第四十三話 分かつ道の存在に
広い背中。いつも無愛想で、無口で。やる時はやるけど、いつもは人の事なんかきっとどうでもいい、と思っている根性悪。顔は綺麗だけど、表情はいつも嘲笑。でなければムッとしている。好きじゃない。好きじゃないはずなのに。
「おい」
「はい!!」
いつもこんな風にいきなり声をかけてくるから、レチュアは思わず返事が上ずってしまった。リュークの背中に頭を預けていたのを咎められるかもしれない、と、さっさと頭を起こす。
「これからどうするんだ?」
何気なしに聞いてきたのは、レチュアが考えているものではなかった。神殿地区から離れて、ぶらぶらと王都に向かっている。神殿巫女の服は、あまりにも目立つので、すぐに服屋によって、服を買った後だ。
「あのさ……」
レチュアは前前から気になっていたことを言おうか言うまいか考える。アーシア――リュークの妹のアーシア・レスティーナの事だった。レダはリアスを人質にとって、アーシアを捕らえて来い、と言った。アーシアは、恐らくはレダの使い、あるいはレダのバックにいる者の使いである、シラに追われている。
逃げ回る彼女を見つけて王都へつれていく、それがレチュアのしなければいけない事だった。リアスを助けなければいけない。
でもそれをリュークが許すとは考えられなかった。何となく、かもしれないが、リュークはこれまでの道中レチュアと共に頑張ってきた。それにはレチュアは抱えきれないほどの感謝をしている。だけど。道は別つかもしれない。
「アーシアさんを見つけるって言ったら、リュークは……」
その質問はあまりにも口外したくなかった。つまりは、妹、アーシアを取るか。たった何ヶ月かの旅を一緒にしてくれた、血も繋がらない遠い親戚を取るか。いや、そういう風に聞きたいわけじゃない。レチュアを、取るか。
『いや、そんなのアーシアさんって決まってるけどさぁ!』
レチュアは頭の中に浮かんだ考えを振り払うように、首を振る。そういう事じゃない。そう言う事じゃなくて! まさか自分を選んでくれるとは思っていない。自分はリュークを好きだけど。リュークは……
『好き!? 好きって違うからね! そういんじゃなくて……っ!!』
レチュアはふとリュークの答えが返ってこない事に気付いた。
「……そうだよね、裏切るって言ってるんだもんね」
リュークはまだ返事を返さない。
「でも私は国を奪還する。リアスを助けたい。……それだけは譲れないから、だから」
レチュアは下を向いた。今、たった今リュークの言葉が聞けなかっただけで、こんなにも不安になったのだ。もしこれが、別離という形で別れてしまう事になってしまったら。時々見せる、不器用な笑顔を見れなくなってしまったら。
『……怖い……っ』
離れたくなかった。リュークの傍にいたかった。性格は最悪で。本当、人を貶す事しか知らないような男だけれども。
「好き」
レチュアはポツリと言った。
「?」
リュークが怪訝そうな顔をして振りかえった。
「え? や、違う! それは良き友達? として……!」
本当にそうだろうか。本当に? 本当にそうだろうか。
「俺はアーシアを守る」
あぁ、とレチュアは下を向いた。そう、ここで道は別れてしまうのだ。本当はもっと一緒にいたかった。でもそれはレチュアの我侭である。
『うん。そうに決まってるか……』
同時に、好き、と言ってしまったレチュアの気持ちまでも否定されたような気がして、レチュアは哀しくなった。もちろん泣いたりはしないけれど、泣きそうになっている自分に気がつく。大丈夫。のめりこむほど好きになんてなってない。だって、根性悪で、本当に。絶対好き、だなんて思ってない。大丈夫、大丈……
「だからあんたの方にまで目がいかない。勿論小煩い兄ちゃんにも、だ」
「?」
「気が向いたら守ってやる。アーシアを危険な目に合わせるんだ、俺は絶対にアーシアを守らなければいけない」
それは、つまりどういう事だろうか。
「……それでも良いか?」
レチュアは目を見開いた。
「……良いの?」
「シラってクソ男に追われてるだけでもアーシアは大変なんだ。ここでまた血相変えたお姫様にまで追われたらたまったもんじゃない」
リュークの答えはYESだった。それは、自分が嫌で嫌でたまらないながらも、のYESじゃなくて、しょうがないか、とどこか困ったようなYES。
「……抱きしめても良い?」
「は?」
リュークが怪訝そうな顔をする暇はなかった。
「うわ!!」 レチュアは、揺れるケルベロスの背の上で、後ろから思いっきりリュークの広い背中に抱きついた。
「リュークのくそったれ!」
「はぁ!? お前、恩人様になるんだぞ? もっと敬え、平伏せ!」
離れろ、と眉根を寄せるリュークの態度に、レチュアは死んでも離すか、と体を寄せる。本当に嬉しくて嬉しくてたまらなかったのだ。涙が出そうになるほどホッとしている。
「……ったく……お前はアホか?」
一瞬。本当にたった一瞬、レチュアの頭の上に温かいものが触れた。不器用に触ってくる、リュークの手の平。ぽん、と頭の上に手を乗せて、それ以上動かさない。恐る恐る触ってきた手の平。いつか、かなり前に感じた感触は。
「根性悪いくせに」
「ん? その根性悪を敵に回してみるか?」
「やだ! ごめんなさいっ嘘です!!」
がっ!!
「え?」
その時。ケルベロスの足が止まった。そう速くは走っていなかったが、いきなり止まるとレチュアにもリュークにも振動が来る。レチュアはそのまま(抱きついたまま)リュークの背で、筋張った背骨で鼻を打ち、リュークはあまりにも唐突な衝撃でケルベロスの背の体毛に頭を埋めた。
「何?」
揃いました四神の挿絵を描いていただいています、小説家になろう秘密基地にて、松原様より。
可愛らしいセルフィに注目です!




