その3 彼にモテ期が来たのかもしれません。
「ねえ、二人って付き合ってるの?」
どう話しかければいいのかわからず途方に暮れていたところで、それはいきなり現れた。大原……、下の名前は知らない。新開映子と仲が良い女子だ。
彼女がハッキリクッキリ系美少女だとしたら、大原はシットリオットリ系。かわいい顔立ちとほんわかした雰囲気が「癒し系」だと男子の中でも人気が高い。
背は高からず低からず。全体的にプニプニしてそうな印象。特に胸。ベスト越しでもその豊かさがわかるんだから、そこに目が行くのは当然だよね。……だよね。
……しょうがないじゃないか、オレはおっぱい星人なんだから。
「オーハラー。なによそれー。なんでいきなりそうなんの?」
いきなりじゃないぞ。
頬杖をつきながら心の中で反論するオレ。
一学期に他のヤツから言われたことあるんだが?
その時、何をトチ狂ったか「同じ中学だったってだけ」と答えたアホは誰だ?
オレだ! うん、反省してる。
「だってこの頃仲良くない? 二人はデキてるってみんな思ってるよ」
えっ、そうなのか? もしかしてラッキー?
明日への希望が見えてきた。
「みんなって誰よ。ワタシ達はまだそんなじゃないよ」
一瞬にして絶望に変わってしまった。
……ん? まだ、って言ったぞ。一粒の希望が残っていたか。
あー、でも、彼女は言葉のチョイスを間違えること多いしな。
「へぇー、まだ、ね。うん、そうかそうか」
大原がニヤついている。
ふっ、甘いな。そこにツッコミを入れて満足するとは。
やはり付き合いの長さでは、それこそオレに一日の長がある。
読みが足りないぜ。
「あー、大原さん? ゴメン、オレ達そんなんじゃないから、ホント」
とりあえずオレは安全地帯に逃げようと画策する。
例えばここで、オレが調子にのって
「あーそう見えるんだ? ふーん。だってさ、どうする?」
とか彼女に振ったとしよう。するとだ。
「テーラーヤーマー」
彼女はオレをそう呼ぶだろう。
そこに、幻滅や落胆、軽蔑や嫌悪の意味を込めて。
由緒正しきかどうかは知らないが、自分の家名を貶めることなどオレにはできない。
あー、ダメだ。泣きたくなってきた。改名しようかな?
「で、なに? なんか用なの?」
ほらみろ、思い切り不機嫌そうじゃないか。
「私の映子ちゃんがいじめられていたから助けに来たよー」
「はいはい。ワタシを守ってくれてアリガトね。んで?」
ちょっと待て! いじめられていたのは……。
いや、やめよう、ここは口を挟んでもいいことはなさそうだ。
女の子同士の会話ってやつはテンション高いし、正直ついていけない。
それにしても大原って、かわいいんだけど……。
先輩が即効性の毒を吐くタイプだとしたら、遅効性の毒持ち?って感じがする。
きれいな花には毒がある? あれ、トゲだったっけ?
新開は……トゲ特化したタイプだな、うん。
「もうちょっと感動してほしいんだけどな」
こういうフワフワした感じの会話は聞いていて楽しい。
「あなたと出会ってからワタシは感動しっぱなしよ」
オレも普段喋らない女子と会話ができて感動しているぞ。
「ありがとん。うれしいなっと。でね、今日は買い物に付き合ってほしいな、って思って。どうかな? 空いてる?」
「うーん、今日は大丈夫だよ。どこ行くの?」
女の子の買い物か。品物見るたび黄色い声上げるイメージしかないな。
「寺山くーん。一緒に行かない?」
はっ? なんでいきなりそうくる。あなたと話すのもほぼ初めてだよね?
「オ、オレ? いやいや勘弁して。女の子の買い物になんか付き合えないって」
「えー、両手に花だよ。こんな機会めったにないよー」
うん、それは確かに。
「ちょっと。オーハラってば、寺山誘ってどうすんのよ?」
「えー、いいじゃーん。寺山くんに興味あるしさ、楽しいかなーって」
興味? オレに? えー?
「冗談ばっかり言ってると、付き合ってあげないよ!」
「えー、冗談じゃないよ。寺山くんともっとお近づきになりたいんだもん」
えっ、マジ? ホント? もしかしてモテ期なのかオレ?
女の子に誘われたのなんて初めてだ。う、うれしい!
「じゃ、そういうことで寺山くーん。今日はヨロシクね」
「「えっ?」」
あれ? 決定事項になってる。「いいの?」と彼女に視線を送ってみる。
うわ、なにそのムス顔。図書室行くって言った時もその顔だったよね。
どうしたらいいの、オレ?
女の子二人に挟まれてのお買い物。正直GETしたいチャンスではある。
荷物持ちとかになりそうだけど、それがどうした!
オレに青春を謳歌する機会を! お願い、新開さん!
「よし、寺山! 今日は一緒。観念して! わかった?」
あー、やっぱり新開は女神様だった。ありがとおぉ!
観念の意味はいまいちわからないけど。
早く来い放課後! オレの明るい未来!
「で、オーハラ? 今日は何買いに行くの?」
かわいい小物系か。ぬいぐるみとかか? 洋服か?
大原の感じからして、パステル調がいいんじゃないか?
勝手に私服姿を想像して悦に入るオレ。
だが大原はオレの予想のはるか斜め上空をかっ飛んでいたヤツだった。
「うんとねー、勝負下着ぃ!」
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思考停止しちゃったよ。何したいの? 何させたいの?
あーあー、彼女も頭を抱えてる。




