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図書室と先輩~ネオ!~  作者: にま
彼の欠点、彼女の短所
62/102

その18 彼女はいけないです。

「田島ぁ、謀りやがったな」


「あのなぁ。全員参加が原則だって言っただろ。お前だけなんだよ、試合に出ていないの。だから二人に頼んでおいたの。どうせ女子の試合を鼻の下を伸ばして眺めているだろうから、いたら連れてきてくれってな。でもまさかホントに行っているとはな」


 田島君たらそんな言い方して……。

 芳樹君と仲が良い彼がそんなことを頼んできたのは、ルール遵守のためだけではないのだろう。なにしろ芳樹君を無理矢理バスケのチームにしたのは彼だったから。ケガのことも知っていたし思うところがあるのかな。それに極めつけは「アイツのバスケ見たいだろ」の一言。ずるいよね、そんなこと言われたら断れるはずないじゃない。


「後半に出てもらうからな。アップしとけよ」


「裏切り者!」


「ダメよ、芳樹君。田島君に八つ当たりしちゃ」

「そうそう。芳樹君が出れば万事解決。がんばってねー」


 お礼言ってもいいくらいだよ?

 さて、今のうちに準備運動しておいてもらわいといけないのに、しがみついている腕が思ったより逞しくてちょっと離れがたい。やっぱり男の子だね。押し付けた胸でもそれを感じてしまって、ちょっといけない気分。こんな時こそノーブラ作戦が有効だと思うけど、今も喜んでいるのか困っているのか微妙な表情だし、あまりやり過ぎると逆効果かな。でも、滅多にないチャンスだしノってきちゃったし、これはこれで……、って泉美ってば何やっているのよ、はさむとかやり過ぎでしょ、離れなさいってば! 

 はぁ、出し抜くつもりでいたのに……。この手の勝負ではやっぱり分が悪いなぁ。




「あ、芳樹くーん、バスケ、勝ち残ったんだってってね」

「よっしきくーん、負けちゃったー。慰めてー」


 球技大会。これに勝てば決勝というところまできたけど、相手の二年生チームは体育会系をそろえたみたいで結果は散々。でも久しぶりのドッヂボールは楽しかった。ワタシも一人に当てたし満足満足。天気も良くて気持ちいい。

 

「お疲れ様」


 コートから10mくらい離れたところで見ているというのが、どうにもこうにも芳樹君らしい。近くで応援すればいいのにと思ったけど、それはそれでこっちが恥ずかしいかな。それにしても田島君の言った通り。行動パターンが単純というか素直と言うかちょっと笑える。

 あれ、視線がちょっと……。あ、そうか体操服だったっけ。体の線をなぞるような目の動き。他の男子だったら嫌悪感を感じる行為だと思うのに芳樹君なら平気。不思議よね、こういうの。


「バスケはこれから?」


 バスケットでウチの男子は勝ち進んだらしい。たしか別所君達だ。みんな自信ありげに立候補しただけある。もうそろそろ試合が始まるはず。


「もう始まっているんじゃないかな」


 なーに、その他人事のような態度は。


「じゃあ芳樹君も行かなきゃヤバイじゃん。出るんでしょ?」

「芳樹君のバスケ見たーい」


「いやぁ、みんな随分と張り切っているから、オレの出番はないと思うよ」


 うわぁ、本当に出る気がないみたい。サボリついでに見に来たというよりサボるためにこっちに来たってわけ? だ、け、ど、こっちもいろいろとあるの。


「でも、いつでも出られるようにしとかないとね」

「よし! じゃ一緒に行こー!」


 ワタシと泉美は両脇に回り、その腕にギュッと抱きついた。

 これならそう簡単には振りほどけないでしょ。さぁ、行くわよ。体育館履きは田島君が用意してくれる手筈になっているから、そのまま直行でいいわよね。

 状況が呑み込めないのか、ワタシ達を交互に見てくるその顔がとてもかわいい。でも見たいのはかっこいい顔なの。真剣にバスケをしていた時のあの顔。半分くらいでいいからさ。

 ほらほら、これは前払い。胸の感触が分かるように少し離したり押し付けたり。

 うーん、我ながらこの頃ちょっとエッチィなぁ。でも清純ぶったところで仕方ないじゃない。なにしろ敵は凶器とも言えるおっぱいを有する泉美、何をやってくるかわからない。出し抜くためにはこれでも足りないくらい。

 そうしてワタシ達はそのままサボり犯を体育館へと連行したのだった。




 決勝の相手は三年6組。先輩のクラスだけど応援している中には見当たらない。他の応援に回っているのかな? そういえば先輩の体操服姿って見たことない。意外と着やせするタイプで実は凄かったり? ……うん、それはないよね。

 あ、前半が終わった。39対18かぁ。残念ながら負けている。でも後半は芳樹君がいるし、逆転できるよね。

 

「三年生はやっぱり強いわ。後はよろしく」


 松木君と替わるみたい。仕方ない、名残惜しいけどここは自由にしてあげなくちゃ。


「じゃ、頑張ってね」

「応援するからねー」


 どうして男の子ってこんなに体温が高いんだろう。触れていたところがしっとりしている。さっきまで腕が当たっていたところも急にスースーして少し寂しい感じ。これは温度のことだけじゃなく。いけない気分がさらに増長して加速する。もっと触れていたかった。というより、芳樹君にもっと触って欲しい。

 あ、田島君と何か話している。なんだろ、表情がワタシ達に向けてくるのとちょっと違う。打ち解けているというか……。なんか悔しいな。

 剣道部でクラスでは体育委員の田島君。今時流行らないと思う角刈りで見た目も質実剛健な感じ。正反対の位置にいるような人なのに、よく二人で話をしている。気が合うのかな? 高校に入ってからの友達では一番仲が良さそう。ワタシの知らないことも知っているかも。あんな頼みごとしてくるくらいだしね。今度色々聞いてみよう、もちろん内緒で。

 あ、始まる。さぁ頑張ってね、芳樹君。


「「「「おっしゃっ!」」」」


 うわぁ、みんな気合入ってる。うん、期待できそう。頑張ってー。

 こうやって見ると別所君と山崎君て背が高い。175cmくらい? 辻君と四谷君は芳樹君よりちょっと低め。でも引き締まったいい体格をしている。さすがスポーツマン。

 集まって小声で何か話しているけど作戦のことかな。ポジションとかフォーメーション? 球技大会でそこまでするとは思えないけどどうなんだろ。

 

「「「「頼むぜ!」」」」」


 何かまとまった感じ? 張り切っているなぁ。

 あれ、芳樹君、ゴールのところに行っちゃった。あーん、カッコよくシュート決めるの見たかったのに。

 始まった。

 あ、みんな凄い。三年生もなんであんなに上手いの? なんかかっこいい。

 それにしてもバスケットってせわしないスポーツよね。入ったと思ったらすぐ、あ、入れられたってなるし。息つく暇もない。それがいいんだろうけど、見てるほうも疲れるわね、これじゃ。

 うーん、芳樹君どうしたのかなぁ。シュートをブロックしたりしているけど、ボール持ったらドリブルもしないですぐ誰かにパスしちゃってる。

 あっ! 

 もしかしたら膝が痛いのかな。もう大丈夫って言っていたけど、本当は治ってなかったり? えっ、だったら試合なんか出ない方が……。

 ワタシまたやらかした?  


「ねぇ泉美? 芳樹君ケガ治ってないのかな」


 募る不安が心を支配し始める。ケガを押しての出場だったら、またワタシは無神経を通り越した酷いことを強いていることになる。

 しかし泉美はそんなワタシの心配をよそに、冷静にそしておそらくは的確に状況判断をする。


「大丈夫だと思うよ。多分別所君達が頑張っているからサポート役に回ろうとしているんじゃない」


「ホント? ケガしたところが痛くて動けないとかじゃないのかなぁ?」


「映子ちゃん? さっきまで一緒に歩いてきたでしょ。そんな素振りしてた? それに……」


「それに?」


「もう動かざるを得なくなると思うわよ、多分」


 そう言いながら泉美は指先をコートに向ける。

 どういうこと? その指を追いかけるように視線を動かした時、周りの歓声さえかき消すほどの大きな声が響いた。


「こらぁ、芳樹っ! そんなところでサボってないでガンガン行きなさい! 100点くらいあっと言う間に取れるでしょ!」


 うわっ、びっくりした。

 ワタシ達とはちょうど反対側のコート脇で仁王立ちになっているのは……。

 ちょっ、ちょっと。えっー、先輩、何それ! 

 期待を裏切る体操服姿。着やせするタイプではなかったけれど、別の意味で凄かった。

 足なっが! 色しっろ! なにそのモデルみたいな体型。ずっる! 顔はちっちゃいは首ほっそいはなっがいは。 スリム? スレンダー? とにかく先輩ってば反則過ぎませんか?

 うわぁ。ショックでかっ! 胸の大きさでは勝っているけど、言い換えればその部分しか勝っていなかったって感じ。負けた感ハンパない。


「ねぇ映子ちゃん。私、痩せている子を羨ましいと思ったことはあったけど、殺意を覚えたのは初めてよ」

 

 隣でボソッと呟くように言う泉美。うん、それワタシのセリフでもあるわ。気持ちはよくわかる。でもね、泉美? ワタシはあんたのその胸にも殺意を持つこと多々あるんだけどね。

 

「おいおい、高橋さんや。普通自分のクラス応援しないかい?」


 三年生チームの一番背の高い人が先輩を嗜めている。

 普通はそうですよね。でも先輩には通じない。だって普通じゃないもの。


「何よ、大門。あんたらなんて応援しなくたって強いでしょ。私はか弱いほうの味方なの。よし! 芳樹っ、逆転したらハグしたげる。100点取ったらもっといいことしてあげるわよ。だからさっさと本気出しなさい!」


 先輩、そんな大きな声で……、ってハグ? いいこと? 

 マズイ! これ絶対に食い付くわ。ワタシは泉美と頷き合う。させてなるものか! 


「芳樹くーん。逆転したらキスしてあげるぅ!」

「私は直でおっぱい揉み放題だよー!」


 ちょっと泉美、それはどうなの? まぁ今はしょうがないということにしたげる。先輩の言う「いいこと」が何なのかわからないけど、対抗するにはそのくらい言わないとダメかもね。いけない気分がどうのこうのなんて言っている場合じゃないわ。 


「へぇ、もてるなぁ、羨ましい。じゃあ、さっさと逆転してもらおうか」


 あ、あの大きな人、芳樹君の前に立ってる。ちょっと邪魔しないで! 


「あ、サーセン。あの子達冗談きつくって参ってるっす。気にしないで下さいっす」


 冗談でこんなこと言うものですか。泉美はともかくワタシは本気よ。先輩が「いいこと」ならこっちは「いけないこと」してあげる!


「冗談でも女の子にあんな応援してもらえるのがむかつく。なぁ」


 相手の三年生、みんな頷いているし。ちょっとちょっと、モテない男の僻みはみっともないですよ。


「先輩方。そいつは俺達にとっても敵っすよ。遠慮無用でぶっ潰してもらってかまわないっす」


 別所君まで。チームメイトでしょ!


「安心しろ。こうなりゃお前にボール集めるから、さっさと100点取ってくれ」

「そうそう。このままじゃ勝てそうにないからな。寺山の本気に期待する」 

「後は任せた」

「頼むぞ。勝たせてくれ。俺らに明るい未来を!」


 あ、そういうこと。なら許す。 


「ほい。とりあえずシュートでも決めてもらおうか」


 あれ、三年生が芳樹君にボール渡した? 

 

「いっけぇー、芳樹っ!」


 先輩ってばどっちの味方? あ、今はこっちの味方って言ってたっけ。心強いと思えばいいのか、邪魔臭いと思えばいいのか微妙なところよね。でも先輩の言う通りね。いっちゃえー!


「お手並み拝見といくか」 


 何あの大きな人。芳樹君のこと甘く見てない? うーむかつく! やっつけちゃえ、そんなやつ。もう逆転しなくてもいい。一本でも決めてくれたらキスしたげる。お願い、頑張って。

 ……。

 ドリブルをしながら対峙する芳樹君。

 あれ、なんだろう? 徐々に雰囲気が変わってきている。楽しそうにしていたのに、どんどんテンションが下がっているというか……。嫌になっちゃったのかな? ううん、そうじゃなさそう。体を揺らし始めているし、ゴールのほうを見ている。

 あ、これ逆だ! そしてワタシの耳まで届いたのは、今まで聞いたことがないような力強い声。


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