その4 彼女はもう気が気ではなくなりました。
「ねえ、二人って付き合ってるの?」
彼との会話をどうやって再開させようと思いあぐねていたところに、ニコニコ顔でいきなり爆撃を仕掛けてきたのは大原泉美だった。
一学期の終わり頃から話をするようになったクラスメイト。ウマが合うとでも言うのだろうか、二学期に入ってからも一緒にいることが多い。
「オーハラー。なによそれー。なんでいきなりそうなんの?」
これを救いの手とありがたく思うにはちょっと……。
隣で頬杖をついたままポカンとしている彼のことは放っておこう。
あのね、そこに至るためにアレコレ思案を巡らせているところなの。
「だってこの頃仲良くない? 二人はデキてるってみんな思ってるよ」
えっ、ちょっと待って!
動揺がなるべく表に出ないようにワタシはそれに応える。
「みんなって誰よ。ワタシ達はまだそんなじゃないよ」
……。
あ、しまった! 迂闊に墓穴。
「へぇー、まだ、ね。うん、そうかそうか」
ニコニコがニヤニヤになっている。
くぅ、一生の不覚。言った後で気づくというパターンがこの頃多い。
「あー、大原さん? ゴメン、オレ達そんなんじゃないから、ホント」
助け舟のつもりなんだよね。うん、それはわかる。わかるよー。でもね……。
もうちょっと言いようがあるんじゃない?
例えばそこでさ
「あーそう見えるんだー? ふーん。だってさ、どうする?」
とかワタシに振ってくれれば、
「しょうがないなー。みんなの期待を裏切るわけにもいかないし、そういうことにしちゃう?」
って返してさ……。
あー、ご都合主義の妄想ばかりが脳内を駆け巡ってる。
「で、なに? なんか用なの?」
これ以上突っ込まれないようワタシは不機嫌そうに睨んでみる。
「私の映子ちゃんがいじめられていたから助けに来たよー」
「はいはい。ワタシを守ってくれてアリガトね。んで?」
いじめっ子認定にはさすがに抗議しようとしたのか、彼は頬杖を外し何か言いたげにしたが、会話に割り込むことはやめたようだ。危険を察知したのかもしれない。そのままダンマリを決め込んだ。
うん、その判断は正しいと思う。彼女、大原泉美はちょっと天然が入っている。次元の違うところにいるというか……。下手に加われば噛み合わない会話で疲労困憊すること請け合いだ。
それにしても、どうしてその鋭さをワタシに向けて発揮してくれないんだろう。ホント、腹の立つ!
「もうちょっと感動してほしいんだけどな」
おっとりした口調で少しおバカキャラに見えるが、成績は常に学年上位。
「あなたと出会ってからワタシは感動しっぱなしよ」
勉強を教えてもらったこともあるけど、実にわかりやすくて素直に感心したものだ。教えるのがうまいのって頭がいい証拠だと思う。これは成績云々じゃなくて。
「ありがとん。うれしいなっと。でね、今日は買い物に付き合ってほしいな、って思って。どうかな? 空いてる?」
「うーん、今日は大丈夫だよ。どこ行くの?」
うん? なんで彼を見つめているのかな?
「寺山くーん。一緒に行かない?」
なっ! ちょっと待って!
いきなり話を振られた彼も目を丸くしている。
「オ、オレ? いやいや勘弁して。女の子の買い物になんか付き合えないって」
「えー、両手に花だよ。こんな機会めったにないよー」
「ちょっと。オーハラってば、寺山誘ってどうすんのよ?」
「えー、いいじゃーん。寺山くんに興味あるしさ、楽しいかなーって」
なんですってぇ! この泥棒猫!
おいこら、そっち! 顔が緩んでるぞ!
「冗談ばっかり言ってると、付き合ってあげないよ!」
「えー、冗談じゃないよ。寺山くんともっとお近づきになりたいんだもん」
彼をからかっているつもりなんだろうけど、あんたが言うとシャレにならなくなるからやめて。
結構モテるのは知っているよ。何人かに告白されたんだって?
でもそれを全部断っておいて、寺山芳樹に目をつけるとかおかしいでしょ。
……おかしい? あれ?
そうだ、そもそも彼女はどこかがおかしい。
普通ではおかしいことも……。
けれど、その考えをまとめさせないかのように彼女が矢継ぎ早に言葉を放ってきた。まるでそれが三人の同意事項であるかのように。
「じゃ、そういうことで寺山くーん。今日はヨロシクね」
「「えっ?」」
呆然とした彼がワタシに視線で「助けてくれ」と言ってくる。
なんで、そこで毅然と断らないの? あなたは図書室に……。
あれ……、この場合どっちがいい?
ワタシの見ていないトコで彼が先輩と仲良くするのと、彼女も込みだけど一緒に買い物。監視下におけるということでは断然……。
「よし、寺山! 今日は一緒。観念して! わかった?」
二者択一ならこれしかない。というか一石二鳥?
これなら先輩のトコに行かせずに済むし、大義名分? も立つよね。
彼女の思惑が引っかかるけど、距離を縮めるにはいい機会だ。
「で、オーハラ? 今日は何買いに行くの?」
前は参考書だったし、やっぱり勉強関係だろうな。文房具とかな?
だがこれは大きな勘違いだった。
親しくなったとはいえワタシは彼女、大原泉美のことをよくあまりに知らなさ過ぎた。
「うんとねー、勝負下着ぃ!」
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あー、彼が頭を抱えてしまった。かくいうワタシも……。




