その1 彼はハードル走が苦手です。
「ねえ、今日も高橋先輩に会いに行くの?」
昼休み。
購買パンをパック牛乳で流し込んだばかりのオレに、すでに弁当は食べ終えたらしい新開映子が聞いてきた。
机に突っ伏したまま、顔だけをこちらに向けている。
うん、それやめて。かわいすぎて犯罪レベルだから。
「新開さん? 誤解を生むような発言は控えてくれませんか」
オレは頬杖をつきながら答える。
「えー、本当のことでしょう?」
少し意地悪そうに言ってくるが、それもかわいいから始末に負えない。
「あー、新開映子さん? 今日は当番ではないですが、委員としての責務があるのです。不測の事態に対応できるよう体制を整えておくのもその一つです。もしかしたら今日の当番がいろいろな事情で来られなくなるかもしれません。そのような時、僕がいれば代行できます。また司書の先生からも何か指示があるかもしれません。このようなことも踏まえたうえで、自分ができる最良の行動とは何かを熟考した場合、図書室に足を運ぶという選択肢を第一にすることは合理性があると考えます。また仮に高橋先輩がそこにいたとしても、それは付随的な結果であり、いわば不可抗力なのです」
うん、自分で言っててワケわからない。
オレはあいかわらず図書室通いを続けていた。といっても、毎日ではない。
週に二度か三度くらい。
だが、それはそのまま、週に半分は高橋先輩と会うことにつながっている。
彼女からしたらやっぱりそう見えるのだろうか?
先輩会いたさにオレが図書室に行っていると。
だとしたら、まずくね? やばくね?
オレがリア充計画で想定していたのは、高橋先輩ではない。
今、隣で少しばかり不機嫌そうな顔をしている彼女なんだが。
……って、不機嫌?
うぉ、眉間に皺のふくれ面。
不味い! まずい! マズイ!
一緒に図書室行ったことがきっかけで、ここ最近の冷戦状態から脱却できたというのに。
そういえば、あれはすれ違いがさらにすれ違ってこじれたものだと分かった。
基本的にはオレが悪かったようなのだが。
彼女が友達と話している時遠慮していたのが無視されたように思えたらしい。
でも女の子同士が楽しそうに話をしているところに乱入するのは、オレにはハードル高すぎる。
それをいったら「あんたバカァ?」とのありがたい言葉をいただいた。
まあ、そんなこんなでお互い誤解があったということで着地したわけだ。
だが今、再燃しそうな気配がある。チクチク攻撃はもう受けたくないぞ。
アレ精神力削られるからきついんだよ。
いや、こういう時こそ落ち着けオレ。
・
・
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うん? 待て待て。
そういや、なんで不機嫌になるんだ?
うーん……。
オレ図書室行くだろ。高橋先輩いるだろ。オレ楽しいだろ。でも彼女不機嫌。
もしかして、というかこの場合これしかないだろ、と浮かんでくる一つの単語。
希望的観測で有頂天になってはいけない。
だが他に、今の彼女の心理状態を表現する言葉をオレは知らない。
「ヤキモチ?」
思わず口からポロリ。
あ、まずった。
「バカッ!」
その一言を放つとともに、彼女は顔を反対側に向けてしまった。
うん、それは的を射すぎ。グサッときたぞ。痛い。
彼女のサラサラの髪が流れて、形の良い耳たぶが露わになっている。
さて、それが赤くなっているのをどう判断すべきだろう?
「恥ずかしがっている」と都合よく解釈するか?
「単に怒っているだけ」と静観するべきか?
うーん……。乙女の複雑な気持ちを理解するのはオレには無理。
とにかくね、こんな時どう話しかけたらいいんだ?
誰か教えてくれ!




