今はワタシと泉美のターン。渡しませんよ、先輩相手でも泉美と二人で芳樹君を守ってみせます!
「えーそんなー。二人の意地悪ー」
そんな言葉とは裏腹に、分かっているわよと言わんばかりに笑みを浮かべている先輩。
ここは一歩引いてくれたと安心する場面? 安堵とともに拍子抜けもするけれど油断は禁物。この人は何を仕掛けてくるかわかったものじゃない。
「あの二人とも? もうそろそろ離してほしいんですが?」
ここは素直に喜んで欲しいんだけど、何でそんな困ったような表情を見せるかなぁ。出来れば前に置いたその手をそのままにしないで、ガッと抱き寄せてくれるとか、ねぇ泉美?
でもまぁ堪能させてもらったし、機会はいくらでもあるし、今日はこの辺にしておいたほうがいいのかしら?
「はいはい、二人とも、もう十分でしょ。続きは……、そうね、もう先生も帰ってくるだろし、書庫室は無理だから、芳樹の家でしてくれる? おっぱい揉ませようが吸わせようが好きにしていいわよ」
続き? もしかして先輩って天才? そうか、続きかぁ。
実はワタシもこのままじゃ収まりがつかないというか、不完全燃焼? とか思っていたんですよ。ここまで来てオアズケくらっちゃったら、欲求が不満して爆発しちゃいますよね。これはもう乗ります!
「「はーい、そうしまーす」」
芳樹君の部屋ってどうなんだろう。片付いているのかな? ベッドの下にエロ本が隠してあるとかありがちなパターンなのかな? まさか汚部屋なんてことはないよね。
何だかワクワクしてきちゃった。
あ、そう言えば一人っ子ってことは聞いたことあるんだけど、お母さんはこの時間いるのかな? 共働きでいないとかだったらしめたものよね。
漫画でよくあるパターン、いざコトに臨もうとしたらコンコン、お茶持ってきたわよーでガチャ! ってのは遠慮したいし。
そんな妄想をしつつ離れかけた時、何やらモゾモゾ動いた芳樹君。どうしたのかな? あ、ワタシ達がのしかかっていたからお尻痛くなっちゃったとか? そうだったらごめんね。
けれどそれは単なる勘違い。思っていた以上にワタシ達のアピールは成功していたみたい。
「芳樹ぃ、期待に胸を膨らませるのはいいんだけど、別のモノまで大きくしないでくれる?」
先輩の言葉に反射的に膝を閉じようとした芳樹君。
……。
あ、そうか、男の子だもんね。下半身は正直っていうやつ?
……。
うわぁ、ちょっといろいろヤバイんですけど。妄想に生々しさが加わったわ。
今のはそんなつもりじゃなかったけれど、結果的には色仕掛けしていたも同然?
うわうわっ! そうよねそうなるよね。
揉んだり吸ってもらったり……。当然それだけで済むわけないし行くところまで行っちゃうよね!
でも不思議。そう動揺しつつ、意外なほど平然とそれを受け止めている自分がいる。それどころか……。
先輩、期待に胸膨らませたのは実はワタシです。
そうよ、これってワタシ達に「女」を感じてくれたってことでしょ。男の子の生理現象的なものかもしれないけど、逆にそうなってもらえなかったら、女の沽券に関わる一大事だったってこと。
「うーん、元気元気。年頃の男の子だもんねー! 二人をお持ち帰りすれば存分にリビドーを解放出来るわよ。芳樹の家なら邪魔も入らず出来るでしょ」
そう言いつつ視線の先が……。うーん、先輩ってばもう……。
ちょっと恥ずかしいけど本やネットで見たりしているから、そういうものだとは知っているし正直ショックは小さい。
こういうのって冗談じゃ済まされないけど、ワタシ本気だし。ノリは大事な要素だと思う。
今日は合コンではないし酔っ払ってもいないけれど……、アリ! 雰囲気には酔っているからお持ち帰りされてもノープロブレム!
さて、ここで最大の問題は泉美も一緒ということなんだけれど、どうしようかしら。
公平にジャンケン勝負? それともそこまで協定の範囲を広げて二人一緒に仲良く? あ、ダメダメ。ここは芳樹君の意思も確認しなくては。
「「芳樹君?」」
けれど肝心の芳樹君はなかなか顔を上げてくれない。気まずいのかな。そんな恥ずかしがることないじゃない。先輩の言う通り、年頃の男の子なんだから当たり前だってば。ワタシは全然気にしないよ。だいたいそうなってくれなかったら、女としての自信をなくすところなわけで、むしろ嬉しいんだから。
よし、ここは明るく一押し! 泉美に目配せすると以心伝心。
「えっ、そうなの? やだぁ、その気になっているんなら早く教えてよ」
「じゃあ早速お持ち帰りしてー!」
リビドーって確か性的な欲求とか衝動だったわよね。うん、それを解放するのはどちらかと言うとワタシかな。
大きさでは泉美には負けているけど、形だったらイイ線いっていいると思うんだ。全体的なスタイルだって悪くないつもり。どう? 実際に確かめてもらいたいな。ねっ芳樹君!




