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図書室と先輩~ネオ!~  作者: にま
彼の迷走、彼女の葛藤
35/102

その17 彼はさされます。

「っ!」


「ん」と「ぎ」を一緒くたにしたような呻き声を桜田先輩がもらした。

 なんだ?

 歯を食いしばってのけぞっている。先輩はというと、左手で頬杖を付きながらニコニコしている。しかし右手が桜田先輩の背に……。もしかして?


「先輩、痛いです!」


「そりゃそうよ。思い切り叩いたもの。いやぁ、大きな音がするものね」


 その悪びれない態度は賞賛に値するな。

 桜田先輩が後ろ手で背中を擦りながら、恨めしそうに睨んでいるがどこ吹く風だ。このメンタルの強さは一体どこから来ているんだろう。

 そして「やれやれ」と両手を広げ、二、三度首を振るよくあるポーズ。


「それにしても……」

 

 そして一度言葉を切り、大きく息を吐き出した先輩は、十分な溜めの後、情け容赦のない一言を叩き付けた。


「あんたバカァ?」


 ぐはっ! 

 聞き慣れたそのセリフは、新開映子(カノジョ)のソレとは比べ物にならない破壊力を持っていた。傍で聞いていたオレの心臓にもグサリと突き刺さった程だ。

 直撃を受けた桜田先輩はビクッと体を震わせた後、何も言うことができずにそのまま固まってしまった。石化状態だ。このまま次の攻撃を受けたら確実に崩れ去るだろう。ご愁傷様です。

 だが経験による耐性を得ているのか、下唇をかみ締め何とか言葉を搾り出す。

 おお、しぶとい。


「まだ、僕のターンだと思うんですが?」


 ターン? また訳のわからないリアクションだ。

 あ、今のは先輩が交代を命じたってことか? うん、二人の会話が少しだけわかるような気がしてきたぞ。

 

「そうね。あなたが一年生三人をそのまま騙し通せたなら、続けさせるつもりだったんだけどね」


 騙す? あーダメだ、やっぱりわからない。


「でもほら、気付かれちゃっているわよ」


 桜田先輩に向けていた右手の人差し指をチッチッと振りながら、その指先だけを折り曲げる。そしてその細い指がさし示しているのは……。


「彼に」 


 えっ、オレ? ……えー、なんでー? 

 突然矛先を向けられてもされてもわけがわからない。ちょっと待ってくださいよ。

 すると先輩は左手で髪をかき上げると、オレ達三人をかわるがわる見た後でこう言った。


「三人とも落ち着いてくれる? 特に新開さん。そんなにいきり立ってちゃ話にならないわ」


 隣で新開映子(カノジョ)が小さく「すみません」と体を縮めている。顔も真っ赤だ。破裂寸前まで膨らんだ風船が一気にしぼむのに似ている。アップダウンが激しい彼女。ハラハラするけどそれも魅力だと思う。まぁ。こっちとしては心臓に悪い時が多々あるが。


「ごめんね、大原さん。もう少しだけ待ってくれる?」


「は、はい。こちらこそすみません」


 そう声を掛けられると、大原も負けず劣らず小さくなった。胸はでかいままだが、などとオレはまたしても煩悩を全開にする。いやだって、角度的に当然そこにも目が行っちゃうし、そこが縮んだら彼女達にとっても死活問題だろ。


「あのね……」

 

 あれ、見抜かれた? そのトーンがとても怖い。


「おっぱい星人の寺山芳樹君! こんな時までおっぱいのことを考えない!」


 フルネームはやめて。それにおっぱい連呼しないで! あー消え去りたい。

 あ、隣からなんか視線が突き刺さってくる。そーっと横目で左を窺うと……。

 ヒッ! 彼女がすっごい険しい顔してオレを睨んでいる。あ、大原の様子を窺っていただけであってだな。けっしておっぱいに……、すみません、ちょっと見蕩れてました。 


「いい感じで頭も冷えたかなと思ったんだけど……。新開さんはもう一度冷やしてくれる? 後で煮るなり焼くなり好きにしていいから」


 ニコニコからニヤニヤに変わった先輩の笑顔。またもや「すみません」と焦ったように俯く彼女。

 煮られるのも焼かれるのも嫌だー!

 ダメだ、生きた心地がしない。先輩、オレ帰っていいですか? 


「さてと、寺山君、今の桜田君をどう思った?」


 なんだ、いきなり? どうって言われてもな……。


「よくわかんないっすけど、なんで嫌われ役やっているんだろって思ったくらいすよ」


「嫌われ役?」


「だって無理矢理冷たい言い方してるし、大原を怒らせようとしているし」


 だよな? わざわざあんな言い方するとか、嫌われようとしていたとしか思えない。なんでかはわからないけど。

 そこで目を向けると、桜田先輩は口を開けたまま呆然としている。


「えっ、違ったっすか? もしかして桜田先輩ってあれが「素」ですか?」


 あ、オレまたやらかしちゃったか? でもあれが「素」とはどうしても思えないんだよな。


「だそうよ、桜田君」


「はぁっ……」


 桜田先輩は大きく息をつくと、ジロッとチラッの中間くらいの目つきでオレを見てくる。なんでここにいる人たちって、こんなに目力が強いんだろう。すみません、勘弁してください。


「なるほどね、先輩がいじめるわけだ」


 えー、それどんなわけ? 

 まったくこの先輩達は通じる日本語を使ってくれないから困る。その自己完結型の会話やめません? 

 

「大原さんも新開さんも、さっきのことは忘れてくれる? 代わりにって言っちゃなんだけど、大原さん、あなたの聞きたいこと、先に済ましてしまいましょうか」 


 あれこれすっ飛ばした先輩のその言葉に、大原が遠慮がちに答える。


「いいんですか? 桜田先輩は……その、まだ終わっていないみたいですけど」


「いいのいいの。終わるも何も、スタートラインを間違えていたから始まってもいないも同然よ。いいわよね」

 

 肩に手を置かれた桜田先輩は、大きく肩を落とし溜息とともに頷いた。

 

「すみませんでした。もう少し頭を冷やしますんで、お任せします」


 あ、だから先輩、さっき迷ったのか、桜田先輩が暴走しちゃうかも知れないと思って。たぶん表情とか声とかで何か勘付いたんだろうな。

 でもモミジの刑はかわいそうな気がしますよ。まだ痛いんじゃないかな? あれはくらいたくないな。

 で、結局先輩が主導権握っているし、なんだか嫌な予感しかしないんだが? オレも何かの刑に処せられるような気がする。トイレ行くとか言ってバックレようかな。後で殺されるけど、今殺されるよりはマシだよな。

 だいたいさ、先輩にお弁当のお礼を言いに来ただけなのに、なんでこんなことになってんだ?



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