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図書室と先輩~ネオ!~  作者: にま
彼の迷走、彼女の葛藤
33/102

その15 彼は女心がわかりません。

「先輩、そろそろ」


 先輩がひとしきり笑い転げた後、頃合を見計らったようにイケメン桜田先輩が議事進行を促す。随分と慣れているな。


「いやー、笑かしてもらったわ。今年の一年は攻撃力がハンパなくて困る、困る」


 その顔のどこが困っているんだ! 

 たかだか椅子で酔ったくらいで、そこまで笑わなくたって……。いや、やめておくか。これは自分でもかなり恥ずかしい部類の失敗談だ。もう触れないでおこう。


「うーん、そうね。まずは自己紹介からしたほうがいいかな?」


 この切り替えの早さは見習うべきだな。


「あ、その前に席移動ね。一年生三人はこっち。桜田君と私がそっち行くから」 


 まぁ、バラバラで座るよりは、ある程度人間関係がわかる配置のほうが好ましいな。じゃ、オレは隅っこに……。

 でだな、どうしてあなたたちはいきなり両端に座るの? オレ、一年生代表みたくなっちゃうじゃん? ヤメテよ、もう。どこか間違っていると思うのですよ、お二方。でも無駄なんだろうな、言っても。

 先輩は大原の正面。桜田先輩はオレの正面に座り、ようやく女子会改め……名称不明会の体裁が整った。そして先輩が口火を切る。


「私はいいわよね。大原さんとは初対面だけど、どうせ後で話すんだし」


 こういうのが意味不明で、それこそ困るんだよな。


「桜田君、私から紹介しようか?」


 肩に手をやるあたりが妙に親しげで、ちょっとむかつく!


「遠慮します。先輩に任せると何言われるかわかりませんから」


 おぉ、強いな、この人。先輩のことを良くわかっている。


「えー、そんなー。『つきあった仲』じゃないのー」


 何? 聞き捨てならん。

 だがそれに対し、落ち着きながら反論する桜田先輩。


「最初の『つ』が二つ抜けてますよ、先輩」


「つ」? 何だそれ? 

 少しばかり面食らってしまう。この人もちょっとわからない会話をするな。


「ああ、ごめんごめん。僕は二年六組の桜田寿人(サクラダヒサト)。去年図書委員だったんだ。で、さんざん先輩にいじめられたクチ。もうこりごりってんて今年は別の委員会。できれば近づきたくなかったんだけど、今日はちょっと用事があってね」 


 そうか、この人も被害者か。妙に親近感がわいてきたぞ。


「あら言うようになったわね。お姉さん嬉しい!」


「あー、この人のことは放っておいていいからね」


 いつの間にか桜田先輩が進行役になっている。しかもスルースキル発動とか。

 と、ここで新開映子(カノジョ)を手を挙げた。


「あ、すみません。さっきの『つきあった仲』って、もしかして先輩たちって付き合っていたんですか?」


 いきなりそれ聞いちゃう? さすが新開。物怖じしないところがすごい。

 で、先輩は? と顔を向けると……。

 なんでそこでもじもじしている! まさか本当に付き合っていたのか?


「ああ、それは後で教えてあげるよ。そのことはメインじゃないんだろ? まずは本題から済ませようか」


 おっと、それも軽くいなすとか、やるなこの人。

 彼女がちょっと恥ずかしそうにしている。うん、そういう顔もかわいいぞ。

 あれ、先輩? なんでいきなり桜田先輩を睨むんです?


「ちょっとぉ、少しはノッてくれたっていいんじゃない?」


「だから言っているでしょ。放っておくって」


 人は見かけによらない。先輩に対してここまで平然と返せるなんてスペック高すぎ。


「このイケズ!」


 まったくこの先輩(ヒト)は……。またからかうつもりだったんだな。やれやれ。


「しょうがないから僕が進めるよ。じゃ、君、お願い」


 なんでいきなりオレ? でもまぁ、仕方ない。ここは正直に言うぞ。


「一年四組の寺山芳樹っす。図書委員で先輩にいじめられています」


 よし、簡潔にして的確な表現だ。

 

「あ、なるほど。今年は君が……。うーん、苦労していそうだね。上級生に変な人がいると大変だろう?」


 初対面の人にこれだけのシンパシーを感じるのは初めてだ。


「こらこら? 誰が変な人だって?」


「「先輩です!」」


 そろって言うも、先輩には届かず。

 

「やだー、そんなほめないでよ、もう」


 ダメだ、こりゃ。

 そして大原と彼女が続けて自己紹介をする。


「寺山君と一緒のクラスの大原泉美です。さっきも言いましたが文芸部です。今日は高橋先輩に聞きたいことがあって来ました」


 聞きたいこと?


「同じく新開映子です。大原さんの付添です。あと、寺山君のお守役です」


 おいこら!

 はぁ、こっちの二人もよくわからない。


「さて、じゃあいいかな?」


 オレ達三人が自己紹介を済ませると、先輩がようやく司会を始める。


「先輩、まず僕の用件を先に済ませていいですか。たぶん、関係することだと思うんで」


 おっと、そこで主導権を渡さないとかすごいな。


「そうね。……じゃあ、そのまま仕切ってくれる?」


 ちょっと迷ったな、どうしたんだろう? 

 そして桜田先輩が少し呼吸を整えた後で先輩に顔を向ける。


「塚本さん、やっぱりやめることになったそうです」


「そう……」


 先輩はたいして興味のなさそうな返事だけをして、そのまま黙り込む。


 塚本って誰だ? 


「え、やっぱりやめちゃうんですか?」


 大原が驚いている。知り合いか? 

 そういえばここに来てから大人しかったけど、どうしたんだろう? もっとキャピキャピはしゃぐかと思っていたのにな。


「ああ、やめちゃうというより転校かな? 詳しくは知らないけど、手続きは済んだそうだ。担任の先生が言っていた」


「そうですか」


 どうした、大原? なんか沈んでいるが大丈夫か?


「大原さんだったっけ。塚本さんからいろいろ聞かされたんだろ」


「ええ、それについて聞きに来たんですけど、もしかして塚本先輩が好きだったのって」


「ああ、それは僕のことだね。でも誤解のないように言っておくけど、僕は彼女とは付き合ってはいなかった。ただのクラスメイトでしかなかったんだ。僕のほうから彼女に対し、何か思わせぶりな態度をとったこともない。もっとも、これは僕の主観だけどね」


 うん? なんだか言い方が引っ掛かるな。


「それは他の先輩も言ってました。桜田先輩も被害者みたいなものだって」


「そう、だから僕は彼女が学校をやめることには責任を感じてはいない」


 うわぁ、違和感っていうか無理矢理感っていうかハンパない。


「でも、あの噂は桜田先輩が高橋先輩を巻き込んだ結果じゃないですか?」


「言うね、君。僕が図書委員だったのは言ったよね。で、高橋先輩とは仲良くさせてもらっていたわけさ。それを勘違いした彼女が先輩を勝手に敵視してね」


「それであんな噂を?」


「ざっくり言うとそういうことになるね。だから僕が責任を感じているのは高橋先輩に対してだけ、ということ。ここまではいいかな?」


 なんだろう、わざと冷たい人間を演じているような気がする。

 でもなんでそんなこと? 

 応じるように大原が少しヒートアップしているし。なんだこれ、空気がヤバイ。

 しかも、オレは二人の会話内容が全然理解できない。ちょっと待ってくれ!


「あのー、話が見えないんですけど」


 二人とも少し落ち着きませんか? ちょっと一呼吸置きましょうよ。

 言外にそういう思いも込めて、オレはおそるおそる手を挙げてみる。このままじゃどんどん険悪になるばかりだし、オレも話についていけない。 

 だがそれは、彼女の怒気をはらんだ声で却下されてしまう。


「寺山ぁ。あとで説明したげるから、今は黙ってて」


 えー、あなたまで? なんでそんなに怒っているの? 

 桜田先輩とオレの両隣の彼女達との間に静電気のようなものが漂っている。下手に動くと感電しそうだ。あの特有のバチッ! 嫌なんだよな、アレ。

 このままだと絶対巻き添え必至。今更逃げられないし、最悪の状況だ。

 せんぱーい、黙っていないでなんとか言ってください! 




 バチッ!!!


 そしてその時、静電気ではない音が一触即発状態の室内に大きく鳴り響いた。


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