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図書室と先輩~ネオ!~  作者: にま
彼の欠点、彼女の短所
55/102

その11 彼はギックリします。

「あの、お二方?」


「「なぁに、芳樹君?」」


 お願い、声をそろえるのはやめて。


「何ゆえ、僕の後をつけているのですか?」


 二人が名前呼びしたことで、女子は色めき立つし男子は殺気立つしで生きた心地がしなかった。オレは放課後になるや否や脱兎の如く教室を出た、のだが……。

 なぜかと言うべきか、やはりと言うべきか、オレは二人の美少女に完全にロックオンされていた。


「えー、別に芳樹君をつけているわけじゃないよー。行く場所が一緒なだけー」

「そういうこと。芳樹君は気にしないで図書委員の仕事をしてね」


 ニッコリと微笑む二人の顔が……かわいくて……怖い。



「ヤッホー! ヨッシー!」


 図書室に入るなり先輩の声が響く。ヨッシー? 誰だそれ。友達か? だが振り返っても誰もいない。二人も周りをキョロキョロ見渡している。 


「あれ、違ったかぁ? じゃあ、ヨッキ?」


 嫌な予感。もしかして?


「先輩? まさかとは思うんですが、それオレのことっすか?」


「他に誰がいるの? あ、新開さんに大原さんもいらっさーい」


 なんで先輩まで? こういうことは伝染するのか? シンクロシニティなのか? 


「「先輩、一昨日はありがとうございました」」


 二人がオレの前に進み出て頭を下げる。時折この二人って見事にハモるよな。

 うん、手招き? オレ……じゃないな、二人にだ。

 

「で、どうだった二人とも。間に合った?」


「先輩! いきなりそれはやめてください」


 二人ともかなり焦ってる。おーおー、顔真っ赤。でも何のことだ? 


「違うわよぉ。そっちの話じゃなくて、追い付いたのかって話」


「「えっ?」」


「むふふぅ。二人ともかわいいわ。いいからいいから」


 うーむ、この人やっぱりわからない。今のどう考えたって会話として成立してないよな。ただ二人には十分通じているっぽいのが不思議だ。

 顔を赤らめた下級生を楽しそうに見やる先輩。もしクラスメイトの誰かがこの光景を見たらかなり面食らうことだろう。二人がこんなに縮こまっているのは誰も見たことがないはずだ。


「あの、先輩? ヨッシーとかヨッキって、もしかして寺山君のことですか?」


 彼女がまともにオレを君付けしてくれた。つかえることもなく間延びすることもなく。初めてじゃないか? うーむ、目出度い。記念日にしておこう。


「そんな感じで呼んでいるだろうなぁって思ってたんだけど違った?」


 これは全否定してやる。そうそうあなたの思い通りにはなりませんよ。


「そんなんあり得ませんて。お願いですから……」


 あー、そう言えば否定しきれない出来事があったな。ヨヨシキと呼んだ女の子が一人いたっけ。でもそれは黙っていよう。


「えー、じゃあもしかしてヨーシキ?」


 オレはトイレですか!


「先輩! それはちょっと……。えーと、芳樹君って呼ぶことになりました」


 えーと、映子さん? それ確定ですか? せっかくの記念日が……。


「へぇ、芳樹君かぁ。なるほどなるほどぉ? そうなんだぁ、間に合って良かったわね」


 ニヤニヤが止まらない。だからその「間に合う」って何の話ですか。そして得意の……。


「じゃあ」


 ああ、まただ。うん、これは先を聞くまでもない。わかってしまう自分が悲しいぞ。


「はいはい、わかりました。今日はどうせ当番ですし、カウンターは自分が務めさせていただくっす。先輩達は女子会をどーぞ」


 オレは一歩下がり、司書室に左手を向け三人に一礼する。

 この三人に囲まれるくらいなら、オレは孤独を選ぶぜ。ボッチ最高!


「うーん、残念! その前に聞きたいことがあるんだけど?」


 はいぃ? 


「で、()()()は二人のこと、なんて呼ぶことになったの?」


 いきなり燃料投下するなぁ! 


「あ、そうなんですよ、先輩。ワタシ達のこと呼び捨てでいいって言ったのに、呼んでくれないんです。先輩からも何か言ってくれません?」


 ああ、ほらもう……。活性化しちゃったじゃないですか。ただでさえ手に余るというのに勘弁してくださいよ。しかも先輩? 今さりげなくオレを芳樹って呼んだでしょ。


「芳樹くーん、私のことは泉美ねー。さん付けはいらないからー」

「ワタシもさん付けしないでね。映子だからね、映子!」


 あ、頭上げらんねぇ。


「お二方のご尊名は存じ上げておりますです、はい。しかし、さん付けでさえ恐れ多いと言うのに、呼び捨てにするなどもってのほかではないかと愚考する次第でありまして、苗字で呼ばせていただけるだけで恐縮至極、何卒お咎めなきよう平にご容赦いただきたくお願いいたしまする」


 もう自分でも何を言っているかわからない。へりくだり過ぎている感があるのは自覚しているが、どうにもなぁ……。


「芳樹くーん、男らしくないわよぉ。二人が呼び捨てで構わないって言っているんだから、ここはもう思い切って「二人とも俺の嫁!」って言うくらいの気概を見せてほしいわぁ」


 それやったら多分、クラスの男子半分を敵に回すことになるんですが? それにですね、初婚が重婚ってヤバイっしょ。


「先輩、男女平等が叫ばれて久しい昨今、男らしいとか女らしいとかいう言葉自体根絶されるべきではないでしょうか?」


 いつかテレビで見たヒステリックでメガネクソババァな評論家の暴論を借りてみる。その時はゲンナリしたものだが、うん、自分で言ってみても滑稽極まりない。


「ナンセンスこの上なし! 男は男らしく、女は女らしく。これは別に男女平等の理念から外れるものじゃないわよ。……で、名前で呼ぶの? 呼ばないの? 付き合ってなきゃ名前で呼んじゃいけない、なんてことはないと思うけど」


 くそ、うまく逸らせたかと思ったのに。しかもオレの抵抗する理由まであっさり看破するとか、あいかわらずだな。

 だがしかし! この場で流されるわけにはいかない。

 と、二人が突然向き直り、胸の前で指を組みオレに迫ってきた。

 え、何それ? いきなりお祈りポーズって。しかも目がうるうる?


「ねぇ、芳樹君はワタシ達のこと、嫌い?」

「芳樹くーん。私達は芳樹君ともっと親しくなりたいのー。だから名前で呼んで。お願いー」


 はぁ? なんでそう来る? 嫌いかと問われれば、好きだと答えるしかないし、それに今のままでも十分親しいと言えるんじゃないか?


「いやいや、二人とも、ちょっと落ち着いてくれませんかね。別に名前で呼ばなくても仲良くはなれると思うのですが?」


「名前で呼び合えばもっと仲良くなれるでしょ」


 先輩、ここで援護射撃とかしないでぇ! 

 うんうんと頷きながら、なおも迫ってくる二人。近い近いって! 後ずさるも、背の低い本棚に腰があたりのけぞるしかなくなったオレ。

 

「ちょっと待ってってば、二人とも!」


 シチュエーション的には瞳をうるませた美少女二人に迫られているわけなんだが、何かが違う、どこかが違う! 絶体絶命! いや、命よりもまず腰がヤバイ。このままじゃボキッとなりそう。

 と、ここでポンと手を打ち鳴らせた先輩。もしや助け舟を出してくれるのか? 藁にもすがる思いで目を向けると……。うん、先輩はやっぱり先輩だね。

   

「ねぇ、というかホントに二人と付き合っちゃえばいいんじゃない?」


 滅茶苦茶言うなぁ!

 あっ!

 今、ビキッ! っていった。ツキーンってなった。これ……、えっもしかして?

 変な体勢になっていたせいか、今までに味わったことのない痛みが腰の辺りに蜘蛛の巣のように走る。

 うぉぉ! こんな一撃食らわせてくるとか、あんたやっぱり魔女だろぉ! 

 慌てて体を起こそうとするも、少し動いただけで……。ぐぅ、本格的にまずい。

 ふと目を戻すと、ズンズンと迫ってきていた二人が約50センチ程手前で止まっている。

 って、あれ? お二人さん、何で顔を見合わせてんの?


「「あ、そっかぁー!!」」


 納得するなぁ! おかしいだろぉーっ!


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