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図書室と先輩~ネオ!~  作者: にま
彼の欠点、彼女の短所
65/102

その21 彼はオチます。

「どう、ブザービーターを決め損ねた気分は?」


「言わないでくださいっす。落ち込んでるんすから」


「そうよね。ハグはともかく、キスとおっぱいを逃しちゃたもんね」


「そうなんすよ、悔しいったら……、って違いますってば!」


 球技大会翌日の放課後、図書室に入るなり先輩の餌食となったオレ。

 くぅ、嬉々として人の傷口に塩塗ってくるとか、まったくこの魔女姫様は! 

 

「そんな落ち込まなくてもいいんじゃない。芳樹君のせいだなんて誰も思っていないから。それどころか女子なんてファンクラブ作らんばかりだったのよ」

「そうそう。頑張ったよー、最高にカッコよかったよー」

 

 二人ともありがとね。君達は心のオアシスだよ。毒沼の時の方が多いけど。




 ピィーーッ!

 ボールが転々とラインを割った時、笛が鳴った。

 48対46。

 結局オレの最後のシュートは大門先輩に防がれた。バレーのスパイクよろしく、派手な音と共にコートに叩きつけられた。

 あれ、完全にオレのせい。敵と被ってたから、山崎もあそこに出すしかなかったんだよな。パスがそれたんじゃなくてポジショニングが悪かったんだ。シュートするのが遅れて、そのせいで大門先輩に追いつかれての豪快なハエ叩き。あー悔しい。最後の最後でやらかしちゃったよ。

 でも誰もそのことには触れなかった。気付くのは相当スポーツをやりこんでいるやつだけだろうけど、それでもミスはミス。やっぱり勘が鈍っていたんだなぁ。はぁ、なさけなっ!

 試合が終わった後、かき回すだけかき回した先輩は早々に消えていた。まったく何なんだあの人!


「おい、一年。あんがとな。試合楽しかったぞ」


 挨拶の後、大門先輩がオレにニカッと笑いかけてきた。試合中は散々言われたけど終われば関係無し。体格もそうだけど性格も大柄だ。


「アザーシタ!」


「高橋の気に入られているみたいだけど、大丈夫かぁ、何かされたりしてないか?」


 こんな風に言われる先輩って……。


「いえ、良くしてもらってるっす。それより大門先輩? 高橋先輩ってボッチって聞いてたんすけど違うっすか?」


「ボッチ? 誰から聞いたんそれ?」


「いえ、本人からっす。でも大門先輩、さっき魔女姫様って言ってたっすよね」


「聞こえてたのか。……アイツが魔女って綽名持ってるのは知ってるか?」


 ぶっきらぼうな口調に嫌な感じはしない。それどころか……。


「ええ、それも本人から」


「そっか。別に仲間外れにしているわけじゃないぞ。一人でいるのが好きみたいなんでな。それとここだけの話、意外と人気あるんだわアイツ。ま、黙って座っている分にはお人形さんみたいだしな。で隠れファンが密かに付けたのが魔女姫様ってわけだ」

 

 そうなんだ。嫌われボッチとかじゃないんだ。安心した。ってそれ、大門先輩も隠れファンってことになりません?

 それが顔に出たのだろう。大門先輩が少し照れくさそうにする。なるほど。


「ま、いろいろいじられて大変だろうけど頑張れや」


 妙なエールを送られてしまった。魔女姫様か……。

 そうしてオレの高校初の球技大会は幕を閉じた。




「ダメよー二人ともそんなに甘やかしちゃ。最後の最後で下手打ったのは芳樹なんだから」


 う、もう完全に呼び捨て決定ですか? 嫌じゃないんで別に構わないんですが。だいたいそこをツッコむと「じゃあ私のこともアデルと呼び捨てすれば?」とかになりそうだし。うん、ここは大人しく運命を受け入れよう。


「えー、あんな大きな人相手じゃ仕方ないですよ」

「あの大門って先輩も上手かったと思いますけど?」


 あれが高さの勝負だったと二人は思っている。でも実際は……。


「大門がでかくて上手いのは確かだけど、違うわよね芳樹?」


 へっ? 


「だから先輩、あれを芳樹君のせいにしないで……」


 映子が少しばかりムキになって言い返すが、先輩の容赦ない指摘がそれを遮る。


「ポジション、間違えたでしょ」


 ぐはっ! いきなり急所を一突きとか……。先輩、本当に何者です? 普通気付かないですよそれ。

 そう、あれは高さではなくスピード勝負だったのだ。


「そうっすね。そのせいでシュートするのが遅れたのが敗因っす」


 不満そうな顔をしている二人に何がミスだったのかを説明する。納得はしてくれたようだが、とんがらせた唇を元に戻さない。


「それはわかったけど、ご褒美でキスを用意したワタシの立場は?」

「準備万端だったんだよー。せっかくブラ外しておいたのにー」


 さっきまで褒めてくれてたじゃん、なんでよ? だいたいそれってさ、逆転という条件付きで自分から言い出したことだよね。いくらなんでも理不尽じゃありません? 逆転できなかったのは悪いと思うけど、そこでふくれっ面されてもなぁ。


「そういえば膝はどうなの、大丈夫? かなり無茶したでしょ。ホント、バカなんだから」


 二人のジト目にどう返すべきか迷っていると、先輩が助け舟を出してくれた。別に畳み掛けるつもりじゃないですよね?


「バカって……。ガンガンとかバンバンとか言ったの先輩じゃないっすか。素直に言うこと聞いただけっすよ」


「だからバカだって言っているの。ブレーキドリブルとかバックロールターンまでやるとは思っていなかったわよ。また痛めたらどうするつもり?」


 おっと、()()ところを突かれた。うーん、正直何も考えないで調子に乗っちゃっただけなんだけど、それ言ったら怒られるよなぁ。


「すみません。やっていたらつい楽しくなって」


 意味同じじゃねえか。何言ってんだオレ!


「ホント、バカなんだから……」


 カウンターの中ですっと立ち上がる先輩。怒った? いや違うな、口元が優しい。あ、女神様って思った時の顔だ。あ、そうか、大門先輩達はこれをお姫様って言ったんだ、多分。


「逆転はできなかったけど、十分かな」


 すーっと左手が首元に伸びてきた。白くて細くて綺麗な指。で先輩、その形は何でしょう? 猛禽類の鉤爪みたいなんですが。

 一瞬首を絞められるかと思って体を強張らせてしまう自分が悲しい。 

 そしてそのまま襟首を掴まれたオレはカウンター越しに強引に引き寄せられた。

 えっ? 

 思いもよらない先輩の行動にオレは即座に反応できず、なすがまま顔を胸に埋めることとなった。


「よしよし、いい子いい子。頑張ったね。えらいえらい」


 万力かっていうくらいにがっちり頭を抱え込まれた以外、自分の置かれた状況が理解できない。頭を撫でられている? さわさわと頭の上で手が動く。 

 せ、先輩、何やってんです?  

 正直悪い気はしない。女の人の胸に顔を埋めるなんてそうそうできる体験ではない。制服の匂いとあいまって感じるのは、神経が麻痺するような女の人の匂い。洗濯板で柔らかさとは無縁だろうと想像していた先輩の胸が、その想像を裏切っていることにオレは少なからず動揺していた。何だろうこれ? 凄く懐かしいような……。だが妄想をたくましくするには状態が悪すぎた。 

 ぐっ……。口も鼻も塞がれてしまった。息ができない。


「「先輩、ダメー!」」


 二人は声と共にオレの両腕をそれぞれが引っ張り出した。支えがなくなったオレはさらに先輩に顔を押し付けるしかなくなり余計に呼吸困難。

 しかも二人はオレの掌をとって、おそらく胸と思われる箇所に押し付けた。覚えのあるプニュッとした感触に本来であれば煩悩を爆発させるところなのだが……。

 二人ともタンマタンマ! それやばい、やばいって! 関節極まってるってば! 

 先輩も離して! 息出来ないです、ギブギブ!

 声も出せず、タップもできない。

 息がぁ! 肩がぁ! 肘がぁ! あ、やばっ! 意識がぁ……。


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