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図書室と先輩~ネオ!~  作者: にま
彼の迷走、彼女の葛藤
36/102

その18 彼女はささくれます。

「っ!」


 あの果敢無げ顔からは想像できない声だった。それほどに、予期せぬ攻撃の威力が大きかったということだろう。

 痛そー! でも、ざまぁ!

 あれはほぼ鞭だったわね。あのスピードと角度。そしてなによりあの音。打撃音というより破裂音に近かった。


「先輩、痛いです!」


 自業自得よ!


「そりゃそうよ。思い切り叩いたもの。いやぁ、大きな音がするものね」


 逆に先輩の手のほうが心配。大丈夫ですか、痛くありません?

 冷酷非情な人でなしにはちょうどいい薬。

 そして先輩が両手を広げ、左右に首を振る。ほんと「やれやれ」ですよね。


「それにしても……」

 

 言ってやってください! この女の敵に。


「あんた、バカァ?」


 先輩、グッジョブ! 

 だけど……。

 ワタシも彼に何度か言ったことあるけど、これ威力ありすぎじゃない。彼も動きが止まってるし、もしかしたら想像以上に傷付けていたのかも。これからは使うの控えよう。

 さて直接の相手はどうなんだろう。いい気味ではあるんだけど、と見てみれば……。

 あ、やっぱり茫然自失状態? ちょっとあわれな気もするけど。

 

「まだ、僕のターンだと思うんですが?」


 あ、結構しぶとい。それに何、ターンって? ゲームやってんじゃないんだから、その言い草はないでしょ! 

 自分がかなり刺々しくなっているのがわかる。でも……。


「そうね。あなたが一年生三人をそのまま騙し通せたなら、続けさせるつもりだったんだけどね」


 え、先輩、それってどういう意味ですか? 


「でもほら、気付かれちゃっているわよ」


 先輩が右手の人差し指を振りながら、その指先だけを折り曲げてある人物を指差す。


「彼に」 


 えー!

 先輩、それ勘違いじゃありません? ほら、突然お鉢が回ってきてキョドっているコイツが、何に気付いているって言うんです? ガキですよ、お子様ですよ。だからワタシがお守しているんですよ。

 すると先輩は左手で髪をかき上げ、一年生達三人、特にワタシに視線を向けるとこう言ってきた。


「三人とも落ち着いてくれる? 特に新開さん。そんなにいきり立ってちゃ話にならないわ」


 ぷしゅぅ……。うぅ、ワタシのキレ具合を見抜かれてしまった。自分の中でも何かが萎んでいくのがわかる。うわぁ、名指しされるとかどんだけ? さぞかし嫌な顔していたんだろうな。頬が熱くなってきた。「すみません」と体をこごめるも恥ずかしくて仕方がない。うぅ、消えちゃいたい。


「ごめんね、大原さん。もう少しだけ待ってくれる?」


「は、はい。こちらこそすみません」


 あ、オーハラも同じだったみたい。顔真っ赤にして俯いちゃった。

 で、寺山ぁ、なんでオーハラのほうばっか見てんの?


「あのね……」

 

 呆れ果てたような声を出す先輩。


「おっぱい星人の寺山芳樹君! こんな時までおっぱいのことを考えない!」


 こらぁ、あんたの頭の中にはそれしかないのかー! そりゃオーハラは大きいよ、巨乳だよ? でもワタシのだって、あんた育ったって言ってたじゃん! あれ、ちょっと嬉しかったんだからー! ほら見ていいよ。もっとこっち見てよ、ねえってば!


「いい感じで頭も冷えたかなと思ったんだけど……。新開さんはもう一度冷やしてくれる? 後で煮るなり焼くなり好きにしていいから」


 う゛、またしても見抜かれた。ワタシってそんなわかりやすいのかな? 


「さてと、寺山君、今の桜田君をどう思った?」


 さっきまでのワタシだったら、ここでサイッテーって言ってたな。なんであんなカリカリしてたんだろ。これじゃ本当に彼に嫌われちゃう。心の中で大きく深呼吸っと。


「よくわかんないっすけど、なんで嫌われ役やっているんだろって思ったくらいすよ」


「嫌われ役?」


「だって無理矢理冷たい言い方してるし、大原を怒らせようとしているし」


 はぁ? あんたも妙な解釈するわね。あれが演技? 

 ちらっと見てみれば、当の本人は口を開けての間抜け面。


「えっ、違ったっすか? もしかして桜田先輩ってあれが「素」ですか?」


「だそうよ、桜田君」


「はぁっ……」


 桜田先輩が大きく息をついて彼を見つめる。あれ、表情が……? 


「なるほどね、先輩がいじめるわけだ」


 そう言って首を左右に振ると先輩に向かって軽く頭を下げた。

 なにこれ? さっきまでと雰囲気が違う。緊張が解けたのか全体的にふわっとしている。憑き物が落ちたみたいって言うのかな。

 え、じゃあまさか本当に演技だったの? でもそんなことする理由って?


 「大原さんも新開さんも、さっきのことは忘れてくれる? 代わりにって言っちゃなんだけど、大原さん、あなたの聞きたいこと、先に済ませてしまいましょうか」 

 

 桜田先輩、何がしたかったんだろう。気になってしかたがないけど、オブザーバーが話を止めてちゃダメよね。せっかく先輩がオーハラを優先してくれたんだし。


「いいんですか? 桜田先輩は……その、まだ終わっていないみたいですけど」


「いいのいいの。終わるも何も、スタートラインを間違えていたから始まってもいないも同然よ。いいわよね」 

  

「すみませんでした。もう少し頭を冷やしますんで、お任せします」


 頭冷やすって、やっぱりテンパってたのかな。

 ……あ、そうか! さっき妙に歯切れが悪いと思ったら、先輩わかってたんだ、桜田先輩が何かやらかすって。

 できればその時に止めてほしかったなぁ。そうすればワタシもあんな半ギレ状態にならずに……。あれ、ちょっと待って。怒鳴っちゃったよね? 先輩に注意されちゃったよね? ……うわぁ、何やってんのワタシ! 彼に嫌われそうなことばっかしやってない? 

 あ! オーハラばっかり見てたのって、もしかしてそうなの? 嫌んなっちゃった? 呆れちゃった?

 ねぇ、こっち向いてよ。

 でも彼は先輩のほうに顔を向けたまま、振り向く気配はない。

 やらかしたのって実はワタシじゃん!

 はぁ……、なんでこんなことになっちゃったんだろ?


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