その13 彼は時々鼻の下をのばします。
「意味?」
高橋先輩がオレの質問に対して小首をかしげる。
この仕草にかわいらしさを感じてしまうとはオレも末期なのか? そうなのか?
新開映子もそうだけど、この攻撃はズルイよな。
防御できないし、反撃できないし。
まあ、誰得オレ得で嬉しくはあるんだが。
先輩から本を借りた二日後、オレと彼女はまた一緒に図書室に来ていた。
その時に出された「ルール」について聞きに来たのだ。
あれは苦痛だった。先輩にいたぶられているような気がしたものだ。
まだ全部読み終えていないから、その拷問は続く。少し憂鬱だ。
彼女も同じだったようで、その話をしに行くと伝えたら、迷うことなく同行を申し入れてきた。
オレたちが入室した時、先輩はすでにカウンター内で机周りの備品整理をしていた。
ホント、先輩込みで貸し出しカウンターが成り立っている風情さえある。
そしてオレは挨拶もそこそこに「ルール」について切り出した。
「ええ、何か深い意味があるのかなって気になっているんです」
彼女も同じ疑問をぶつけた。少しケンカ腰に見えるのが気になる。
「ページ数は自分で決める」「決めたページ数以上は読まない」というルール。
なぜ、そんな読み方をオレたちにさせたのか?
「守ってくれたのね。ありがとう」
先輩はニッコリと微笑む。
卑怯だよなあ。こっちの気勢を思い切り削いでくる。
まあ、誤魔化そうなどとは思っていないだろうが、そこはそれ。
どんなことをたくらんでいるか知れない。なんたって先輩は魔女なんだから。
っと、あぶない。
こんなことを考えると、それを見透かしたように意地悪なことしてくるんだから注意しないと。
「ふふ、大丈夫よ、そんなに警戒しなくても」
ギクッ! だからそれがこわいって言ってるんですよ。
それとですね、右手に持っているカッターとハサミ、置きませんか?
「新開さんはともかく、寺山君も守ってくれたのは、ちょっと意外」
ふふん、意外性の男と呼んでください。……ちょっと悲しい。
「ごめんごめん。気を悪くしないで。君は私の予想を斜め跳びしそうだったから」
それは褒められているのか? そう言いながら先輩は体ごと彼女に向き直る。
「そっか。そんなに気になったんだ」
どうやら彼女には特別な思いがあるようだ。
同じ本を読んだ、ということは先輩にとっては重要なファクターらしい。
彼女は彼女で、しっかりと先輩の視線を受け止めている。
なんだ? 微妙な空気。オレ忘れられているかも?
彼女は薦められた本がかなり気に入ったらしい。
昨日はこちらが引くほどに先輩のことを聞いてきた。
「どういう人なの?」
「フルネームは?」
「何年何組?」
「身長は? 体重は?」
「付き合っている人とかいるのかな?」
こちらに答える間も与えず次々と聞いてきたのには苦笑いをするしかなかった。
最後の二つには「なぜそれを聞く?」と思ったものだが、答えられることにはすべて答えておいた。
情報の共有というのは大事だよな、うん。
高橋先輩。
名前は「高橋アデル」
ドイツ系の血が八分の一入っているらしい。
身長は158cm。体重とスリーサイズは教えてもらえなかった。というか怒られた。
クラスは6組。
ケラケラ笑いながら、ハブられてはいないけどボッチ、と自慢していた。
うんうんと納得するとまた怒られた。
成績は下の中。できそうだからこれは謙遜というやつだろう。
付き合っている人がいるかどうかは、聞いたことがないので知らない。
とりあえずこんなところだ。
彼女に話しながら、オレは先輩のことについてほとんど知らないんだなと思った。
少しショックにも感じたが「図書委員の先輩」という位置付けは変わらない。
たぶんそれでいいんだと思う。
そして今、その先輩と向き合う彼女の毅然とした顔つきも。うん、いい。




