その19 彼は無双します。
ダァーンクッ!!!
は出来ないから地味にレイアップ。ボールを置くようにっと。おっしゃ、入った。
あー、球技大会とはいえ試合で決めるのって気持ちいい。一年ぶり? いやもっとか。おっといけね。カウンター食らう前に戻らなきゃ。
って、あれ、何で静かになってんの? もしかしてオレ何かやらかした?
「「「「ワァー!!!」」」」
うぉっ、時間差とかやめて。心臓に悪いじゃん。
「寺山ぁ、すっげぇ!」
「何今の? 三秒もかかってなかったんじゃないか!」
「おいおい、お前は何者だよ」
「お前ってやれば出来る子だったんだな!」
おい、四谷。それはちょっと酷くないか? でも、みんな喜んでいるみたいだし、まぁいいか。
クロスオーバーで大門先輩を抜いた後、油断していたのか手を抜いてくれたのか、さしたるブロックもされることなくシュートまで行けた。ある程度点差が縮まるようにして決勝を盛り上げようって算段なのかな。さすが三年生、余裕のある試合運びだ。
……とか思ったら違った。
「おい、一年! お前バスケ部じゃないだろうな」
大門先輩が睨んでくる件、如何致しましょう。こえぇ。
「いえ、中学ん時ちょっとやってたってだけっす」
「よっしゃっ、芳樹っ! その調子でバンバン行きなさい! 大門なんてけちょんけちょんにしてやれぇ!」
けちょんけちょんって……、今時使うか? いつの時代の言葉です? それにさっきはガンガンって言っていませんでしたっけ。どう違うのそれ。
「おいおい、高橋ぃ、俺お前に恨まれる覚えはないんだけどな」
とオレを睨みつつノールックでパスを出す大門先輩。やっぱり上手いなこの人。ただし受け取る側がそわそわしててモロバレだったので簡単にカットできた。スティール成功。別所にパスしてまた2点。よし、17点差。このままいけば追いつけるけど、さすがに本気出してくるだろうな。
あれ、また大門先輩? ゆっくりドリブルしながらオレの前にやってくる。うわぁ、なんだろ目ぇ付けられた?
「おいこら。ここは三年に花持たせて、気持ちよく卒業させてあげようとか思わないか?」
腰を落としてオレを睨んでくる。タックルされそう。
「いやいや、ここまできたら逆転させてもらいたいっす。若い芽を摘まないで欲しいっす」
「こらぁ、大門! 老兵はただ消え去るのみよぉ。大人げないマネはよしなさーい」
あのー先輩? クラスメイトに老兵は酷いんじゃ?
「うるせえ! 同じ高校生で大人も何もねえだろ。年寄扱いすんな。それに俺は早生まれだからまだ17だ」
「「「「「えっ!」」」」
これには敵味方関係なくコート内外から一斉に声が上がる。うーん、老け顔の人って大変だね。でも、そういう人って大人になってもあまり変わらないって言いますし、そんなに気にしないでもいいんじゃないですか。
「お前らー!」
チームメイトからの視線に憤慨しつつ、みんなの気がそれた一瞬の隙をついて3ポイントシュートを狙ってきた。フェイント入れているんだけど……。あーこの人、やること丸わかり。人を騙せないタイプ? すれてないんだなー。
すみません、オレ性格悪くって。ジャンプする前にボールをカット。高さでは勝てないからな。こぼれ球を別所が豪快に持って行った。よし、15点差。
「おい、高橋ぃ。なんなんだよこの一年。ずるいだろ」
オレを指差しながら先輩に抗議しているんだけどそれ意味ないんじゃ?
「ふっふっふ。聞いて驚きなさい。彼こそこれからの図書委員会を背負って立つ期待の超新星、寺山芳樹君その人よ。ついでに言うとおっぱい星人で、すでに二人のおっぱいを手中に収めているわ」
先輩やめてー! 図書委員は別にいいんですけどおっぱい星人はやめてー! それにまだ収めてませんからー!
「なんだそりゃ? まぁいいや、どっちみち許せないヤローなわけだ。よし、高橋ぃ! このガキとっちめて俺らが勝ったら、さっき言っていた「いいこと」ってやつしてもらうからな。いいな!」
えー、そんな理不尽なー! それにしても「とっちめる」って使う人いるんだ。三年生って違う時代に生きているんじゃないか?
「何想像しているか知らないけど……、いいわよぉ、何なら全員一緒に相手したげるわ。せいぜい頑張ることね」
うわぁ、先輩ってばお願い、言葉の売り買いやめてー! これ以上煽らないで!
「言ったな。忘れるなよ、ひんむいてやるからな!」
大門先輩もそこまで熱くならないでー。
「芳樹っ、今の聞いた? ケダモノ達に襲われそう。助けてー!」
えー、こっちに振らないで下さいよ。それ自分で言ったんじゃないですか!
ピピィー! ピーピピピピィー!
先輩同士の仁義なき抗争が勃発したところで、主審をやっていた先生の笛がけたたましく響いた。
「大門! テクニカルファール! 得点係、三年生の点を5点マイナスして!」
へっ?
「えー、先生、テクニカルファールで減点なんてルールないっしょ!」
強引な点数操作に大門先輩だけでなく他の先輩達も先生に詰め寄った。しかし先生は持っていたタオルで主犯の頭を軽くひっぱたく。
「お前なぁ、球技大会ってことわかっているか? 目に余る言動ばかりしおって。悪ふざけもいい加減にしろ。没収試合にするぞ」
「えー、あっちの一年だって、キスとかおっぱいとか言ってたじゃん。そっちはどうなんよ?」
「あれはギリギリ応援の範疇。お前のは性犯罪、見過ごせるわけなかろう。いわば教育的指導だ。文句は受け付けん。いいな!」
「えーっ!」
「えー、じゃない。なんだったら直接指導してやるぞ。フリースローはなしにするからさっさと戻れ」
「ウィーッス!」
おぉすごい。あの先輩達がしぶしぶながら大人しく引き下がった。そりゃそうだな。あのマッチョな感じ、格闘系か? レスリングとかかな。下手に挑みかかったら瞬殺間違いなしな雰囲気だ。
なんだかルール無用になってきたけど、こっちにとってはラッキーかな。一気に5点はでかい。アザース!
「それとそこの女子二人。さっきみたいな応援したら、次はそっちを減点するから注意するように」
先生、もっときつく言ってやってください。オレ胃が痛くなりそうなんですから。
「「はーい」」
この返事、絶対今だけだな。キャッキャッ言ってるし。うん、あれだけ見れば文句なしの美少女なんだけどなぁ二人とも。ただ性格がなぁ、歪んできたというか成層圏突破したというか……。キスと生おっぱい、逆転のご褒美には豪華過ぎる、ってかそもそもおかし過ぎるだろ。頼むよ、お二人さん、普通に戻ってください。
「高橋もあまりこいつらをからかうな。ウチの学校から性犯罪者を出されては困るんだよ」
「テヘペロ?」
うわぁ、出たペコちゃん。はぁ、まったくこの人は。二人があんなになったのも先輩に毒されたせいだよな。
「ったく、ウチの魔女姫様はこれだから」
ぼそりと大門先輩が呟くのが聞こえた。
えっ、魔女姫様? あれぇ、ボッチって聞いていたけど違う感じがする。今の絶対に親しみがこもっていた。意外と人気あるのかな?
「さぁ、10点差、守るぞぉ!」
「「「「おぉー!」」」」
えー、何スイッチ入れてんですか? そんなマジにならんかて。あ、本当にマジだ。ゾーンディフェンスとかやめて。
「「「「寺山ぁ、任す!」」」」
おい、お前らまでゾーンってかゴール下に集まってどうすんだよ!
何だこれ? 敵も味方もガチガチのゾーン。ボール持ったオレは孤立無援。えー、これで後10点取れって言うのかぁ! シャットアウトは無理だろうからプラス6点は取らないと。
うん、それはさすがに無理。バスケはチームプレーなんだから助け合おうよ。
「別所と山崎はゴールの方に行ってくれない? うろついてくれればいいからさ。リバウンドはよろしく。ボール持ったらなんでもいいからシュートしちゃって。辻と四谷はそこでカウンターに備えてくれ」
「おいおい、ここはお前の無双ターンだろ」
「あっちがゾーンならさ、こっちもお前がゾーンに入るとか。ほら、バチバチって目から電気流してさ」
「芳樹だから四色で頼む。でエアウォークでダンク決めてくれ」
「高弾道シュートも見たいな」
うん、こいつらアホじゃなかった。ドアホウだ。
「あのなぁ、マンガやアニメの見過ぎ。出来るわけないだろ。オレは普通の世代なの」
こいつらの言っていることはおそらくアニメにもなった少年マンガのこと。非常識な技がてんこ盛りだったなぁ。
「でもまぁ、取れるだけ取るつもりだから、フォローよろしくな」
大きなこと言ってるなオレ。ビッグマウスはキャラじゃないけど試したいこともあるし、とりあえずやってみますかね。
ツースリーのゾーンで大門先輩はゴール下か。他の人はそんなに背は高くないし動きも特段警戒するほどでもなかった。なんとかなるかな?
切り込む素振りで固さをチェック。うん、これ無理。チャージング取られちゃうな。少し引いても追ってこない。インサイドで守りに徹するということか。それはそれで好都合。ノーマークで打てそうだ。左サイドに回ってと。やっぱり45°だよね。一応フェイントを入れつつ、別に口に出す必要もないけど気分的な? まぁオレもドアホウの一人だからな。
「左手はそえるだけっ!」
今日初めての3ポイントシュート。あわててブロックに来るけどもう遅い。ボールがイメージ通りの弧を描く。スウィッシュ!
「っしゃ!」
内心自分でも驚いていたり。でも顔に出ないようにっと。よし、これで7点差。勝ちが見えてきた。後は如何に失点を減らすかだ。
「おりゃあ!」
お、山崎すげぇ。ブロックした。ってか、それほとんどバレーのアタックだろ。で、辻ぃ、ライン切るかと思ったら追いついちゃうとかお前の瞬発力って何なの?
別所はシュート力高いし、四谷はフェイントにほとんど対応できてたし、いやいや、改めて見るとお前らスペック高過ぎだろ。全員バスケ部に入っちゃえよ。
大口叩いたわりに見合うだけの働きをしていないのはオレか。頑張らないとな。あ、そうだ。一つだけ出来そうなのがある。やってみるか。
少し下がってからドリブルを最高スピードに上げる。正面突破。当然ブロックに来るわな。でもスピード緩めずに突っ込むと見せかけて急ブレーキ。レッグスルーなんぞでちょっと後ろに引いて。本当だったら右にフェイントかけるつもりだったのに、そこまですることなく決まってしまった。アンクルブレイク。すみません、意地の悪いことして。でもスリーは決めさせていただきますね。
あっ! 指のかかりに微妙な違和感。マズッ! あー、良かったぁ、リングに蹴られるかと思った。
それにしてもブレーキドリブル、膝に負担かかり過ぎ。もうやめとこ。
後4点。時間が残り少ないな。
うわっ、ロングパスとか! ヤバイ、不意を疲れた!
……。
うん、お前読んでた? 別所ナイス! そのまま行っちゃ……えーっ? 何でまたオレに寄越すの? もうそろそろ動けよお前ら。
「このヤロー! もう好きにはさせねえ」
「ファールはやめれな」
背後にすっごいプレッシャー。恐る恐る振り返ると、そこにはまるで覆いかぶさるように大門先輩ともう一人。ちょっとぉ、ダブルチームとかやめてくださいよ。
うわぁ、これは抜け……るな。
大門先輩を右から抜くと見せかけてバックチェンジ。左へのフェイントで空いたスペースを強行突破。よし! 残り三人はゴール下。ブロックに来た相手をスピンムーブで抜いて強引にシュート。
っしゃ! あと2点。
あ、全員上がってきた。ディフェンス頼むぞ。よし、リバウンド。うわ、大門先輩高過ぎ。一旦外に出して、えっ? やば、スリー! よっしゃ外れた。
上がれー!
別所から四谷にパス。切り込んで行ったけど、ブロックにあって外の山崎へ。そしてゴール下に辻が走り込んだ。上手い! 山崎はフェイントを入れつつ、辻へと見せかけてオレにパス。冷静だ。
「寺山ぁ、スリー決めろ!」
言われるまでもない。これを決めれば逆転だ。
だがパスが少しそれたためシュート体勢に入るのがワンテンポ遅れた。ほんの少しだった。オレがゴールに向けてリリースした時、すでに大門先輩が雄叫びをあげて跳んでいた……。




