第十二話 破片は合わない
「――……シラ」
リュークは言った。いつになく真剣な表情、唇の端を上げる事すらしない。
「で……もリュークはシラの事知らなかったよね?」
レチュアは何と答えていいかがわからなかった。シラ。あの可愛い顔してとんでもない事を言う男になぜ追われているのだろうか。
「あぁ」
「それでも……アーシアさんはあのブリ男に追われてるってわけなの?」
「ブリ……?」
レチュアの頭の中は疑問符だらけだった。意味がわからない。そしてもう一つ。シラは自分を殺しにきた。今考えられる選択肢の中ではシラは恐らくリージュ国で謀反を起こした者の使い。でもそれと、リュークもしくはアーシアとの接点があるのか、といえばないのではないか、と思う。
自分とリュークの接点……ない。考えられない。強いて言うなら目付きが悪い? しか考えられない。
自分をかくまった事でリュークが追われるのはなんとなくわかる。だが、アーシアまで追われる理由となるとまた変わってしまう気がする。それにリュークに初めて会った時はもうアーシアはシラに追われていたのではないだろうか? レチュアはちょっと納得がいって頷いた。
「……だから一緒に来てくれなかったのね」
「理由はそれだけじゃないけどな」
『上等ねこのヤロー』
リュークはちらとレチュアを見る。複雑そうに顔を歪めながらぼんやりとあらぬ方向を見つめながら彼女は何を考えているのだろうか。きっと自分が今言った内容がわからなくて果てしなく悩んでいるだろう。しょうがない。実際はリュークにだって意味がわからなかったのだ。
「アーシアは元気だったか?」
『……あ』
表情が変わった事に気づいた。レチュアは見入ってしまって慌ててリュークから目線をそらす。彼が妹に向ける感情は紛れなくとも愛情だった。優しくは見えないけど、少なくとも自分に向ける表情とは全然違う。少し伏せた目がどこか温かい。
『お兄ちゃんの顔だ』
自分もシェアにはこんな顔を向けているのかもしれない。慈しむような労わるような表情。
「うん、元気そうだった。リュークに髪も瞳も似てるのに性格は全然良い子だったよ」
「……それはなんだ? 性格は俺と似ていないって言っているのか?」
「全くその通りでございます」
レチュアがけろっと言ってのけると、リュークはレチュアを睨んだ。半眼して不機嫌そうに顔を歪めた後、いきなり破顔し笑い始めた。
「そうか」
『うわ!!』
普通に笑ったのだ。皮肉っぽく嘲笑めいた笑いではなく、本当におかしそうに笑っている。アーシアが無事だということがわかったからだろうか。
レチュアは良い物見た! と思いながらなぜか顔が赤くなるのを感じた。 何だ、いつもそんな風に笑っていれば回りの女が放っておかないのに。
「そうだ。金を一応貸しておく。お前がリージュ国王にでもなった時返せ」
「え!? あー……ねぇリュークは今からどこ行くの?」
一通り笑い終わってすぐに笑いが途切れてしまったので残念に思いながらレチュアはリュークの顔を覗き込む。ちょっとしか笑ってくれないから勿体無い。
「俺は王都に戻る。待たせている女がいるからな」
「女!!!??」 レチュアがあからさまに驚いたので、リュークは半眼した。
「はぁ? いたら悪いか」
「いや意外だなって……連れがいたのね! ……連れ? ―−リアス!!」
レチュアは叫んだ。
「レっレレ……っレクトを召喚するわ! あ、あぁ後でスペルロックを外してね。私がレクトとドール契約してる事、リリ、リアスに言ったらダメだか……」
「いや、落ち着け」
レチュアは必死こいて焦る心を落ち着けようとする。しまった、本気で全く忘れていた。
「リアス? なんだ、お前も連れがいたのか」
リアス――生きているだろうか。冗談抜きで。あんな所に放っておくつもりはなかった。でもあの時はやっぱり何をするのも無理があって……
「――…………悪いことをしたな」
レチュアは一瞬、自分の耳を疑った。悪い? リュークに謝らせるほどの悪いことを自分はされた覚えがない。残念なことに。さっきの笑顔といい今の言葉といい、どうしてしまったのだろう、この男は。(失礼)
『調子狂うじゃん』
「悪くは……ないわよ」
相変わらずかわいげのない言い方だな。
レチュアは目を閉じる。集中しないとレクトはなかなか来てくれない。(気まぐれにもほどがある、とレチュアは思っている。)
「光よ絶えよ……闇よ退け! 我は汝の御名を呼ぶ――」
ドン!
その時宿屋の部屋の一室の扉がいきおいよく開いた。というか壊したな、あんた。
「レチュア!!」
リアスが力いっぱい眉を上げて入ってくる。ナイスタイミング☆
★
「はぁ? どうして逃げちゃったの?」
少年は言った。眉を上げて心底おもしろくなさそうに言う。声質は高いほうなのに、彼がそういう風に不機嫌な時はその声は凶器のように鋭くなる。
「さぁ、どうしてだろうな」
男は答えた。闇に紛れたような格好をした、黒い男。長い漆黒の髪と、光を宿さない黒い瞳。表情は暗くてわからない。
「何十人いたのさ。せっかくこの僕が面倒くさい書類とかいろいろ頑張って書いたのに」
「そうだったかな?」
「……ちょっとさぼってたけどねぇ〜いいんだよ。王様なんだから!」
少年はパッと布団から跳ね起きる。
「それより、彼女はどうしたの? 会いたいよ、僕」
「そうだったな」
男は少し笑った。少年をちらと眺めて興味なさそうにそらす。そしておもしろそうに笑った。
「さて何をしようか」
暗い部屋。暗い思い。
「殺しちゃってよ邪魔なやつはみんな!」
病んでいく思い。
「そして僕はこの世界を統べるんだ……」
明日が見えないの、だぁれだ?




