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図書室と先輩~ネオ!~  作者: にま
彼の欠点、彼女の短所
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その4 彼女はかすみ目です。

 ここまで来たら着地はちゃんと決めなくちゃ。狙った位置に確実に。

 図書室にはワタシも行きたいけれど、今日はこっちが優先。できれば一度で決めたいしね。

 放課後、まずは立とうとする彼の肩を掴み席に押し留めることから。直後に泉美が飛んでくる。よしよし、とりあえずここまではOK。クラスメイトが何事かという顔でワタシ達を見てくるけれど、女子は気付いている子のほうが多いし気にすることもない。がんばれーと言葉に出さずに応援してくれる子もいるし。男子はというと、半分くらいかな彼を睨んだり舌打ちしたり。あれは泉美を狙っている子たちだね。思えば泉美も物好きだよね。他のクラスに比べてもなかなかにレベルの高いイケメンがそろっていると思うんだけど、なんで彼を選ぶかなぁ。ま、これはワタシも同じことか。

 さて、ランディングに入りましょうか。

 

「これからオーハラのことは泉美、ワタシのこと映子って呼び捨てでいいから、そう呼んで。わかった?」


 ダメだ、ちょっと緊張しているから口調が……。うぅ、これ早く直さないと。


「何よ、その嫌そうな顔」


 露骨に嫌そうな顔をする彼。ちょっとかわいいかも。こう感じるのって、好きな子を苛めてしまう幼児心理に近いのかな。


「それは勘弁してつかぁさい。お代官様ぁ」


「誰が悪代官だ、こら! どこに不満があるって言うのよ。ワタシ達みたいなカワイコちゃんを名前で呼ぶ権利、みすみす手放すとか、あんた何様?」


 う、いきなり墓穴。思わず自分を悪代官にしてしまった。でもね、自分で言うのもなんだけど、見た目ではワタシだって泉美に負けてないと思うんだよ。その二人が名前で呼んでって言っているのになんで断るかなぁ。


「あ、僕はお子様なので……」


 んっ! 危ない危ない。吹きそうになっちゃった。 泉美はこらえ切れなかったみたいね。


「いや、そもそもなんで呼び方を変えなきゃなんないわけ? 言ってたよね、色々考えたって。それをもうちょと詳しく教えてくれるとありがたいです、はい」


 あ、いきなり核心を突いてくるとか、なかなかやるようになったわね。仕方ないわ、ここは体勢を一度立て直そう。実質的な意味でもね。ちょっとからかってやれ。

 座り直すついでに、太ももがちらりと見えるようにスカートを直したり。ほらほら、ご褒美よーん。……って見てないし。せっかくサービスしたのに、もう! 

 ゴホン。んー、さてさて、これにはどう答えよう? 正直なところは「あなたに好かれたいから言葉遣いを直します」なんだけど、これじゃなぁ……。

 

「それは個人情報保護法によって秘匿される案件なのでお答えできません」


 ずるいかもだけど、もうちょっと心の準備をさせて欲しいんだよね。

 あれ、何、泉美? 

 目があまり誤魔化すなと言っている。多分だけど当たっているだろう。彼女とは親和性が高いのか、考えていること、言いたいことがなんとなくわかるようになってきた。


「わかったわかった」


 ここはある程度正直に言うしかないわね。


「だいたいさ、あんたのせいなんだからね。寺山ぁ……君」


 ワタシは暴論スキルを発動。自慢できない特技だね。


「あんたが普段からシャキッとしてれば、ワタシだって君付けしてたんだよ。それなのにいつもいつもダラダラしてるし、チンタラしてるし、モタモタしてるし」


 言いながら、そこまでだらしないわけじゃないよねと弁護する矛盾はひた隠し。 


「というのは、まぁホントだとして」


 そうじゃなくても呼び捨てだったろうな、なにしろワタシだし。


「ワタシもちょっとがさつな所があるからね、今のうちに直そうと思ってさ。で、何から直そうかと考えたら、あん……じゃない寺山 君のことをいつも呼び捨てにしていたなって。ほら、隗より始めよって言うじゃない。だからまずはそこから直そうと思って」


 性格が「三粗」なんだよねワタシ。自覚はしてるんだ。粗忽だし粗雑だし粗暴だし……。あ、考えていたら落ち込んできた。ヤバイじゃん。これで好かれようとか無理じゃない? マイナス過ぎ。うぅ、沈み込むぅ……。

 

「がさつとは思っていなかったけど?」


 えっ、ホント! 良かったぁ。でも恥ずかしくなってきた。顔がちょっと熱くなって来たじゃない。あんたのこういう何でもないセリフが結構効くんだよね。


「ううん。多分今まで嫌な思いさせてきたんだろうなって反省したんだ。だから……こめんね」


 はぁ、やっと素直にごめんが言えた。

 もはやこれは快挙と言っていいんじゃない? レベルアップしたかも。あースッキリ。よしよし、テンション上がってきた。着地点見えてきた。 


「で、お願いがあるんだけど」


 彼の顔も明るいし、今なら大丈夫だよね。ちょっと戸惑うかもだけど聞いてもらいましょ。ランディング最終段階、いっくよ!


「寺山君って呼ぶのも今さらな気もするし、ここまできたら芳樹って呼ばせてもらおうと思って。もちろん君付けするから。さっきも言ったけど、ワタシ達のことは呼び捨てで。どう? ダメ?」


 途端に彼がフリーズ。 カチッカチッと時計の音が聞こえてきそうな空気。

 いいよね、苗字で呼ぶのはやめて名前で呼び合うのって。親交を深めるにはもってこいじゃない? 友達よりちょっと上な関係。目指すはその先だけど、まずはここから。あせってがっつくのはみっともないし、ゆっくりのんびりと。言うなれば急がば回れ作戦?


 「芳樹君、よろしくー」


 泉美ぃ、ワタシより先に呼ばないでよ。


「いやいやいやいやいやややん! ちょっと待って、ずっと待って!」


 いややん? ちょっとにずっと? もう何言っているの。そこまで焦らなくてもいいんじゃない? 


「どこをどうしたらそうなるの? オレの了解無しに進めないで!」


 だから今、了解をとるべく話してるんだけど?

 さっき休み時間に泉美と話し合った決めたこと。この際全員名前で呼び合おう。それほど無理なお願いじゃないと思うけどなぁ。


「マー君じゃ嫌だって言ってなかった? よっくんもダメ。となると芳樹しかないじゃん」


 三者択一。マー君は呼びやすいけどさすがにね。よっくんはかわいいと思うけど、子供っぽ過ぎるのがネックだし。残るのは芳樹君。かっこいいよね。


「再考の余地があると思われます。議論を尽くしてから結論を出すべきだと愚考する次第です」


 え、ダメなの? 再考と言われても「芳樹君」が最高なんだけどな。 


「私達に名前で呼ばれるのはそんなに嫌? 私、芳樹君って呼びたいなー」


 そうよね、泉美。でもさ、さっきから誘惑モードに入っているのは何故なのかしら? もしかしてここで決着付けようとは思ってないよね。あんたがそういう手使うんだったら、ワタシだってね少しはできるってところ見せたげようか?


「苗字で呼んでたら多分また呼び捨てになっちゃう。ここはワタシを助けると思って協力してくれない? それともワタシは言葉遣いのなっていないがさつな女のままでいい?」 


 瞬きの回数を意識して減らして、この場合はそのまままっすぐに顔を上げてと。身長差からくる角度を利用すれば……。男の子って少し下から真っ直ぐ見られるの弱いみたい。ほら彼が少し顔を赤らめた。

 と、いけないけない。こういうテクニックはまだまだ取って置かないと。乱発したら効果が薄れちゃう。泉美と違ってワタシのはまだ付け焼刃程度、研究中の段階だしね。もっといろいろ覚えてから試さないと。

 さてと返答や如何に? 

 うーん、なんか色々考えているみたい。そりゃそうよね。ワタシはともかく泉美が名前呼ぶようになったら、嫉妬に狂う男子が出てきそう。ケンカにはならないまでも、仲が悪くなったりハブられたりはありそうだし。これについてはワタシ達がうまく立ち回らないとね。

 一番のネックを取り除けばいいんだけど、協定は結んだばかりだし、それはまだまだ先のこと。一番のネック、それはまだワタシも泉美も彼と付き合っているわけではないということ。そのための準備段階なんだけど、他の人に言っても理解されないよね、これ。

 なんかワタシ達って、変わったルート選択しちゃったのかな? 

 ま、ここは大上段に構えて、ヨソのことなんか関係ないねって嘯くのがワタシ流。だって本当にそうなんだから。

 もっとも、それ以前に彼は気恥ずかしいみたい、名前を呼ぶのも呼ばれるのも。それはわかっているんだけどもう引き下がれない。押すしかないよね。

 でも……。

 考えていたら、彼を追い詰めているような気がしてきた。実際そうなんだけど、彼を困らせるのが目的じゃないからちょっと罪悪感。


「無理強いするつもりはないの。できればそうしたいなって……思っただけだから」


 そんなことを思っていたら自然と声も消え入りがち。

 なんかいつもワタシ達の都合で振り回している。申し訳ないという気持ちがじわりと広がってきて、さっきまではっきりと見えていた着地点もかすんでくる。弱気という横風にも煽られて見失ってしまいそう。

 自分がこんなふうになるなんて思っていなかった。……どうしよう?


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