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図書室と先輩~ネオ!~  作者: にま
彼の欠点、彼女の短所
53/102

その9 彼は気になります。

 どうしたんだろ?

 オレにヨヨシキという新たな名前を授けてくれた即席ヤンキー映子さんは、顔を赤くしたり青くしたりと表情を忙しくしたかと思うとドスンと椅子に座り込んだ。大原がニヤニヤしている。


「映子ちゃーん、ヨヨシキ君ってだーれ?」


「うっさいわよ、泉美!」


 いやいや、大原さん。そこは生温くスルーしてあげましょうよ。


「ねぇねぇ、新開さん? どうなってるの、これ?」


 中尾さん、もういじらないあげて。あまり突っ込むとキレますよ、彼女。


「どうにもなってないってば。ただ名前で呼ぶことになっただけ」


 うーん、微妙な受け答え。キレてはいないけど、その分キレもない。


「えー、どうにかなってると思うけど?」


 中尾さん、その顔は何?

 こういう話する時の女の子って、どうしてこう楽しそうで意地悪そうなんだろ。


「そう思うのは勝手だけど、どうにもなってないのはホントよ」


 どことなく様子がおかしいな。何かあったのかな?

 あ、そう言えば、オレ返事してないぞ。挨拶くらいはしないと。


「おはよう。えーと……」


 やはり呼び捨ては難しい。言いよどんでしまう。


「あのね、ワタシは映子。えーと、なんて名前じゃありません!」


 うわぁ、オレをヨヨシキって呼んだのは誰?


「まぁいいわ。それはまた後で。いーい、よ・し・き・君!」


 お、言い直した。仕切り直しのつもりかな? でもなぁ、区切って言われると何か脅されているような気になるんだが?

 しかし彼女はそれ以降は黒板に向いたまま固まってしまった。

 名前を呼ぶのはもういいのかな? 後でって言われてもいつ呼べばいいんだ? そっと窺うと、これ以上はないというくらい表情を硬くしている。うーん、やっぱりおかしい。

 だがこれはあれだ。つついたらダメなやつ。下手に声を掛けようものなら、あのかわいい顔が般若と化すパターン。触らぬ映子さんにたたりなし。ここはそうっとしておくか。


『昨日ゲームしてね、罰ゲームで名前呼んでもらうことになったの。あ、おっぱいは当然冗談ね』


 大原が事態の収拾を図ったのは意外だった。おかげでこの場は丸く……ではないな、ところどころ棘が出ているが、まぁなんとか収まった。大原の人望の賜物だ。ここらへんはさすがというべきだろう。ただ、何か企んでいるんじゃないかと邪推してしまうのは、オレの被害妄想の賜物だ。

 だが、とりあえずオレの微妙な存在は否定されずに済んだのはありがたい。おっぱい星人の烙印を押されることは、男子の本懐ではあるから別にかまわないんだが、キモいと言われるレベルで女子から嫌われるのはなるべく避けたいところだったから素直に感謝しておこう。

 彼女も何か言うかと思ったが参加することはせず、そのままホームルームと一時限目の授業の間もずっと身動き一つしない、そんな感じを貫き通したのだった。

 そして休み時間になると速攻で教室を出て行ってしまった。トイレか? まさかあのガチガチ状態って我慢してたから? いやいや、女の子は男には理解できない事情もあるし、こういうことをあれこれ詮索するものではない。

 だが一度気にしてしまうと際限がない。どこか具合でも悪いのかな? それとも何かあったのか? どうしたんだろうなぁ。大原は何か知らないのか? 窓際で他の女子と楽しそうにしているところに聞きに行くってのもなんだかなぁ。その時ふっと大原と目が合った。オレの表情を見抜いたのか、さぁ? と言わんばかりに両手を広げる。うーん、大原も知らないか。それはそれで逆に気になってしまう。

 おいおい、もうそろそろチャイムが鳴るぞ。サボる気か? やきもきしていると、チャイムと同時に彼女が教室に入ってきた。

 うーん、なんだ? 今度は右手を腰に添えモデルウォーク。その腰の振り方も尋常ではない。クイッというよりグイッグイッと左腰を突き出すように歩いている。いやはや、今日の彼女はいったいどうしたというのだろう。さっきまでの能面状態から打って変わって晴れやかそのもの。表情の豊かな女の子は魅力的だけど、今日の彼女は危険な香り。だけどまぁ、いつもの……、いつも以上のような気がするが――彼女に戻ってくれたのは何よりだ。良かった良かった。

 ……良くなかった。


「よっしきくーん。今日も一緒にご飯食べましょうねー!」


 なんなんだ、いったい!

 あれっ? 

 思わず顔を背けると、ふと視界に何かが映りこむ。彼女の椅子の下。拾ってみると……、くしゃくしゃになった絆創膏? 何だこれ? 


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