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図書室と先輩~ネオ!~  作者: にま
彼の迷走、彼女の葛藤
25/102

その7 彼は気分でやらかします。

 二時限目が終わり、すでに眠気がマックス状態。オレは迷うことなく机に突っ伏し……。

 うぅ、体中が悲鳴をあげている。特に腰。下手に動かすとボギッ! とかグギッ! とかなりそうで怖い。 

 図書委員会がブラックだとは思っていなかった。昨日のアレは運動から遠ざかっていたオレには過酷すぎ。

 一箱20キロ。それを十箱、書庫室から司書室に一旦運び込み、ハタキに雑巾がけ。その後またも計200キロを書庫室に戻す。最後の箱を持ち上げようとした時、ピキッという音を聞いたような気がしたんだが、大丈夫かオレの腰。中学の時に壊した右膝がもうなんともないのは救いではあったが、その代わりに今度は腰とか勘弁してくれよ。


 箱詰めになった本は廃棄処分のものらしかった。年数が経ちすぎたり、装丁が痛んだり、指導要綱から外れたものだそうだ。すぐ捨てればいいのにと思ったが、図書室の本は一冊でもいろいろ手続きを踏まないと廃棄できないということで、そのまま溜まっていったらしい。しかもうち六箱は関先生が着任してからのものらしい。


「つまり半分以上は先生の横着さも一緒に詰まってるってことっすね。やけに重いなーと思ったんすけど」


 重労働の対価として指もまともに開かない状態になったオレは、恨みがましく関先生をにらみつける。だが先生は涼しい顔で、しかも年齢に似合わないリアクションで返してきた。


「だって本は大事にしなきゃね。……テヘペロ?」


 うーん、これはデジャヴュというにはあまりに……。

 つい先日誰かが同じようにペコちゃん顔したっけ。似ているというかそのまんまというか。もしかして先輩って関先生の弟子なのか? 魔女というより悪魔に近いのかも。

 それにしても、溜まりに溜まった15年分の廃棄本。それを捨てるためにではなく、また溜め込むために肉体労働を強いられたオレの立場は?


「感謝してるわぁ。本当にどうしようかと思っていたんだけど、これで書庫室もきれいになったし、あと5年は大丈夫かしら」


 まだ溜め込むつもりかぁ! 


 酷い目に遭ったものだ。司書室は魔界だと最初に感じたのは間違いではなかった。しばらく司書室には近づきたくないぞ。



 ふぅ。それにしても……。

 今オレを悩ませているのは動くたびにきしむ体のことじゃなくて、胸の中でもやもやとわきだしている得体の知れない何かだ。

 先輩がいなかったことは、意外を通り越し正直ショックだった。

 一瞬自分が捨てられたかのように感じてしまった。周りの景色から自分だけがフレームアウトしていく……。

 なんだろうこの気持ち? 昨日からなかなか消えてくれない。いや存在はより確かになっている。

 似た気持ちは知っている。過去に経験した出来事、そうアレに似ている。

 もう思い出すことも少なくなったというのに、こんな形で揺り起こされるとは。

 忘れるのは無理でも、日々を過ごすうち薄れてきたと思っていたあの気持ち。

 まずいな、止まらない。オレはあわててブレーキをかける。

 そんなことあるわけないだろ。あってたまるか!

 ……。

 あれ、ダメか? 目元が……。


「ねえ寺山ぁ。今日はどうしたの?」


 声につられて左隣の新開映子(カノジョ)に顔を向ける。

 あ、いけね! 

 たまり始めていた涙がつーっとこぼれ鼻横を伝う。

 ビクッと体を震わせる彼女。かなり驚いたようだ。

 いかんいかん、なんとか誤魔化さなければ。


「なに、寝不足? やたらと呻いているし昨日何かしたの?」


 あ、必要なかったか。うん、時折見せるこの鈍さもかわいい。

 オレは昨日の出来事をかいつまんで説明し、腰痛と筋肉痛に襲われている自分を慰めてくれるようお願いしてみた。


「はいはい、よくできました。えらかったね。いい子いい子」


 ちょっと違う。そうじゃなくてだな……。


「にしても、司書の先生も面白そうな人なんだね。ワタシ、二年になったら図書委員になってみようかな」


 なにっ? よし、一緒に図書委員になって青春しようじゃないか!


「じゃあ私もー」


 いや大原、君はいいから。


「またー、オーハラってばいきなり参戦しないでよ」


「だってー、私を放っておいて二人で楽しそうなんだもん。混ぜてよー」


 楽しそう? あ、そうか。ちょっと落ち気味になったところで声かけられて、一気に持ち直したんだった。

 彼女にはこうしてなにかと声をかけてもらって、そのたびオレは救われてきたような気がする。

 さっきだって、あのままだったら鬱ゾーン突入間違いなしだった。

 ふとそんなことを思うと、隣で大原とけたたましく会話を始めた彼女に、なんとも言えない気持ちがわいてきた。


「ありがとうな、新開」


 ……いきなり過ぎた。何言ってんだオレ! 

 またやっちったよ。その時の気分でつい、って毎度のパターン。

 で、痛い目見るわけだ。はぁ……。

 彼女はオレのそんな脈絡のない言葉に動きを止めて、ギィギギ、ギィギギと機械音がしそうな感じで振り返った。

 いや、そんな理解できないものを見るような目つきしないで。

 あー逃げ出したい。


「えっえっ、なになに? どうしたの?」


「なんでもないよ。こっちの話」


 どう説明すればいいんだ、こんなの!

 納得はしないだろうと思っていたが、大原は意外にもその一言で引き下がった。


「ふーん、じゃあ後で映子ちゃんに詳しく聞くからいいや」


「いやいやいや、ワタシもよくわかんないんだけど?」


 うん、わかんなくていいよ。オレがわかっていればいいだけだから。

 美少女二人がまたかしましく話し出したが、オレはもうノータッチを決め込む。

 やっぱり彼女はいいな。大原もかわいいけどさ。

 

 と、何気なく黒板に目を向けた視界の片隅に見覚えのある顔が映りこんだ。

 あれ? 入り口にいるのって先輩じゃん?


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