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図書室と先輩~ネオ!~  作者: にま
彼の欠点、彼女の短所
75/102

その31 彼はダイブしちゃいます。

「さて、じゃあ芳樹には後でいろいろ埋め合わせしてもらうとして、本題に戻りましょ」


「そうですね」

「異議なーし」


 うーん、釈然としない展開だ。というか嵌められているような気がする。先輩の言った「埋め合わせ」も気にかかって仕方ない。体力はあるけど財力はないっすからね。

 それに、そもそも本題って何? そんなんあった?

 

「ほらほら、あんまり間の抜けた顔しないの。君のことなんだから」


 間抜け顔はいつものことですよ。ってかオレのこと?

  

「本来なら私が言うべき筋合いじゃないし、言うつもりもなかったんだけどね」


 何だ、怒られるのか、説教されるのか? またメッタ刺しにされるのか?


「その膝、出来るのなら手術をしたほうがいいわ」


 あ、膝のことか。え、本題だったの? ……あ、そうか、バスケは無理って言われて、それからグダグダになってたんだっけ。


「無理しなければ日常生活は大丈夫って言われたんすよ。だからいいかなってその時は思っちゃって」


 とりあえずは手術を受けなかった理由の一つを挙げてみる。言い訳でしかないし、オレ自身の気持ちは少し変わり始めているが。


「バスケをやるやらないは君自身が決めることだから、私には関係ないけどね」


 うん、この冷たい物言い、ある意味安心する。ちょっとゾクゾクしちゃったし、なんかヤバいなオレ。


「私が言っているのはまさにその日常生活のこと。今は筋肉が強いからカバーできているけど、歳をとって……、そうね四十過ぎ、五十過ぎくらいになったらもたなくなる。他のところも痛めるだろうし、下手をすると歩くことも出来なくなる。その時手術しても回復は遅いし、いいことは何一つないでしょうね。だから今のうちだと思うわ」


 おいおい、本当にこの人何者? 確かに似たようなこと医者に言われたぞ。


「将来……、そうね二人のうちどちらか君の奥さんになったとして、その時苦労させるのが目に見えていた場合、その原因は早いうちに取り除いておいたほうがいいでしょ」


 何でそういう話になる!


「あ、そういうことなら、ワタシは手術してほしいかな」

「リハビリのお手伝いするー」


 二人とも何でそんなノリノリなのよ?


「色々事情もあるでしょうから今すぐどうこうしろとは言わないわ。バスケのことも含めてよく考えてちょうだい」


 何だろうな、正直ここまで親身になって考えてくれるとは思わなかった。あ、いかん、涙が出そう。


「ありがとうございます。そうっすね、いろいろ考えてみます」


 あれ、バスケ? 関係ないって言ってなかったか。


「それでね、明日あたり男バスの顧問から呼び出しあると思うけどよろしくね」


 何をよろしく?


「君のこと聞かれたのよ。ほら、私応援したでしょ。知り合いって思われてね。だから私の知っていることはだいたい話しておいたわ」


 うわぁ、嫌な予感しかしない。


「ってか、どういうことっすかね、それは?」


「だって、あんなテクニック見せられたら顧問としては声を掛けたくもなるでしょ。バスケ部も部員が少ないみたいだし」


「今日バスケ部が来て声掛けられたんすけど、ケガのこと言って断ったばかりっすよ」


 昼休み、バスケ部の二年生が勧誘に来たが丁重に断った。ちょっと嬉しくもあったけど、この膝じゃ仕方がない。


「その顧問の先生ね、スポーツドクターの知り合いがいるらしいの。本人も詳しいしね。膝のことも相談してみるといいわ。的確なアドバイスをもらえると思うから」


 スルーかい!


「君にとって損にはならないと思うわよ。入部するかしないかはその後で決めればいいんだし」


 確かに膝は治したい、バスケもしたい。

 

「ワタシはいいと思うな。先生に相談してからいろいろ考えればいいと思う」

「私もそう思うー」


 ありがとうね、二人とも。そうだな、それもいい。

 ただなぁ、さっきから気にかかっていることがあるんだよな。


「ちょっと聞いていいっすか。オレのことどう話したんです?」


 何かとんでもないこと吹き込んでいないだろうな。


「変に過大評価されるのは嫌でしょ。だからまんま言っておいたわ、膝をケガして引きこもりになりそうな一年生ですって」


 おいっ! 


「なんすかそれ。ガッコだって来てるじゃないっすか」


「あら、自分の殻に閉じこもっているいう点では同じようなものでしょ」


 ぐっ、あー言えばこー言うし。しかし言い返せない自分が悲しい。 


「天狗になって鼻がポキッと折れたことも言っておいたから、君のことはほぼ正確に伝わったと思うわよ」


 それはさすがに凹みますって。

 

「でも大丈夫、安心して」


 いやいやいや、不安要素しかないっすよね。精神的問題児っぽくなってるじゃないすか。


「真夜中の公園で一人泣きながら練習してる、ってことは言ってないから」


 ちょっと待てぇー!


「なっ、ちょっ、ちょっ、せ、せんぱ、あ、あの、な、なん……、いっ、……ど……えっ?」


 焦りまくりのどもりまくり。口がマトモに動いてくれない。

 何故知っている? まさか見られたのか。いやそれとも……。


「あっ、もしかして田島っすか、アイツから聞いたっすか?」


 あまりに見事なピンポイント攻撃に思考回路で玉突事故発生。

 そのことがどんな意味を持つかも考えることもできず、頭に浮かんだ同級生の名をそのまま口にしてしまう。


「たじま? 誰それ。私はスポ根マンガの主人公がいかにもやりそうなこと言ってみただけだったんだけど? ふーん、そうなんだ、本当に泣きながら練習してたのね」


 えっ?

 ……。

 ぐはぁ、やっちまったぁ! 痛恨の自爆。シラをきる場面だろ、ここはぁ! 

 いくら先輩がトンデモ魔女とはいえ知っているはずないだろ。田島とも接点なんかないだろうし、何やってんだオレ、バカ過ぎんだろー! 

 あー先輩の口元がニヤリと嫌ぁな形に変わっていく。

 最悪だ。よろけて魔女の大釜にダイブしちゃったよ。あー、どんなふうに煮込まれるんだオレ。 

 映子と泉美はというと、同級生の名前が出てきたことで一緒に目をキラリと輝かせている。


「えっ何々? 田島君知ってるの、そのこと?」

「そっかー、だから芳樹君をバスケに出させようとしてたんだねー」


 死む。恥ずか死むぅ。 




 あれは五月の末くらいだったろうか。

 部活に入らなかったオレは、それでも体を動かしたくてほぼ毎日のように夜中の運動公園で一人バスケットゴールを相手にしていた。

 ただ体力は落ちているし、ジャンプしても着地時には痛みが走る。試合をイメージした動きをしようにも体がついていかない。

 毎度のことだったがその日は特に不調で、情けないことに少しべそをかいていた。


「あれ、えーと寺山だったっけ?」


 その時だ、田島に会ったのは。時刻が確か11時。

 突然名前を呼ばれ振り向いた時、たまっていた涙が零れ落ちた。それが外灯に反射してすぐに泣いていることがばれてしまったのだった。

 あれは本当に気まずかった。

 聞けば、日課のランニングが用事のために高校生がそれをするには不適当と思われる時間にまでずれ込んでしまったとのこと。

 あの時は本気で、一日くらいサボれよとクレームを付けたくなったものだ。

 ろくに話もしたことがない同級生ではあったが嫌いなタイプではなかったし、見られてしまったては仕方がないとケガのこと打ち明けたところ、剣道部員で町道場にも通っている田島は、ケガで泣く泣くリタイヤした知り合いが何人もいると、オレとは逆の立場の悩みを伝えてきた。

「残されたほうも意外とつらいものがあるんだよ。背負うものがどんどん増えるし」

 そう言った田島の顔を見た時、残された側の気持ちなど一顧だにしなかったことをオレは恥じるしかなかった。

 その後、高校生らしい生活サイクルを送っているらしい田島と夜中に会うことはなくなったが、向こうもオレを気に入ってくれたみたいで学校での友達として仲良くやっている。

 



 夜中のボッチバスケと田島のこと、それこそ泣く泣く認めると二人はなおも畳み掛けてきた、無邪気にそして残酷に。


「へぇ、じゃあその時のことは田島君に聞けばいいわけね」

「どんな話したんだろうね、明日聞いてみよー」


 うわぁぁぁ、もう勘弁してくれぇ! 



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