その4 彼女は出来過ぎです。
あれっ?
あーやっちゃったー! 早起きしようと思っていたのにー!
この頃、休みの日はいつも寝坊ばかりしている。この自堕落な生活サイクルを何とかしなければと、今日は目覚ましを平日よりちょっと早めにセットした、……はずなのに。
あー自己嫌悪。寝過ごした分の時間がとてももったいなく感じる。はぁ……。
寝ぼけ眼でベッドから這いずり出したワタシは、一気に下がったテンションのまま、だらだらと着替えを始める。タンスの奥から最近はいていないジーンズを取り出して、ベッドに腰掛ける。足を通してよいしょっと……。
ん?
んん??
んんん???
お尻が……。
うっそー! ちょっと待ってぇー! これ、今年買ったヤツだよね。その時は問題なく履けたよね。なのにどうして? えー、勘弁してー。
もしかしてワタシ……。
ううん、体重はそんなに増えていないし、これも洗濯で縮んじゃったのよ。きっとそう。そうに違いない!
はっ、もしかしたら防虫剤とかの影響かも。デニム生地と相性の悪い成分があるのかも知れない。うん、これは調べてみる価値ありね。
あ、そうか! もしかしてこれ妹のやつじゃない? 間違えてしまっちゃったとか? ありがちだよね。姉妹あるある?
あー、妹が欲しい……。
うん、結論。しばらく履いていないとジーンズは縮む。そういうこと!
……。
あーダメダメ! いつまでもこんな小さなことに拘っていては。よし、気を取り直そう。今日は明日持って行くお菓子を作るんだから。
泉美はクッキー作るって言っていたから、かぶらないようにとネットで色々調べた結果、難易度、習熟度からマフィンに落ち着いた。これならワタシでも出来るはず。
よーし、さっそくお母さんにアドバイスを貰わないと。ご飯は冷蔵庫かな。
……。
いないし。あ、そうか。今日はパートの日だっけ。
えっ、ちょっと待って。プレートってどこ? ホットケーキミックスってどこ? カップにする銀紙のアレってどこ?
ちょっと待ってよぉ、これじゃ……。誰かぁ、ヘルプミー!
勉強会の件は結局粘り勝ち。
「親いないから別の場所じゃダメ?」
ご両親はお出掛けなのね。大丈夫、ワタシは気にしないわ。ってあれ? じゃあ勉強会を保健体育メインに出来るってこと? ヤダ、何この千載一遇のチャンス。
「逆に落ち着いて勉強出来るし、私は構わないかなー」
泉美もガッツリ食い付いてきた。
でもそのシチュエーションに抵抗があるのか、芳樹君は田島君に声を掛けた。
「田島ぁ、日曜日、一緒に勉強会やらね?」
「俺は二人に恨まれたくないな。それに日曜日は道場行くからどのみちダメ」
ワタシも恨みたくないからね。断ってくれてありがとう、田島君。
「中尾さぁ、二人と勉強会やることになったんだけど」
「遠慮しておくわ」
ワタシ達の目配せに即反応してくれた中尾さん。感謝!
なんだか慌てて周りを見回す芳樹君。すると一人の女子に狙いを定めたようで、左手がピクッと動いた。
と同時に視界の中でプイッと顔を背けた一人の女子。うーん、常盤さんに声を掛けようとするなんて、ある意味チャレンジャー。でもむなしく轟沈。
ちょっと芳樹君てば、これ以上ごねると怒るからね。
こうしてお勉強会は日曜日の午後1時からに決定。やったね。
やられた……。お母さーん、マフィンプレートどこー?
結局、午前中は捜索タイム。ホットケーキミックスはすぐに見つかった。カップもOK。でもプレートが……。
どうして見つからないの? 家出しちゃった?
かくして一時間近く、ワタシは台所の整理整頓。食器棚からレンジラック、シンクの上下、床下収納庫、開けられるところは全て開けた。普段何もしていないから、何がどこにあるとか良く分かっていなかったけれど、これで大分覚えたわ。ある意味怪我の功名? 禍を転じて福と為す?
うーん、初めから探し直そう。鉄板系、重い系はコンロ下よね。
そしてワタシは引き出しを開ける。すると何かが倒れた音がした。
あれっ、何だろう?
ワタシは引き出しを限界まで引いてコンロ下を覗き込んだ。と奥にそれらしい箱が落ちている。はっきりとは見えないけれど、パッケージに写っているのは鉄板っぽい。
やったー、見つかったー!
この引き出しって奥に余裕があるんだね。そこに挟まっていたんだ。あー良かった。
ワタシはコンロ下に手を伸ばしそれを取り出した。あ、意外と重い。でもこれでようやく作れるわ。
……。
って、何なのよ、この出来過ぎたオチはー!
ワタシが作りたいのはマフィンなの! たこ焼きじゃないんだってばー!




