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図書室と先輩~ネオ!~  作者: にま
彼の欠点、彼女の短所
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その32 彼女はだいぶキちゃいます。

「さて、じゃあ芳樹には後でいろいろ埋め合わせしてもらうとして、本題に戻りましょ」


「そうですね」

「異議なーし」


 後ろめたい気持ちはあるものの勢いで同意してしまったワタシ。でも、ここはのる場面よね。

 それにしても「埋め合わせ」か。しかも「いろいろ」って、芳樹君に何をさせるつもりなのかしら。力仕事とかだったらいいんだけど、まさかお金のかかるようなことじゃないですよね。

 のったワタシが言うのも何だけど、その時はフォローさせてもらいます、うん。

 あれ、そう言えば本題って何でしたっけ?

 

「ほらほら、あんまり間の抜けた顔しないの。君のことなんだから」


 そんな間抜け顔だなんて……、とは思いつつ、先程とは違い余裕でスルーできるのも不思議。さっきだったら絶対噛み付いていたよね。

  

「本来なら私が言うべき筋合いじゃないし、言うつもりもなかったんだけどね」


 雰囲気がちょっと真面目。何を言うのかな?


「その膝、出来るのなら手術をしたほうがいいわ」


 あ、そうだ。先輩の一言で芳樹君の様子がおかしくなっちゃったんだっけ。しかもワタシは半狂乱状態。うん、過ぎたことは忘れよう、いつまでもウダウダしていては先に進まない。自分のことはさっさと棚に上げて、と。


「無理しなければ日常生活は大丈夫って言われたんすよ。だからいいかなってその時は思っちゃって」


 そうなんだ。でもやっぱりショック大きかったんだろうなぁ。


「バスケをやるやらないは君自身が決めることだから、私には関係ないけどね」


 突き放すような言い方が逆に愛情の裏返しみたいに聞こえる。関係ないとか絶対に思っていないよね。先輩ってやっぱり天邪鬼。


「私が言っているのはまさにその日常生活のこと。今は筋肉が強いからカバーできているけど、歳をとって……、そうね四十過ぎ、五十過ぎくらいになったらもたなくなる。他のところも痛めるだろうし、下手をすると歩くことも出来なくなる。その時手術しても回復は遅いし、いいことは何一つないでしょうね。だから今のうちだと思うわ」


 あ、そういうことまでは考えてなかった。そっか、言われてみれば確かにありそうなことね。


「将来……、そうね二人のうちどちらか君の奥さんになったとして、その時苦労させるのが目に見えていた場合、その原因は早いうちに取り除いておいたほうがいいでしょ」


 それがどういう苦労なのかはわからないけれど、そうね、回避できるのであればそれに越したことはない。よし、ノった!


「あ、そういうことなら、ワタシは手術してほしいかな」

「リハビリのお手伝いするー」


 ちょっと待って泉美、奥さんになるのはワタシなんだからね。


「色々事情もあるでしょうから今すぐどうこうしろとは言わないわ。バスケのことも含めてよく考えてちょうだい」


 そうだ、手術するとかになったら結構大変そう。入院するのかな。お金もかかるよね。あーダメだ、こういうことは全然わからない。


「ありがとうございます。そうっすね、いろいろ考えてみます」


 あ、何か前向き? 表情も明るさを取り戻している。


「それでね、明日あたり男バスの顧問から呼び出しあると思うけどよろしくね」


 何十年後かの話をしていたかと思ったら、今度は突然明日。急に現実に引き戻された感じがする。この独特なペース、いわゆる話術ってやつなのかな。完全に引き込まれてしまう。今のワタシも多分間抜けな顔になっているだろうな。

 原因であるワタシが言うのも何だけど、険悪になりかけた雰囲気を軟着陸させたことと言い、ほとほと感心してしまう。この手のことでは歯が立たない。他も敵わないことだらけだけど。 


「君のこと聞かれたのよ。ほら、私応援したでしょ。知り合いって思われてね。だから私の知っていることはだいたい話しておいたわ」


 もしかしてスカウト? 先輩も少し嬉しそう。対して疑わしそうな眼を向ける芳樹君。


「ってか、どういうことっすかね、それは?」


「だって、あんなテクニック見せられたら顧問としては声を掛けたくもなるでしょ。バスケ部も部員が少ないみたいだし」


 そうよねそうよね。あんなに上手いんだもの。でも……。


「今日バスケ部が来て声掛けられたんすけど、ケガのこと言って断ったばかりっすよ」


 そう、昼休みにバスケ部だって言う二年生が勧誘に来たけれど、ケガのことを話して断っていた。本当に残念。でも仕方ないよね。


「その顧問の先生ね、スポーツドクターの知り合いがいるらしいの。本人も詳しいしね。膝のことも相談してみるといいわ。的確なアドバイスをもらえると思うから」


 勧誘の件をスルーして先輩が続ける。そうだ、膝のことが本題って言ってたっけ。


「君にとって損にはならないと思うわよ。入部するかしないかはその後で決めればいいんだし」


 バスケしている姿も見たいけど、何よりケガを治すことが先決よね。

 

「ワタシはいいと思うな。先生に相談してからいろいろ考えればいいと思う」

「私もそう思うー」


 芳樹君の意思を尊重する形で提案された内容は、ワタシにとっても異議のないものだ。

 手術のこともバスケ部のことも納得いく形で決めてくれればいい。ワタシがどうこうと押し付けることはできない。

 ただ、やっぱりバスケをやる姿を見たいというわがままは、優先順位が下がったとはいえ消えてはいない。だって本当にカッコ良かったんだもの。


「ちょっと聞いていいっすか。オレのことどう話したんです?」


 おっぱい星人とか言ってそう。さすがにそれはないかしら。でも先輩だしなぁ。

 うわぁ、芳樹君の嫌そうな顔ったら。


「変に過大評価されるのは嫌でしょ。だからまんま言っておいたわ、膝をケガして引きこもりになりそうな一年生ですって」


 あ、言い得て妙。


「なんすかそれ。ガッコだって来てるじゃないっすか」


「あら、自分の殻に閉じこもっているいう点では同じようなものでしょ」


 そうよね、膝のこと隠してたし。そういうつもりはなかったんだろうけど、言って欲しかったというのが本音。

 ただこれについては思うことがある。格好をつける訳ではないけれど、ワタシがそれに足る女ではなかったのだろうということ。先輩には話していたことが証拠。悔しいけれどこれは認めなければいけない。

 ……。

 ん、えらいぞワタシ。己を省みることが少しは出来るようになったじゃない。

 

「天狗になって鼻がポキッと折れたことも言っておいたから、君のことはほぼ正確に伝わったと思うわよ」


 今のは鼻どころか全身複雑骨折したんじゃないかしら。

 

「でも大丈夫、安心して」


 全然安心できないんですけど。


「真夜中の公園で一人泣きながら練習してる、ってことは言ってないから」


 ええー! どういうことそれ。泣きながら? 一人で? 

 本当なの? と目を向けると、突然の暴露に今まで見せたことがないキョドりっぷりを披露している。


「なっ、ちょっ、ちょっ、せ、せんぱ、あ、あの、な、なん……、いっ、……ど……えっ?」


 あ、これは聞くまでもない。


「あっ、もしかして田島っすか、アイツから聞いたっすか?」


 田島君? いきなり同級生の名前が出てきたことに驚いてしまう。どういうこと?


「たじま? 誰それ。私はスポ根マンガの主人公がいかにもやりそうなこと言ってみただけだったんだけど? ふーん、そうなんだ、本当に泣きながら練習してたのね」


 あれ、からかおうとして的中させちゃったってパターンだったの? 

 うわぁ、口元がニーヤーリーと吊り上っていく。やっぱり魔女だわ、この人。

 たしかにマンガやアニメではありそうだけど、まさか芳樹君がそれをやっているなんて。


「えっ何々? 田島君知ってるの、そのこと?」

「そっかー、だから芳樹君をバスケに出させようとしてたんだねー」


 凄い、顔真っ赤っか。 



 泣いていたってことが恥ずかしいんだろうな。気にしなくていいのにと思うけれど、男の子としてはそうもいかないみたい。

 言葉少なに話し始めた芳樹君。

 部活には入らなかったけれど、やっぱりバスケが好きで一人で練習を続けていたこと。

 ある日調子が悪くて、少しめげていたところで田島君に会ったこと。 

 そうか、中学の違う田島君とすぐ仲良くなったのはそういうことがあったからなのね。なるほど納得。

 ……。

 何よ、いつもとぼけた顔しているくせにやっぱり熱血系? しかも泣きながら?

 やだ、反則。そんなの聞かされたら、切なくなっちゃうじゃない。

 あーダメ、来てる来てる。胸が痛くなってきた。もう何なのこれ。キュンキュンしちゃうってこういうこと? 

 泉美も目を潤ませている。同じ気持ちなんだろうな。 

 知りたい。芳樹君のことをもっと知りたい。隣に立っていたい。一緒に歩きたい。

 本当は今すぐ抱きしめたい、頬擦りしたい、キスしたい、なんだけど。 


「へぇ、じゃあその時のことは田島君に聞けばいいわけね」

「どんな話したんだろうね、明日聞いてみよー」


 あれ、何でそこで頭抱えちゃうわけ?

 

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