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図書室と先輩~ネオ!~  作者: にま
彼の欠点、彼女の短所
46/102

その2 彼女は改正します。

「寺山ぁ……君」


 思っていたより呼びづらい。なんでだろう。他の男子なら君付けは自然にできるのに。

 寺山芳樹(カレ)が二つ目のパンを袋から出そうとしている。今日はコンビニパンのようだ。あいかわらず野菜不足な昼食。今度からサラダを多めにして彼にあげようかしら。

 で、なんで落としそうになってんのよ。その驚いたような顔もね、考えればちょっと失礼じゃない? オーハラー、あんたも何止まってんの?


「何よ、あんたのこと、君付けで呼んじゃダメなの?」


 ワタシもなぁ、どうしてこんな物言いになっちゃうんだろ。


「ワタシも色々考えることがあってさ、これからはちゃんと君付けで呼ぼうと思って」

 

 別に色々と言うほど多岐に渡ることを考えたわけではない。一つのこと、一人のことを考えただけだ。そう、目の前でワタシの呼び掛けに困惑している彼のこと。

 なんでそこまで不審そうな顔するかな、君付けしただけなのに。


「だからぁ、色々あるの! それとも何、今までみたいに呼び捨てのほうがいいの?」


「いや、もう呼び捨てが定着してるから、逆に落ち着かないというか、誰? って感じで」


 確かにワタシ的にも定着していた。でも、それがダメだったんだよ、多分。

 唇をとんがらせていたのだろう、彼があわてて続ける。


「オレ的にはどっちでもいいんだけど、新開さんが決めたのならそれでいいのではないでしょうか?」


 何、その言い方。あんたってっさ、時たま言葉遣いがおかしくなるよね。

 ……。

 呼び捨てを否定してこないのは思いやり、なんだろうな。これに甘えていたんだね、ワタシ。ごめんね、ありがとう。

 だからね、()()考えたんだよ。改めるべきは改める。基本的なことだけど、ようやく気付いたんだ。たいした女でもないのに何勘違いしてたんだろうってさ。


「ちょっとひっかかるけど、まぁいいわ。じゃ、これからはあんたのことは君付けで呼ぶから」


 あんた呼びも直さなきゃと思うけど、今は君付けで精一杯。もうちょっと待ってて。


「じゃ、私はー?」


 内心の苦労を読み取ったかのようにオーハラが会話に割り込んでくる。一息入れろということなのだろう。ありがたいことこの上ない。


「オーハラはオーハラでしょ」


「えー! 私も私もー」


「何よ、大原さんとでも呼べばいいの?」


「ううん、そんな他人行儀じゃなくてー、下の名前で呼んでくれたら嬉しいなー。できればイズミンでー」


 イズミン? 面白いけどね、でも恥ずかしいよ、さすがに。


「それは勘弁して。……そうね、じゃあ泉美(イズミ)ちゃんでいい?」


「ちゃんはいらないよー。泉美だけでいいからー。あ、寺山君も私のことは泉美って呼んでー」


 なっ! あのね、こんな時に仕掛けてこなくたっていいでしょ。ほら、彼だってむせちゃったじゃない。


「ちょっと、オー……、泉美ってば、寺山ぁ……君に無理言わないの!」


「いや、新開さん? それだと微妙に「テラヤ、マー君」に聞こえるんですが? もうちょっとどうにかして欲しいです」


「しょうがないでしょ! ワタシだってまだ慣れてないのよ!」


 あ、またやっちゃった。どうしてこうなっちゃうかな。これも直していかないとね。


「あ、マー君ってかわいいかもー」


 ナイスフォロー、泉美! 


「確かに。いいかもしれないわね」


 君付けよりは呼びやすい。でも誰? って話だけどね。


「マー君じゃダメ?」


 あ、また! 隙を見てはアピールするのやめなさいってば。何よ、その潤んだ目は? ちょっとあざと過ぎるわよ。完璧に誘惑バージョンでしょ。


「ダメ。勝手にオレの名前変えないで」


「じゃ「よっくん」って呼ぶー」


 んぐっ! 泉美ぃ、それやめて。ツボったじゃない。彼も鼻押さえているし。


「ちょっ! オー、……泉美ぃ。いきなり何言ってんのよ。寺山ぁ……君も困ってるでしょ」


 自分で言っててなんだけど、大泉って誰? マー君って? あ、ダメ。またツボりそう。

 ぶっ! ちょっとちょっと寺山ぁ君。何よぉ、鼻から牛乳たらさないでよ、もうヤダァ!


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