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図書室と先輩~ネオ!~  作者: にま
彼の欠点、彼女の短所
66/102

その22 彼女はアゲます。

「どう、ブザービーターを決め損ねた気分は?」


「言わないでくださいっす。落ち込んでるんすから」


「そうよね。ハグはともかく、キスとおっぱいを逃しちゃたもんね」


「そうなんすよ、悔しいったら……、って違いますってば!」


 球技大会翌日の放課後、ワタシ達が図書室に入ると早速先輩が芳樹君をいじり始める。この構図に安心感を覚えるのは何故かしらね。 

 あーあー、それにしても逆転したらなんて言わなければ良かった。思えば先輩のハグと同じ条件にする必要なんかなかった。あそこで一点でもって言っておけばキスできたのにワタシのバカ! 心の中では一回でもシュート決めてくれればって思っていたけど、それ言い出したら絶対泉美も同じ手使ってくるよね。くぅ、失敗した。

 で、肝心の芳樹君はというと、これがまた……。

 あんなに活躍したんだから少しは調子に乗ってもいいと思うんだけど、試合の後ではみんなに謝り通し。今日もそのことを引きずっているのかいまいちローテンション。そんなに気にすることないって。ねっ、気分あげよっ!

   

「そんな落ち込まなくてもいいんじゃない。芳樹君のせいだなんて誰も思っていないから。それどころか女子なんてファンクラブ作らんばかりだったのよ」

「そうそう。頑張ったよー、最高にカッコ良かったよー」

 

 これは本当にそう思う。ファンクラブは言い過ぎにしても、クラスの女子、ううん他のクラスの子だって「誰あれ?」「すごーい!」などとまるでアイドルを見つけたかのような騒ぎっぷりだった。ワタシとしては鼻高々だったのだけれど、その分余計な心配まで背負い込むこととなった。そう、あれで芳樹君に目を付けた女子がいるかも知れない。泉美はまだいいとしてこれ以上出てこられたら手に負えない。しかもそれがかわいい子だったりしたら?

 クラスの女子にちょっとカッコいいところを見せてくれれば良かっただけなのに、あんなに活躍するなんて完全に想定外。でもそのことで文句を言ってはバチが当たるというものだし、どうしたものかなぁ。

 でも本当にカッコ良かった。いつもあんなふうだったら……、あーダメダメ! そうしたらクラスの女子が放っておくはずがない。あぶらげさらわれちゃう。

 今日だって女子の見る目にちょこっと色が入っていたのよね。中尾さんなんてワタシが教室入るまで質問攻めにしていたみたいだし、ふぅ前途多難だわ。

 


 

 結局芳樹君のシュートはあの大きな人に邪魔されてしまった。打ったと思ったらバシッっとまるでバレーボールのスパイクのように返された。あんな強く叩くことないのに、まったく酷いよね。

 でも試合の後、二人がなんだか仲良さげに話していたのには驚いた。


「おい、一年。あんがとな。試合楽しかったぞ」


「アザーシタ!」


 スポーツマンシップ? 二人とも妙にサバサバした表情でその後も何やら話していたけど、中身までは聞き取れなかった。

 あの人さえいなければキスできたのになぁ。許せない人ナンバーワン。うん、決定。

 さて、それよりも泉美にはちゃんと聞いておかなくちゃ。

 バスケしている姿に一目惚れ。今日の芳樹君を見たらそれも納得できる。でも泉美? 違う中学だったあんたがどこで見たのよ。テニス部って言ってたわよね。接点ないでしょ。


「ねぇ泉美? さっきのことなんだけど……」


「一目惚れのこと? あ、ごめーん、それ間違い」


 なんですってっ! またからかったの?


「二目惚れだった」


「はぁ?」


「一目惚れは壁ドンされた時だったからねー」


 なっ、なんですってぇっ! 


『集合ー!! 今いる連中だけでいいから集まってくれー!』


 た、田島くーん、ちょっと待ってぇ! 今はそれどころじゃないのよ。ワタシ達のことは放っておいてぇ。


「あー、残念。続きは今度だねー」


「ちょっと泉美!」


「みんながいるところでする話じゃないしねー」


 く、それは確かに。でも絶対聞かせてもらうかんね。壁ドン、ワタシだってしてもらったことないのに。

 そしてワタシ達は今図書室にいるわけだけれど、女子会やらせてもらえるかなぁ。





「ダメよー二人ともそんなに甘やかしちゃ。最後の最後で下手打ったのは芳樹なんだから」


 あの先輩? なんで呼び捨てなんですか? ワタシ達が君付けで呼ぶのにどれだけすったもんだしたと思っているんですか! ここは少し遠慮して欲しいんですけど!

 で芳樹君、何その嬉しそうな顔は? まったくこれだから!


「えー、あんな大きな人相手じゃ仕方ないですよ」

「あの大門って先輩も上手かったと思いますけど?」


 いくら芳樹君でも分が悪すぎです。先輩だって見てたでしょ!


「大門がでかくて上手いのは確かだけど、違うわよね芳樹?」


 違うって何がですか? どう考えたって……。


「だから先輩、あれを芳樹君のせいにしないで……」


「ポジション、間違えたでしょ」


 ワタシが擁護するも先輩は完全無視? ちょっとムカッ!

 図星を突かれて少しあせったような表情をした芳樹君はそのまま観念したかのように肩を落とす。


「そうっすね。そのせいでシュートするのが遅れたのが敗因っす」


 聞いてみると、パスを受ける位置が悪くてボールを取る時に体勢が崩れたとのこと。あ、秒針が止まった時だ。一瞬不自然な動きになったのはそのせいだったんだ。

 そしてそれを先輩はミスだと言う。スポーツに疎いから細かいところまでは良くわからないけど、芳樹君も認めている以上そうなのだろう。でも……。

 なんだろう、この気持ち。

 二人だけでわかり合っている感じがすっごく嫌。

 ……分かっている、これは嫉妬だ。先輩とワタシ、今芳樹君と同じ場所に立っているのは……。

 悔しい。

 ワタシ達の応援のことには一言も触れてこないことも腹立たしさに輪をかける。


「それはわかったけど、ご褒美でキスを用意したワタシの立場は?」

「準備万端だったんだよー。せっかくブラ外しておいたのにー」


 なんだかムカムカしてきた。キスは結構本気だったんだよ。それなのにスルー? 先輩を見る目どうにかなんない? こっちの方見てよ。ワタシを見てよ!


「そういえば膝はどうなの、大丈夫? かなり無茶したでしょ。ホント、バカなんだから」


 えっ? 先輩、ケガのこと知っているんですか? なんで? えっえっ?


「バカって……。ガンガンとかバンバンとか言ったの先輩じゃないっすか。素直に言うこと聞いただけっすよ」


 あれ、芳樹君もそこはスルー? 


「だからバカだって言っているの。ブレーキドリブルとかバックロールターンまでやるとは思っていなかったわよ。また痛めたらどうするつもり?」


 そんなバカバカ言わないでください。だいたい先輩があんな応援するから……。

 あーそっか、芳樹君が応えたかったのは……、ワタシ達じゃないんだね、やっぱり。


「すみません。やっていたらつい楽しくなって」

 

「ホント、バカなんだから……」


 カウンターの中ですっと立ち上がる先輩。やだ、何ですその優しい表情は? 初めて会った頃を思い出す。そうだ、お姉さまって思った時の顔。


「逆転はできなかったけど、十分かな」


 先輩の左手が芳樹君に伸びる。その手にさえ優しさがにじみ出ているような気がする。

 なんて白くて綺麗な指。先程まで渦巻いていた負の感情を忘れ見惚れてしまう。

 そしてその指先が襟元に達した時。

 グイッ!

 芳樹君の上半身がカウンターを超えた。顔はというとその勢いであっという間に先輩の胸に吸い込まれた。


「よしよし、いい子いい子。頑張ったね。えらいえらい」


 えっ、何しているんです先輩? えっ?

 芳樹君の頭をがっしりと抱えて愛おしそうに頬擦りをしながら頭を撫でている。 

 せ、先輩、何やってんですかー?  

 ハグは逆転したらって言ってましたよね。それはないでしょぉ!


「「先輩、ダメー!」」


 泉美もこれは容認できなかったみたい。ワタシは右腕、泉美は左腕を掴み先輩から引き離すべく協力し合う。

 く、先輩ってばどんな力してるの? 二対一なのにビクともしない。

 芳樹君は顔をさらに押し付けているし。この浮気者!! そんなツルペタのどこがいいの! ワタシの方が大きいって言っているでしょ! 触り心地だってほら!

 胸の形を確かめられるように手を上に向けて引き寄せる。泉美も二の腕を取って同じように自分の胸を押し付けている。

 あ、やだ。指動かさないで。ちょっと……、あっ!

 泉美も珍しく顔を真っ赤にしている。

 何、泉美? やらしい気分にでもなってんの? ふん、奇遇ね、ワタシもよ!

 もう! スイッチ入っちゃったじゃない! こうなったらキスだってなんだってしてあげる。なんなら……。だから早く先輩から離れて!

 ポキッ! 

 あ、あれ? 何か変な音がしなかった? って、芳樹君? 何で震えているの? 

 そして急に力が抜けたかと思ったら、カウンターに上体を預けてそのまま静かになってしまった。

 芳樹君? 芳樹君ってば! どうしたの? お願い、返事してぇー! 



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