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図書室と先輩~ネオ!~  作者: にま
彼の迷走、彼女の葛藤
31/102

その13 彼は回り過ぎました。

 文芸部と先輩、か。この組み合わせもアリだな。先輩って文学少女っぽいし。

 ふとそんなことを思ったが、気になったのは先輩の表情だ。眉をひそめた後、そのまま固まってしまった。

 だがそれもほんの数秒。

 目をつむり、ふうっと大きく息を吐き出した後、カウンターから身を乗り出すようにして大原に顔を近づけた。かなり眉間に皺が寄っている。大原はかなり怯えているようだ。無理もない。

 そして元の姿勢に戻ると、オレに脈絡のないことを言ってきた。


「じゃあ、寺山君、カウンターお願いできる?」


 はっ? 「じゃあ」って何です、「じゃあ」って。この間もそうでしたけど、意味がわからないんですけど。


「新開さんと大原さんはこっちね」


 そう言いながら司書室のドアを開けた先輩は、中にいる関先生に意味不明なお願いをする。


「先生、こっち使っていいですか? ちょっと女子会やりたいんで」


 はっ? なにそれ? 女子会? ダメだ、ついていけない。

 頭の中ではてなマークが伸び縮みしながらビヨンビヨンと揺れている。

 どうして先輩ってこうなんだろう。必要な会話を抜かすことがあるよな。自分では理解しているつもりなんだろうけど……。

 そう先輩に抗議の一つでもと思ったところで、傍らにいた女子二人が先輩の後を追うように司書室に向かった。

 って、おい! あなたたち、なんでそっち行っちゃうわけ? 今ので通じたの? 


「じゃあ、そういうことだからワタシ達ちょっと女子会してくるね」


 えーと、新開さん、あなたまで? そういうことってどういうこと?


「寺山君、ごめんね。ちょっと行ってくる」と大原まで。


 そしてパタンと司書室のドアは閉められ、カウンターの前で呆然と一人立ち尽くすオレ。

 ちょっと待ってくれ。今のやり取りでどうやったら女子会の流れになるんだ? オレが何か聞き逃したとか? いや、ないな。というか会話してなかっただろ。

 大原が「文芸部です」って言ったらいきなり「じゃあ」だもんな。

 あれぇ? 

 予定外の貸し出し当番をやるため、オレは仕方なくカウンターの中に入ったが、何がなんだかわからない。

 うーん、やっぱり釈然としない。オレはアクリル板で仕切られた司書室に神経を集中する。普段は何も聞こえてこない司書室だが、女三人寄ればかしましい。いや、関先生もいるから四人か。かすかだが笑い声が漏れてきた。うーん、気になる。椅子を少し司書室に寄せて……。

 と、ここで司書室から先輩が顔だけを出してオレに釘をさしてくる。


「そこっ! 聞き耳立てちゃダメ。おとなしく当番してなさい」


 くそぅ、行動を読まれている。


「先輩。なんでオレだけここ?」


「あのね、君が入ったら女子会じゃなくなっちゃうでしょ」


 冷たい一言。


「いや、そもそも、なんでいきなり女子会なんです?」


「若くてかわいい子から栄養わけてもらいたいの」


 エナジードレインでも使う気か! 


「いやいや、さすがにそれで納得しろって無理でしょ!」


「細かいこと言わないの。男はドーンと構えてなくちゃ。じゃ、よろしくー」


 コトの根本的問題を指摘したつもりなのに、それを細かいって……。

 しかし文句を言おうとしたところで、タイミング良く引っ込まれてしまった。

 うーむ、これは今までにないパターンだ。どうしたものやら?

 いっそ乱入してやろうか?

 ……ダメだ。よくよく考えれば、今司書室という名の人外魔境にいるのはあの四人。一人一人がボスクラス。勝てるはずがない。命は大事にしなければ。

 仕方ない。素直に本でも読んでいるか。 

 そしてオレは背後を気にしつつも、カウンターに置かれている「今月の新着本」の中から適当に一冊を抜き出し、それを読み始めた。と、その時だ。


「すみません。今日、高橋先輩は来ていませんか?」


 いつの間にか目の前におとなしそうな男子が立っていた。女子会に気を取られていたせいだろうか、足音にも気付かなかった。ちょっとビックリ。襟章からすると二年生か。イケメンというのかカワイイ系というのか、とにかくモテそうな感じ。


「あ、いますけど、今司書室で……」


 女子会なんて言えないよな。何て言えばいいんだ?


「一年の女子と会議しています」


 よし、これならおかしくないだろ。グッジョブ、オレ!

 しかし、イケメン上級生は頭越しに司書室を見やりながら、咄嗟の機転を無駄なものにしてくれる。


「あ、女子会かー。となるとしばらく出てこないかな」


 バッジョブ! かなりハズい。先輩の知り合いか? よくわかっている感じだ。


「まだ入ったばっかりですんで、良かったら呼びますけど?」


「あ、いいよいいよ。自分で行くから」


 お、見た目の印象とは違い押しが強そうだ。女子会に気後れしないとか。

 そのままイケメン君は軽く三回ノックすると、ドアを少し開け顔だけ中に入れ訪いを告げる。


「すみません。高橋……」


 すると、みなまで言わせず、先輩のはしゃいだ声がそれをさえぎった。


「あー、桜田君じゃない! ひっさしぶりー。どうしたのー?」


 あれ、なんだ? 

 凄く嬉しそうに聞こえる。テンションが異常値に達していそうだ。そのせいか、次の言葉も滅裂矛盾。


「さぁさ、入って入って」


 ちょっと待ったぁ! おかしいだろー! オレがいると女子会にならないとか言ってませんでしたかー? その人、男ですよね、どう見ても。オレがダメでその人オッケーって、なんでだー? おかしすぎるでしょぉ!

 しかしオレの心の叫びは聞き入れられることはなく、桜田という二年生を招きいれた後、ドアは無情にも閉じられた。

 理不尽だ。あまりにも理不尽だ。

 くぅ、こうなりゃ……。すねてやる。ぐれてやる。泣いてやる。くそぉー!

 本を読む気にもなれず、椅子の上に片膝を乗せたオレは何の気なしに少し反動をつけて回ってみた。


「おっ! いいな、この椅子」


 特に意味はない行動だったが、大きな音も立てずスムーズに回転したことに気を良くしたオレは、先程のことはどこへやら、椅子での回転限界を探るという子供じみたマネを始めてしまう。

 ……。

 三回転半か。もうちょっと体丸めれば四回転行くか? 

 ……。

 惜しい。あと四分の一回転。


「何やってるの、寺山君?」


 よし、これで決める! 次へのチャレンジのための姿勢を整えたところで、関先生に声をかけられた。


「あ、いえ。図書室初の四回転を決めようかと」


「はぁ、幼稚園児じゃないんだから」


 関先生の呆れ顔を見た途端、ふと我に返るオレ。

 ……なにやってんだぁー! ハズいにも程があんだろぉー!


「もういから、あなたも中に入りなさい。桜田君もいるから君の知りたかったこともわかるでしょ」


 オレの知りたかったこと? なんだっけ?


「あ、でもカウンターが……」


「ワタシがやるからいいわ。君はさっさと入りなさい!」


 やっぱり怖い関先生。


「は、はい。わかりました」


 そして椅子から立ち上がったところで、オレは襲ってきた眩暈に思わず呻いた。その時ちょうど新開映子(カノジョ)がドアから顔を出してくる。


「どうしたの、寺山ぁ?」


 どうしてあなたはそうタイミングがいいのかな? あ、ダメだ。気持ち悪い。やっちまった。


「椅子でくるくる回っていたら……酔った」


「あんたバカァ?」


 言わないで。後悔してるから。

 こみあげてくる吐き気になんとか耐えながら、オレは与えられた席に座り込む。

 あーおさまらねえ。気持ちワリー。もうダメだー!


「ホント、ガキなんだから! 恥ずかしいったらありゃしない!」


 オレの横に座り直した彼女が、呆れ顔を隠すことなく冷たく言い放ってくる。対面に座っている大原は俺を見ないようにしているけど、かすかに体が震えているし。

 唯一、初対面であったイケメンの桜田先輩がオレを気遣ってくれる。

 

「大丈夫かい? ほら、冷たいお茶」


 そう言いながらオレの前に紙コップに入ったお茶を置いてくれた。

 おい、あなたたち! 少しは桜田先輩を見習ってはどうでしょう? ここで優しくしてくれたら、オレは迷わず惚れこんじゃうよ。……いや、オレにはBL素養はないからな、一応。


「すみません。ありがとうございます」


 机に突っ伏して、バンバンと手を叩きつけながら笑い転げている、性悪な魔女が一人いるが放っておこう。今のオレはそれに文句を言う気さえ起きない。

 随分と楽しそうですね、先輩。その笑い声を聞けただけでも、今日来たかいがあったというものです。

 オレは天井を見上げながら、しばらくの間司書室にこだまする魔女の笑い声に聞き入っていた。

 

「イーヒッヒヒッヒ!」


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