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図書室と先輩~ネオ!~  作者: にま
彼の迷走、彼女の葛藤
27/102

その9 彼はずぶぬれです。

 顔だけ覗かせた先輩はオレを見つけると手を振ってきた。

 えっ、オレ? 

 何の用だ? と少し腰を浮かせたところで、先輩は躊躇することなく教室にスルリと入り込んできた。

 下級生の教室に入ることに抵抗とか気後れとかはないのだろうか? ま、先輩だしな。


「ごめん。寺山君、コレ食べてくれる? うちのバカ父が弁当忘れて行っちゃってね。よかったらお願い」


 オレの前に来るや否や、ドンと紙袋を机に置き、隣でフリーズしている新開映子(カノジョ)ににっこりと微笑みかける。


「こんにちは、新開さん。また図書室来てね」


「は、はい。ありがとうございます」


 少し焦った様子でそう答えると深々とお辞儀を返す彼女。

 なんだ? 態度がちょっと変じゃないか? 


「ごめん、急いでいるんだ。あ、お弁当箱は洗わないでそのまま図書室に持ってきてくれればいいから。じゃあね」


 とりつくしまもなく踵を返した先輩だったが、一歩半というところで立ち止まり、またオレの前にやってきた。


「そうだ。書庫室の掃除やってくれたんだって? やっぱり君は頼りになるね!」


 そう言いながらオレの左肩をバシバシと叩いてくる。

 肩もかなりパンパンな状態だ。そこを遠慮なしで叩かれてはたまらない。


「痛い、痛いっす。急いでいるんなら早く行ってくださいってば」


 会えなかったことで情緒不安定になったことは棚上げしておこう。


「あん、照れなくたっていいじゃない。……あ、そっか」


 四発目でやめてくれたが、今度は頭に手を置かれてしまった。


「やっぱりこっち? この甘えん坊さん!」


 はっ? そしてそのまま頭をなでられる。


「よしよし、よくがんばったね。いい子いい子。今度好きなお菓子買ってあげるからね」


 オレは幼稚園児か! 

 うぅ、なんだこの状況? おいおい、笑っている女子がいるぞ。

 はぁ、勘弁してください。


「せ、先輩! もうチャイム鳴っちゃいますよ?」


 オレの窮状を見かねたのか彼女が間に入ってくれる。また助けられてしまった。

 一瞬顔を見合わせる少しひきつった表情の彼女とにんまり顔の先輩。


「あ、そうね。じゃ、またねー」


 何か張り詰めたような気がしたがそれは一瞬で解け、先輩は手を振りながら今度こそそのまま教室を出て行った。

 彼女の横では、さすがの大原もポカンとしている。

 台風一過というより、ゲリラ豪雨に遭った気分だ。



 三時限目が終わり、オレは紙袋の中身を確認する。

 渋い柄の巾着袋と水筒がまず目に入る。

 うぉぉ、何年ぶりだ、お弁当なんて。ありがとう先輩! 愛してます!

 で、横にあるこっちは? 

 うん、TVで見たことあるな。肩こりや腰痛に効くっていう塗り薬。未開封だ。

 ……。

 ありがたいんだけど、あれ? なんか釈然としないな。なんでだ?


「へぇ、お薬まで入ってたんだ。やっぱり優しいね」


 取り出した薬の箱を見ると、彼女が素直な性格を垣間見せる。

 他人の行動を好意的に受け取るところは相変わらずだ。いい子だよな、やっぱり。

 だがオレは残念ながらその素直さを持ち合わせていない。

 何かが引っ掛かって仕方ないんだよ。

 ……。

 あれ、そう言えば何でオレが掃除したこと知ってたんだ?

 もう図書室に行って関先生に会ってきたとか? まさかな。

 ……いや、あり得るか。朝イチ図書室でそれから教室へ。

 あの先輩(ヒト)だったら不思議じゃない。で、オレが掃除したと聞いたから(コレ)を……。

 あ、これか! これがおかしかったんだ!

 朝、掃除の件を知ったとしても、(コレ)はすぐ用意できないよな。

 じゃあ、たまたま持っていたとか。いやいや、違うな。 

 あの先輩のことだ。オレが掃除することを見越していたに違いない。筋肉痛や腰痛になることも織り込み済みだったのだろう。

 用意周到。あとはオレがいつ掃除するかだけ……。

 うわぁ、またも掌の上で踊らされちゃったよ。くそぉ、あの魔女め!

 



「寺山ぁ。一緒にご飯食べよ。はい、机こっち向けて」


 昼休み。

 さーてどんなお弁当なんだろ? と期待に胸を膨らませて巾着袋を机に取り出した途端、隣から声がかかった。


「へ?」


「いいでしょ。どんなお弁当なのか見せてよ。おかずもとりかえっこしよっ!」


 有無を言わさず、という口調。

 えっ、何? なんでオレと? 今までそんなこと言ってきたことないよね。

 ……あ、弁当持ってきたことなかったから当然か。

 いやでもな、付き合っているわけじゃないのに、そんなことしたら誤解されちゃうよ。

 ほら、他の女子もチラチラ見ているってば。

 しかし彼女はすでに机をオレに向けていて。

 微妙に不機嫌そうなんだけど、なんでよ? 

 オレは抗うことが出来ず、机の向きを変え彼女と向かい合う。

 ここで断ろうものなら、またしばらくは口もきいてくれなくなりそう。

 他にも机を寄せ合っている女子はいるんだが、さすがに男子でそれをやっているやつはいない。

 なんだ、オレってば浮いてないか? 

 学食か購買に行く連中が物珍しそうにオレを見てやがる。さっさと行け!  


「お、寺山。なんだお前、新開と夫婦になったのか?」


 仲のいい田島がオレをからかいながら教室を出て行く。あのやろぉ!

 なんでこんなことになったのかよくわからないんだよ!

 と、そこへ


「じゃあワタシは愛人かなー?」


 自分の置かれた状況が理解できないというのに、さらに理解不能な人物登場。

 空いた前の席から椅子を遠慮なく拝借し、オレ達の横に陣取る大原。

 おい、そのセリフはなんだ? なぜに当然のようにそこに座る?

 しかも何お弁当出してんの。もしかして一緒に食べる気?


「いいよね、映子ちゃん?」


「しょうがないなー。じゃあ、あんたともおかずトレードね」


「はーい」


 なんだなんだ。なにがどうしてどうなった! ここは誰、オレは何処?

 他の男子には、かなりうらやましく見えていることだろう。

 実際そんな感じで見ているやつもいるし。

 美少女二人と一緒にお弁当。確かに嬉しい気持ちもあるにはあるよ。

 だがな……。おい、代わってやろうか! いや、代わってくれ!

 彼女達がオレに向ける目を見てみろ。怖いどころじゃないから!

 絶体絶命、危機一髪。一触即発で南無阿弥陀仏。

 こんな状況でメシが喉を通るか!


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