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図書室と先輩~ネオ!~  作者: にま
彼の欠点、彼女の短所
60/102

その16 彼女はエッチがいいです。

「芳樹君はどっちにするの?」


 今日のお昼ご飯はコンビニおにぎりとサラダ。いつも野菜が足りていないみたいだったから、サラダくらい作ってあげるよと提案したんだけど、次の日からコンビニサラダを買ってくるようになった。良い傾向ではあるんだけど釈然としない。これは今度からワタシが作るって宣言しないとダメよね。だいたい、お金がもったいないじゃない。よし明日からそうしよう。

 そんなことを思いながら、今度の球技大会について彼に聞いてみた。たぶんバスケを選ぶんだろうな。


「二人は?」


「ワタシはドッヂボールかな。バレーって痛いんだもん」

「私もー映子ちゃんと一緒にドッヂボールー」


 アタックしたらネットのワイヤーまで打って手を傷めるし、レシーブしたら前に飛ばないで顔面直撃するし、トスしたら突き指するし。別世界のスポーツよ、バレーボールなんて。普通に出来るみんながおかしいのよ。


「で、芳樹君は?」


「うーん、出ないで済むならどっちでもいいよ」


 いきなりワタシの期待を裏切るとか……。ワタシは見たいの、活躍するのを!


「ちょっとぉ、何よそれ。中学ん時はバスケ部だったんだから出ればいいのに」


「いやぁ、もう体が付いていかなくて」


 年寄くさいこと言わないで。


「やめてよ、おじいさんじゃあるまいし。ここはいいとこ見せようって張り切るところだと思うんだけど」


 クラスのみんなにも実はカッコいいんだよって知ってもらいたいの。自慢したいの!


「いいとこあればそうするけどね」


「芳樹君はいいとこばっかだよー。だから出なくても大丈夫ー」


 あ、泉美ってば、そういう点数稼ぎに持っていくとかずるい。


「ねぇ、そう言えば、何で部活入らなかったの? 芳樹君ってバスケ部でレギュラーだったんでしょ?」


 かねがね気になっていたこと。試合とかは見たことないけどかなり上手いって聞いたことがある。下級生の女子にも人気があったとか。聞いても否定するんだけど、練習している時のキリッっとした顔はモテてもおかしくないと思ったし。

 それに大概のスポーツはこなせるみたいで、体育の授業ではいつも目立っていた。だからバスケじゃないにしろ運動系の部活に入ると思っていたのに、高校に入ってからはまるでやる気なし。帰宅部とか似合わないでしょ。


「市の大会でも結構勝ち進んだって聞いてたけど?」


 チームの中心選手だったとも聞いた。ユニフォーム姿、一度見たかったなぁ。


「うーん、高校になったらレベルも上がるし、正直付いていけないって思ったからかな。ほら、オレって根性無しだからしごきとか耐えらんないし」


 一応進学校と呼ばれるウチの学校に県大会や全国大会に出場する程の部活はない。もちろん皆一所懸命にやっているし、勝つ意気込みがないわけではない。ただ冷静かつ客観的に見れば、言うほどレベルが高いとは思えない。


「バスケが唯一の取り柄って前に言ってたよね。それ取ったら何が残るって言うのよ」


 よく覚えている。勉強ができない分バスケじゃ負けない、そう言っていたのを。

 だからなのだろう、きつくあたるようになったのは。部活にも入らず日々を無為に過ごしているような姿を見たくなかったのだ。


「ちょっと映子ちゃん! こっち来て!」


 えっ? 

 突然立ち上がり語気を荒くした泉美に、ワタシは手首を強く掴まれ廊下へと引きずり出された。


「ちょっ、泉美ってば、痛いから離して!」


 強引に手を振りほどくと、今まで見たことのない険しい表情でワタシを睨む泉美がそこにいた。本気で怒っているようだ。


「いくら映子ちゃんでもあれはないでしょ! どういうつもりよ! 芳樹君、膝壊してバスケやめたの知ってるでしょ! それをあんなふうに言うなんて……」


「ちょっと待ってよ、泉美。何を言ってるの?」


 剣幕に気圧されながらワタシはかろうじて言葉をはさむ。えっ、膝?


「だからっ! ……って、まさか知らなかったの?」 


 嘘! ふと中学の時のことが思い浮かぶ。そう言えば夏休み明け、体育の授業を休んでいた時期があった。でもそれは家の階段で変な転び方をして膝を打ったと自分でも笑っていたはず……。

 

「中学の大会で途中退場したんだって。かなり酷かったんじゃないかな。バスケ部に入らなかったのはそれが原因だと思う。多分直っていないのよ。今だってサポーターしてるし」


 全然知らなかった。泉美が何故それを知っているのかも気にかかるけれど、今はそれは後回し。さっきワタシは何を言った? 泉美の言ったことが本当だったら、ワタシが言ったことは……。バスケが好きだと言っていた。唯一の取り柄だとも言っていた。それがもう出来なくなった? ちょっと待って! えっ? ワタシは傷口に塩を塗り込むようなことを平気で言っていたの? 今もサポーター? ああダメ、考えがまとまらない。


「あー泉美? もしかしてそれってオレのことが原因?」


 教室から出てきた芳樹君の顔をまともに見ることが出来ない。


「芳樹君、ケガしてるって本当?」


 動揺しているせいかいきなり核心を突いてしまった。無神経さが止まらない。酷すぎる。サイテーだ!

 

「膝をちょっとね。今はもう大丈夫だよ。体育の授業くらいなら問題ないから」


 けれど芳樹君は不機嫌になることもなく、逆にワタシを気遣ってきた。恥ずかしさやら自己嫌悪やら、どう表現していいかわからない複雑な感情がワタシを支配する。


「ごめんなさい。知らなかった」


 そう言いつつ、知らなかったでは許されないとワタシの中でジャッジが下る。今日のことだけじゃない。なんて酷いことをしてきたのだろう。


「わざわざ言い触らす様なことでもないし、中学ん時のことだからもう時効ってことで勘弁してほしいんだけど」


 許されるはずがない。でも許して欲しい。醜く浅ましい考えが脳裏に渦巻いていたところで、その言葉はワタシをある意味打ちのめした。

 どうして自分が悪いみたいに言うの? どうしてそんなに……。そしてワタシは今いる場所を忘れた……。 

 

「ごめん。ごめんなさい。うぅっ、うぅっ、ごめん、ごめん」


 整理しきれない感情が涙がともにあふれてくる。言葉を探そうにも見つからない。

 ……。

 ただここで出るのがワタシの悪い癖。酷い性格としか言いようがない。切り替えが早いと言えば言えるのだけれど、この場合は短所として挙げるべきだろう。なにしろ謝罪の念やら自責の念やらを簡単に頭の片隅に追いやってしまったのだから。

 ……。

 あれ、これどういう状況? なんでワタシ抱きついちゃっているの? 

 そう、さっさと我に返ってしまったのだ。熱し易く冷め易い。いいえ、この場合は覚め易いの字を当てるべきかしら?

 えっとぉ……、泉美から芳樹君のケガのこと聞いて……、そしたら芳樹君が出てきてぇ……、なんだかブワァーッてなっちゃって……。

 あっ! ……もしかしてワタシ、やっちゃった? 何だかすっごくまずくない? 廊下だよね、ここ。他のクラスの子も見てるよね。うわぁ、恥ずかしすぎるぅ。

 あー、でもいいかも、これ。好きな男の子の胸に顔を埋めるとか、なかなかできないよね。もうちょっとこのままでいようかな。


「こっちこそごめん。隠していたわけじゃないんだ。本当に気にしなくていいから」


 やだ、謝らないでよ。こっちこそごめんなんだから。でも相変わらず優しいね。頭なでなでしてくれたらもっとうれしいかも。即座に離れるという選択肢すら排除し、あらぬ方向へ期待を膨らませるワタシ。

 とその時、背後で泉美が先程とは違ったトーンでワタシにクレームを付けてきた。


「映子ちゃん、ずるーい。私もー」


 私も? ちょっと待って、泉美! 滅茶苦茶な展開とはいえこの場のヒロインはワタシでしょ。

 けれど心の中の抗議では泉美の突進を止められる筈がなく……。

 ボフッ!

 うらやましくなるくらいの柔らかさをワタシにまで押し付けてくる。独り占めを図るためさらに踏み込むも泉美も然る者食わせ者。それを読んだかのように方向修正しすでに額を胸に埋めている。

 思いも寄らないオイシサだったのに、ここをかっさわれては女のプライドが許さない。どうしてくれよう? ん、この体勢ってもしかしてチャンス? クスッ。いいかも! ここまで来たらとことん行っちゃお! 

 ふと浮かんだ考えをこれ以上ない最高のアイデアだと思い込んでしまうのもワタシの短所。いつもこれで自爆しているけれど勢いは大切よね。大事なのは今なのよ、この一瞬よ! 

 上目遣いで見ると芳樹君の顔は10cmもない超至近距離。しっとりしていそうな唇、もはや他は目に入らない。……よし、照準固定! 動かないでね。  

 そしてワタシは目をつむり、()()に自分の唇を突き出した。

 ……。

 なんでこの肝心な時に転ぶかなぁ。あれ、ムニュッって? あ、手、手!

 一緒に覆いかぶさった泉美も、同じように胸に手を当てられている。けれど泉美はそこで恥らう素振りも見せず、ワタシを挑発するかのような視線を送ってきた。あ、そうくる? ふーん、よし、その挑戦受けたげる!

 

「「あー、芳樹君のエッチィ!」」


 キスは空振ったけど、おっぱい星人相手ならこっちのほうが効くわよね。大きさじゃ負けてるけど、ワタシだって期待には十分応えられるのよ。ほらほら、どーお? あ、そんなすぐに手を引っ込めなくたって……。

 

「ねぇ、どっちのおっぱいがいい?」

 

 ちょっと不満に思ったところで、泉美がエロカワな本性をむき出しにニヤニヤしている。くっ、負けてなるものか!

 

「ワタシよね」


 こうなった直に触ってもらおうかしら。自分でもなかなかだと思っているんだから。

  

「あの……、お昼食べ終わっていないんですから、とりあえず教室に戻りません?」


 廊下で女子二人が一人の男子を押し倒し、おっぱいの感想を求める図。ある意味シュール? 気が付けば周りもかなりざわついているけど、もう後には引けない。これはこれで、他の女子に対する牽制にもなるわよね。第二第三の泉美がいるかもしれないし。でもさすがにこれ以上は騒ぎが大きくなるだけだし、下手したら呼び出しくらっちゃう。ここは芳樹君の提案を呑むのが一番かな。

 そしてワタシと泉美は一時休戦を口元の笑みで了承し合うのだった。


「そうね、続きは放課後ってことで」

「うん、みんな帰ってからねー」


 問題はどうやって続きに持っていくか、だよね。まずその気にさせなくちゃ始まらない。また二人で無理矢理押し倒す? うーん、でも強引過ぎるのもちょっとなぁ。また図書室に逃げられそう。

 それにしても芳樹君てば、もうちょっとエッチになってもいいと思うんだよね。口では色々言うくせに、根が真面目というかヘタレというか。スキンシップを求めてきても拒否らないよワタシ。いつでもウエルカム、カモンベイビーなんだからさ。

 そしてワタシたちは、クラスのみんなの視線を集めつつも素知らぬ顔で自分の席に戻り……。

 とそこでワタシは今しがたの出来事で、失敗したことが一つあったことに気が付いた。

 あー、しまった! ノーブラにしとけば良かったぁ! 


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