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図書室と先輩~ネオ!~  作者: にま
彼の欠点、彼女の短所
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その26 彼女は濡れます。

 ズボン? えっ、何、聞き間違い?

 頭の中で「ズボン脱ぎなさい」と聞き間違える可能性のある言葉を探してみたけれど、どうやっても思い浮かばない。

 横顔を窺うと首をかしげて笑みを浮かべているところだった。かわいいと思ってしまうのが悔しい。ワタシにはとても出来ない芸当だ。ワタシが意識してそれをやろうとすれば、おそらく顔が引きつって警戒心を抱かせてしまうのがオチだろう。

 それにしても芳樹君の太ももとかふくらはぎ? 体操服は見慣れているけど制服姿で? やだ、何これ、萌える! どんな下着をはいているんだろう? ドキドキ。しょうがないじゃない、興味あるんだから。あー見たい触りたい。あ、あくまで太ももとかね。


「あ、ごめん、間違えたわ。司書室行きなさいって言おうと思ったんだった」


 はぁ、司書室? どう考えても間違えようがないですよね、それ。本当に理解不能。でも一つだけ分かった。言葉の裏を探ろうとするのは好ましくない行為だと思っていたけれど、ことこの人に限っては別。猜疑心を持って接するべきだ。きっと「ズボン脱げ」はこっちをからかって反応を楽しんでいるだけ。ワタシってばこの頃エロ全開だから、それ見抜かれて仕掛けられたんだわ。危ない危ない、妄想に支配されちゃうところだった。


「そしたらズボン脱いでくれる?」


 支配されました。


「ちょっと先輩! なんで司書室でズボン脱がなくちゃならないんすか?」


 ブリーフ派? トランクス派? ボクサータイプ?


「えっ、ここで脱ぎたいの? でも、誰か来るかもしれないわよ、いいの?」


 男の子の体を間近で見る機会ってそうそうないのよね。足だけじゃなくて、出来れば腹筋とかも見たいんだけどなぁ。


「よくないっす! ……じゃなくてですね、何で脱がなくちゃいけないんすか?」


 もういいから脱いじゃって! 見たいの、触りたいの! 


「そりゃもちろん、むふふぅ」


 このやり取りも先輩の勝ち。もう諦め顔の芳樹君。ワタシはワタシで妄想にどっぷりでむふふのふぅ。


「はい、二人とも、被疑者を連行!」


「「は、はい!」」


 先輩の掛け声で我に返ったワタシ。久々に別世界に入り込んじゃったわ。いけないいけない。

 泉美も完全にペースに巻き込まれている。求心力がハンパない。……違う、この人のは吸引力と言ったほうが近いかも。サイクロン掃除機? あ、ダメだ。それだとワタシ達が埃やゴミクズになってしまう。うぅ……。


「何すか、被疑者って。オレは悪いことしてないっす! 被害者ならともかく」


「二人にいじめられてるものねぇ。被害者でもいいんだけど、今の君にはある疑いがかかっているの。だから被疑者ね」


「加害の主犯格はどう考えても先輩なんすが? それに何を疑われているんすかねオレは」 


 共犯とも言うべき立場では、それに乗じての糾弾もできやしない。先輩を悪人にしようとするとブーメランになるんだよね。なんだろう、これって狙っているのかな。だとしたら魔女っぷりが過ぎるでしょ。

 それに先輩、疑いって何ですか? それを言ったら、この世の諸悪の根源はもしかしたら先輩なんじゃないかって疑っていますよ。もう確信に変わりつつあるくらい。

 

「どう立てる?」


 あっ……。

 そうか、先輩は膝のこと心配してたんだ、さっき痛めたんじゃないかって。ワタシ達のほうが気を向けなきゃいけないことだったのに、悪辣さばかりに気を取られちゃった。うーん、ワタシってば視野が狭すぎ。

 よし、ここは狭いなら狭いで芳樹君オンリー。先輩が何を言おうが何をしようが惑わされちゃダメ。芳樹君を最優先で行こう。

 あ、立つみたい。

 さっきは大丈夫って言ってくれたけれど、多分嘘。心配させまいとする心遣いだよね。本当は痛いんだろうな。

 男の子ってそういうところあるよね。悪く言っちゃえばええかっこしい? 我慢しないでいいのにね。でもそういうのは嫌いじゃない。出来れば「よっこいしょ」はやめてほしかったけど……。


「うおっ!」


 えっ!

 先に行って椅子とか用意してあげなくちゃと司書室に目を向けた瞬間だった。突然芳樹君が叫んだかと思うと、左肘から床に倒れ込み近くにあった本棚に後頭部をしたたかに打ちつけた。


「いってぇ!」


 かなり大きい音がした。こぶで済めばいいけど……。


「大丈夫? 無理しないで」

「頭打った? 平気? 血ぃ出てない?」


 切れてはいないようだったので少し安心したが、気持ちのざわつきは大きくなってしまった。

 あんな風に転ぶなんて。ワタシは軽く考え過ぎていたのかも知れない。想像以上に悪いのではないかしら。

 ワタシが悲観的思考の虜になり始めた時、膝の変調を見抜いていた人はいつの間にか姿を消していた。

 そして今、司書室には「イーヒッヒッヒッ!」という魔女笑いがこだましている。その音源は当然先輩。酸欠寸前と思えるほどに悶えている。

 先程はカウンター内に戻り、しゃがみ込んで笑うのをこらえていたらしいのだけれど、涙目の芳樹君を見るなり吹き出して止まらなくなっている。


「先輩、そろそろ勘弁してください」


「そうですよ、先輩。笑うなんて酷いです」

「笑わないでくださいよー、せんぱーい」


 心配していたそばからいきなりこれ。つくづく理解不能。


「はー、ごめんごめん。いやまさか、あんなこと仕掛けてくるとは思わなくて。ホント楽しませてくれるわ」

 

 はぁ、何それ? 全然意味分からないんですけど。


「先輩を楽しませようとしたわけじゃないんすけどね。まぁたしかに、さっきのは自分でもドジったとは思いましたよ」 


 ドジ? どういうことだろう? でもそれで互いに通じ合っている様子が悔しい。


「えっ、じゃあさっきのは膝のせいじゃないの?」

「膝に力入らなくて転んだと思ったけど?」


 膝に置いた左手が滑ってその勢いで転んだと、申し訳なさそうに言う表情に嘘はなさそうだった。一瞬、保健の先生に連絡取って最悪は救急車? と考えてしまったので安心する。

 確かに、膝のことがなかったらワタシも「あんたバカァ?」とか言っていたかもしれない。でも先輩、そこまで笑うなんて芳樹君がかわいそうです。 

 

「先輩、そんなことより何でズボン脱がなくちゃいけないんすか?」


 そう、それ! 理由をはっきり言ってください。正直ついていけないです。


「いいことしてあげるためよ。ホントならベッドのある保健室に行きたいんだけどね」


 ベッドで何するつもりですか! 

 

「「先輩っ!」」


 泉美も相当キテいるみたい。もう勘弁して。


「はい、二人とも落ち着いてくれる? 何も童貞を奪おうなんて考えてないから安心して」


 ベッドでいいことって言ったら他に何があるんです? しかも先輩が言うと冗談に聞こえないんですってば。 


「もういいかげんにしてください。ズボン脱がして何するつもりですか!」

「そうですよ。手当てするのならともかく……、ってもしかして?」


 泉美が自分の言葉にはっとしたように口をつぐむ。ワタシも一瞬遅れてそれに気付く。


「だからさっさと脱いでくれる。右足だけでいいから」  

 

 あ、そういうことか。膝の具合を見るつもりだったんだ。

 うーん、それなら最初からそう言ってくれればいいのに。そうしたら、ワタシもこんなにカッカせずに済んだんですよ。

 あ、でも先輩? 芳樹君のケガって見た目で分かります?


「えーとズボンまくるだけじゃダメっすか?」


「ダーメ。それじゃ大腿筋とか見られないじゃないの。内側広筋とかも堪能したいし」


 それはワタシも見たい。引き締まった筋肉。出来れば触りたい。頬ずりしたい。それでもっていろいろしたい。キスマークつけるのもありだよね。で、徐々に上に上がって……。あーしてこうして、あーなってこうなって……、むふふのふぅ。あーダメ。妄想がヒートアップ。

 

「あの、優しくしてくださいね」


「そういうベタな返しはいいからさっさと脱ぐ!」


 仁王立ちの先輩の前でまるで小動物のようになった芳樹君。かわいい。

 今度、書庫室にシーツを何枚か持って来ようかしら。床だと硬いし冷たいしね。その時は優しくしてあげる。

 あ、やだ! この頃妄想に体がすぐ反応しちゃう。自分でもビックリ。ワタシってこんなエロ系だったんだ。下着がちょっとヤバイわ。 


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