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図書室と先輩~ネオ!~  作者: にま
彼の欠点、彼女の短所
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その24 彼女はそねみます。

 たとえ悪気がなくても、その言動が他人を傷付けてしまうことはよくあることだと思う。特にワタシは無神経なところがあるから、気が付かないところで多くの人に不愉快な思いをさせてきたのは間違いない。芳樹君に対しては言わずもがな。

 そして今日はトドメとばかりに……。あー、ワタシってば何やってるのよもう!

 

「凄かったわ、大原さんの変則肩固め。新開さんの腕ひしぎもお見事」


 先輩から離れてもらうつもりで腕を引っ張っただけなのに……。


「ごめーん、そんなつもりじゃなかったの。ホントごめんね」

「ごめんなさーい。まさかこんなことになるなんて思ってなくてー」


 何がどうなったらそうなるのかわからないんだけど、ワタシは腕ひしぎ、泉美は肩固めという関節技をしていたらしい。

 

「あー大丈夫大丈夫。逆に肩も肘もすっきりした感じ。ありがとね」


 下手をすると骨折だけでは済まない状態だったと聞いて驚いた。

 うぅ、この頃何やっても悪い方向にしか行かない。


「ダメよー二人ともそんなにいじめちゃ。気持ちは分かるけど」


 楽しそうな顔を隠すことなく言ってくるのが腹立たしい。ワタシはいじめたつもりはありません!


「今オレをいじめていたのは誰でしたっけね」


 そう、それ! 呼吸出来なかったみたいだし、先輩だってかなり酷いことしてましたよね。


「私は二人みたいに関節極めたりしてないでしょ。やだぁ、そんな顔、し、な、い、の!」


 芳樹君に向け人差し指をチッチッとふる先輩。

 で、問題は被害者がそこで何一つ抗議しないこと。それどころか、何やら顔がニヤけているんだけど?

 苦しい思いしたんだから、それにははっきりと文句を言うべきでしょ。

  

「ここはお礼を言うところなんすかね? でもまぁ、そうっすね、滅多にできない体験でした。アザース」


 何よお礼って? ちょっとおかしくない? あれくらいだったらいつでもしてあげる。胸の大きさじゃ勝っているし、触り心地だって負けないよ多分。

 内心でとげとげしく芳樹君にクレームをつける。苛立っているなワタシ。

 

「よしよし、素直でよろしい。直接は大原さん担当みたいだからそっちに頼んでね」


 ちょっと先輩、泉美が図に乗るようなこと言わないで!


「先輩! 泉美は別にそっちの担当じゃありません!」


「芳樹くーん、言ってくれればいつだってブラ外すよー」


 泉美ぃ、ここでそう出る? これはなりふり構っていられないわね。 


「泉美! あんまり調子に乗らないで! そんなこと言うならワタシだって!」


 バシッ! 

 芳樹君の顔を両手で挟む。優しく包み込むようにしたつもりだったんだけど、対抗心からかつい力が入っちゃった。

 ごめん。ちょっと強すぎた? でもちょっと我慢して。先輩も泉美も見ないで、ワタシだけを見て!

 少し戸惑っているのがわかるけど、遠慮するつもりはないわよ。ワタシが本気だってこと知ってもらいたいの。

 目を瞑り、身長差を埋めるべく芳樹君を引き寄せつつワタシは踵を少し浮かせた……。


「はい、そこまでー」

 

 明らかに唇とは違う感触に目を開けると、ワタシはなんと先輩の手の甲に口付けしていた。

 くぅ、失敗。先輩、いつのまにカウンターから出てきたんですか。できれば邪魔しないでほしかったんですけど。

 

「いひゃい、いひゃいっす! はじゅえゆっす!」


 しかも顎掴んで口を塞いでいるし。 

 

「新開さん? ここが図書室だってことわかってる? 大原さんもこんなところでブラ外そうとしないの!」


そりゃわかっていますけど……。


「よーしーきー。あなたも隙があり過ぎよ」


 芳樹君を責めないで。それに顎痛そうだから早く離してください。

 けれどここは確かに先輩の言う通り、少し調子に乗った感は否めないし、それについては少し反省。

 

「すみませーん」

「はーい。わかりましたー」


 ただし、それはそれ。こっちにも言いたいことがあるんですけど!

 

「あ、でも先輩だってハグしたじゃないですか?」

「そうですよー。ギュッっと抱きしめてたじゃないですかー」


 さっきのは完全に抜け駆け。先輩だからって許さないんだから。


「逆転したらって言ってましたよね。先輩だけずるいじゃないですか?」

「そうですよー。なら私達だってー」


 これ重要。言ったことを自ら破っておいてそれはない。これはワタシ達のほうが正しいわよね。

 すると先輩は腰に手を当て呆れたような顔を向けてきた。


「よく思い出してくれる? 逆転したらハグ。その次に何て言った?」


 その次? 


「えーと……、たしか100点取ったら「いいこと」って」

「さっさと本気出しなさい?」


「そうそう。だからずるくもなんともないわよ」


 ? えっ、どういうこと。意味がわからない。さっきのは100点に対するご褒美ってこと?


「先輩? 芳樹君が取ったの10点くらいですよ?」


 逆転はできなかった。得点も10点くらい。先輩は何を言っているのだろう? 泉美も芳樹君も同じだったようで首をかしげている。

 けれど先輩は悪びれる様子もなく、やれやれと言った面持ちで切り出した。


「期待以上の活躍してくれたしね、その頑張りに120点あげたわけ。でも最後でドジったからマイナス20点。はい、新開さん、差し引き何点?」


「ひゃっ、100点です」


 突然振られたものだからビクッとしてしまった。反射的に答えたけど、あれっ? 100点?


「はい、せいかーい。……ということで文句はないわよね」


 えっ、ちょっと待ってください。あれっ? えっ、100点って……。えっ?


「「「えーっ!」」」


 先輩の言っていることがようやく呑み込めた。……けど、素直に納得ができない。それだったら何でもありじゃないですか! 


「「ずっるーい!」」


 でも先輩は涼しい顔でワタシ達の抗議をスルー。

 くぅ、何このこみ上げてくる悔しさ。やられたー! 悔しい!


「とにかく二人とも、ここであまりふざけないでちょうだい」


 先輩こそ急に真面目にならないで!


「やるのなら書庫室にして。先生がいない時なら使っていいから」


 ……なってなかった。


「この間、掃除したばかりだし」


「「え、いいんですか!」」 

 

 思わず声が大きくなってしまった。

 そうだ、この掃除でくたくたになってたっけ、芳樹君。


「ベロチューしようがおっぱい吸わせようが構わないわよ」


 うわっ、そんなモロに言わないでください。想像しちゃうじゃないですか。

 あれ? ということはもしかして先輩ってばこういうことも考えて掃除させたとか? まさかね。

 あーでも書庫室って司書室から入るんだよね。関先生がいたらそんなこと出来ないし。


「先輩? 今日は関先生は……いますよね」


 何よその聞き方? 芳樹君? 女の子二人を連れ込む絶好の場所が見つかったのよ。少しは嬉しそうにしたら? しかもその二人は喜び勇んでついていっちゃうんだから。


「むふふぅ。さっき職員室行っちゃったわよ。ちょっと時間かかるかもって言ってたから、当分は戻らないかな」


 ラッキー! 場所をとやかく言うような面倒くさいタイプじゃないのよワタシ。

 ベロチューでもディープキスでもフレンチキスでもどんと来い! みんな同じだけどね。あーでも最初はやっぱり初々しく唇合わせるくらいかな。徐々にステップアップして、映画みたいな濃厚キスする仲になろうよ。

 でも先輩? 泉美のはさすがにダメでしょ。もし見つかったら停学とかになっちゃうでしょ。下手すりゃ退学? ダメですよね。

 だから泉美ぃ、あんたもキスくらいにしときなさいよ。ワタシの次だったらいいから。


「お疲れ様ーっす。用事思い出したんでお先っす」


 あ、こら逃げちゃダメ。

 

「二人とも女子会したいんだろ。書庫室使わせてもらえば? オレは先に帰るから後はよろしく」

 

 この千載一遇のチャンスを見逃すなんてできるわけないじゃない。女子会は先生がいてもできるけど、……ねぇ?


「に・が・さ・な・い!」

「先輩の許可も下りたし、一緒に行こー」


 ワタシ達は芳樹君が振り向くより先にその手を取った。自分でも驚くくらいの足運び。泉美も素早く捕まえている。こういうところは気が合うというか、考えていることが同じというか。

 さすがに一人では振りほどかれるけど、二人同時なら力も出せないでしょ。

 と、リズムをとって二度三度と腕を引っ張った時、それは起きた。

 まるでスローモーションのよう。突然抵抗がなくなり、あっ! という顔をしたかと思った瞬間、体が少し沈み芳樹君は前のめりに倒れかかった。ちょうどそこにいた、いいえおそらくはこのことを予想して正面で待ち構えていた先輩の肩に顎をしたたかに打ち付けた。おかげで転倒は免れたのだけれど。

 

「二人とも手を離しなさい! っと、さすがに男の子は重いわね。大丈夫? 膝抜けしたでしょ」 


 離した手が先輩の背中に回されるのをワタシは黙って見ているしかなかった。

 膝抜け? 今のはやっぱり膝に力が入らなかったからだろうか? 


「す、すみません」

 

「あわてなくていいわ。まずはゆっくり足に力を入れてくれる? それともこのまま私を押し倒す?」


 芳樹君の体を支えながら先輩が優しく声をかける。顔がくっつきそう。それを見た瞬間居ても立ってもいられなくなり、また二人を引き離そうと思った時、体勢を直そうとする芳樹君を見て、……息を呑んだ。

 右足が……。力が入らないのか、引きずるようにしている。立ち上がったものの右足には体重をかけていない。

 そんなに? ワタシはまたやってしまったのだろうか? 

 けれど痛みを訴える表情はしていない。それどころか、先輩に向ける視線がまた一層と熱を帯びている。


「ありがとうございました」


 あんな目で見られたことは一度もない。こんな時だというのに、ワタシは膝の具合のことではなく、その目の真意が気にかかってしまう。

 ……。

 分かっている。これは嫉妬だ。心配を二の次にしてしまう醜い本性だ。これで好かれたいと思うなんて浅ましいにも程がある。


「新開さん、何してるの、椅子を持ってきて!」


「は、はい」


 厳しい口調に我に返り、ワタシはあわてて椅子を用意する。泉美も先程とは打って変わった表情をしている。

 ねぇ泉美? ワタシ達、嫌われるようなことばかりしてない? 


「ごめん」

「ごめんなさい」


 謝って済むことではないと思う。膝のことは知っていた。なのに調子に乗って、危ない目に遭わせてしまった。弁解の余地がどこにあるのだろう。


「大丈夫だよ。ちょっと体勢が悪かっただけだから。そんな大げさに考えないで」


 少しくらい責めてくれたほうが気が楽になるとは思ったけれど、もしそうなったらそうなったでワタシはへそを曲げるだろう。自分でも容易に想像がつく。……みっともないなワタシ。

 

「ねぇ大丈夫? ごめんね、無理に引っ張ったから」

「痛い? 湿布とか持って来たほうがいいかな」


 大げさに考えるなと言われてもそれは無理。どうしたらいいのだろう。保健室に行って薬とかをもらってきたほうがいいかも知れない。

 えっ、先輩?

 ワタシが思案をまとめられずにいると、先輩が怒ったような表情で芳樹君の前に立った。

 もしかして芳樹君を叱るつもりですか? ちょっと待ってください。悪かったのはワタシ達なんですから。

 って、何故仁王立ち? それに目付きが……、なんだろう? ちょっと怖いような……。何をするか何を言い出すのかがまったく読めない。

 あーでも、さっきも助けてくれたし、なんだかんだで先輩って芳樹君には優しいし、考えすぎだよねきっと。具合を聞くくらいだよね。

 けれど先輩の次の一言は、想定不能という評価が的を射たものであったと思わざるを得なかった。そしてそのことはワタシ自身が順応できる人間であることにはつながらない。 


「芳樹! ズボン脱ぎなさい」


「「「えーっ!」」」


 

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