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図書室と先輩~ネオ!~  作者: にま
彼の欠点、彼女の短所
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その28 彼女は不用意です。

 こんなところで妄想に入り込むワタシってどんだけ? 変わったのか素が出てきたのか? 多分後者なんだろうけど、抑え込む必要もない気もする。エッチだっていいじゃない。それがワタシなんだもの。

 けれど目の前で繰り広げられているのは期待とは程遠い展開だった。

 恥じらいよりも興味を優先させて覗き込んでいると、先輩がまるでお医者さんのように足を触りだした。何か悪戯をするかと思っていたのだけれど、時折眉間に皺を寄せる表情は真剣そのもので、そこには性悪さなど微塵もない。スポーツ医学でも齧っているのかしら。


「あーやっぱり若い子のお肉って美味しそう。ねぇ齧っていーい?」


 そっちは齧らないでー!


「そういうベタなボケはいいですから」


「あら、本気なのに」


 冗談を挟んで場を和ませようという気遣いなのだろうか。こういうこともワタシは不得手だ。感心と同時に嫉妬もする。これは経験値の差? 

 しかも何その笑い方。ずるいくらいにかわいいんだけど。これは真似したいけど無理だなぁ。もっと悔しいのはイチコロになっている人が約1名いることなんだけど。はぁ……。


「なんでサポーターしてこなかったの? 今日だって痛いんでしょ」


 あれっ、何だろう、この違和感? 


「もう平気かなって思って、ここのところしてないんすよ」


 あ、そうだ。何で膝のこと知っているのか不思議だったんだ。

 でも二人の会話はケガのことが前提だ。……そうか、先輩には話してたんだ。あーやっぱりすっごいショック。何で先輩には話してワタシに内緒にするかなぁ。

 

「ダメよ。昨日あれだけ動き回ったでしょ。思っている以上に負担かかっているんだから」


「はぁ」


「肌は弱い方じゃないわよね」


 そう言いながら先輩が鞄の中から取り出したものを見てワタシはギョッとした。


「先輩、それ何ですか?」


「ん、救急袋。女の子袋も兼ねているけどね」


 救急アンド女の子ぉ? その袋のどこが? 黒地ってところがすでにおかしいですよね。よく見たらこうもり柄だし、何よりそのマーク。魔女帽子をかぶったドクロに箒のバッテン。下のは砂時計なのかな? よく分からないけど、それっていわゆる海賊旗ですよね。

 でもこの人だったら前世が海賊だったとしてもおかしくなさそう。 


「あ、これ? ほら海賊の映画とかアニメあるでしょ。私好きなのよね。だから自分で作っちゃった。どう、魔女ドクロ、かわいいでしょ」


 作った? 裁縫系も出来るんだ。なんだかんだで先輩って女子力高いなぁ。そのセンスはどうかと思うけど。


「先輩、ジョリー・ロジャーは女の子が持つにしてはちょっとユニーク過ぎませんかね」


「これからは私のことは海賊魔女アデルと呼んで頂戴」


 ジョリー・ロジャー? 泉美は知っているのか合わせて笑っている。うーん、一人取り残された気分。ちょっと悔しい。ワタシだけ知識レベル低くない?

 そして先輩が袋から取り出したものを見てまたしてもギョッ! 何故にガムテープ。えっ、脛に張ってベリベリとか? 芳樹君は毛深いほうじゃないけど、それでも脛毛は立派にあるし、そんなことやられたら……。

 あ、違うや。多分お相撲さんが肩とかに貼っているやつだ。あれいつも不思議に思ってたんだけど、別に湿布というわけじゃないよね。

 

「新開さん、大原さん、ちょっと見てて。覚えておくといいわ、これからはあなた達がやってあげる、かも知れないんだから」


 そ、それは……。かもじゃなくて絶対やります。ええ、やらせてもらいますとも。

 これなら……、そう堂々と芳樹君の素足を触ることができるじゃない。スキンシップは大事よね、うん。

 それから先輩は器用な手つきで芳樹君の膝にテープを巻いていった。

 へぇ、ぐるぐる巻きにするのかと思ったら違うんだ。膝小僧を避けるように両脇に貼る、なるほど。今度ネットでも調べておこう。ワタシだって少しは役に立つところを見せてあげなくちゃ。かいがいしくお世話をするワタシ。好感度アップよね。そうしたら当然、ムフフ。よっしゃあ!

 

「そういえば先輩、芳樹君が膝ケガしてるのどうして知っているんですか?」


 あ、テンションあがったせいか、口が勝手に……。あーワタシのバカ! 

 どうしてワタシってばこう不用意なのかなぁ。これ聞いたところで、自分が落ち込むだけって分かっているのに何やってんの。考え無しも度が過ぎるでしょ! 


「だって直接聞いたもの」


 けれど先輩はワタシの動揺を知ってか知らずか、それがどうしたのと言わんばかりの口調。

 やっぱり自分から話したんだ。どういうシチュエーションでそうなったのか知りたいけれど、ズキッというかチクッというか胸が締め付けられたかのような痛みが走る。

 先輩には話した。じゃあワタシに話さなかった理由は?

 うーん、言わずもがなってやつ? ワタシってば面倒くさい女って一言に尽きるしなぁ。自分でも分かっているけど、素直に納得できるかどうかは別問題なのよね。

 ……うん、納得できない! これは説明してもらわなくちゃね。

 けれどそれを口にする前に、芳樹君は困ったような顔でおそらくは真実であろう過去の出来事で答えてきた。

  

「一学期の初めの頃かな、歩き方でバレちゃってさ。白状するしかなくてね」 


 バレた? ということは、自分から言ったわけじゃない?


「そう……」


 先輩は言った、直接聞いたと。それは歩き方からケガを見抜いて訊ねたということだったのか。

 ……何で分かるの? 付き合いで言えばずっと長いワタシが全然気付かなかったのに。

 あー、へこむ。

 多分これがワタシと先輩の差なんだろう。女子力云々よりもまず人間力で負けている。悔しいのは悔しいんだけど、それより何より自分が情けない。好きだ嫌いだ言いながら肝心の芳樹君のことを全然見ていなかった。同じクラスになれたことで有頂天になっていただけ。気付くべきこともそっちのけで、自分の気持ちばかり。

 あ、ヤバッ。ちょっと落ち込んできた。先輩と一緒の時ってどうにも情緒不安定気味。テンションが乱高下しちゃう。あーダメダメ、そんなことは後回し。

 今大切なのはと芳樹君の様子を窺う。するとテーピングされた足を動かしながら少し驚いた顔をしていた。


「ありがとうございます。大分楽になったっす」


 あ、これは本当っぽい。何だか顔が晴れやかになっている。すごいんだなテーピングって。ワタシも覚えなきゃ。

 あれっ? 芳樹君の表情とは対照的に先輩の顔は曇っている。


「大き過ぎるお世話なんだけどいいかしら?」 


「はぁ、なんすか?」


 どうしたのかな、目がちょっと怖い。小言系かな、サポーターをちゃんとしなさいとか。でもそれくらいなら大き過ぎるとは思えないんだけど。

 けれどそれはワタシの浅慮。先輩が放った一言は、一瞬場を凍りつかせるに十分なものだった。


「その膝じゃもうバスケは無理だと思うわ」 


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